強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

文字の大きさ
199 / 261
第2部

帰省⑥

しおりを挟む
「幹斗久しぶりー!相変わらず綺麗な顔してるねーあんた。うちの娘と結婚しない?」

数年ぶりに会った甥への態度としてこれはいかがなものだろうか…。

相変わらず元気な叔母の反応に、俺はため息を吐きかけて呑み込んだ。

「…パートナーの前で結婚とか、何言ってくれるの…。それよりどうしてここに?」

そもそも娘さん中学生でしょう、とはひとまず言わないでおく。

「そっか、パートナー……って、ちょっと!!」

「えっ、なに?」

突然雪菜さんに腕を引かれ、耳に口を近づけられた。

「…パートナーって、まさかその後ろにいる人じゃないよね?」

「他に誰が…?」

「男の人だとは聞いてたけど、芸能人がパートナーだなんて聞いてないから!!」

「…一般人だよ…。」

こんなに格好いい人が一般人なわけがないという気持ちはわかるが、恥ずかしいからそろそろ終わりにしてほしいし、ついでになぜここにいるのかも教えてほしい。

どうしていいか分からずに俺が固まっている間に、由良さんがゆっくりとこちらへ歩いてきて、雪菜さんにすっと名刺を差し出した。

「初めまして、秋月由良です。」

「人事部…ってことは、本当に芸能人じゃないんですね!?」

名刺を見た雪菜さんが驚いたように目を大きく見開く。

「まさか。お上手ですね。」

美しい顔立ちに平然と笑みを浮かべる由良さんはやっぱり格好良くて、男勝りな雪菜さんですら顔をわずかに赤く染めていた。

「幹斗がいつもお世話になっています。とりあえず乗ってください。歩くには遠いので送ります。」

「感謝します。よろしくお願いします。」

…そっか。俺たちのことを迎えにきてくれたのか。

雪菜さんに促され彼女の車に乗る。

俺は助手席に、由良さんは後ろに。

そういえば雪菜さんの家に行くのは高校生以来で、どう行くのかを覚えていないから迎えにきてくれてよかった。

「…雪菜さん、史明さんの体調は?」

「元気だよ。それに薬も飲んでるから安心して。幹斗にあったら余計に元気になるんじゃないかなあ?」

「よかった。…すみれさんは…?」

「ああ、お母さんはめちゃくちゃ元気。むしろ幹斗が来るのに興奮して今ケーキとキッシュ焼いてるよ。お父さんとお母さん以外はこれから泊まりで旅行に行くから、気にせずゆっくりしてね。」

運転中の雪菜さんに気になっていたことを横から尋ね、祖父母が元気だと返ってきたからひとまず安心して息を吐く。

「ありがとう、気を遣わせちゃってごめんなさい。」

「なーに言ってんの!幹斗が会いに来るって言ってお母さんもお父さんもあんなに喜んでたんだから、むしろこっちがありがたいくらいだよ。…あっ、でも賭けには負けそう。」

「賭け?」

「幹斗のパートナーがどんな人か。」

ころころと雪菜さんの明るい笑い声が車内に響き渡った。

…まったく、何をしてるんだこの人は。

思わずふっと笑みが溢れる。

「あはは、2人とも何に賭けたの?」

しかし俺が笑ったのを見た雪菜さんはなんとも言い難いとても不思議そうな表情を浮かべた。

「…笑った…。」

「普通に笑うけど…?」

ぽかんと口を開けた俺の頭を彼女が雑にくしゃくしゃと撫でる。

「そっか、普通に笑うのか。…そっか。」

なんでちょっと泣きそうな顔で笑っているのかは分からなかったけれど、彼女が幸せそうだから俺も嬉しくなった。

今日は普段彼女と会う時よりもずっと多くのことを話している気がする。

車の中で雪菜さんと俺は色々なことを話し、由良さんは俺たちに気を遣ったのかずっと寝たふりをしてくれていた。

由良さんは座って眠る時決まって左手の指輪に右手で触れるから、空寝をしているとすぐにわかる。

一緒に暮らし始めてから知ったことだ。

きっと彼自身も気づいていない。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...