贖罪のセツナ~このままだと地獄行きなので、異世界で善行積みます~

鐘雪アスマ

文字の大きさ
229 / 366
第4章起業しましょう。そうしましょう

198・怪盗

しおりを挟む
「ああ、セツナいいところに来たね。
指名依頼が来ているよ」

その日ギルドに行くとギルドの受付城のイザベラがそう言った。

「え、またですか、最近多いですね」
「まぁそれだけ『金色の黎明』が有名になってきたってことさ」
「それで依頼というのは?」
「テミスの町で怪盗が出るようになったんだよ」
「怪盗?」
「怪盗の名前はレッドベルっていって、
金を貧しい市民にばらまいているみたいなんだ」

レッドベル、赤き鈴?
かっこいい名前だな。

「でもすごく良いことじゃないですか」
「でもそれは盗んだ金でやっているみたいなんだ。
いわゆる義賊って奴なのかな。
金持ちから金を奪って、貧しい人に配っているんだよ。
だからテミスの町の領主から怪盗を捕まえて欲しい依頼が来てるよ」
「みんなどうしよう」

私は仲間達の意見を聞く。

「まぁいいんじゃないの」
「わたくしは問題ありません」
「私もいいと思うのだ」
「じゃあ引き受けます」
「分かったよ」

それから依頼を受けると爆竜号に乗って、
テミスの町に行くことにした。
テミスの町はアアルの北西にある。
通常の馬車で行くとかなりの日数がかかるが、
爆竜号で行くと10日ぐらいで着くことが出来た。

「ここがテミスの町ですか」

町は見た感じはアアルと変わりない普通の町だった。
私達は聖眼を魔法で隠して馬車を降りる。

「早速領主の家に行きましょう」

そうして領主の家に行くと、そこは立派な屋敷だった。

「すみませーん、依頼を受けてきた『金色の黎明』です」
「どうぞ中にお入りください」

そうして屋敷の中に通される。

「悪趣味だな」
「…そうですね」

ガイの言葉に私は同感だった。
屋敷には至る所に黄金で作った銅像や絵画などが飾られていた。
その配置の仕方も悪く、これでは芸術品がかわいそうだ。

「ふむお前らが『金色の黎明』か、
噂通り美しいな」

客間に通されるとそう貴族の男が言った。
豪勢な服を着ていて、体は太っていた。

「あのあなたは」
「わしはこのテミスの領主、
アーブ・ドレイク子爵だ。
お前ら『金色の黎明』に頼みたいことがある。
怪盗レッドベルを捕まえてくれ」
「はい、分かりました」
「うむ、理解が早くて助かる。
怪盗レッドベルは、
これまで幾度となくわしの家に侵入し宝を奪っていたのだ。
そして盗んだ品をどこかで売却し、
金に換えてスラムの住人に配っているのだ」
「スラム?」
「ああ、町のゴミ溜めだな。
働けなくなった冒険者や、浮浪者や病人が集う場所だ」
「そうですか…」
「だから怪盗レッドベルを捕まえて欲しい」
「でも怪盗のおかげでスラムの人は助かっているんですよな」
「どれだけ多くの人を救おうが、
奴がやっていることはただの犯罪だ。
それに金をばらまけば、
次もまたあるに違いないとスラムの人間は期待するだろう。
それは本人にとって良くないことだ」

確かに最もな言葉だった。
怪盗がやっていることは確かに間違っている。
しかし私達が怪盗を捕まえたら、
スラムの人に恨まれそうだな。

「それで怪盗レッドベルはどこに現れるんですか?」
「ああ、それなら予告状がある。
今夜9時に次は金の女神像を狙うと」
「9時ですか、まだ時間がありますね」
「ならそれまで町を散策すればいい」
「そうですね。そうします」

