強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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第2部

進展①

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東弥たちと夕食を一緒に食べた日から1週間。

実験、レポート、テスト勉強、研究進捗報告会に向けた準備とやることは山積みだが、最近後輩(名前は仙波せんばつかさという)との関係が改善して研究室に行くのが楽しくなった。

今は授業前で、彼と一緒にデータをとっている。

ちなみに授業前に実験をするために装置は昨日から立ち上げっぱなしだ。

「毎日同じ操作ばかりですね。」

椅子に座って昨日と同じようにただひたすらパソコンをいじる俺を見て、顔をしかめながら呆れたように仙波君が紡ぐ。

そうなのだ。成果となる実験はほんの一部。それ以外は毎日失敗の繰り返し。

ミネルヴァのフクロウは黄昏時に飛び立つというが、まさにその通りだと思う。結果がついてくるのはたくさん失敗して試行錯誤した後のことだ。

「そうだね。しっかり細かい構造が見える像を撮るのには、少しずつ場所や条件を変えながら何回も撮る必要があるんだよ。せめて一枚でも構造が見える像が取れれば… 」

「…地味ですね。」

「うん、でもこういう実験なんだ。」

「そんなに根気がいるのか。すごいなぁ。」

1週間前まで俺の言葉には“ふーん”、だとか“つまんない”、だとかそういう返答しかしなかった彼だが、こうして一言でも何かを返してくれるようになった。

ちなみに注意した通り、レーザーがついている時は金属をしっかりポケットにしまってくれている。

それでやっと後輩ができたという実感が持てるようになった。なんだか嬉しくてくすぐったい。

…そろそろ良いデータが取れてくれるともっと嬉しいんだけど…。

願いながら機械が撮った像をソフトで解析していく。

するとずっと見えていなかった構造の凹凸がうっすら見えて、さらに補正をかけるとわりと綺麗に構造が映し出された。

「この部分が欲しかった情報だよ。やっと撮れた。」

「よかったですね、先輩!」

仙波君が人懐っこいような笑みを浮かべ、データが取れたことを喜んでくれる。

「うん、これで研究報告も新しいデータで出せるよ。ありがとう。…と、保存して…。

俺は授業に行くけど、仙波君は?」

「そうですねー…。今日はもう帰ります。約束あるし。」

「そっか。じゃあ装置は落としておくね。」

彼は頷くとリュックを背負って、俺に手を振りながら実験室から出て行った。

…これでやっと、研究も前に進める…。
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