【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第二章 邂逅

2-1 レオンハルトvsカイルーズ

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「リュセル」

 その瞳から、涙が一筋流れるのを見ると同時に、綾香は思った。

(この人は、本当に寂しいのかもしれない)

 最初に感じた、カイルーズの胡散臭さなどすっかり忘れて、綾香は彼が可哀そうになり、鼻の奥がツーンとするのを感じた。

「兄さん……」

 気づいたら、そう呼んでいた。レオンハルトにさえ、兄と呼んだ事がないのに。

 カイルーズは一瞬目を見開き、嬉しそうに笑った。

「僕を、兄と呼んでくれるのかい?」

「何度でも呼んでやる! 兄さん!」

 綾香がそう叫ぶと、カイルーズも叫んだ。

「ああ、我が弟よ!」

 そして、二人はひしっと抱き合い、兄弟の抱擁を交し合った。

 その時だった。

「そこまでだ」

 抑揚のない、淡々とした声と共に、部屋にまぶしい光が差し込んだ。密閉されていた、この部屋の扉が開け放たれたのだ。

「うわあああ、目がっ、目があああ~~~!」

「まぶしいいいいいい!」

 暗闇に慣れきっていた二人は、目を押さえて叫んだ。

「何をやっているんだ」

 その声に深い怒りを感じて、綾香は声の主を見れなかった。声でわかる。……レオンハルトだ。ツカツカという足音が聞こえたかと思うと、彼は綾香と抱き合ったままのカイルーズの右腕を掴み、それをねじ上げた。

「いたたたたたた!」

「レオン!」

 いきなりの乱暴に、綾香は自分の立場も忘れて、兄に抗議しようとする。その瞬間、カイルーズの右手から薬瓶がポロリと落ちるのを見た。

「……目薬?」

 その形状は、向こうの世界のものと大差ない為、すぐわかった。

「だ、だ、騙したのか!」

 あの涙は、あの話は、嘘だったと!? 綾香がそう叫ぶと、カイルーズは、「チッ」と小さく舌打ちした。

 その顔から、先程の可哀想で孤独な、第二王子の姿はない。

 彼はレオンハルトの腕を振り払うと、綾香の隣から向かいのカウチに戻り、どかりと腰を下ろした。

「もう少しで、落とせそうだったのになあ」

 悪びれる事なくそう言ってのけたカイルーズに、綾香は二の句が告げなかった。

「そう、全部嘘だよ」

 そして、にっこり笑って告げられたカイルーズの言葉。その事実に、綾香はド~ンッと、ショックを受けた。

(ぶっ殺す)

 怒りに染め上がった綾香の顔を見ても、カイルーズはのん気にお茶を飲んでいる。

「何故こんな事をした、カイルーズ。私は説明したはずだ」

 淡々としたレオンハルトの言葉を聞いた綾香は、カイルーズに嘘をつかれた事よりもショックを受けた。

 レオンハルトは、カイルーズには説明したのだ。当の本人にする事なく。

 綾香がきつく睨みつけるのに気づかぬ振りをしているのか、レオンハルトはもう一人の弟の返事を待っていた。

「面白そうだったから」

 カイルーズの答えは簡潔だった。

(この野郎)

 奥歯ガタガタ言わしたる!

 握りこぶしを作って臨戦態勢になった綾香の左腕を掴むと、こちらを見る事なく、レオンハルトはその体を引き上げ、立ち上がらせた

「父上に報告しておくぞ」

 そう言うと、レオンハルトは綾香の腕を引っ張りながら、この、異様な部屋を後にしようとした。

「ご勝手に。あ、そうそう、リュセル。」

 呼び止められて、綾香は怒りを抑えながら振り返る。すると、カイルーズはにっこりと笑った。

「また遊ぼうね」

(この野郎!)

 怒りでクラクラしながら、綾香は今度こそ、カイルーズの自室を立ち去ったのだった。



 兄と弟が立ち去った後、また暗闇になった室内で、カイルーズは傍でお茶請けの目玉クッキー(形だけ目玉の、味は普通のクッキーである。)を出してきたレイアに言った。

「大切なリュセルを傷つけたら、兄上はどうするかな?」

 その呟きに、レイアは答える事なく、カイルーズのカップにお茶を注ぎ足した。

「おいしい。」

 お茶を飲みながら、カイルーズは、ふふふと、非常に楽しそうに笑ったのだった。




 一方、綾香は

 カイルーズに連れられて来た道を、今度はレオンハルトに連れられて逆走していた。

 しかも

(手首が痛い)

 強く掴まれた左手首が、かなり痛かった。前を歩く兄の表情はわからないが、その背から怒りのオーラが立ち込めているのがわかる。

(ううう)

 怖い。

「…………」

 しかし、無言で足早に歩くレオンハルトは、道を避けて深く頭を下げる使用人達を気にしているのか、一言もしゃべろうとしなかった。

(あれ?)

 そんな中、来た時に通った塔へ戻る道を横目に、レオンハルトは、ずんずんと後宮の奥へと入り込んで行く。そして、いくつもの角と分かれ道を曲がり、しばらく歩くと、一番奥の部屋の前でレオンハルトは立ち止まった。

 落ち着いた雰囲気の扉を無造作に開け、中に先に綾香を入れて、その後から自分も入り閉める。そこで一旦綾香の手首を離し、懐から小瓶を出して、その中に入った水を無造作に扉にかけた。

「何してるんだ?」

 綾香の言葉に、レオンハルトは強い口調で言った。

「それはこっちの台詞だ。一度ならず二度までも。何故、あの塔を出た? しかも、今度は、のこのことカイルーズについて行くなど、どういうつもりだ」

 抑揚のない声の中に、慣れたくも無いのに慣れてしまった怒りを感じ取り、綾香は逃げ出したくなった。

「好きでついて行ったんじゃない」

「だが、嫌なら腕を振り払えたはずだ」

 一つの退路も残さずに綾香を追い詰めるレオンハルトは、再び綾香の腕を掴むと、部屋の奥へと連れて行く。

「これからは、ここで生活してもらう」

 拒絶を許さない口調でそう言うレオンハルトに、綾香は疑問をぶつけた。

「この部屋は?」

「私の部屋だ。先程セイントクロスの泉の水で結界をはったから、大丈夫だろう」

 それを聞いた綾香は、決定事項のみを告げるレオンハルトの頑なさに苛立ちを止められなかった。

「勝手に決めるな、説明しろ! 全部、あんたの説明が足らないのが悪いんだよ!」

 その言葉を聞いたレオンハルトは、感情の分からぬ瞳で綾香を見ると、小さくため息をついた。

「……本当なら、もっと後に話そうと思っていた。しかし、塔を出ただけでなく、後宮とはいえ、城内を歩いてしまったのであれば、もう、そうも言ってはいられないだろう。お前の存在がばれてしまった可能性が高い。一刻も早く”宝鍵の儀式”を行わないとならない」

「ほうじょうの儀式って?」

 綾香のその問いに、レオンハルトは押し黙った。

「レオンっ!」

 また、だんまりかい!?

 綾香が怒鳴ると、長い沈黙の後、レオンハルトは無言のまま、弟を傍にあったソファへ座らせた。カイルーズの所のソファと違う、落ち着いた柄の、高級そうなソファだ。

「わかった、話そう。お前と私の背負った宿命を」

 綾香の向かいのソファに優雅に腰掛け、レオンハルトは真っすぐに自分の目を見つめてきた。

「まずは、この世界を守護する女神の話から始まる」

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