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第2部
前進③
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由良さんの会社に着くと、彼は俺と手を繋いだままセキュリティーゲートの横の管理室へ歩いて行った。
ここに御坂がいるという恐怖よりも会社で平然と俺と手を繋ぐ彼の行動への驚きで頭がいっぱいになる。
「…あの、手… 」
立ち止まり言う俺に、由良さんは優しく微笑みかけてくれた。
相変わらずの格好よさに心臓がうるさくなりだし、自分の顔が赤くなっていることも見なくてもわかる。
「大丈夫、離さないよ。約束したでしょう?」
「...そうじゃなっ… 」
そうじゃなくて、と紡ごうとした唇は人差し指で止められて、何も言えなくなってしまった。
普段から格好いいのに、スーツ姿のせいでさらに大人の色気が強調されているからずるい。
「あっ、秋月さんだ。どうかしましたか?」
俺が固まっていると、管理室の窓から若い女性が由良さんに対し親しげに声をかけてきた。
「この子と一緒に社長に用があって。もうアポは取ってあるから、一緒に入ってもいいかな?」
「そうでしたか。どうぞ。」
間をおかずゲートが開く。
…えっ、そんな軽く通しちゃっていいの?少なくともサインとかしないとダメなのでは…?
ちなみに俺たちがしっかりと手を繋いでいることについて彼女は何も触れなかった。
「エレベーターは人が多いから、階段で行ってもいい?」
そう言われ、黙ってうなずく。
知らない人がたくさんいる中は正直怖いから、俺もそっちの方がいい。
「あっ、部長!お久しぶりです!部長がいないとやっぱり仕事大へ…って、誰ですかーその綺麗な子!もしかして俺に紹介してくれます?」
手を繋いで階段を上っていると、今度は前から声をかけられた。
おそらく俺より5つくらい上の男性で、爽やか系のイケメンである。
「僕のパートナー。」
由良さんが躊躇なくそう答えると、彼は悪気もなく笑い、
「…あー、なんか納得です。そんなに綺麗なパートナーがいたら坂本さんのこと振ったのも頷けますねー。お幸せにー!」
と、軽く言って去っていった。
「…坂本さん…?」
彼が行った後、何も考えずつい声に出してしまって慌てて口を塞ぐ。
「指輪をしているのにたまに告白されるんだ。僕には幹斗君しかいないのに、心苦しいね。」
しかし由良さんは不快そうにも気まずそうにもすることなく、ただ淡々とそう答えた。
“君しかいない”、と。
何度言われても嬉しい。
その後も何人かとすれ違い、そのたびに例外なく相手が由良さんに話しかけてきた。
俺のことに触れる人はいても誰も否定的な言葉を発さないことから、由良さんがいかに周りから尊敬されているかが伺える。
やっぱり由良さんはすごい。
階段を上り終えてからまた少し歩き、由良さんが足を止めたのは何やら立派な門の前。
「あの、ここってもしかして…。」
「うん、社長室だよ。」
由良さんがあまりに平然と言ってのけるから腰が抜けるかと思った。
そしてこれから御坂に会うと言うのにいつの間にか自分の中で恐怖が薄れていったことに気がつく。
「あの、さすがに手は…。」
俺がいい終わる前に由良さんが“秋月です”、と言いながら3回しっかりとノックをした。
ぴったりとした黒いスーツを着た女性がドアを開ける。秘書さんだろうか。
中に入ると広い部屋には会議に使うような大きな机が一つと、奥の中央にどっしりと立派な机が構えられている。
ドアを開けた女性以外に、奥の机に座る初老の男性が1人。
「君は下がっていて。少し3人で話がしたい。」
男性の言葉で、女性は部屋の外へ出ていく。
部屋の空気は張り詰めていて、少しでも声を発したらこの場ごとがらがらと崩れていきそうだと思った。
男性がこちらに向かってかつかつと歩いてくる。
…この人が社長だとしたら、俺はこれから怒鳴られでもするのだろうか。
怖い。
