【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十六章 闇射す光

1-1 アナスタシア

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 その世界は、文明がとても進んだ素晴らしい世界だったらしい。


 ……らしい。というのは、それは、あたくしが産まれるずっとずっと昔の事なので、本当のところはよく知らないの。

 そして、愚かにも我々の祖先は、身の程をわきまえぬ程の力を持った兵器を開発し、己が開発した兵器で自滅してしまったという話だわ。戦争を繰り返し、世界を破滅させたのね。

 唯一の生き残りが、世界を滅ぼす程の兵器にも負けぬ強い力を持った光と闇の化身、デューク。

 彼は、滅びたその世界を捨てて新たな世界に移り、自分の仲間を、その在り余る力を使い、産み出した。そして、それらすべてを”神”と称し、”神族”と呼んだ。

 神族はその数を見る間に増やしていったわ。世界に存在するあらゆるものを司る為に産まれてきたのよ。

 でも、そんな我ら(神々)にも力の優劣がある。例えば、四代元素(エレメント)を司る彼女達とか、知識を司る彼とか……。でも、その中でも別格なのが、デューク様の眷属神。光と闇。それぞれ七神存在する彼らは別格で、自身を現す数字が少なくなればなる程、その力は大きかった。

 デューク様は、かつての自分の種族が争いによって自滅している事を知っているが故に、今度は己の眷属達にそれを抑えさせる事にしたの。

 争いが一度(ひとたび)起これば、光と闇の眷属達がそれを止めさせる。

 とてもとても、美しい。

 とてもとても、平和な、そんな世界。


 あたくしはそんな世界で、ちっぽけな一神として産まれた。


 産まれたばかりのあたくしは、とてもとても弱くて、その上、司るものが”真実”なんていうものだっただけに、産まれた時から他の神々からは嫌われていたわ。あたくしの周囲には、あたくしの面倒の一切を見てくれる神獣しかいないような状態だったの。

 デューク様から賜った神獣、ドラゴンも、あたくしの力の影響を受けてか、小さな幼獣のサイズだったし、あたくしは自分に与えられた小さな宮で小さくなりながら毎日を過ごしていた。

 そんな引きこもり気味だった小さな神の元を訪れたあの方は、根っからの変わり者だったのよ。

「アナ。まったく、馬鹿な子だな。いつまでこんな所にひきこもっておるつもりだ?」

 まだ外に出る気力があった頃、遠くから何度か見た事がある少女神。

 波打つ銀糸の髪、力強く光る金色の瞳、滑らかな褐色の肌。目元の黒子に、少女らしからぬ色香を感じる。

 彼女は、”光の第二眷属神”。

 昔見た、争いを起こした愚かな神を鎮める為、美しい声で詩っていた姿が、今も瞼の裏に焼き付いている。

「レイ様?」

 あたくしの呼び声に、彼女はにっこりと優しく笑った。

「そんな風に引きこもっておるから、心も体も成長せぬのだよ。お主の神獣だって、ずっと幼獣のままではないか。ほら、おいで。わらわが外に連れ出してやろう」

 レイ様の後ろには、彼女の神獣である銀狼が静かに付き従っている。

 神獣フェンリル

 こんなにも間近で見る日が来るなんて……。まるで夢のよう。

「皆、お主の瞳が怖いのだ。いや、正確にはお主の司る真実が怖いのだろう」

 外に出るようになり、しばらくの時を重ねると、あたくしの姿は、レイ様と同じ位の年齢の少女のものにまで成長し、神獣(ドラゴン)も成獣へと進化を遂げた。
 あたくし達神族は、見た目の年齢が存在した年月と比例する訳ではない。レイ様の見た目の年齢に近づいたといっても、存在した年月と生まれ持った力の差は歴然としていたわ。

