【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第四章 朱金の姫君

6-2 幽霊屋敷②

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「リュセル、ランプで鍵穴を照らしてくれないかい?」

「あ、ああ」

 慌てて指示通りにすると、ジュリナは鍵穴に針金を差し込んで、慎重に探り始めた。そうして、しばらくカチャカチャとしていると思ったら、鍵は外れ、おもむろに扉は開いた。

 軋むような音を立てて開いた扉を見たリュセルは、驚きに目を見張った。

「行くよ」

 錠前破りが出来るお姫様って、どうなんだろう。ジュリナに促されて屋敷の中に足を進めながら、リュセルはそう思っていたのだった。

 そして、ゆっくりと周りを見回し、顔を引きつらせる。

 ランプなしでは前も見えない暗闇
 埃を被った年代物らしい家具
 所々に張られた蜘蛛の巣
 壁に飾られた誰かの肖像画

 なんとも、おどろおどろしい光景。

(ひいいいいいいいいっ)

 心の中で悲鳴を上げたリュセルとは対象的に、ジュリナは冷静に周りの気配を探り始めていた。

「ここに邪気の気配はないね。もっと奥を調べてみよう」

(マジですか!?)

 リュセルは、すぐに回れ右して屋敷を出たい気持ちを必死に抑えると、仕方なく小さく頷く。ユージンやレオンハルト相手ならまだしも、女性相手にみっともない真似はしたくない。

 そんな風に、リュセルが先頭に立って歩きながら、内心恐怖心と戦っていると、ジュリナは「あ!」と声を上げた。

「な、なななな何だ!?」

 ビクリと体を震わせるリュセルを気にする事もなく、ジュリナは肖像画に書かれたサインを見て感嘆した。

「かの名匠、グレン・ケイフォスタンのサインだね。さすがはグレンの絵。重厚な上、繊細なタッチで描かれている。これ一枚売るだけで、庶民は一か月は働かずに暮らせるだろうね。」

 しげしげと肖像画を見てそう言ったジュリナに、リュセルは軽くこけたのだった。

「う~ん、いい絵だ。もらっていっては駄目かねぇ」

「仮にも、人様の家のものを黙って持って行けば、立派な泥棒だぞ!」

 絵に未練を残した様子のジュリナにツッコミを入れると、彼女は未練を残しながらも頷いた。

「そうだな、わかった。先を急ごう」

 そうして、エントランスホールを出て廊下を進むと、今度は廊下に飾られた花瓶にジュリナは惹かれたようだった。

「絵や花瓶とかが、好きなのか?」

 しばらくして、ようやく花瓶から引き離すのに成功すると、リュセルはげんなりとしてそう聞いた。

「ああ、私はね。ティアは、歌とか、詩や楽が好きなんだ。ディエラ王都は芸術の都だからね。才能はなくても芸術に触れる機会が多い所為で、目利きの腕が上がってしまうのさ」

「なる程」

 リュセルが小さく頷くと、ジュリナはうっとりとした表情で言った。

「ティアの歌声は、それは美しいぞ」

「そうか、それは是非聞きたいな」

 リュセルの言葉に、ジュリナは一瞬むっとしたようだが、少し迷った後、小さな声で呟いた。

「帰ったら頼んでみるがいいさ」

 そっぽを向きながらも、そう言ったジュリナ。素直じゃない彼女の反応を見たリュセルは、嬉しく思った。

「義姉上!」

 そう叫んだリュセルに、ジュリナは怒鳴り声を上げる。

「調子に乗るな!」

 その反応を見たリュセルは、小さく噴出すと笑う。それは、女性なら見惚れずにはいられない、魅力的な微笑みだった。女性らしい感情など持ち合わせていないはずのジュリナを、一瞬とはいえ、ドキリとさせる程の。

「とにかく、進むぞ」

 ジュリナは咳払いをしてそう言うと、先を急ぐ事にした。

 そうして、廊下を進んだ二人が階段を上り、二階へと到達した時、リュセルはふと足を止めた。

「どうした?」

 ジュリナが、歩みを止めた広い背中にそう問いかける。すると、リュセルは目を閉じて耳を澄ませた。

「泣き声が聞こえる」

「泣き声?」

 ジュリナも耳を澄ますが、そんなものは聞こえて来ない。勘違いじゃないのか?と言いかけて、ジュリナは、はっとした。

 彼は、宝鍵なのだ。

 ティアラもそうなのだが、宝鍵は感知能力に秀でている。実をいうと、レオンハルトやジュリナの怪力や素早さなどの戦闘能力の高さは、宝主であるという事の恩恵を受けている部分もある。もちろん、本人の努力や才能もある。だが、宝鍵は、感覚の鋭さ、感知能力に優れ、宝主は運動能力、戦闘能力に優れる。

