【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第二章 邂逅

1-1 もう一人の兄王子

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「つまんないね~、リュセル殿下~」

 綾香がこの世界に帰還して、ちょうど一週間が過ぎた日の午後。

 最近の日課というか、それしかしていないのだが、綾香は、読書に集中していた意識を、テーブルの向こう側でたいくつそうにしている騎士に向けた。

 レオンハルトの予告通り、あの後、綾香には彼の直属の騎士という名の、監視がついた。

 その中の一人が、今向かいにいるユージンである。

 そう、この塔を脱走した時に会った三人の騎士が、レオンハルト直属の騎士達だったのだ。事情を主から聞いた彼らは、交代で、”リュセル王子”の見張りについていた。

 この一週間の間、三人の騎士と一日中一緒にいたが、ユージンは他の二人に比べれば接しやすい男だった。紅一点たる女騎士、アイリーンは、綾香の顔を見ないようにしながらだったし、壮年の、体躯のいい騎士、アントニオとは、まず、会話が続かない。

 この、軽薄そうな優男、実際、軽い男だったが……、ユージンは、唯一、綾香と普通に接してくれる騎士だったのだ。

 話の内容はくだらないものばかりではあったが。

「そんなに本ばかり読んで、おもしろいんですかあ?」

 あくびをかみ殺しながらそう言ったユージンに、綾香は頷いた。

「まあね」

「え!? もしかして、それ、いけない本!?」

 目を輝かしたユージンに、綾香は冷たい目をした。

「アシェイラの歴史書だ」

「げええええええ!!」

 分厚い背表紙を見せてそう言った綾香に、ユージンは信じられないという風に首を振った。

「よく、そんな面白くもないもの、見る気になれますね!」

「勉強になるからな。後は、世界史なんかも読んでいる」

 ユージンは、更に、信じられない。という顔になった。

 そう、この塔に監禁されてからというもの、綾香は、この世界に関する本なかりを読み漁ってきた。不思議な事に、見たことも無いはずの文字達は、自然に解読できたのだ。その中で一番驚いたのが……。

「第二王子が、王位継承者?」

 てっきり、自分は、あの横暴王子、レオンハルトが王位継承者だと思っていた。

「あ~、その事?」

 ユージンは、綾香の言葉に遠い目になった。

「レオンハルト殿下は剣主ですから、王位は継げないんですよ」

 出た! 意味不明単語、その一。綾香はちょっと、うんざりしてしまった。

「だから、すべてにおいて、王位継承者にふさわしいレオンハルト殿下は、この国のお世継ぎではないんです。」

 第二王子。

(もう一人の、兄王子ってやつね)

 一体、どんな男なのか。

 レオンハルトのようなのを想像して、綾香は身震いした。

(あんなのが、もう一人存在したらと、考えるだけで恐ろしい!)

 その時だった。

 扉の外で、ティルの騒ぐ声が響いた。

「お待ち下さい。この部屋には誰も入れないようにと、レオンハルト様から仰せつかっているんです!」

「大丈夫、大丈夫」

 そんな、軽い口調の言葉と共に外鍵が外される音がして、部屋の扉が開いた。

「やあ」

 現れたのは、一人の青年。肩先で切りそろえられた黒髪と、黒い瞳をした、年の頃なら二十歳前後の青年だった。

「誰ですか?」

「カイルーズ殿下!」

 綾香の声に重なるようにして、ユージンが驚きの声を上げた。

「いいよ、ユージン。君は下がって」

 にこやかにそう言ったカイルーズに、綾香を庇うようにその前に移動したユージンは、困惑の表情を浮かべる。

「しかし……」

「第二王子である僕に逆らうの?」

「いえ、失礼致しました」

 ユージンは一瞬心配そうな視線を綾香に向けると、部屋を出て行った。

「これで邪魔者はいなくなったね。初めまして、リュセル。僕の名は、カイルーズ・アシェイラ。君の兄であり、このアシェイラの第二王子さ」

(これが、もう一人の兄か。噂をすれば影!)

 綾香は納得いったように小さく頷いた。

 しかし

 カイルーズは、確かに、清潔感溢れるハンサムな顔をしていたが、レオンハルトのような、人外めいた美貌の持ち主ではなかった。

「ふふふ、君も女神の息子だから、恐ろしい位に綺麗な顔をしているね」

 身長は綾香と同じ位だ。真正面から顔を覗き込まれて、綾香は少し居心地が悪かった。

「自己紹介すると、僕の趣味は毒草集め、特技は人を呪う事、好きなものは呪いの人形、嫌いなものは、兄上かな」

(おいおいおいおい、なんだ? その自己紹介!)

