【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第四章 朱金の姫君

6-1 幽霊屋敷①

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「剣の腕?」

 ジュリナの瞳に迷いはない。あきらかに、リュセルの腕が立つと勘違いしていた。

「申し訳ないが、俺は弱いぞ」

 真剣な顔でそう言い切ったリュセルの言葉を、ジュリナは笑い飛ばした。

「何言ってるんだ」

「ユージンに、剣術に関しては絶望的だと、お墨付きをもらったからな」

 冷静にそう言うリュセルに対し、ジュリナはあんぐりと口を開けた。

「本気か!?」

 それに深く頷いた相手を見たジュリナは、テーブルの上に倒れる。ゴツンッという痛い音が響き渡り、リュセルは慌てて言った。

「だ、大丈夫か!?」

 心配そうにジュリナを覗き込むリュセルの手首を掴み、彼女はうめくように言った。

「お前、あの剣豪……いやいや、これでは格好良すぎるな。鬼畜剣士、レオンハルトの弟なのに、剣がまったく使えないのか!?」

「人間、向き不向きというものがあるという事だ」

 そう言って、ずずずっと食後のお茶を飲むリュセルを、信じられないものを見る目で見ていたジュリナは、次の瞬間、額を押さえ込んだ。

「第一、俺はまだ、一回しか剣の封印も解いた事ないしな」

 剣が使えない上、浄化自体も経験不足なのだ。さすがに、自分が攫って来る相手を間違えた事を、ジュリナは認めざるを得なかった。

「軽い護身術程度の腕しかないぞ」

 それでは、妹のティアラと一緒である。

「だから、一度城に戻って、レオンやティアラ姫と一緒に出直した方がいいと思うが」

 すっかり打ち解けて、リュセルもジュリナに対して敬語が取れたのはいいが、いかんせん現状は最悪だ。

 リュセルの提案は最もなのだが、ジュリナはもう意地になっていた。

「今頃、城は大騒ぎだろう。一任務位終了させないと、帰れない」

「どうするつもりだ?」

「もちろん、これからその幽霊屋敷に行くんだ」

 ジュリナの言葉を聞いたリュセルは、驚きに目を見張る。

「俺達だけでか!?」

「もちろんだ。安心しろ、お前は私が守ってやる」

 ジュリナの男前過ぎる台詞。それを聞いたリュセルは、不覚ながらときめいてしまった。



*****



  銀の髪と瞳をした絶世の美男子と、朱金の髪と深紅の瞳をした男装の美女という、かけおちカップル(見た目)が酒場を出た、その少し後に、また、訳あり風の男女がやって来た。

 今度は、胡桃色の髪と琥珀の瞳をした艶めいた雰囲気のある美貌の男と、朱金の髪と緑の瞳をした可憐な美少女の組み合わせである。

「ここに入って行ったという話だが……」

 レオンハルトはそう言うと、こちらに注目している酒場の客達を見回し、リュセルの姿がない事にため息をついた。

「目立つ二人連れだから、目撃情報が間違っている事はないと思うがな」

 自分達の事を棚に上げてそう呟くレオンハルトは、真っ直ぐに酒場のマスターの元へと歩いて行く。

 酒場の独特な雰囲気を感じとり、不安そうにしているティアラの肩を抱いている様は、まさしく恋人同士である。

「すまないが、ここに銀髪の若者と朱金の髪の女が来なかったか?」

 レオンハルトにそう話しかけられて、マスターはうわずった声で答えた。

「き、来ましたよ。私が見たのは、銀髪の青年だけでしたが」

「どこかに行くとか何とか、言っていなかったかい?」

「そう言えば、しきりに幽霊屋敷の事聞いてたな」

 マスターの言葉を聞いたレオンハルトは、その秀麗な眉をしかめた。

 リュセルの美貌は完全に男のものだった為、我に返れたがレオンハルトの美貌は女のように艶めいているが故に、マスターはつい、うっとりとその様に見入ってしまう。

「幽霊屋敷?」

 声は低い男のものだ。それに気づいた途端、マスターは慌てて我に返る。

「この辺り一帯を仕切っていた、前領主、ウィリア卿のお屋敷ですよ」

 マスターの返答を聞いたティアラは、声を上げた。

「今回の任務地ですわ!」

 レオンハルトは黙って頷くと、マスターに礼を言って酒場を後にしようとした。

 しかし、扉を開けようとした瞬間、レオンハルトはその腕を掴まれる。

「よう、色男。そこのお嬢ちゃんを俺達に譲っちゃくれないかい?」

 数人の荒くれ男が、レオンハルトとティアラを取り囲んでいた。

 震えながら自分に縋りつくティアラを抱きながら、レオンハルトはその男達を見回した。

 本当は先程までいたジュリナにもちょっかいをかけたかったのだが、彼らは一緒にいたリュセルを相当の手だれと勘違いして仕方なく見送ったのだ。(ああ、ものすごい勘違い……)

