強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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第2部

前進⑧

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「お願いします。」

即答すると、由良さんはわずかに顔をしかめた。

「手と目、どちらも生活する上で主要に使う部分だ。それを拘束すれば、君の生活の自由を奪うことになる。それでも本当に大丈夫?」

…確かに。

由良さんに言われ、日常生活で拘束されることが楽ではないのだと分かった。

でも由良さんになら何をされてもいい。

「それでも大丈夫です。…由良さんに支配されるの、…好き、だから…。」

答えると、由良さんが優しく俺の身体を抱きしめ、頭を撫でてくれた。

ふしばった大きな手が心地いい。

「…どこまでも愛おしいね、君は。」

低く掠れた声が耳元で艶っぽく囁く。

そのまま今度はくるりと背中をむかされ、先ほどの布で後ろ手に拘束された。

続いてもう一枚の布で視覚も奪われる。

自由を奪われることで彼に支配される感覚を身をもって覚えることができ、ひどく気持ちいい。

「幹斗君、お腹すいたでしょう?ご飯食べようか。」

「えっ…?」

しかし俺を拘束したあと由良さんが放った第一声に、俺は思わず問い返してしまった。

そういえばお昼をまだ食べていなかった。でも俺は今目も見えないし手も使えないわけで…。

「大丈夫だよ。食卓まで行って座るのもご飯を口まで持っていくのも、全部僕がするから。今から抱っこするからじっとしていてね。動くと危ない。」

…あれ。

由良さんのその言葉を聞いて、このプレイは俺が思っていたよりも重いものなのではないかという気がしてきた。

この拘束が解かれるまで、俺は自力で何もすることができない。

生活の自由を奪う、と彼は俺に言ったが、まさしくその通りだ。

食事や移動などの生活をする上で最低限必要なことを全て由良さんに全て委ねることになる。

自分の生活を由良さんの手で行うなんて、ある意味ただ拘束して動けなくされるよりもずっと支配的だ。

…ああでも、どうしたって好きだと思ってしまう。

彼に全てを委ね支配される、その感覚を。

腰と背中に彼の手が添えられ、床から足が離れた。

彼の手が触れた部分が熱を持ちそれが身体中に伝播していく。

彼が話していない今、感じることができるものは、俺を抱き上げる彼の温もりだけ。

今自分はどんな体勢で家の中のどこにいるのだろうか。それすらもわからない。

視覚を奪われているがゆえの不安と由良さんに支配されている心地よさが、脳の中でごちゃ混ぜに拮抗して、おかしくなってしまいそうだった。
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