【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第三章 王族

1-3 続・楽しい楽しい晩餐会

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 ジェイドの向かって右の席に、レオンハルト、左にカイルーズ。二人の兄王子が既に席についていたのだ。リュセルの席が特に決まっている訳ではないらしく、好きな所に座っていいようだった……、が。

(どうする? どうする俺!)

 胡散臭いカイルーズの隣か(食事に何か入れられそうだ)、行儀に厳しいレオンハルトの隣か(こちらの方が安全か?)

 さわやかな微笑みを浮かべたカイルーズが、おもちゃを前にしたような、期待に満ちた目でこちらを見ている。

(一体どうすれば)

 一方、レオンハルトは席に着こうとしないリュセルを不審に思ったのか、感情のわからない、冷静な視線を向けて来ていた。

「どうしたんだい、リュセル? 好きな所に座っていいんだよ。それとも、パパのお膝がいいのかなあ!?」

 ジェイドのその言葉を耳にした途端、リュセルは素早い動きでレオンハルトの隣の席に腰を下ろした。途端、ジェイドとカイルーズの、よく似た黒い瞳が、残念そうにリュセルに向けられる。

 リュセルが席に着くと、ほぼ同時に、目の前にナフキンが敷かれ、その上にナイフ、フォーク、スプーンなど大小様々な種類のものが侍女達によって並べられた。そして、グラスには最高級の葡萄酒(ワイン)が注がれる。

「では、リュセルの帰還を祝って、乾杯!」

「「乾杯。」」

 父王の言葉を受け、こればかりは口をそろえて、二人の兄はジェイドがしたようにグラスを軽く掲げた。

「あ、ありがとうございます」

 リュセルも三人に答え、グラスを軽く掲げる。

 その後、前菜が運ばれてきて重苦しい……、いやいや、楽しい晩餐が幕を開けたのだった。


 カチャカチャ

 カチャカチャカチャ…………


 そんな、わずかな音しかしない。

 食器の上で、ナイフやフォークを動かすそれは、本当にわずかな音だ。
 優雅にナイフとフォークを操るレオンハルトとカイルーズは、ほとんど音を立てずに食事をしているので、その音のほとんどは、まだ慣れていないリュセルの立てるものである。

 それも、ほんのかすかな音のはずである。

(なんだ、これは? お通夜の席か!?)

 リュセルは、内心ダラダラと冷や汗をかきながら、食事に集中する振りをしていた。豪勢でおいしいはずの食事も味が、ほとんどわからない。こうなったら、葡萄酒(ワイン)でほとんど胃に流し込むようにするしかない。

 そんな中、そんな状況を苦ともしない、天然に鈍いジェイドが、にこにこしながら三人の息子を見つめて言った。

「楽しいね! 家族で食事をとるのは」

(マジですか!?)

 ジェイドの台詞を聞いたリュセルは、目の前のおいしそうなメインの肉料理(この世界に帰還したばかりのリュセルには何の肉かいまいちよくわからない)を親の仇を見るような目で見ながら、そうつっこみを入れる。

 薄く切られたその肉は、幾重にも繊細に重ねられ、まるで花のような形になっており、料理長の自信作なのが伺える。しかし、そんな料理の見た目の美しさを賞賛する余裕が、残念ながらリュセルにはなかった。

