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第十六章 闇射す光
2-3 同行者
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手紙を渡されたハイネスとそれを横から覗き見ていたトリスラムは、驚きに目を見張る。
「リュカ老師とライサンから?」
ハイネスはそう呟き、厳重に封をされたそれを丁寧に開く。中から出て来たのは二通の手紙と古びた鍵。
一つは神殿本部からの命令書。そしてもう一つはどうして今現在神子達がここにいるのかを説明した手紙だった。
そのまま、彼は急いで他国の神官長からの伝言を一気に読み込む。
そして、リュセルはというと、先程、手紙の主をセリクス神官長とではなく、親しげにライサンと呼んだハイネスに少し驚いていた。
彼らはライサンの知り合いなのだろうか?
リュセル達がじっと見守る中、手紙を読み終えたらしいハイネスが、それをそのままトリスラムに渡した。同じようにライサンからの手紙とリュカ老師からの命令書を読んだトリスラムの顔色が一気に悪くなる。
「ハイネス。……これは」
呆然としているトリスラムの言葉にハイネスは真剣な表情で頷くと、小声で確認した。
「私はこんな状態ですし、神官長と補佐がいない今、臨時責任者の私達が二人、共に抜ける事は出来ません。トリスラム、貴方が一人で行ってくれますか?」
「了解致しました、ハイネス」
二人での短い相談が済んだ後、ハイネスは三人の神子に向き直った。
「分かりました。案内役の神官を神子様方の旅の供にご用意致します。ライサン……いえ、セリクス神官長は、私かフィールド神官査のどちらかを指名しておりますので、コールド砂漠へは、この、トリスラム・フィールド神官査がご一緒する形になります」
ハイネスの言葉を受け、トリスラムが軽く頭を下げる。
「よろしくお願い致します、神子様方」
「ああ、よろしゅう頼む」
トリスラムの礼を鷹揚に頷いて受けたアルティスに、彼は今後の事を確認する。
「準備が出来次第、すぐにサンジェイラ城へ向かいますが、神子様方はどうなさいますか?」
「我らも旅立ちの準備がある故、先に城に戻らさせてもらおう。それと、神殿内をこのように騒がせ、既に今更なのだが、この事はあまり知られたくはないのだ。民を動揺させる訳にはいかぬ。どうか内密に頼む」
「了解致しました、玉鍵様。では、準備にとりかかりたく思いますので、御前を失礼致します」
トリスラムがそう言って部屋を後にすると、アルティスとローウェンもハイネスと退室の挨拶を交わし合い、部屋を出て行く。
「……ロード神官査」
同じように客室を出ようとしたリュセルは、腰痛の為、椅子に腰かけたままのハイネスを振り返り、思い切って聞いてみる事にした。こんな時ではあるが、気になるものは気になるのだ。
「はい?」
穏やかに微笑んで聞き返してきた病弱な神官査にリュセルは尋ねる。
「セリクス神官長とはどのような……」
それにハイネスは「ああ」と頷き、軽く目を細めた。
「ライサンと私達は、神学校時代からの旧友ですよ。ウインター神官長補佐とも知り合い……というか、彼は私達の後輩ですね。今回の件は、本部からの命令というのもありますが、友人からの頼みでもあります。トリスラムは性格は少し変わっていますが、優秀な神官です。きっと彼らの代わりになれるでしょう。ご安心下さい」
そして、退室するリュセルに、彼は本来なら神子には決して言わぬ言葉を残した。
他人との別れの際、彼ら神官や巫女が必ず残す言葉。
「どうか、貴方方に創世の女神の祝福があらん事を……」
これから邪神との戦いに赴く神子達に、祈りを捧げずにはいられなかったのだ。
*****
トリスラムという案内役を得たリュセル達がそのまま急いでサンジェイラ城へと戻ると、既にレオンハルト達は和服への着替えを済ませていた。レオンハルトもジュリナも護衛役としての簡素な狩衣の衣装に着替えており、ティアラは城の侍女達が着ているような小袖の着物姿になっている。
リュセルとアルティスに用意されたのは、王族直属の従者用の揃いの着物で、小姓制度のないサンジェイラ国ではローウェンに合う制服が用意出来なく、ティアラと同じ侍女に扮する為、女装する事になってしまったのだった。
「まあ、慣れてるからいいケドさ~」
ブツブツ言いながらも慣れた手つきで小袖を着たローウェンの姿は、リュセルの目から見ても大変愛らしい。ティアラと二人並ぶと、まるで妖精のようだ。
そんな風に二人並び立つ姿をうっとりと鼻の下を伸ばして見つめていたリュセルの視界に、それが入ったのはその時だった。
「直轄地に視察に向かう王族として、レインを向かわせます」
自分達に臨時に用意された部屋に入室してきたアサギは、王族としての旅装束姿に身を包んだすぐ下の弟を連れて来て、レオンハルトとジュリナに事情を説明する。
「レインなら武闘の経験もあり、私(王)の護衛の一人でもある為、戦闘力も高い。自身の命と、供をする事になるという神官一人を守る力ならありましょう」
「ああ、分かった」
左頬の湿布が痛々しいアサギの言葉に頷きながらも、ジュリナは隣に立つレオンハルトの顔を見上げる。
よりによって、こいつかよ~~ッ!
