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第一章 帰還
1-2 レオンハルト直属の三騎士
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そう言って、すたすたと出入り口たる扉へと向かい始めた綾香に、ティルは慌てたように言った。
「どこに行かれるおつもりですか!?」
「どこって、もちろん帰るんだよ。あの泉に飛び込めばきっと帰れるんだろうし。今日、お店で売り場変更があるんだよね。出勤しなきゃまずいだろう?」
普通にそう返した綾香に、ティルは叫んだ。
「ダメです! ここから出してはいけないと、レオンハルト殿下から仰せつかっているんです! それに、目覚められたばかりですのに!」
そう叫んで扉の前に立ちふさがるティルの体を、ひょいっと抱き上げてどけると、綾香は扉から一気に飛び出した。
「大丈夫、大丈夫。じゃ、食事おいしかった。ごちそうさま」
そう言って、階段を一気に駆け下りた。
「リュ、リュセル殿下あああ!」
ティルの叫び声が後ろで響く。
(何これ、すごく長い階段だな)
まあ、あの窓の眺めから察するに、すごく高い塔なのだろうが。
しかし、そんな長い階段を駆け下りても綾香は息切れ一つしなかった。
「やっぱり、男の人の体力は違うな」
塔の出入り口たる大きな扉を開けるのに少し苦労したがそれだけだ。
(それに気になってたんだけど、この体って、元の私の年齢より若くない?)
扉の外に出た時綾香は、ぼんやりとそんな事を考えていた。
(だって、私と同い年位の、あの、レオンハルトって王子が兄なわけでしょう? 認めたくないけどね! 真ん中に誰かいるっぽいし。いくつなんだろう。)
「お前、そんな所で何している?」
そんな風に考え込んでいると、鋭い女の声が響いて、綾香は動きを止めた。
塔から数メートル離れたところで見つかってしまった。
「ねえ、なんで夜着姿な訳?」
今度は男の声だ。
綾香の右手の方向からゆっくりと歩いてくるのが分かった。
さて、どう切り抜けるべきか。ふ、こうなったら奥の手だ。今の自分の、最大の武器を使うしかない。
綾香は、なるべく効果的に、幸い朝日できっと自分の銀髪はきらきらと輝いているだろう。ゆっくりと声のした方向に振り向いた。
「……」
「…………」
そこにいたのは、二人ではなかった。
軍服を着た騎士が三人。
一人は、真面目そうな髪を一つで束ねたエリート風の女。
一人は、軽薄そうな優男。
一人は、横にも縦にも大きい筋骨隆々の壮年の男。
呆気にとられたかのように、ぽかんとした表情で自分を見る騎士達に向かって妖しく微笑むと、彼らは頬を赤く染めた。
(チャンス!)
そんな形で目をキランと光らせ、呆然としている騎士達を置いて走り去ろうとした時、少年の叫びが響いた。
「誰か~~~~~! その方を止めて下さ~~~~い!」
「げっ! ティル!」
頼むから見逃してくれっ!
そう願わずにはいられない。
必死な小姓の少年の言葉に、まっさきに我に返ったのは優男の騎士だった。素早い動きで綾香の腕を捕らえると、背後から羽交い絞めにした。
「ひゅ~、ずいぶんお綺麗な子だな。うちの殿下と張るんじゃないか?」
軽く口笛を吹いたその騎士に、女騎士はまだ少し頬を赤く染めたまま言った。
「どういった素性の者だ? あの塔から出てきたようだが」
そう言って綾香の顔を見ようとし、とっさに顔をそむけた。
「だめだ。直視できん」
「殿下で慣れたと思ったんだけどねえ」
女騎士の言葉を肯定するように背後の騎士が頷いた時、ティルが息をきらして追いついた。
「あああああ~~~、その方に乱暴しないで下さい! アイリーン様、ユージン様、アントニオ様!」
「ティルじゃないか。この人の知り合いなのか?」
アイリーンと呼ばれた女騎士の問いに、この騎士達と顔なじみらしいティルは困ったように言った。
「ええ、まあ」
「あの、現在使われていないはずの開かずの塔から出てきたみたいだけど」
ユージンと呼ばれた綾香の背後の騎士も、怪訝そうにそう尋ねた。
「えっと……」
しどろもどろになったティルに意識が集中した為、次の瞬間、ユージンの拘束の力が緩み、綾香は渾身の力で腕を振り切った。
「おっと」
しかし、すぐまた捕まる。今度は先程よりも強い力で。
「油断も隙もないな」
(く、苦しい)
ロープロープ! と心の中で叫んでいると、ティルが慌てたように叫んだ。
「リュセル殿下!」
次の瞬間、変な沈黙が落ちた。
「リュセル、殿下?」
「って、あの、失われた王子殿下の事か?」
二人の騎士の言葉に、しまったという表情になったティルを見た、今まで成り行きを見守っていた壮年の騎士・アントニオは、小さくため息をつき、おもむろにユージンの腕から綾香を解放した。
それを不思議に思って見上げる綾香の体を、こともあろうにアントニオは荷物でも運ぶみたいに肩に担ぎ上げたのだ。
(ぎゃああああ!)