 心の中でつっこむと、綾香は顔をひきつらせたまま答える。

「嫌いなものが、兄上って」

「そう、レオンハルト。……大嫌い」

 黒い瞳が一瞬ぎらついた。

「えっと」

 あまりにもはっきりと言い切ったカイルーズに、綾香はどう答えるべきか悩んだ。

「ちなみに、どこが?」

 結局、そんな変な事を聞いてしまった。

「全部」

 そして、答えは見もふたも無かった……。

 さわやかな微笑みを浮かべて、過激な事を言うカイルーズに、綾香は一種の尊敬の念を抱いてしまったりした。

(すげ~)

「でも、君とは仲良くしたいな、リュセル」

 そう言ったカイルーズの顔に、邪気はまったく感じられなかった。……が。

(私の、今までの、仕事上での人間関係、その経験が語っている。こいつは、信用できない)

 販売業という職種に、向こうの世界でついていた綾香は、人の人となりを見分ける能力が身についていた。

 そんな風に警戒している綾香の様子が伝わったのか、カイルーズは悲しそうな顔をした。

「僕の事、嫌いかい?」

(会ったばかりで、好きも嫌いもないんですが)

 そう思いつつも、綾香は、悲しそうなカイルーズの顔に良心が痛むあたりお人よしである。

「でも、しょうがないよね。会ったばかりだしさ」

 まさしく、その通りである。

「そうだ! 僕の部屋においでよ!」

 何故そうなる。

 唖然としている間に、カイルーズは綾香の手を取って、部屋を飛び出したのだった。

 驚いたのは、扉の外で待機していたユージンとティルだ。

「カ、カイルーズ様!」

「ん、何?」

 ユージンが慌てて引き止めると、カイルーズは不思議そうに問い返した。

「リュセル殿下をどこにお連れになるつもりですか?」

 ユージンのその言葉に、カイルーズはにっこり笑って答えた。

「僕の部屋だよ」

「申し訳ありませんが、リュセル殿下はこの塔から出してはいけないとのご命令ですので」

 相手のそんな固い声音での答えに、カイルーズは微笑みを浮かべたまま言った。

「僕に逆らうの?」

「私の主は、あなた様ではなく、レオンハルト殿下ですので」

 アシェイラの王位継承者にそう言い切ったユージンの表情は、いつもの軽い男ではなく、主に忠誠を誓う騎士のものだった。

「ふうん。いいのかな? そんな事言って」

 しかし、そんなユージンよりカイルーズは上手であったのだ。

 懐から小さな巾着のようなものを出すと、中に入っていた粉をユージンとティルに思いきり振りかけた。

「! あ、あははっ、はははは!」

「きゃあ! きゃははっはははははッ」

 途端、二人はいきなり笑い転げ始めた。

「さあ、今がチャンスだ。行こう、リュセル!!」

「へ?」

 急に笑い出したユージンとティルに綾香が驚いている間に、カイルーズはその手をとって走り出した。

「ええええええええっ!?」

 ものすごい勢いで螺旋階段を駆け下りる。

「笑い粉を持ってて良かった」

 走っている途中でそう言ったカイルーズに、綾香はそこで、二人が笑い転げていた原因があの粉にあったのだと気づいた。

 そのまま塔の外に出ると、庭園を突っ切り城内へと入る。

(そういえば、城に入るのって初めてだ)

 この1週間というもの、ずっとあの塔に閉じ込められていた為、綾香は外の世界の事がまったくわからなかった。

(連れ出してもらえてラッキーだったかもしれない)

 壮麗な外観通り、アシェイラ城内は、綾香の目から見て、豪華で、そして広かった。さすがに城内に入ると、カイルーズは走るのをやめて、綾香の手を引いたまま先を歩いていたのだが。

(ゴージャス!!)

 塔の中の調度品や家具もそうだったが、城内のそれは桁違いだ。

(すごい)

 綾香は、田舎者丸出しで、周りをきょろきょろ見回していた。

 第二王子であり、王位継承者でもあるカイルーズが城の廊下を通ると、道行く侍女や小姓達が、足を止めて廊下の端に寄り、王族に対する礼をとった。

 礼をとり、うつむく為、綾香に気づく者はいないようだった。

「このあたりは、僕ら、王族の住まいである後宮だから、専属の従者しかいないんだよ」

 カイルーズの説明に、綾香は小さく頷いた。

「本当なら、君も、この後宮の一画に部屋を持つはずなのに、あんな塔に閉じ込められてかわいそうに。」

 同情を含んだカイルーズの言葉。綾香はそれに対しては否定しなかった。

(ずっと外に出られなくて、軽く引きこもり状態だったさ! ご丁寧に見張りまでつけられてな)

 綾香がそんな事を考えていると、いくつもの角を曲がりやっと目的地についたようだった。

「ここが僕の部屋」

 綾香は、その扉を見ると軽く引いた。扉からして、おどろおどろしい雰囲気をかもし出している。

(なんか、予想と違うな。まるで魔界への入り口のようだ)

「はい、どうぞ~」

 そんなのん気なカイルーズの言葉と共に中に入り、綾香は彼について来た事を軽く後悔した。


(ここここここ、これは……)

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