強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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第2部

来客

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「あっ、秋月さんこんにちは。谷津です。幹斗いますか?昨日から全然反応がないから、心配で。」

チャイムが鳴ってインターホンを確認したら珍しい客人の姿があった。

幹斗君が傷ついて帰ってきたのが金曜日で、今日は日曜日。

あれからまだ彼の声は聞いていない。僕からずっと離れない様子を見てまだ外も無理だろう考え、この部屋から出ないままで過ごしている。

今見てみると、彼の携帯には昨日の間に谷津君から10件以上の着信やメッセージが届いていた。

「幹斗君、谷津君が来てるけど、外には出れる?」

僕の背中にしがみついている彼は、問いかけに対してゆるゆると首を振る。

「そっか。じゃあ中に呼んでもいい?」

今度はだいぶ間があって、それからこくりと頷いた。

「谷津君、ごめんね。事情は後で話すから上がってもらってもいいかな?」

「承知ですー!」

暑いからひとまずグラスに氷を入れ麦茶を注ぐ。

流石にそれだけでは味気ないと考え、お中元のゼリーを冷蔵庫から取り出しテーブルに並べた。

「こんにちはー!」

玄関を開けるとすぐ元気な挨拶が聞こえてくる。

会ったのは卒業式後の飲み会以来だが、元気そうで安心した。

学生の時は真っ赤だった髪も、今は地毛に戻している。とはいえもともと地毛が赤みがかっていたらしく相変わらず人目を引く色をしている。

「いらっしゃい。暑いから入って行って。」

「えっ、いいんですか?!うそーやった!2人の愛の巣にしんにゅ…

…幹斗どうしたの?」

…やっぱり友達が来ても変わらない、か…。

背中から腕を回し僕に抱きついている幹斗君を見て、谷津君は怪訝そうな声をあげた。

谷津君の反応を見ても、幹斗君は一向に僕から離れようとしない。

「順を追って話すから、まずはその辺に座ってもらって…

…ん?どうしたの?…ああ、おいで。」

谷津君を中に案内し、ソファーに座ってもらう。

幹斗君は僕がソファーに座るなり僕の膝に乗ってきて、そのまま背中に手を回してぴったりと胸に顔を埋めてきた。

可愛らしい仕草に思わず頬が綻ぶとともに、普段の彼ならこんなことをしないなと思うとやるせない。

谷津君は一気に出された麦茶を飲み干すと、再び口を開く。

「…あの、何があってそんなことに…?」

「うん。それがね…。」

僕は谷津君に、一昨日の夜彼がひどいプレイをされて帰ってきたこと、そのままバッドトリップして、今もまだ抜け出せていないこと、彼が外に出られないことなどを順を追って話した。

谷津君はああなるほど、と言いながらも唇を噛み、まるで自分のことを聞いているかのように苦しげな表情を浮かべる。

彼ももしかしたら心ないDomにそうされた経験があるのかもしれない。

「…相手の見当はついてるんですか?」

しばらくして、谷津君が低い声で静かに言った。

「それがまだなんだ。でも、今無理に聞き出したらそれこそ彼の傷になるかもしれない。」

「じゃあこのままにするつもりですか?ずっとこの部屋から出れないまま過ごさせるつもりですか?」

より声のトーンを下げて発された今度の質問は、僕に対する批判だろう。

たしかに幹斗君が望んでいるなら、ここから出ない状態を僕は安心するけれど…。

「しないよ。」

自分でも驚くほどそうきっぱりと言っていた。

谷津君が驚いたように目を見開く。

「この状態のままになんてしない。けれど今commandを放って無理やり言わせたら余計傷つけてしまうから、もう少し時間をおこうと思っているんだ。」

「…なるほど…。俺もそれがいいと思います。すみません、反抗的な態度をとってしまって。」

彼は肩を落とし、しゅんとした様子で謝った。

幹斗君に素敵な友達がいて良かったなと、改めて思う。

「いいんだよ。幹斗君を心配してくれてありがとう。」

そう言うと、彼は安心したように明るく笑んで。

「あの、俺めっちゃ協力するんで、なんでも言ってください!!…あっ、その状態だと明日のゴミ出し困りますよね?俺明日の朝取りに来ます。まとめておいてください。」

と、当たり前のように言った。

「さすがに悪いから、そこまでは大丈夫だよ。」

「いえ、幹斗にはよく一緒に勉強したりご飯食べさせてもらったり他にもいろいろちょっと返しきれてない恩があるんで、返させてください。

ってことで、買い物とかも言ってくださいねー!ずっと家の中だと暇ですよねー。ゴムとかアダルトグッズとかも足りなくなったら遠慮なくー!!

じゃあ俺これで失礼します!お邪魔しましたー!!!」

そのままほんとうに帰ってしまうなんて、嵐みたいな子だと驚いた。

やっと僕の胸元から顔を上げた幹斗君が、びっくりしたように大きく開けた目をぱちぱちと瞬かせている。

「あはは、びっくりしたね。幹斗君にいい友達がいて嬉しいよ。」

抱きしめ頭を撫でてやると、幹斗君ははじっと僕の瞳を見つめた。

そのまま僕の方に唇を寄せてきたから、僕もそれに応える。

唇を重ねるだけの淡い口づけは、かえって情熱的なそれより心で繋がっているような気がして、幹斗君も僕もなんとなくその繋がりを離せずに、リビングの時計の時報が鳴るまでただじっと、ひどく優しく流れる時間を2人で過ごしていた。
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