 レイ様は、神々の中でも一際美しく、賢く、優しく、強かった。

 あたくしは唯一神だから、兄弟姉妹(きょうだい)はいないのだけれど、光と闇の眷属神は、第一眷属から第七眷属まで、皆、双子神だったの。

 光と闇に分かたれた双子。

 兄弟だったり、姉妹だったり、姉弟だったり、兄妹だったりと、様々だったけれど、レイ様は、姉弟だった。

「アナ、今日は弟を連れてきておるのだ。わらわと友達になったように友達にしてやってはくれぬか?」

「弟……って、スノウ様ですか?」

 噂でしか聞いた事のない、レイ様の弟神。”闇の第二眷属神”

 自分のような末端の神からすれば、レイ様と知り合えただけでも奇跡に近いのに、今度はスノウ様!? 混乱しながらいつものようにレイ様に手を引かれて宮を出ると、そこにいたのは、美しい青年神。

「姉上は、本当に神使いが荒い」

 光沢を放つ黒髪、慈愛に満ちた菫色の瞳、白磁のような肌。黒銀の狼を従えた、闇の神。

「はじめまして、アナ。僕の事は知っているかな?」

「はい、スノウ様」

 震える声で答えたあたくしに、スノウ様は困ったように笑われた。

「様はいらないよ」

「ダメなのだ、スノウ。この子は強情でな、わらわの事も今だに”レイ様”と呼ぶのだ」

 拗ねたようにそう言うレイ様にスノウ様は目を向ける。愛おしむような、優しい眼差し。

「姉上を手こずらせるなんて、将来有望な子だね」

 あはははっと笑いながら、スノウ様はあたくしに再び目を向ける。その瞳は美しく優しいけれど、その中に先程垣間見たような愛おしさと熱はない。

 その時、初めてツキンっと胸が痛んだの。

 この時、既にあたくしは、スノウ様に恋をしていたのだわ。

 でも、スノウ様の目には、レイ様しか映ってはいなかった。

 あの、恋い焦がれるような熱い瞳を独り占めしているレイ様に、あたくしはいつしか嫉妬し、妬み、憎むようになって……

 それは、時と共に大きく醜悪になり


 …………そして、あたくしは病んだのよ。


 悠久の時を生きる”神族”を殺す唯一のもの。

 それが、”邪心”。

 暗く重い負の感情から産まれるそれは、闇の眷属神が患う事が多いとされていた。

 事実、過去に闇の第六と第七の眷属神はそれを患い、完治はしたけれど、一歩間違えれば狂神となっていたと言われている。

 ”争い”を産み出すものが激しい怒りの感情だというのなら、”邪気”を産み出すものは、静かな妬みの感情。

 前世界を滅ぼした”争い”は、眷属神の力で抑えられる。

 でも、デューク様でさえ予測していなかった、この”邪心”というものは、己の眷属神自身が患ってしまい、抑える術がなかったの。

 だから、闇の眷属神達がそうならないように、その半神である光の眷属神達はとても気を使っていたわ。闇に呑まれ、”邪気”を生まないように……。でも、裏を返せば、”邪心”に患うのは、闇を司り、光を乞う(恋う)気持ちの消せない闇の眷属神ばかりだった。

 光と闇の眷属神達は、互いの半神を恋う気持ちが、その属性の強さ故に止められない。

 眷属神(彼ら)は神々の中でも特別だった。

 慈愛ではない愛を知る者達だったの。

 あたくし達、他の神は、慈愛以外の愛は存在しない。

 何故なら、唯一神だから。

 世界に自分という神は自分しかいなく、仲間はいても、対等になれる者はいない。他神に妬みの感情を覚える事などありはしなかった。

 でも、あたくしは違った。

 きっと、産まれた時からどこか壊れていたのね。


 真実の中から産まれた”真実神”。

 あたくしの七色の瞳の前では、どんな神でも真実を差し出す事になる。


 真実神、アナスタシア。


 あたくしは、闇の第二眷属神であるスノーデュークに恋をし、その姉神たる光の第二眷属神レイデュークを妬み、神にあるまじき負の感情を長い年月をかけて蓄積させて


 そして……


 闇に病み、恐ろしい邪気を生みだした

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