そうして夜まで町を探索することになった。





「夜まで何をしましょうか。
観光とかしますか?」
「うーん、私は遠慮しておくわ。
何かあった時のために屋敷の方で本でも読んで待っているわ」

そうエドナが言った。

「わかくしもたまには1人で行動したいです」
「私は屋敷の方で待っているのだ」

そうフォルトゥーナとイオが言った。

「じゃあ、私は町を探索してみます」

そう言って私は屋敷を出た。

「どこに行くんだ?」

そうガイが聞いてきた。

「スラムに行ってみようと思います」
「え、治安が悪いと思うぞ」
「どんな所か見てみたいんですよ」

そうしてスラムに行くと、そこは酷い状態だった。
崩れた建物が多く、石畳に至っては割れていて、
路上には寝ている人も何人かいた。

「これは酷い…」
「なぁアンタ」

その時後ろから話しかけられた。
振り返るとそこに14歳ぐらいの少女が立っていた。

「アンタこの町の人間じゃないだろ」

そう少女が言った。
少女の髪はピンク色で目の色は水色だった。
肌は褐色で、体は中肉中背で、容姿は美少女といってもいいだろう。
そして頭にはバンダナを付けていた。

「はい、そうですが」
「やっぱり、物見遊山的な気分で来たのなら引き返しな。
アンタみたいな可愛い女がスラムに来たら、
強姦してくれって言っているようなもんだからね」
「忠告ありがとうございます。
じゃあそれでは」
「待ってよ。アンタこの町に来たばかりだろう?
ついでに町を案内してやるよ。
まぁ金は取るけどね」
「へえ面白そうですね。是非お願いします」
「じゃあ、案内するよ」

それから早速町を案内してもらった。
町が一望出来る神殿や、美術館など、
名所を案内してもらった。

「ここの料理はおいしいよ。
建物はちょっと古びてるけど、出す料理はかなりいいよ」

そう言って、レストランに入ると、
そこで出された料理はかなりおいしかった。

「おいしいですね」
「だろ? 隠れた名店なんだよ。ここは」
「今日はありがとうございます。
おかげで楽しめました」
「そう言ってくれると嬉しいねぇ」
「でも何でこの町にはスラムがあるんですか?」
「ああ、昔からあるよ。
まぁスラムに居るのはほとんどが元冒険者だけど」
「冒険者が?」
「魔物のせいで手足を失って働けなくなったんだよ。
それと病気の奴とか、貧困者とかもね。
あと娼婦もいる」
「領主はそういった人を救おうとはしないんですか?」
「ハッ」

すると少女は鼻で笑った。

「領主はスラムの人間のことなんて何とも思ってないさ。
自分が贅沢することしか考えてないよ。
アンタも見たから知っているだろう。
スラムでは崩れた建物が多かっただろう。
あれは咎の輪廻教がスラムで、
大規模な爆破テロを行ったからなんだよ」

咎の輪廻教…確か人殺しを美徳とする宗教組織だ。
もう壊滅したとはいえ、
咎の輪廻教が付けた傷跡は各地で残っている。

「その時も領主はスラムの人間に何もしなかったよ。
だから建物が崩れたままになっているのさ」
「そうですか」
「アンタ、アアルから来たんだよな。
いいよね。あそこは領主が領民のこと考えていて、
うちの領主も見習って欲しいよ」
「でもその話が本当なら何で、
この国はそういった貴族を、
そのままにしているんでしょうか?」
「さぁね。でも子爵の貴族がこれってことは、
もっと上の方が腐敗しているんじゃないかな」

それはありえると想った。
だって魔族のせいで壊滅した町の補助金って、
国からほとんど貰えなかったからな。
町を直す費用は、
私が伯爵夫人に渡した数億のお金でまかなったからな。

「しかしアンタ、何でこの町に来たんだい?」
「怪盗レッドベルを捕まえるためです」
「え? 何でさ」
「あ、えっーと」

そういえば彼女の名前聞くの忘れてた。

「リンだよ。アンタは?」
「セツナ・カイドウと言います。
名字はありますが貴族ではありません。
リンさんは怪盗レッドベルについてどう想います?」
「リンでいいよ。でも怪盗ねぇ。
それを捕まえるってことは正しいことなのかい?」
「事情は分かりませんけど、
人から物を盗むのはいけないことです」
「正論だね。でも物を盗むってそんなにダメなことなのかな?」
「え?」
「もし人から物を盗まなければ自分が死ぬとしたら、
アタシは盗むことを選択するね。
怪盗もきっとそうしなければいけない理由があるんじゃないのかな」
「確かにそれはそうですが…」
「怪盗はさ。きっと自分以外の人間はどうでもいいんだよ。
自分の目的を果たすために、金をばらまいているに過ぎなくて、
スラムの人間のことなんてどうでもいいんだよ」
「目的って何ですか?」
「復讐だよ」

そう言うとリンは笑った。

「なーんてね。全部勝手な予想だよ。
アンタはもし怪盗に出会ったらどうするんだい?」
「とりあえず捕まえて話を聞きます」
「ふぅん、まぁがんばりなよ。
じゃ、アタシはもう行くから、支払いはアンタがしといてよ」
「分かりました」

そう言うとリンは店を出て行った。

「何か闇を感じたな」
「はい、そうですね」

リンか…またどこかで会えるかもしれない。
そう思いながら、
店の会計を済ませると私は領主の屋敷に戻ったのだった

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...