由良さんと繋いだ手に力を込めると、まるで“大丈夫だよ”、とでも言うように優しく握り返された。
大丈夫なわけがない。
優しそうだけど目が笑っていないし、おそらくSランクのDomなのだろう。怖い。
どんどん彼が近づいてきて、息を飲み、ギュッと目を瞑る。
「…この度は、私の息子が本当に申し訳ないことをした。」
しかし目の前で彼がその言葉と共に90度頭を下げたから、俺は驚いて目を見開いた。
ここに御坂がいるという恐怖よりも会社で平然と俺と手を繋ぐ彼の行動への驚きで頭がいっぱいになる。
「…あの、手… 」
立ち止まり言う俺に、由良さんは優しく微笑みかけてくれた。
相変わらずの格好よさに心臓がうるさくなりだし、自分の顔が赤くなっていることも見なくてもわかる。
「大丈夫、離さないよ。約束したでしょう?」
「...そうじゃなっ… 」
そうじゃなくて、と紡ごうとした唇は人差し指で止められて、何も言えなくなってしまった。
普段から格好いいのに、スーツ姿のせいでさらに大人の色気が強調されているからずるい。
「あっ、秋月さんだ。どうかしましたか?」
俺が固まっていると、管理室の窓から若い女性が由良さんに対し親しげに声をかけてきた。
「この子と一緒に社長に用があって。もうアポは取ってあるから、一緒に入ってもいいかな?」
「そうでしたか。どうぞ。」
間をおかずゲートが開く。
…えっ、そんな軽く通しちゃっていいの?少なくともサインとかしないとダメなのでは…?
ちなみに俺たちがしっかりと手を繋いでいることについて彼女は何も触れなかった。
「エレベーターは人が多いから、階段で行ってもいい?」
そう言われ、黙ってうなずく。
知らない人がたくさんいる中は正直怖いから、俺もそっちの方がいい。
「あっ、部長!お久しぶりです!部長がいないとやっぱり仕事大へ…って、誰ですかーその綺麗な子!もしかして俺に紹介してくれます?」
手を繋いで階段を上っていると、今度は前から声をかけられた。
おそらく俺より5つくらい上の男性で、爽やか系のイケメンである。
「僕のパートナー。」
由良さんが躊躇なくそう答えると、彼は悪気もなく笑い、
「…あー、なんか納得です。そんなに綺麗なパートナーがいたら坂本さんのこと振ったのも頷けますねー。お幸せにー!」
と、軽く言って去っていった。
「…坂本さん…?」
彼が行った後、何も考えずつい声に出してしまって慌てて口を塞ぐ。
「指輪をしているのにたまに告白されるんだ。僕には幹斗君しかいないのに、心苦しいね。」
しかし由良さんは不快そうにも気まずそうにもすることなく、ただ淡々とそう答えた。
“君しかいない”、と。
何度言われても嬉しい。
その後も何人かとすれ違い、そのたびに例外なく相手が由良さんに話しかけてきた。
俺のことに触れる人はいても誰も否定的な言葉を発さないことから、由良さんがいかに周りから尊敬されているかが伺える。
やっぱり由良さんはすごい。
階段を上り終えてからまた少し歩き、由良さんが足を止めたのは何やら立派な門の前。
「あの、ここってもしかして…。」
「うん、社長室だよ。」
由良さんがあまりに平然と言ってのけるから腰が抜けるかと思った。
そしてこれから御坂に会うと言うのにいつの間にか自分の中で恐怖が薄れていったことに気がつく。
「あの、さすがに手は…。」
俺がいい終わる前に由良さんが“秋月です”、と言いながら3回しっかりとノックをした。
ぴったりとした黒いスーツを着た女性がドアを開ける。秘書さんだろうか。
中に入ると広い部屋には会議に使うような大きな机が一つと、奥の中央にどっしりと立派な机が構えられている。
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怖い。
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どんどん彼が近づいてきて、息を飲み、ギュッと目を瞑る。
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