顔には出さずに心の中で悲鳴を上げた綾香を担いだまま、アントニオは塔に向かって歩き出した。
「ア、アントニオ様」
不安そうなティルの声を聞いたアントニオは穏やかに答える。
「この方を、あの塔に戻せばいいんだろう?」
それにティルは、ほっとしたように微笑んだ。
「いや、良くない!」
即座に否定した綾香に対し、ティルは強い口調で言った。
「いえ、戻っていただきます。これは、レオンハルト殿下のご命令です」
(だから何だよ)
綾香はけっと心の中で毒づくが、三人の騎士には効果的面だったようだ。
「殿下のご命令なのか」
それきり綾香について何も聞いてはこなかった。
騎士、アントニオに担がれて塔の最上階の元の部屋に戻されると、外から鍵をかけられてしまった。
その後、昼食、夕食とティルが持ってきてくれたが、警戒してアントニオを連れてだった。
「本当は略装のお着替えを持って来ようかと思っていたのですが、動きやすい格好になって、また出て行かれては困りますので、夜着の替えをお持ちしました」
夕食の後、そう言ったティルが、今着ているものと似たような夜着を出してきたので、自分は不機嫌なまま、むっつりと頷いた。
「では、私は扉のすぐ外で待っています」
王族の着替えという事もあって、礼儀正しく退出していったアントニオを見送ると、ティルは綾香の着ている夜着を脱がせにかかった。
「じ、自分で出来るから!」
焦ってそう言うが、軽く却下された。
(なんか、この子、小姓のくせに、態度がLだな……)
あきらめの交じったため息をつきながらそう考えていると、夜着が脱がされ、裸の胸が目に入った。
(見事にまっ平らだ)
今日、初めてトイレに入った時は、さすがに気絶しそうになった。
(ふっ、元々胸は小さかったけどさ。それにしても、本当に男になってしまったんだな)
さすがにここまでくると、変に腹がすわってくるというか、開き直りの現象が起きてくる。
(元の世界に戻る前に、この顔で女の子にもててみるのも悪くないか。普通、できない経験だよね)
新しい夜着に着替える前に、軽く体を拭いてもらうと、かなりすっきりした。
「では、リュセル殿下。失礼致しました」
綾香に新しい夜着を着せ掛けると、元々着ていた夜着とお湯の入った桶をアントニオに持ってもらい、ティルは部屋を出て行ってしまった。
部屋に外鍵をかけるのを忘れる事なく。
綾香はため息をつき、テーブル前にあった椅子を窓の所へと移動すると、そこから外の景色を眺めた。
「うわ……」
夜の暗闇の中、街のあちこちにランプの明かりが照らされて、そこから見える夜景は、それはとても美しいものだった。
「どこに行かれるおつもりですか!?」
「どこって、もちろん帰るんだよ。あの泉に飛び込めばきっと帰れるんだろうし。今日、お店で売り場変更があるんだよね。出勤しなきゃまずいだろう?」
普通にそう返した綾香に、ティルは叫んだ。
「ダメです! ここから出してはいけないと、レオンハルト殿下から仰せつかっているんです! それに、目覚められたばかりですのに!」
そう叫んで扉の前に立ちふさがるティルの体を、ひょいっと抱き上げてどけると、綾香は扉から一気に飛び出した。
「大丈夫、大丈夫。じゃ、食事おいしかった。ごちそうさま」
そう言って、階段を一気に駆け下りた。
「リュ、リュセル殿下あああ!」
ティルの叫び声が後ろで響く。
(何これ、すごく長い階段だな)
まあ、あの窓の眺めから察するに、すごく高い塔なのだろうが。
しかし、そんな長い階段を駆け下りても綾香は息切れ一つしなかった。
「やっぱり、男の人の体力は違うな」
塔の出入り口たる大きな扉を開けるのに少し苦労したがそれだけだ。
(それに気になってたんだけど、この体って、元の私の年齢より若くない?)
扉の外に出た時綾香は、ぼんやりとそんな事を考えていた。
(だって、私と同い年位の、あの、レオンハルトって王子が兄なわけでしょう? 認めたくないけどね! 真ん中に誰かいるっぽいし。いくつなんだろう。)
「お前、そんな所で何している?」
そんな風に考え込んでいると、鋭い女の声が響いて、綾香は動きを止めた。
塔から数メートル離れたところで見つかってしまった。
「ねえ、なんで夜着姿な訳?」
今度は男の声だ。
綾香の右手の方向からゆっくりと歩いてくるのが分かった。
さて、どう切り抜けるべきか。ふ、こうなったら奥の手だ。今の自分の、最大の武器を使うしかない。
綾香は、なるべく効果的に、幸い朝日できっと自分の銀髪はきらきらと輝いているだろう。ゆっくりと声のした方向に振り向いた。
「……」
「…………」
そこにいたのは、二人ではなかった。
軍服を着た騎士が三人。
一人は、真面目そうな髪を一つで束ねたエリート風の女。
一人は、軽薄そうな優男。
一人は、横にも縦にも大きい筋骨隆々の壮年の男。
呆気にとられたかのように、ぽかんとした表情で自分を見る騎士達に向かって妖しく微笑むと、彼らは頬を赤く染めた。
(チャンス!)
