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第三章 王族
1-2 楽しい(?)晩餐会
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(このファンキーなおっさんが、自分達の父親!?)
リュセルは、現実逃避をしたくなった。自分が勝手に抱いていた国王像とかなりかけ離れている存在だったのだ。
「そうだ! 明日、一緒に街に遊びに行こうか!?」
「戻ったのなら、明日から仕事して下さい」
ジェイドの突然のお誘いにレオンハルトはそう答えると、更に続けた。
「それに、明日から、リュセルには教師をつけますから、そんな暇ありませんよ」
「えええええ~~~!」
不満そうなジェイドの声を聞くと同時に、リュセルは驚きに目を見張る。
(聞いてないぞ!)
咎めるように兄を見るが、レオンハルトは憮然と見返してきた。
「どうした?」
「……何でもない」
半身である兄に弱いリュセルは、視線を逸らすと、不満ありまくりのまま、そう答えた。まったく、相変わらずなんでも勝手に決めて、少しは相談があってもいいじゃないかと、心の中でぶちぶち文句を垂れる事しか出来ないリュセルだ。
しかし、それにしても
(眠いッ!)
心地よい眠りを邪魔されたリュセルは、かなり苛立っていた。突然やって来たジェイドに安眠を妨害され、眠りたいのに眠らせてもらえないのだから仕方ない。
しかし、それにまったく気づかないジェイドは、リュセルとの再会に感動して涙ぐみ、延々と語り続けている。
(くそっ! この、柄パン親父が!)
目を据わらせて睨みつけるが、ジェイドはそれも意に介していない様子だ。
こうして、リュセルとレオンハルトは、いきなり帰ってきた父王、ジェイドに付き合って、結局徹夜したのだった。
「む、夜が明けてしまったな。楽しい時間はすぐに過ぎる。ではな、レオン、リュセル」
さすがに夜が明けると眠くなってきたのか、ジェイドは部屋を出て行き、眠気が限界だったリュセルは、その場にうつ伏せに倒れたのである。
そして、予想通り、次の日は最悪だった。
基本、厳しいレオンハルトが、朝寝坊など許してくれない訳でありまして。午前中からリュセルは、教師に付いて勉強漬けだったのだ。それは、その日限りのものではなく……。
算術から始まって、アシェイラの歴史、世界史、帝王学、神学、行儀見習い、その他、王子に必要なものは、時間割を組まれされて覚えさせられた。綾香だった頃は平凡だったが、リュセル王子は比較的賢いようで、教師からの課題をスラスラとこなす事ができたのが唯一の救いである。
そんな勉強漬けの日々を送っていた、ある日、あの迷惑な真夜中訪問以来、まったく音沙汰のなかった父王からお誘いがあった。
リュセルへ
今夜、夕食を家族水入らずでとれる事になった。
もちろん、レオンやカイルも一緒だよ。
うわ~、とっても楽しみだね!
パパは、この日がくるのを、ずっと待っていたんだよ。
その後も、延々と文章は続き、もはや、それは手紙ではなく、一冊の文集となっていた。リュセルは、途中までそれを読むと、そのままティルに捨てさせた。
(頭痛がする)
家族水入らず
家族水入らず!?
家族で、夕食だとっ!?
あの父王は、それがどんなに危険な事か、わかっているのだろうか? レオンハルトとカイルーズと一緒に夕食……。
(胃が痛くなってきた)
水と油、ハブとマングース状態の、あの二人の兄と!?
「ある意味すごい発想だ。尊敬に値するぞ、父上」
リュセルは呆然と呟き、テーブルの上に広げた勉強道具を片付けた。
(なんと恐ろしい)
想像するだけで、今日は夕食なしでもいいから、家族水入らずはしたくないと思ってしまう程、二人の兄は仲が悪かった。
というよりも、カイルーズが勝手に嫌っているだけのようでもあったが。何せ、レオンハルトは、カイルーズの態度の悪さを気にも止めていない。
一体、どんな夕食になるのか。
(想像もつかん!)
悶々と悩むが、その姿を見た、すっかり邪気の影響から回復したティルは、また、うっとりとしていた。
(リュセル様が何かまた考え込んでいられる。きっと、また、僕などが考えも及ばないような、難しい事を考えてるんだろうなあ)
何か、やはり、噛み合わない二人だった。
*****
「遅かったじゃないか、リュセル。パパはもう、お腹ぺこぺこだよ。」
その夜、晩餐の用意がされたという部屋に案内されて行くと、馬鹿長いテーブルの奥の席に座っていたジェイドがそう言って手招きしていた。
嫌だと思う時は、何故、早く時間が来るのだろうか。
リュセルは遠い目をしながら、侍女に案内されるがまま、ジェイドのいる席の近くに行くと、心の中で呻いた。
(うっ)
ジェイドの向かって右の席に、レオンハルト、左にカイルーズ。二人の兄王子が既に席についていたのだ。リュセルの席が特に決まっている訳ではないらしく、好きな所に座っていいようだった……、が。
(どうする? どうする俺!)
