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第二章 邂逅
1-2 カイルーズの誘惑
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「ちなみに、どこが?」
結局、そんな変な事を聞いてしまった。
「全部」
そして、答えは見もふたも無かった……。
さわやかな微笑みを浮かべて、過激な事を言うカイルーズに、綾香は一種の尊敬の念を抱いてしまったりした。
(すげ~)
「でも、君とは仲良くしたいな、リュセル」
そう言ったカイルーズの顔に、邪気はまったく感じられなかった。……が。
(私の、今までの、仕事上での人間関係、その経験が語っている。こいつは、信用できない)
販売業という職種に、向こうの世界でついていた綾香は、人の人となりを見分ける能力が身についていた。
そんな風に警戒している綾香の様子が伝わったのか、カイルーズは悲しそうな顔をした。
「僕の事、嫌いかい?」
(会ったばかりで、好きも嫌いもないんですが)
そう思いつつも、綾香は、悲しそうなカイルーズの顔に良心が痛むあたりお人よしである。
「でも、しょうがないよね。会ったばかりだしさ」
まさしく、その通りである。
「そうだ! 僕の部屋においでよ!」
何故そうなる。
唖然としている間に、カイルーズは綾香の手を取って、部屋を飛び出したのだった。
驚いたのは、扉の外で待機していたユージンとティルだ。
「カ、カイルーズ様!」
「ん、何?」
ユージンが慌てて引き止めると、カイルーズは不思議そうに問い返した。
「リュセル殿下をどこにお連れになるつもりですか?」
ユージンのその言葉に、カイルーズはにっこり笑って答えた。
「僕の部屋だよ」
「申し訳ありませんが、リュセル殿下はこの塔から出してはいけないとのご命令ですので」
相手のそんな固い声音での答えに、カイルーズは微笑みを浮かべたまま言った。
「僕に逆らうの?」
「私の主は、あなた様ではなく、レオンハルト殿下ですので」
アシェイラの王位継承者にそう言い切ったユージンの表情は、いつもの軽い男ではなく、主に忠誠を誓う騎士のものだった。
「ふうん。いいのかな? そんな事言って」
しかし、そんなユージンよりカイルーズは上手であったのだ。
懐から小さな巾着のようなものを出すと、中に入っていた粉をユージンとティルに思いきり振りかけた。
「! あ、あははっ、はははは!」
「きゃあ! きゃははっはははははッ」
途端、二人はいきなり笑い転げ始めた。
「さあ、今がチャンスだ。行こう、リュセル!!」
「へ?」
急に笑い出したユージンとティルに綾香が驚いている間に、カイルーズはその手をとって走り出した。
「ええええええええっ!?」
ものすごい勢いで螺旋階段を駆け下りる。
「笑い粉を持ってて良かった」
走っている途中でそう言ったカイルーズに、綾香はそこで、二人が笑い転げていた原因があの粉にあったのだと気づいた。
そのまま塔の外に出ると、庭園を突っ切り城内へと入る。
(そういえば、城に入るのって初めてだ)
この1週間というもの、ずっとあの塔に閉じ込められていた為、綾香は外の世界の事がまったくわからなかった。
(連れ出してもらえてラッキーだったかもしれない)
壮麗な外観通り、アシェイラ城内は、綾香の目から見て、豪華で、そして広かった。さすがに城内に入ると、カイルーズは走るのをやめて、綾香の手を引いたまま先を歩いていたのだが。
(ゴージャス!!)
塔の中の調度品や家具もそうだったが、城内のそれは桁違いだ。
(すごい)
綾香は、田舎者丸出しで、周りをきょろきょろ見回していた。
第二王子であり、王位継承者でもあるカイルーズが城の廊下を通ると、道行く侍女や小姓達が、足を止めて廊下の端に寄り、王族に対する礼をとった。
礼をとり、うつむく為、綾香に気づく者はいないようだった。
「このあたりは、僕ら、王族の住まいである後宮だから、専属の従者しかいないんだよ」
カイルーズの説明に、綾香は小さく頷いた。
「本当なら、君も、この後宮の一画に部屋を持つはずなのに、あんな塔に閉じ込められてかわいそうに。」
同情を含んだカイルーズの言葉。綾香はそれに対しては否定しなかった。
(ずっと外に出られなくて、軽く引きこもり状態だったさ! ご丁寧に見張りまでつけられてな)
綾香がそんな事を考えていると、いくつもの角を曲がりやっと目的地についたようだった。
「ここが僕の部屋」
綾香は、その扉を見ると軽く引いた。扉からして、おどろおどろしい雰囲気をかもし出している。
(なんか、予想と違うな。まるで魔界への入り口のようだ)
「はい、どうぞ~」
そんなのん気なカイルーズの言葉と共に中に入り、綾香は彼について来た事を軽く後悔した。
(ここここここ、これは……)
綾香は七歳も若返ったという事実を理解するのに精一杯で、カイルーズが、そっと、カップを持つ自分の両手に手を重ねてきたのに気づかなかった。
「どうして、第二王子の僕が王位継承者なのか、わかるかい?」
その言葉に、綾香は顔を上げて彼の方を見た。
「兄上が剣主だからさ。子供の頃から、よく口さがない大人達が、兄上のが王位継承者にふさわしいのにもったいないって言うのを耳にしたよ」
「……」