そんな形で目をキランと光らせ、呆然としている騎士達を置いて走り去ろうとした時、少年の叫びが響いた。
「誰か~~~~~! その方を止めて下さ~~~~い!」
「げっ! ティル!」
頼むから見逃してくれっ!
そう願わずにはいられない。
必死な小姓の少年の言葉に、まっさきに我に返ったのは優男の騎士だった。素早い動きで綾香の腕を捕らえると、背後から羽交い絞めにした。
「ひゅ~、ずいぶんお綺麗な子だな。うちの殿下と張るんじゃないか?」
軽く口笛を吹いたその騎士に、女騎士はまだ少し頬を赤く染めたまま言った。
「どういった素性の者だ? あの塔から出てきたようだが」
そう言って綾香の顔を見ようとし、とっさに顔をそむけた。
「だめだ。直視できん」
「殿下で慣れたと思ったんだけどねえ」
女騎士の言葉を肯定するように背後の騎士が頷いた時、ティルが息をきらして追いついた。
「あああああ~~~、その方に乱暴しないで下さい! アイリーン様、ユージン様、アントニオ様!」
「ティルじゃないか。この人の知り合いなのか?」
アイリーンと呼ばれた女騎士の問いに、この騎士達と顔なじみらしいティルは困ったように言った。
「ええ、まあ」
「あの、現在使われていないはずの開かずの塔から出てきたみたいだけど」
ユージンと呼ばれた綾香の背後の騎士も、怪訝そうにそう尋ねた。
「えっと……」
しどろもどろになったティルに意識が集中した為、次の瞬間、ユージンの拘束の力が緩み、綾香は渾身の力で腕を振り切った。
「おっと」
しかし、すぐまた捕まる。今度は先程よりも強い力で。
「油断も隙もないな」
(く、苦しい)
ロープロープ! と心の中で叫んでいると、ティルが慌てたように叫んだ。
「リュセル殿下!」
次の瞬間、変な沈黙が落ちた。
「リュセル、殿下?」
「って、あの、失われた王子殿下の事か?」
二人の騎士の言葉に、しまったという表情になったティルを見た、今まで成り行きを見守っていた壮年の騎士・アントニオは、小さくため息をつき、おもむろにユージンの腕から綾香を解放した。
それを不思議に思って見上げる綾香の体を、こともあろうにアントニオは荷物でも運ぶみたいに肩に担ぎ上げたのだ。
(ぎゃああああ!)
顔には出さずに心の中で悲鳴を上げた綾香を担いだまま、アントニオは塔に向かって歩き出した。
「ア、アントニオ様」
不安そうなティルの声を聞いたアントニオは穏やかに答える。
「この方を、あの塔に戻せばいいんだろう?」
それにティルは、ほっとしたように微笑んだ。
「いや、良くない!」
即座に否定した綾香に対し、ティルは強い口調で言った。
「いえ、戻っていただきます。これは、レオンハルト殿下のご命令です」
(だから何だよ)
綾香はけっと心の中で毒づくが、三人の騎士には効果的面だったようだ。
「殿下のご命令なのか」
それきり綾香について何も聞いてはこなかった。
騎士、アントニオに担がれて塔の最上階の元の部屋に戻されると、外から鍵をかけられてしまった。
その後、昼食、夕食とティルが持ってきてくれたが、警戒してアントニオを連れてだった。
「本当は略装のお着替えを持って来ようかと思っていたのですが、動きやすい格好になって、また出て行かれては困りますので、夜着の替えをお持ちしました」
夕食の後、そう言ったティルが、今着ているものと似たような夜着を出してきたので、自分は不機嫌なまま、むっつりと頷いた。
「では、私は扉のすぐ外で待っています」
王族の着替えという事もあって、礼儀正しく退出していったアントニオを見送ると、ティルは綾香の着ている夜着を脱がせにかかった。
「じ、自分で出来るから!」
焦ってそう言うが、軽く却下された。
(なんか、この子、小姓のくせに、態度がLだな……)
あきらめの交じったため息をつきながらそう考えていると、夜着が脱がされ、裸の胸が目に入った。
(見事にまっ平らだ)
今日、初めてトイレに入った時は、さすがに気絶しそうになった。
(ふっ、元々胸は小さかったけどさ。それにしても、本当に男になってしまったんだな)
さすがにここまでくると、変に腹がすわってくるというか、開き直りの現象が起きてくる。
(元の世界に戻る前に、この顔で女の子にもててみるのも悪くないか。普通、できない経験だよね)
新しい夜着に着替える前に、軽く体を拭いてもらうと、かなりすっきりした。
「では、リュセル殿下。失礼致しました」
綾香に新しい夜着を着せ掛けると、元々着ていた夜着とお湯の入った桶をアントニオに持ってもらい、ティルは部屋を出て行ってしまった。
部屋に外鍵をかけるのを忘れる事なく。
綾香はため息をつき、テーブル前にあった椅子を窓の所へと移動すると、そこから外の景色を眺めた。
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