胡散臭いカイルーズの隣か(食事に何か入れられそうだ)、行儀に厳しいレオンハルトの隣か(こちらの方が安全か?)
さわやかな微笑みを浮かべたカイルーズが、おもちゃを前にしたような、期待に満ちた目でこちらを見ている。
(一体どうすれば)
一方、レオンハルトは席に着こうとしないリュセルを不審に思ったのか、感情のわからない、冷静な視線を向けて来ていた。
「どうしたんだい、リュセル? 好きな所に座っていいんだよ。それとも、パパのお膝がいいのかなあ!?」
ジェイドのその言葉を耳にした途端、リュセルは素早い動きでレオンハルトの隣の席に腰を下ろした。途端、ジェイドとカイルーズの、よく似た黒い瞳が、残念そうにリュセルに向けられる。
リュセルが席に着くと、ほぼ同時に、目の前にナフキンが敷かれ、その上にナイフ、フォーク、スプーンなど大小様々な種類のものが侍女達によって並べられた。そして、グラスには最高級の葡萄酒(ワイン)が注がれる。
「では、リュセルの帰還を祝って、乾杯!」
「「乾杯。」」
父王の言葉を受け、こればかりは口をそろえて、二人の兄はジェイドがしたようにグラスを軽く掲げた。
「あ、ありがとうございます」
リュセルも三人に答え、グラスを軽く掲げる。
その後、前菜が運ばれてきて重苦しい……、いやいや、楽しい晩餐が幕を開けたのだった。
カチャカチャ
カチャカチャカチャ…………
そんな、わずかな音しかしない。
食器の上で、ナイフやフォークを動かすそれは、本当にわずかな音だ。
優雅にナイフとフォークを操るレオンハルトとカイルーズは、ほとんど音を立てずに食事をしているので、その音のほとんどは、まだ慣れていないリュセルの立てるものである。
それも、ほんのかすかな音のはずである。
(なんだ、これは? お通夜の席か!?)
リュセルは、内心ダラダラと冷や汗をかきながら、食事に集中する振りをしていた。豪勢でおいしいはずの食事も味が、ほとんどわからない。こうなったら、葡萄酒(ワイン)でほとんど胃に流し込むようにするしかない。
そんな中、そんな状況を苦ともしない、天然に鈍いジェイドが、にこにこしながら三人の息子を見つめて言った。
「楽しいね! 家族で食事をとるのは」
(マジですか!?)
ジェイドの台詞を聞いたリュセルは、目の前のおいしそうなメインの肉料理(この世界に帰還したばかりのリュセルには何の肉かいまいちよくわからない)を親の仇を見るような目で見ながら、そうつっこみを入れる。
薄く切られたその肉は、幾重にも繊細に重ねられ、まるで花のような形になっており、料理長の自信作なのが伺える。しかし、そんな料理の見た目の美しさを賞賛する余裕が、残念ながらリュセルにはなかった。
「レオン、最近、騎士団の方はどうだい?」
そんな中、急に響いた真面目なジェイドの言葉。レオンハルトは顔を上げると、父王の方へ顔を向けた。
「はい。新人騎士の育成が課題に上がっておりましたが、教育官の指導のレベルアップを図り、現在は滞りなく任務が回っております」
よどみないレオンハルトの返答を聞いたジェイドは、満足そうにうんうんと頷いた。
「街道の整備の方も、順調に進んでるようだね」
「腕のいい整備士をディエラから招きましたので、今年中には完了するでしょう」
ジェイドとレオンハルトの話を聞きながら、リュセルは内心驚いていた。
いつも忙しそうにしているのは知っていたが、本当にレオンハルトは、剣主でありながら、王の右腕のような仕事をこなしていたのだ。
「レオンにはいつも感謝しているよ。でも、もう、今までのように国務に携わる事は出来なくなるだろう?」
ジェイドの言葉に、レオンハルトは視線を一瞬リュセルに向けた。
「そうですね」
「剣鍵が戻った今、お前は本来の使命を優先させないといけないからね」
ジェイドはそう言うと、今度はカイルーズに目を向けた。
「カイル、という訳で、お前にレオンの後を引き継いで欲しいんだけど」
カイルーズはそれに目線を上げ、父王ではなく、レオンハルトに視線を向けながら、つまらなそうに答えた。
「……僕に拒否権はないのでしょう」
「うん、ないよ。」
あっさりとそう返したジェイドの笑顔を眺めていたリュセルは、その時、父親の偉大さを見た。
リュセルは、現実逃避をしたくなった。自分が勝手に抱いていた国王像とかなりかけ離れている存在だったのだ。
「そうだ! 明日、一緒に街に遊びに行こうか!?」
「戻ったのなら、明日から仕事して下さい」
ジェイドの突然のお誘いにレオンハルトはそう答えると、更に続けた。
「それに、明日から、リュセルには教師をつけますから、そんな暇ありませんよ」
「えええええ~~~!」
不満そうなジェイドの声を聞くと同時に、リュセルは驚きに目を見張る。
(聞いてないぞ!)