過去に酷い目にあったらしい剣の兄弟の兄の方は、任務は任務と捉えているのか、天敵である好色王弟が供をする事になっても見た目は変わらず平然としていた。
いや、付き合いが長いからこそ分かるが、少し驚いているようだ。その理由に気づき、ジュリナは軽く眉をひそめる。
(旅に出れるのか? こいつ)
レインを見て、まずジュリナが思ったのはそんな事だった。
(やっぱりね)
(こうなるとは予測はしておったが)
年長組から離れた場所にいるローウェンとアルティスも、衝撃のあまり声も出ないらしい目の前の年上の同胞の背を叩く。
「リュセル殿」
「リュセル兄さん、ガンバレ」
「あは……あは、あはははは」
リュセルは乾いた笑いを浮かべながら、兄達と話をしているらしいレインに目を向けるが、すぐに驚きの表情を浮かべた。
(どうしたんだ?)
記憶にある彼と何かが違った。違和感に眉をひそめながら、ローウェン、アルティス、ティアラと共に準備を終えたリュセルは、急いで兄達のいる場所へと移動する。
「ああ、リュセル王子。お久しぶりですね」
今まで見てきた軟派で好色な笑みではない、彼を知っている者からすれば信じられないような弱々しい笑み。
「どうしたんだ、レイン王子」
つい、リュセルが心配の声をかけてしまう程、レインは様変わりしてしまっていた。
体は痩せ、憔悴しきっており、顔色も悪い。表情は暗く、常に翳が付きまとっている。いつもの彼なら勢ぞろいした女神の子供達の美貌を前に、狂喜乱舞しただろうに……。
「あ、兄上、病気でもしてたの?」
兄のあまりの変わりようにショックを受けたらしいローウェンは、レインの腕の中に飛び込むとその顔を見上げる。
「病気? そんな事ないぞ」
弟に答えるその声にも、今までのような覇気がない。
「レイン。今のお前に必要なのは、別の事を考える時間だ。危険が伴う仕事だが、今回の事はお前にとっても他の事を考えるいい機会になるだろう。マーリンの事は一度忘れなさい。彼女が自分でこの城を出て行ったのなら、私達には探して欲しくないのかもしれないよ」
マーリン。
その名を聞いたレインの顔が強張るのを見たリュセルは、彼がこのような状態になったのは、その名の持ち主が原因である事を察した。
「マーリンって、確か、レイン兄上がどこからともなく連れてきた王の陰の護衛の一人だよ。紺色の髪の綺麗な娘(こ)だったよね、アル」
「ああ、あの娘か。アサギ兄上直属の侍女でもあったように記憶しておるが……。我らはあまり顔を合わせておらなかったからなぁ。シオン兄上やスカイならば詳しく知っておるのかもしれぬが。そうか、いなくなってしもうたのか」
城門前に用意された馬車の前で、ローウェンとアルティスがレインに聞こえないようにぼそぼそと呟き合うのを、彼らのすぐ前を歩いていたリュセルの耳は拾ってしまう。
あの後、神殿から派遣されたトリスラムも無事合流し、出立の運びになったリュセル達は、アサギが用意してくれた魔導馬の馬車に乗り込む事になったのだ。
王族の視察団として出立する為、用意された馬車にはサンジェイラ王家の紋様が刻まれており、急なレインの出立に驚いたらしいシオンとスカイが慌てて見送りにきていた。
変装眼鏡をかけたリュセル達の正体に気づかない二人は、レインを心配しているようだった。
「こんな、急に視察に出立するなんて。それもこんな少人数で。ねぇ、レイン兄上、大丈夫なの? 全然眠れていないんじゃないの? ご飯も食べてないって聞いたよ」
「レイン兄上、今までずっとマーリンを探していたんだろう? 少しは休まないと体を壊してしまうぞ」