 それ故に、邪気の感知に至っては、宝主よりも宝鍵の方が鋭いのだ。

「邪気かい?」

 ジュリナが視線を強くして周りを警戒すると、リュセルは答えた。

「邪気じゃない。小さな子供の声だ」

「子供!?」

 ジュリナの驚いたような声に頷き、リュセルは近くの部屋の扉を開けた。

「リュセル!?」

 慌ててその背を追うが、自分達が入った部屋は、今まで調べた部屋と、あきらかに異なっていた。

 曇りが晴れた為、月の柔らかい光が窓から降り注ぎ、ランプがなくてもそれなりに明るくなっている室内を見て、ジュリナは目を見張る。

 埃を被っているが、可愛らしい色で統一された小振りなベッドや家具。ベッドの枕元に置かれた、赤いドレスの人形。

「子供部屋だねぇ……」

 ジュリナがそう呟いている間にも、リュセルは部屋の奥にある寝台へと近づき、枕元に置かれた人形をじっと見つめた。

「これだ」

 そして、リュセルは人形に手を伸ばすと、持ち上げようとする。

 人形に手が触れた、その瞬間

 ドクンッ

 鼓動の音がしたと思ったと同時に、彼は叫び声を上げた。

「あああああああああああッ」

「リュセルっ!」

 寝台に突っ伏して悲痛に叫ぶリュセルの姿を見たジュリナは驚き、逡巡したが、それは一瞬の事で、すぐに彼を正気に返す為に揺さぶる。

「しっかりしろ、リュセルっ」

 叫びながら、リュセルの体をベットの上に仰向けにし、上から押さえつけた。

「うああああああああっ!」

 リュセルの額に、脂汗がにじんだのと同時に、首に不可思議な痣が浮かび上がって来る。

(何だい、これは?)

 暴れるリュセルの体の上に圧し掛かり、両腕と両足を完全に押さえ込んでいたジュリナは、その首の痣がだんだんと濃くなっていくにつれて、それが何の痕なのかを理解するとぞっとした。

