強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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由良さんから衝撃発言を聞いたのが1週間前。あの後由良さんとは、予定が合わず会っていない。

次に会うのは、明後日の金曜日。やはり子供がいると言う発言はなかなか忘れられないもので、金曜日会ったときに普通を装えるか、俺は少し不安だ。

…ちなみに、あの日胸につけられた2つの小さな針は、なんとか2日に1回取り替えている。

「それでさあ、π[rad]くらい話変わるんだけどさー!!」

「谷津、普通に180度っていいなよ。」

「ああ、ボケに突っ込みを入れてくれる人がいるのって幸せだ…。サンキュー東弥。」

「あはは、そんなことで感謝されたの初めて。どういたしまして。」

楽しそうに話す谷津と東弥を横目に、俺は出てきた椎茸の天ぷらを食べる。

揚げたての衣はサクサクふわふわで、噛んだ瞬間に熱い出汁が口中に広がった。

今日は、谷津と大学近くの居酒屋に来ている。しかしなぜかあとから東弥が来たのだった。

「幹斗、全然減ってないね。苦かった?」

ふと、東弥が指差したのは俺の前にある飲み物。3人とも未成年なのでお酒は飲めないが、そのかわりに一杯目はノンアルコールビールにした。雰囲気を出すため、らしい。谷津いわく。

「絶対そうだ!!だってこいついっつもインスタントコーヒーにコーヒーの5倍の砂糖とたっぷりミルク入れんの!!」

「そうか。じゃあ、これは俺が飲むから何か別のを頼みなよ。」

谷津の発言だけならまだしも、東弥がそれを真に受けて爽やかに対応してくれるからいたたまれない。

「あ、じゃあ幹斗の代わりに俺が頼むわ!てんちょーこの店でいちばん甘い飲み物ちょーだい!」

「はいよー!飲むヨーグルトでいいかい?」

「いいね!」

…勘違いだと思ったけど、やっぱり谷津のお調子者がどんどん加速している気がする。

俺はラインで谷津に、“なぜ東弥がここにいるのか”と、“ハーゲンダッツはいつ買うつもりなのか”を尋ねた。

「…谷津、ちょっとスマホ見てみ?」

「なになにー?えーと…

…ひえっ、こえぇっ…!!いいじゃん最近仲良いんだし!それに東弥が幹斗に話したいことがあるっていうからさー!!」

谷津は俺とスマホを交互に見ながら百面相をして見せた。器用すぎる。

そういえば…、と、谷津の話を聞いて思い立った。最近やけに東弥が俺たちの近くにいる気がする。一緒にとっている授業は大抵近くに座ったり、昼休みに学食に一緒にいったり。

偶然だと思っていたが、これが仲良くするってことなのか。

「相談事って?」

東弥に尋ねると、彼は気まずそうに唇を結び、妙な沈黙が走った。同時に、ガタッ、と音を立てて谷津が立ち上がる。

「あ、ごめんちょっと俺トイレ!!長い方だし酔ってるから途中で寝ちゃうかも知んないから、30分くらいしても来なかったらドア叩いて!よろしく!」

「は?」

いやノンアルコールだし。というか待て、この変な雰囲気の中置いて行かないでほしい。

「俺もちょっと… 」

「あ、男トイレ一個しかないから先入らせてもらうねー!!」

谷津がひらひらと手を振りながらトイレへと駆けていくのを、俺は呆然と見つめていた。

…確信犯か。あとで絶対絞める。
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