綾香は、じっとカイルーズの言葉に耳を傾けた。
「僕は、いつも寂しかったんだ」
哀しげに目を伏せるカイルーズに、綾香は彼が可哀そうになってきた。
「ねえ、リュセルは、僕の味方になってくれるよね?」
「え?」
「兄上じゃなくて、僕と一緒にいてよ」
黒い瞳をうるうるさせて、そうカイルーズは言う。
「何故か、僕は、人望のある兄上と違って、みんなに嫌われるんだ。どうしてだろう?」
(完全に、この部屋のせいだと思うが)
毒草集めが趣味とかいうのをやめればいいんじゃないのだろうか。
綾香はそんな事を考えながら、目の前の青年をじっくりと見た。
(顔はさわやか系なのに、なんか、どす黒いオーラが漂ってるんだよな)
「僕の元にいれば、君の知りたい事、全部、教えてあげられるよ? 兄上、レオンハルトは、何も教えてくれていないんだろう?」
カイルーズの、急所を突いた言葉に、綾香はピクリと肩を揺らした。
それを見たカイルーズは、綾香に知られないようにニヤリと笑う。
そう、レオンハルトは、この世界、特に、”リュセル王子”自身の事について、何も教えてくれていないのだ。どんなに聞いても、「その内話す時がくる」と言うだけだ。
(その内って、いつだよ!)
忙しいらしいレオンハルトは、あまり綾香のいた塔には来なかったし、業を煮やした綾香が、ティルに頼んで、世界やこのアシェイラに関する本を持ってきてもらい、それを読んで知識を手に入れていた。
「僕なら、かわいい弟たる君を、あんな塔に閉じ込めておかないよ。可哀想なリュセル」
そう言って同情的に目を伏せるカイルーズに、綾香は迷いの目を向けた。
(どうしよう)
レオンハルトを裏切るのは怖いし、それに、なんだか嫌だった。
この世界に戻って、初めて会った彼は、自分が一番に頼るべき人間だと、本能的に悟っていた。むかつく事は多々あるが、それでも裏切りたくない。
でも、それでも、自分の事が知りたかった。自分の、”リュセル王子”の事がどうしても知りたかった。だから、カイルーズの申し出は魅惑的でもあったのだ。
迷う綾香に、カイルーズは顔を上げると小さく呟いた。
結局、そんな変な事を聞いてしまった。
「全部」
そして、答えは見もふたも無かった……。
さわやかな微笑みを浮かべて、過激な事を言うカイルーズに、綾香は一種の尊敬の念を抱いてしまったりした。
(すげ~)
「でも、君とは仲良くしたいな、リュセル」
そう言ったカイルーズの顔に、邪気はまったく感じられなかった。……が。
(私の、今までの、仕事上での人間関係、その経験が語っている。こいつは、信用できない)
販売業という職種に、向こうの世界でついていた綾香は、人の人となりを見分ける能力が身についていた。
そんな風に警戒している綾香の様子が伝わったのか、カイルーズは悲しそうな顔をした。
「僕の事、嫌いかい?」
(会ったばかりで、好きも嫌いもないんですが)
そう思いつつも、綾香は、悲しそうなカイルーズの顔に良心が痛むあたりお人よしである。
「でも、しょうがないよね。会ったばかりだしさ」
まさしく、その通りである。
「そうだ! 僕の部屋においでよ!」
何故そうなる。
唖然としている間に、カイルーズは綾香の手を取って、部屋を飛び出したのだった。
驚いたのは、扉の外で待機していたユージンとティルだ。
「カ、カイルーズ様!」
「ん、何?」
ユージンが慌てて引き止めると、カイルーズは不思議そうに問い返した。
「リュセル殿下をどこにお連れになるつもりですか?」
ユージンのその言葉に、カイルーズはにっこり笑って答えた。
「僕の部屋だよ」
「申し訳ありませんが、リュセル殿下はこの塔から出してはいけないとのご命令ですので」
相手のそんな固い声音での答えに、カイルーズは微笑みを浮かべたまま言った。
「僕に逆らうの?」
「私の主は、あなた様ではなく、レオンハルト殿下ですので」
アシェイラの王位継承者にそう言い切ったユージンの表情は、いつもの軽い男ではなく、主に忠誠を誓う騎士のものだった。
「ふうん。いいのかな? そんな事言って」
しかし、そんなユージンよりカイルーズは上手であったのだ。
懐から小さな巾着のようなものを出すと、中に入っていた粉をユージンとティルに思いきり振りかけた。
「! あ、あははっ、はははは!」
「きゃあ! きゃははっはははははッ」
途端、二人はいきなり笑い転げ始めた。
「さあ、今がチャンスだ。行こう、リュセル!!」
「へ?」
急に笑い出したユージンとティルに綾香が驚いている間に、カイルーズはその手をとって走り出した。
「ええええええええっ!?」
ものすごい勢いで螺旋階段を駆け下りる。
「笑い粉を持ってて良かった」
走っている途中でそう言ったカイルーズに、綾香はそこで、二人が笑い転げていた原因があの粉にあったのだと気づいた。
そのまま塔の外に出ると、庭園を突っ切り城内へと入る。
(そういえば、城に入るのって初めてだ)
この1週間というもの、ずっとあの塔に閉じ込められていた為、綾香は外の世界の事がまったくわからなかった。
(連れ出してもらえてラッキーだったかもしれない)
壮麗な外観通り、アシェイラ城内は、綾香の目から見て、豪華で、そして広かった。さすがに城内に入ると、カイルーズは走るのをやめて、綾香の手を引いたまま先を歩いていたのだが。
(ゴージャス!!)
