強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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番外編 〜2人の夏休み〜

動物園でのコアラとの出会い①

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朝は昨夜のツアーの反動もあり、今日のツアーの時間になるまで部屋で由良さんとのんびり過ごした。

コーヒーを飲みながらタブレット端末で新聞を読む由良さんの姿があまりに優雅で、スマホを見るふりをしながらちらちらと盗み見見ていたのは不可抗力だ。あそこまで絵になる光景に目が行かない方がおかしい。

そして、今はバスで動物園に向かっている。

「幹斗君、楽しみ?」

ふと、隣に座っていた由良さんが俺の方を向き尋ねてきた。

シャツの襟からほのかに香るシトラスの香と凛とした低い声に心臓がまたとくんと跳ねる。

「いえっ…あの、はい…。」

動揺したせいか返答がおかしくなり、どっちだよと自分に心の中でツッコミを入れたが、由良さんは俺の答えが肯定だと元からわかっていたらしく、綺麗な唇に優しい微笑みを浮かべ俺の頭にポンと手を置いた。

「今日はコアラ、見られるね。」

「はい。それに、動物園って中学校の学習旅行以来なので、久しぶりです。どんな動物がいるんだろう…. 」

「そういえば僕もずっと行っていないな。幹斗君は何の動物が好き?」

好きな動物…何だろう。

考えても、ありきたりな答えしか浮かんでこない。

「えっと、猫です。由良さんは、猫と犬、どっちが好きですか?」

仕方がないからそのありきたりな答えをそのまま口にする。

と同時に、少し気になったことを聞いてみた。

「どちらも可愛いと思うけれど、幹斗君が一番かな。」

「そっ、その答え、は、…ずるい… 」

思わぬ狙撃を食らってしまい少し反抗する気持ちで由良さんの瞳をのぞいたが、彼と目が合った瞬間に反抗心は消失する。

「じゃあどう答えればいいと思う?これ以外思いつかなかった。」

そのまま低い声が泣きそうなくらいの優しさで紡いだ。

ぎゅっと細められた紫紺の瞳は、俺に愛おしいと伝えてくれる。

ああ好きだな、と今日だけでも何度目かわからない告白を心の中で繰り返しながら、窓の外を仰いだ。

今日も空は青く澄んでいる。
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