咎めるように兄を見るが、レオンハルトは憮然と見返してきた。
「どうした?」
「……何でもない」
半身である兄に弱いリュセルは、視線を逸らすと、不満ありまくりのまま、そう答えた。まったく、相変わらずなんでも勝手に決めて、少しは相談があってもいいじゃないかと、心の中でぶちぶち文句を垂れる事しか出来ないリュセルだ。
しかし、それにしても
(眠いッ!)
心地よい眠りを邪魔されたリュセルは、かなり苛立っていた。突然やって来たジェイドに安眠を妨害され、眠りたいのに眠らせてもらえないのだから仕方ない。
しかし、それにまったく気づかないジェイドは、リュセルとの再会に感動して涙ぐみ、延々と語り続けている。
(くそっ! この、柄パン親父が!)
目を据わらせて睨みつけるが、ジェイドはそれも意に介していない様子だ。
こうして、リュセルとレオンハルトは、いきなり帰ってきた父王、ジェイドに付き合って、結局徹夜したのだった。
「む、夜が明けてしまったな。楽しい時間はすぐに過ぎる。ではな、レオン、リュセル」
さすがに夜が明けると眠くなってきたのか、ジェイドは部屋を出て行き、眠気が限界だったリュセルは、その場にうつ伏せに倒れたのである。
そして、予想通り、次の日は最悪だった。
基本、厳しいレオンハルトが、朝寝坊など許してくれない訳でありまして。午前中からリュセルは、教師に付いて勉強漬けだったのだ。それは、その日限りのものではなく……。
算術から始まって、アシェイラの歴史、世界史、帝王学、神学、行儀見習い、その他、王子に必要なものは、時間割を組まれされて覚えさせられた。綾香だった頃は平凡だったが、リュセル王子は比較的賢いようで、教師からの課題をスラスラとこなす事ができたのが唯一の救いである。
そんな勉強漬けの日々を送っていた、ある日、あの迷惑な真夜中訪問以来、まったく音沙汰のなかった父王からお誘いがあった。
リュセルへ
今夜、夕食を家族水入らずでとれる事になった。
もちろん、レオンやカイルも一緒だよ。
うわ~、とっても楽しみだね!
パパは、この日がくるのを、ずっと待っていたんだよ。
その後も、延々と文章は続き、もはや、それは手紙ではなく、一冊の文集となっていた。リュセルは、途中までそれを読むと、そのままティルに捨てさせた。
(頭痛がする)
家族水入らず
家族水入らず!?
家族で、夕食だとっ!?
あの父王は、それがどんなに危険な事か、わかっているのだろうか? レオンハルトとカイルーズと一緒に夕食……。
(胃が痛くなってきた)
水と油、ハブとマングース状態の、あの二人の兄と!?
「ある意味すごい発想だ。尊敬に値するぞ、父上」
リュセルは呆然と呟き、テーブルの上に広げた勉強道具を片付けた。
(なんと恐ろしい)
想像するだけで、今日は夕食なしでもいいから、家族水入らずはしたくないと思ってしまう程、二人の兄は仲が悪かった。
というよりも、カイルーズが勝手に嫌っているだけのようでもあったが。何せ、レオンハルトは、カイルーズの態度の悪さを気にも止めていない。
一体、どんな夕食になるのか。
(想像もつかん!)
悶々と悩むが、その姿を見た、すっかり邪気の影響から回復したティルは、また、うっとりとしていた。
(リュセル様が何かまた考え込んでいられる。きっと、また、僕などが考えも及ばないような、難しい事を考えてるんだろうなあ)
何か、やはり、噛み合わない二人だった。
*****
「遅かったじゃないか、リュセル。パパはもう、お腹ぺこぺこだよ。」
その夜、晩餐の用意がされたという部屋に案内されて行くと、馬鹿長いテーブルの奥の席に座っていたジェイドがそう言って手招きしていた。
嫌だと思う時は、何故、早く時間が来るのだろうか。
リュセルは遠い目をしながら、侍女に案内されるがまま、ジェイドのいる席の近くに行くと、心の中で呻いた。
(うっ)
ジェイドの向かって右の席に、レオンハルト、左にカイルーズ。二人の兄王子が既に席についていたのだ。リュセルの席が特に決まっている訳ではないらしく、好きな所に座っていいようだった……、が。
(どうする? どうする俺!)