塔の中の調度品や家具もそうだったが、城内のそれは桁違いだ。
(すごい)
綾香は、田舎者丸出しで、周りをきょろきょろ見回していた。
第二王子であり、王位継承者でもあるカイルーズが城の廊下を通ると、道行く侍女や小姓達が、足を止めて廊下の端に寄り、王族に対する礼をとった。
礼をとり、うつむく為、綾香に気づく者はいないようだった。
「このあたりは、僕ら、王族の住まいである後宮だから、専属の従者しかいないんだよ」
カイルーズの説明に、綾香は小さく頷いた。
「本当なら、君も、この後宮の一画に部屋を持つはずなのに、あんな塔に閉じ込められてかわいそうに。」
同情を含んだカイルーズの言葉。綾香はそれに対しては否定しなかった。
(ずっと外に出られなくて、軽く引きこもり状態だったさ! ご丁寧に見張りまでつけられてな)
綾香がそんな事を考えていると、いくつもの角を曲がりやっと目的地についたようだった。
「ここが僕の部屋」
綾香は、その扉を見ると軽く引いた。扉からして、おどろおどろしい雰囲気をかもし出している。
(なんか、予想と違うな。まるで魔界への入り口のようだ)
「はい、どうぞ~」
そんなのん気なカイルーズの言葉と共に中に入り、綾香は彼について来た事を軽く後悔した。
(ここここここ、これは……)
綾香は七歳も若返ったという事実を理解するのに精一杯で、カイルーズが、そっと、カップを持つ自分の両手に手を重ねてきたのに気づかなかった。
「どうして、第二王子の僕が王位継承者なのか、わかるかい?」
その言葉に、綾香は顔を上げて彼の方を見た。
「兄上が剣主だからさ。子供の頃から、よく口さがない大人達が、兄上のが王位継承者にふさわしいのにもったいないって言うのを耳にしたよ」
「……」
綾香は、じっとカイルーズの言葉に耳を傾けた。
「僕は、いつも寂しかったんだ」
哀しげに目を伏せるカイルーズに、綾香は彼が可哀そうになってきた。
「ねえ、リュセルは、僕の味方になってくれるよね?」
「え?」
「兄上じゃなくて、僕と一緒にいてよ」
黒い瞳をうるうるさせて、そうカイルーズは言う。
「何故か、僕は、人望のある兄上と違って、みんなに嫌われるんだ。どうしてだろう?」
(完全に、この部屋のせいだと思うが)
毒草集めが趣味とかいうのをやめればいいんじゃないのだろうか。
綾香はそんな事を考えながら、目の前の青年をじっくりと見た。
(顔はさわやか系なのに、なんか、どす黒いオーラが漂ってるんだよな)
「僕の元にいれば、君の知りたい事、全部、教えてあげられるよ? 兄上、レオンハルトは、何も教えてくれていないんだろう?」
カイルーズの、急所を突いた言葉に、綾香はピクリと肩を揺らした。
それを見たカイルーズは、綾香に知られないようにニヤリと笑う。
そう、レオンハルトは、この世界、特に、”リュセル王子”自身の事について、何も教えてくれていないのだ。どんなに聞いても、「その内話す時がくる」と言うだけだ。
(その内って、いつだよ!)
忙しいらしいレオンハルトは、あまり綾香のいた塔には来なかったし、業を煮やした綾香が、ティルに頼んで、世界やこのアシェイラに関する本を持ってきてもらい、それを読んで知識を手に入れていた。
「僕なら、かわいい弟たる君を、あんな塔に閉じ込めておかないよ。可哀想なリュセル」
そう言って同情的に目を伏せるカイルーズに、綾香は迷いの目を向けた。
(どうしよう)
レオンハルトを裏切るのは怖いし、それに、なんだか嫌だった。
この世界に戻って、初めて会った彼は、自分が一番に頼るべき人間だと、本能的に悟っていた。むかつく事は多々あるが、それでも裏切りたくない。
でも、それでも、自分の事が知りたかった。自分の、”リュセル王子”の事がどうしても知りたかった。だから、カイルーズの申し出は魅惑的でもあったのだ。
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