 そして、この男達の不幸は、現時点で世界最強の男を、ものすごく機嫌の悪い状態で相手にしていたという事だろう。

 レオンハルトは、一瞬間を置くと言った。

「私は今、虫の居所が悪い。……どけ、愚者共」

 そう低い声で言い放ち、男達を金の瞳で睨んだ。

 怒鳴った訳でも、手を出した訳でもない。男達はこの一睨みのみで再起不能に陥り、回復に1年の月日を要したという。
 ガタガタと震えてその場に跪く男達を尻目に酒場を出ると、レオンハルトとティアラは、ウィリア卿の屋敷を目指した。

「鏡はお姉様が持っていますわ。でも、鏡を解放するはずのわたくしはここにいますし、剣もレオンハルト様が持っています。今回の邪気は、かなり大きなものです。ですから、お二人に応援をお願いしたのですから……」

 大きな目を潤ませて、泣きそうな声でそう告げたティアラに、レオンハルトは唇を噛み締めると言った。そして

「失礼、ティアラ姫」

 そう断りを入れ、彼女の華奢な体を横抱きに抱き上げたのだ。

「きゃあっ、レオンハルト様?」

「こうして走った方が速いので」

 答えたレオンハルトは、ティアラを抱えたまま走り始める。とっさにレオンハルトの首にしがみついたティアラは、心の中でジュリナの無事を祈っていた。





 一方、リュセル&ジュリナ駆け落ちカップル(見た目)は、ウィリア卿の屋敷前に立っていた。


(ふ……ふ、ふ、ふふふふふふふふふふっ)

 外から屋敷を見上げたという状態だけで、リュセルの恐怖は最高潮だった。ディエラに着く前に寄ったテイルの宿屋など、この暗闇と不気味さに比べたら子供だましである。

 そんなうつろな目のリュセルを不思議そうに見ると、ジュリナは持ってきたランプを渡した。

「戦力にならないなら、これ位持ってもらうよ」

「はい……よろこんで」

 やはり生気のないその声に、ジュリナはさすがに心配になった。

「どうした、腹でも壊したか?」

 それにぎくしゃくとした動きでジュリナの方を向くと、リュセルはにへらとした笑みを浮かべた。

「大丈夫だ」

 こうして、リュセルの初任務は開始されたのである。


 ギイイイイッ


 物悲しい音をたてて開いた門。様子のおかしなリュセルを連れ、門をくぐり抜けたジュリナは、小さくため息をつく。

「錆びついているな。これじゃあ、地元の若者が肝試しに侵入してしまっても仕方ないねぇ」

 そのまま前庭を歩き進むと現れた荒れ果てた前庭の様が、恐怖を、いやいや物悲しさを語った。

「行方不明になったのは、四人だったな。生きていればいいがねぇ……。この前の子供達のようになっていたらと思うと気が逸るな。」

「この前の子供達?」

 ランプを持っている為、リュセルが前を歩いているので、相手の顔色の悪さと表情の硬さなどまったく見えていないジュリナがぼそりと呟いた言葉。この暗闇から意識を逸らそうとリュセルは問い返した。

「アシェイラ辺境の村で、子供三人と神父が一人、行方不明になったのさ。邪気の痕跡が認められた為、レオンハルトから浄化任務を振られたんだ」

 淡々と語るジュリナに、リュセルは思い出した。

 まだ、剣鍵として、本当の意味で覚醒する前、レオンハルトの部屋に缶詰め状態だった時に、ティルが話していた内容だ。

「それで、子供達は見つかったのか?」

 リュセルの問いを聞いたジュリナは、一瞬黙って目を伏せた。

「ああ。……正確には、子供達”だったもの”が見つかった」

 だった、もの。その言葉の意味する事を悟り、リュセルは、痛みを堪えるように目を伏せた。

「犯人は神父だ。残された子供達の遺体から、ティアが残留思念を追って、神父が邪鬼だった事がわかった。これは公にされていない、極秘事項なんだがな。神父が犯人などと世間に知れたら、大騒ぎになる」

 ジュリナは一旦言葉を切ると、呻くように呟く。

「本当に無残な遺体だった。あんなに幼いのに、可哀想に。子供達の一人は、殺害された次の日が誕生日だったらしい」

 邪鬼

 邪気の塊となり形を成しえた者の事をそう呼ぶらしい。特に、人型をとれる邪鬼の力は、格段に強く、邪気の量の桁が違う。

 リュセルが知る邪鬼は、剣を解放した時に人間にとり付き、自分を追い詰めた者だけだ。

 そう……

 奴らを許してはならない。幼い子供らを、まるで虫けらのように、残酷に殺す邪悪な者達。

 弟神、スノーデュークの邪心の欠片。

 そこまで考えていたリュセルの肩を、後ろからジュリナは叩いた。

「おい」

「!?」

 驚いたように振り返ったリュセルを見て、ジュリナは不思議そうな視線を向けてきた。

「何、ぼうっととしているんだ?着いたぞ」

 ジュリナの言葉にふっと我に返ると、確かに屋敷の扉の前に着いていた。

「さすがに、扉には鍵がかかっているね」

 扉を開こうとしたジュリナは、そう呟き、懐から針金を取り出す。
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