「レオン、最近、騎士団の方はどうだい?」

 そんな中、急に響いた真面目なジェイドの言葉。レオンハルトは顔を上げると、父王の方へ顔を向けた。

「はい。新人騎士の育成が課題に上がっておりましたが、教育官の指導のレベルアップを図り、現在は滞りなく任務が回っております」

 よどみないレオンハルトの返答を聞いたジェイドは、満足そうにうんうんと頷いた。

「街道の整備の方も、順調に進んでるようだね」

「腕のいい整備士をディエラから招きましたので、今年中には完了するでしょう」

 ジェイドとレオンハルトの話を聞きながら、リュセルは内心驚いていた。

 いつも忙しそうにしているのは知っていたが、本当にレオンハルトは、剣主でありながら、王の右腕のような仕事をこなしていたのだ。

「レオンにはいつも感謝しているよ。でも、もう、今までのように国務に携わる事は出来なくなるだろう?」

 ジェイドの言葉に、レオンハルトは視線を一瞬リュセルに向けた。

「そうですね」

「剣鍵が戻った今、お前は本来の使命を優先させないといけないからね」

 ジェイドはそう言うと、今度はカイルーズに目を向けた。

「カイル、という訳で、お前にレオンの後を引き継いで欲しいんだけど」

 カイルーズはそれに目線を上げ、父王ではなく、レオンハルトに視線を向けながら、つまらなそうに答えた。

「……僕に拒否権はないのでしょう」

「うん、ないよ。」

 あっさりとそう返したジェイドの笑顔を眺めていたリュセルは、その時、父親の偉大さを見た。

 例え、Tシャツ(今日は息子命という太字柄だ)と変な柄パン姿でも、彼は、三人の王子の父親であり、国王なのだ。

「でも、大変だろうから、補佐役を付けるよ。レオンにも最初はいたし」

「わかりました」

 カイルーズが頷いたのに満足そうに頷き返していたジェイドは、次の瞬間、「あっ」と声を上げた。

「いけないいけない、仕事の話になっちゃったね。楽しい食事の席なのに」

(そう思っているのは、多分、父上だけだ)

 リュセルはいつものように無表情なレオンハルトと、つまらなさそうな表情のカイルーズを見ながら顔をひきつらせた。

「リュセルは、カイルとは初対面かい?」

 中央に置かれた銀の器に山盛りに盛られたフルーツに手を伸ばそうとして、即座にレオンハルトに睨まれたリュセルは、控えていた侍女にそれを取り分けてもらうのに意識が集中していた為、いきなりの質問内容を理解するのに少し時間がかかった。

「い、いいえ」

 走馬灯のように、カイルーズとの初対面時の出来事がリュセルの脳裏を巡る。

「もう、すっごく仲良しだよね。リュセル」

 カイルーズがさわやかに微笑んでそう言うのを見て、リュセルは警戒レベルを上げた。

「そうか、そうか」

 そんな二人の様子がわかっているのかいないのか、ジェイドは満足そうに笑う。

「今度は、パパと仲良くなろうね」

「……」

 続いたジェイドの台詞に無言で答えつつ、リュセルは聞こえなかった振りをした。

 こうして、浮かれ気味のジェイドを中心に、家族団らん的なひと時は過ぎて、名残惜しそうにする父王は、しかし、溜まっていた仕事に戻る為渋々退席して行った。

(きまずい)

 二人の兄と、自分だけになってしまい、リュセルは食後のデザートを口にしながらそう思う。

 それにしても

 リュセルは、斜め前の席のカイルーズを盗み見てみる。カイルーズはジェイドとよく似ていた。それに比べて、自分とレオンハルトは、まったく二人と似通っておらず、血のつながりを見た目から感じる事は出来ない。

 リュセルの視線に気づいたカイルーズは、不意に顔を上げると、にっこりと笑った。

「何?リュセル。このタルトが食べたいの?」

 カイルーズは「しょうがないなあ」と呟きながら、小さく切り分けたタルトをフォークに刺し、身を乗り出すと、リュセルの前に差し出す。

「はい、あ~ん」

「……いらん」

 リュセルの即拒絶に、カイルーズは寂しそうな顔をした。

「僕のタルトが、食べられないんだ」

 その演技と思えない表情に、リュセルは良心が痛みながらも、即効で自分の分のタルトを無言で食べ終えた。

「兄上、リュセルに自分の部屋は与えないの?」

 じーっと、そんなリュセルを見ていたカイルーズは、不意にそう聞いてきた。

 そう、今だにリュセルは不本意ながらレオンハルトの部屋で寝起きしていたのだ。自分の部屋を切実に希望していたリュセルは、カイルーズの思いがけない言葉に内心狂喜した。だが

「まだ、目が離せないからね」

(俺は幼児か。そして、お前は保護者か)

 レオンハルトは、リュセルに部屋を与えるつもりはないらしい。リュセルはがっかりした。

「ふうん」

 レオンハルトの答えに、意味深な笑みを浮かべながら弟を見ていたカイルーズは、不意に立ち上がる。

「じゃあ、僕も育てている毒草に水をやらなきゃいけないから失礼するよ。じゃあね、リュセル、兄上」

 カイルーズはにっこり笑って、そのまま退席して行った。
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