「手形……」

 その指の形から、あきらかに正面から首を絞められた痕だという事が推測される。

「くそっ、人形か!」

 ジュリナはそう吐き捨てると、リュセルが持っていた人形を無理矢理離させた。寝台の下にそれを放り、人形を離すと同時にガクリと気を失ったリュセルに呼びかける。

「リュセル!」

 ジュリナが焦ったように、自分の名を呼んでいる

 この女性を焦らせる事ができるとは……、リュセルは思いきり笑いたい気持ちになったが、それよりも気になっていた、近くで聞こえる泣き声に意識を向けた。

 人形に留まった、残留思念。幼い少女のものだ。少女は、ただ一言、泣きながらリュセルに訴えた。

 ーお父様を助けてー

 瞬間、リュセルは一気に目を覚ます。

「リュセル!」

 美しい顔を曇らせたジュリナが、自分の名を呼ぶのを聞くと同時に、リュセルは呻いた。息が出来なかったのだ。

 ジュリナは、リュセルの状態をすぐに察すると、怒鳴った。

「息を吐け、吐くんだッ」

 その言葉に従い、息を思いっきり吐き出したリュセルは、激しくむせ返る。

「かはッ」

 ゲホゲホゲホと、涙を流して苦しんでいるリュセルの背を擦るジュリナの手はひどく優しい。

「水だ。飲めるかい?」

 それに頷くと、ジュリナが持って来ていた水筒の水を飲んだリュセルは、やっと落ち着く事ができた。

「この部屋の主は、ウィリア卿の娘だ。邪気にとりつかれた父親に絞殺された」

 やっと落ち着いたリュセルが、しゃがれた声でそう言うと、ジュリナはゆっくりと瞠目した。

「哀れな……」

「自分の首を絞める父親を、真正面から死ぬ直前まで見つめていた彼女は、それが父親でない事に気づいたんだ。ウィリア卿を助けて欲しいと、俺に頼んできた」

 リュセルがそう話すが、ジュリナは話の内容よりリュセルの状態の方が心配だった。首の痣は、消えていない。

「お前、感応能力が高すぎるな」

「え?」

「ティアでさえ、そこまで感知できないよ。ただ、残留思念を調べて、知りたい情報を探るだけさ」

 その言葉に、戸惑ったような視線を向けてくるリュセルに、ジュリナは腕を組んで言った。

「次の任務が決まるまで、ディエラに留まって、ティアに力の制御を習ったらどうだい?このままじゃ、いつか壊れてしまうぞ」

 忠告めいた言葉を聞いたリュセルは、小さく頷く。

「そうだな。レオンに相談してみるよ」

 そう言った、次の瞬間、リュセルは動きを止めた。屋敷の一角に、邪悪な気配が、少量ながらに噴出し始めたのだ。

「どうした?」

 あまりに微量過ぎて気づかないジュリナに対し、リュセルは立ち上がり、抑えた声で告げた。

「邪気だ」

「何!?」

 瞬時に周りを警戒するジュリナに、リュセルは首を振る。

「ここじゃない。場所は、……来る時に通ったエントランスだ!!」

 二人が同時に駆け出すと、見知った気配がそのエントランスに入り込むのを感じた。今度は、ジュリナもすぐに感知する。

「レオンハルトとティアっ!?」

「今頃気づいたのか?」

 慌てるジュリナに、リュセルは呆れたように言った。

「ずっと俺達の後を追っていたぞ。だから、戻って合流しようって言ったんだ。」

「いつからだ!?」

「俺が気づいたのは、酒場にいる時だな」

 飄々とそう言ったリュセルの脇腹を、ジュリナは小突いた。

(まったく、こういうところはあいつにそっくりだよ)

 痛みに顔を歪めるリュセルを堪能して、気分を晴らしたジュリナは、内心そう考えていたのだった。





 そして、当のレオンハルト達はというと……

 屋敷に入ると、さすがに弟の見知った気配を感じる事が出来て、レオンハルトは安堵していた。ティアラもほっとしたように胸を撫で下ろしたが、次の瞬間、顔色を変える。

「どうしました?ティアラ姫」

 様子のおかしいティアラに問いかけ、その可憐な美貌を見下ろす。視線の先で、彼女は目を閉じて意識を集中し始めていた。

「このエントランスから、邪気を感じます」

「どちらから?」

 ティアラの言葉に冷静に疑問を返すと、彼女は緩く首を振った。

「微量過ぎて、場所の特定が出来ません」

 レオンハルトより感知能力の点では優れているティアラにわからなければ、邪気の出所は本当にわからない。

「困りましたわ」

 そうティアラが呟くと同時に、レオンハルトは彼女の体を抱きかかえてその場を飛びのいた。

「きゃあッ」

 今まで2人がいた場所。そこにいきなりドロッとした黒い液体が降り注ぎ、床が一瞬で溶けたのだ。

「邪気!?」

 攻撃を受けた瞬間だけ、レオンハルトにも感知出来る位、邪気が膨れ上がったのがわかる。そして、その後も四方八方から加えられる液体の攻撃を躱しながら、レオンハルトはティアラに再度尋ねた。

「ティアラ姫、邪気はどこですか?」

 レオンハルトに抱えられたティアラは、意識を集中させて部屋中を探るが、まったくわからない。

「わかりませんわ!」

 泣きそうな声をティアラがあげた瞬間、聞き覚えのあり過ぎる青年の声が響いた。

「ここだ!」

 それと同時に、手持ちランプがエントランスの壁に飾られた肖像画に向かって投げつけられる。


 ガシャーーンッ


 というランプが壊れる音と共に、肖像画に火が燃え移った。

「ぎゃああああああ、お前ええええぇぇ! 世界の巨匠、グレン・ケイフォスタンの絵画をおおおおお!」

 その、またまた聞き覚えのあり過ぎる女の雄たけびと共に、邪気の攻撃は止み、レオンハルトは声のした方に目を向けた。

「リュセル」

「お姉様!」

 二人の愛しい半身の姿が、そこにはあった。

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