泣きそうな顔をして詰め寄るスカイと怒ったような顔で兄の行動を責めるシオンの頭を撫でながら、レインはいつものような軽い口調で答える。
「大丈夫大丈夫、ちょっくらアサギ兄上の名代を済ませたら、すぐ帰ってくるから心配するな、お前ら」
そう言って、弟達の体を両腕で一気に抱き締めると、レインは出立の挨拶を残す。
「じゃ、行ってくるから。アサギ兄上……王を頼むぞ、お前ら。ユリエ姉上がいない今、お前らが頼りなんだからな」
兄のその言葉にスカイとシオンは同時に頷く。
「はい」
「兄上もお気をつけて」
そうして、レインが馬車の中に消えて行くのを見送ったスカイは涙ぐみながら呟く。
「ねぇ、マーリンはどこに行っちゃったのかな? 兄上が王都中を探しても見つからないなんて変だよ。急に煙のように消えちゃうなんて……」
「ああ、好きな娘が急に姿を消してレイン兄上はあのようになってしまい、王妃問題に決着がついたとはいえ、今度は側室達の問題が勃発し、宮廷内は今だ騒がしい。どうしたものか」
「ユリエ姉上もいなくて、レイン兄上もいなくなって、アルティスもローウェンもずっといないし…………。シオン兄上、僕、不安だよ」
「馬鹿、不安に思っている暇なんてないだろうが。皆が戻ってくるまで、俺達がしっかりしないといけないんだからな」
「リュカ老師とライサンから?」
ハイネスはそう呟き、厳重に封をされたそれを丁寧に開く。中から出て来たのは二通の手紙と古びた鍵。
一つは神殿本部からの命令書。そしてもう一つはどうして今現在神子達がここにいるのかを説明した手紙だった。
そのまま、彼は急いで他国の神官長からの伝言を一気に読み込む。
そして、リュセルはというと、先程、手紙の主をセリクス神官長とではなく、親しげにライサンと呼んだハイネスに少し驚いていた。
彼らはライサンの知り合いなのだろうか?
リュセル達がじっと見守る中、手紙を読み終えたらしいハイネスが、それをそのままトリスラムに渡した。同じようにライサンからの手紙とリュカ老師からの命令書を読んだトリスラムの顔色が一気に悪くなる。
「ハイネス。……これは」
呆然としているトリスラムの言葉にハイネスは真剣な表情で頷くと、小声で確認した。
「私はこんな状態ですし、神官長と補佐がいない今、臨時責任者の私達が二人、共に抜ける事は出来ません。トリスラム、貴方が一人で行ってくれますか?」
「了解致しました、ハイネス」
二人での短い相談が済んだ後、ハイネスは三人の神子に向き直った。
「分かりました。案内役の神官を神子様方の旅の供にご用意致します。ライサン……いえ、セリクス神官長は、私かフィールド神官査のどちらかを指名しておりますので、コールド砂漠へは、この、トリスラム・フィールド神官査がご一緒する形になります」
ハイネスの言葉を受け、トリスラムが軽く頭を下げる。
「よろしくお願い致します、神子様方」
「ああ、よろしゅう頼む」
トリスラムの礼を鷹揚に頷いて受けたアルティスに、彼は今後の事を確認する。
「準備が出来次第、すぐにサンジェイラ城へ向かいますが、神子様方はどうなさいますか?」
「我らも旅立ちの準備がある故、先に城に戻らさせてもらおう。それと、神殿内をこのように騒がせ、既に今更なのだが、この事はあまり知られたくはないのだ。民を動揺させる訳にはいかぬ。どうか内密に頼む」
「了解致しました、玉鍵様。では、準備にとりかかりたく思いますので、御前を失礼致します」
トリスラムがそう言って部屋を後にすると、アルティスとローウェンもハイネスと退室の挨拶を交わし合い、部屋を出て行く。
