跪くのはあなただけ

沈丁花

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ep24

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…驚くほど早かったな。

着替えている紅司を前にして、漠然とそんなことを考えた。

彼とパートナー契約を結んでから今日で1ヶ月。

今日、一葉がYesと言わなければ一葉は紅司専属の執事ではなくなり、一時的なパートナーシップも解消されるのだ。

…少し、寂しいな。

紅司とのプレイは気持ちいい。でも、寂しい理由はそれだけではない。

パートナーというだけでここまで甘くなるのかというほど、プレイ時以外の紅司は一葉に優しくて、

プレイ中でさえむやみに一葉を痛めつけたりせず、巧みな言葉術とテクニックで絶頂まで連れて行ってくれる。

…一緒にいて、紅司が一葉を無碍にすることはないと、もう痛いほどに理解した。

しかし、時間を共にすればするほど、自分がこの人の隣を占領することが申し訳なくて。

…あの人が好きだ。そう、言い切れる。

幸せになって欲しくて、だから離れることにした。

…もし、自分がDomだったなら、

…もしくはnormalだったなら。

抑制剤やプレイなどなくても、ただそばで仕えることができただろうか。

あるいはSubだったなら、一生初恋の人といっしょにいることができただろうか。

少し考えて、放棄する。

考えたって意味がないことだから。

「考えは変わらないのか?一葉。」

ふと、隣で凛とした低い声が一葉に問いかけた。羽織りかけのシャツの合わせから覗く筋肉質な上半身も、今日で見るのは最後だろう。

「…変わりません。私は常にDomでありたい。」

「そうか。」

伏し目がちにそう言った紅司の声は悲しげに響いた。

そんなに苦しそうにしないで欲しい。罪悪感が残るじゃないか。

「最後に、1つ、付き合って欲しい場所がある。付いてきてくれるか?」

「…?ええ。もちろんです。」

「私服を頼む。一葉も私服に着替えてこい。」

私服?

私服だなんて、珍しい…というより、そもそも見たことすらない。

「かしこまりました。」

クローゼットの中から紅司の私服を適当に見繕い、紅司に渡す。

さすが愛染家の跡取りだけあって、一葉が手を出せないような高級ブランドがずらり並んでいた。

「朝食を済ませたらすぐに出る。一葉も今のうちに着替えておいてくれ。」

「…ですがそれでは朝食の給仕が…」

一応、仕事だ。仕事中に私服を着るのは気がひける。

「構わない。私服で運んだものとその服で運んだものに味の変化はないだろう。」

「……着替えてまいります… 」

ぐうの音も出ない正論に、歯向かうのも面倒だったから、一葉はそのまま自室に向かった。
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