胡散臭いカイルーズの隣か(食事に何か入れられそうだ)、行儀に厳しいレオンハルトの隣か(こちらの方が安全か?)
さわやかな微笑みを浮かべたカイルーズが、おもちゃを前にしたような、期待に満ちた目でこちらを見ている。
(一体どうすれば)
一方、レオンハルトは席に着こうとしないリュセルを不審に思ったのか、感情のわからない、冷静な視線を向けて来ていた。
「どうしたんだい、リュセル? 好きな所に座っていいんだよ。それとも、パパのお膝がいいのかなあ!?」
ジェイドのその言葉を耳にした途端、リュセルは素早い動きでレオンハルトの隣の席に腰を下ろした。途端、ジェイドとカイルーズの、よく似た黒い瞳が、残念そうにリュセルに向けられる。
リュセルが席に着くと、ほぼ同時に、目の前にナフキンが敷かれ、その上にナイフ、フォーク、スプーンなど大小様々な種類のものが侍女達によって並べられた。そして、グラスには最高級の葡萄酒(ワイン)が注がれる。
「では、リュセルの帰還を祝って、乾杯!」
「「乾杯。」」
父王の言葉を受け、こればかりは口をそろえて、二人の兄はジェイドがしたようにグラスを軽く掲げた。
「あ、ありがとうございます」
リュセルも三人に答え、グラスを軽く掲げる。
その後、前菜が運ばれてきて重苦しい……、いやいや、楽しい晩餐が幕を開けたのだった。
カチャカチャ
カチャカチャカチャ…………
そんな、わずかな音しかしない。
食器の上で、ナイフやフォークを動かすそれは、本当にわずかな音だ。
優雅にナイフとフォークを操るレオンハルトとカイルーズは、ほとんど音を立てずに食事をしているので、その音のほとんどは、まだ慣れていないリュセルの立てるものである。
それも、ほんのかすかな音のはずである。
(なんだ、これは? お通夜の席か!?)
リュセルは、内心ダラダラと冷や汗をかきながら、食事に集中する振りをしていた。豪勢でおいしいはずの食事も味が、ほとんどわからない。こうなったら、葡萄酒(ワイン)でほとんど胃に流し込むようにするしかない。
そんな中、そんな状況を苦ともしない、天然に鈍いジェイドが、にこにこしながら三人の息子を見つめて言った。
「楽しいね! 家族で食事をとるのは」
(マジですか!?)
ジェイドの台詞を聞いたリュセルは、目の前のおいしそうなメインの肉料理(この世界に帰還したばかりのリュセルには何の肉かいまいちよくわからない)を親の仇を見るような目で見ながら、そうつっこみを入れる。
薄く切られたその肉は、幾重にも繊細に重ねられ、まるで花のような形になっており、料理長の自信作なのが伺える。しかし、そんな料理の見た目の美しさを賞賛する余裕が、残念ながらリュセルにはなかった。
「レオン、最近、騎士団の方はどうだい?」
そんな中、急に響いた真面目なジェイドの言葉。レオンハルトは顔を上げると、父王の方へ顔を向けた。
「はい。新人騎士の育成が課題に上がっておりましたが、教育官の指導のレベルアップを図り、現在は滞りなく任務が回っております」
よどみないレオンハルトの返答を聞いたジェイドは、満足そうにうんうんと頷いた。
「街道の整備の方も、順調に進んでるようだね」
「腕のいい整備士をディエラから招きましたので、今年中には完了するでしょう」
ジェイドとレオンハルトの話を聞きながら、リュセルは内心驚いていた。
いつも忙しそうにしているのは知っていたが、本当にレオンハルトは、剣主でありながら、王の右腕のような仕事をこなしていたのだ。
「レオンにはいつも感謝しているよ。でも、もう、今までのように国務に携わる事は出来なくなるだろう?」
ジェイドの言葉に、レオンハルトは視線を一瞬リュセルに向けた。
「そうですね」
「剣鍵が戻った今、お前は本来の使命を優先させないといけないからね」
ジェイドはそう言うと、今度はカイルーズに目を向けた。
「カイル、という訳で、お前にレオンの後を引き継いで欲しいんだけど」
カイルーズはそれに目線を上げ、父王ではなく、レオンハルトに視線を向けながら、つまらなそうに答えた。
「……僕に拒否権はないのでしょう」
「うん、ないよ。」
あっさりとそう返したジェイドの笑顔を眺めていたリュセルは、その時、父親の偉大さを見た。
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