「……ロード神官査」
同じように客室を出ようとしたリュセルは、腰痛の為、椅子に腰かけたままのハイネスを振り返り、思い切って聞いてみる事にした。こんな時ではあるが、気になるものは気になるのだ。
「はい?」
穏やかに微笑んで聞き返してきた病弱な神官査にリュセルは尋ねる。
「セリクス神官長とはどのような……」
それにハイネスは「ああ」と頷き、軽く目を細めた。
「ライサンと私達は、神学校時代からの旧友ですよ。ウインター神官長補佐とも知り合い……というか、彼は私達の後輩ですね。今回の件は、本部からの命令というのもありますが、友人からの頼みでもあります。トリスラムは性格は少し変わっていますが、優秀な神官です。きっと彼らの代わりになれるでしょう。ご安心下さい」
そして、退室するリュセルに、彼は本来なら神子には決して言わぬ言葉を残した。
他人との別れの際、彼ら神官や巫女が必ず残す言葉。
「どうか、貴方方に創世の女神の祝福があらん事を……」
これから邪神との戦いに赴く神子達に、祈りを捧げずにはいられなかったのだ。
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トリスラムという案内役を得たリュセル達がそのまま急いでサンジェイラ城へと戻ると、既にレオンハルト達は和服への着替えを済ませていた。レオンハルトもジュリナも護衛役としての簡素な狩衣の衣装に着替えており、ティアラは城の侍女達が着ているような小袖の着物姿になっている。
リュセルとアルティスに用意されたのは、王族直属の従者用の揃いの着物で、小姓制度のないサンジェイラ国ではローウェンに合う制服が用意出来なく、ティアラと同じ侍女に扮する為、女装する事になってしまったのだった。
「まあ、慣れてるからいいケドさ~」
ブツブツ言いながらも慣れた手つきで小袖を着たローウェンの姿は、リュセルの目から見ても大変愛らしい。ティアラと二人並ぶと、まるで妖精のようだ。
そんな風に二人並び立つ姿をうっとりと鼻の下を伸ばして見つめていたリュセルの視界に、それが入ったのはその時だった。
「直轄地に視察に向かう王族として、レインを向かわせます」
自分達に臨時に用意された部屋に入室してきたアサギは、王族としての旅装束姿に身を包んだすぐ下の弟を連れて来て、レオンハルトとジュリナに事情を説明する。
「レインなら武闘の経験もあり、私(王)の護衛の一人でもある為、戦闘力も高い。自身の命と、供をする事になるという神官一人を守る力ならありましょう」
「ああ、分かった」
左頬の湿布が痛々しいアサギの言葉に頷きながらも、ジュリナは隣に立つレオンハルトの顔を見上げる。
よりによって、こいつかよ~~ッ!
過去に酷い目にあったらしい剣の兄弟の兄の方は、任務は任務と捉えているのか、天敵である好色王弟が供をする事になっても見た目は変わらず平然としていた。
いや、付き合いが長いからこそ分かるが、少し驚いているようだ。その理由に気づき、ジュリナは軽く眉をひそめる。
(旅に出れるのか? こいつ)
レインを見て、まずジュリナが思ったのはそんな事だった。
(やっぱりね)
(こうなるとは予測はしておったが)
年長組から離れた場所にいるローウェンとアルティスも、衝撃のあまり声も出ないらしい目の前の年上の同胞の背を叩く。
「リュセル殿」
「リュセル兄さん、ガンバレ」
「あは……あは、あはははは」
リュセルは乾いた笑いを浮かべながら、兄達と話をしているらしいレインに目を向けるが、すぐに驚きの表情を浮かべた。
(どうしたんだ?)
記憶にある彼と何かが違った。違和感に眉をひそめながら、ローウェン、アルティス、ティアラと共に準備を終えたリュセルは、急いで兄達のいる場所へと移動する。
「ああ、リュセル王子。お久しぶりですね」
今まで見てきた軟派で好色な笑みではない、彼を知っている者からすれば信じられないような弱々しい笑み。
「どうしたんだ、レイン王子」
つい、リュセルが心配の声をかけてしまう程、レインは様変わりしてしまっていた。
体は痩せ、憔悴しきっており、顔色も悪い。表情は暗く、常に翳が付きまとっている。いつもの彼なら勢ぞろいした女神の子供達の美貌を前に、狂喜乱舞しただろうに……。
「あ、兄上、病気でもしてたの?」
兄のあまりの変わりようにショックを受けたらしいローウェンは、レインの腕の中に飛び込むとその顔を見上げる。
「病気? そんな事ないぞ」
弟に答えるその声にも、今までのような覇気がない。
「レイン。今のお前に必要なのは、別の事を考える時間だ。危険が伴う仕事だが、今回の事はお前にとっても他の事を考えるいい機会になるだろう。マーリンの事は一度忘れなさい。彼女が自分でこの城を出て行ったのなら、私達には探して欲しくないのかもしれないよ」
マーリン。
その名を聞いたレインの顔が強張るのを見たリュセルは、彼がこのような状態になったのは、その名の持ち主が原因である事を察した。
「マーリンって、確か、レイン兄上がどこからともなく連れてきた王の陰の護衛の一人だよ。紺色の髪の綺麗な娘(こ)だったよね、アル」
「ああ、あの娘か。アサギ兄上直属の侍女でもあったように記憶しておるが……。我らはあまり顔を合わせておらなかったからなぁ。シオン兄上やスカイならば詳しく知っておるのかもしれぬが。そうか、いなくなってしもうたのか」
城門前に用意された馬車の前で、ローウェンとアルティスがレインに聞こえないようにぼそぼそと呟き合うのを、彼らのすぐ前を歩いていたリュセルの耳は拾ってしまう。
あの後、神殿から派遣されたトリスラムも無事合流し、出立の運びになったリュセル達は、アサギが用意してくれた魔導馬の馬車に乗り込む事になったのだ。
王族の視察団として出立する為、用意された馬車にはサンジェイラ王家の紋様が刻まれており、急なレインの出立に驚いたらしいシオンとスカイが慌てて見送りにきていた。
変装眼鏡をかけたリュセル達の正体に気づかない二人は、レインを心配しているようだった。
「こんな、急に視察に出立するなんて。それもこんな少人数で。ねぇ、レイン兄上、大丈夫なの? 全然眠れていないんじゃないの? ご飯も食べてないって聞いたよ」
「レイン兄上、今までずっとマーリンを探していたんだろう? 少しは休まないと体を壊してしまうぞ」
泣きそうな顔をして詰め寄るスカイと怒ったような顔で兄の行動を責めるシオンの頭を撫でながら、レインはいつものような軽い口調で答える。
「大丈夫大丈夫、ちょっくらアサギ兄上の名代を済ませたら、すぐ帰ってくるから心配するな、お前ら」
そう言って、弟達の体を両腕で一気に抱き締めると、レインは出立の挨拶を残す。
「じゃ、行ってくるから。アサギ兄上……王を頼むぞ、お前ら。ユリエ姉上がいない今、お前らが頼りなんだからな」
兄のその言葉にスカイとシオンは同時に頷く。
「はい」
「兄上もお気をつけて」
そうして、レインが馬車の中に消えて行くのを見送ったスカイは涙ぐみながら呟く。
「ねぇ、マーリンはどこに行っちゃったのかな? 兄上が王都中を探しても見つからないなんて変だよ。急に煙のように消えちゃうなんて……」
「ああ、好きな娘が急に姿を消してレイン兄上はあのようになってしまい、王妃問題に決着がついたとはいえ、今度は側室達の問題が勃発し、宮廷内は今だ騒がしい。どうしたものか」
「ユリエ姉上もいなくて、レイン兄上もいなくなって、アルティスもローウェンもずっといないし…………。シオン兄上、僕、不安だよ」
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