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第四章 朱金の姫君
7-1 さあ、浄化の時間だ①
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「お前はあああ~~! あの絵の価値が、わからないのかあああぁぁ」
そう怒鳴って、自分の襟首を締め上げるジュリナに、リュセルも怒鳴り返す。
「ははん、わからないね! 絵は絵だろうが!」
ジュリナが「こいつ、犯してやろうかっ!?」と、リュセルを睨みつけた時、可憐な声が響いた。
「お姉様!」
それに、我に返るとエントランスを見回す
「ティアラーーーーッ」
扉の入り口付近に愛しい妹の姿を認め、ジュリナはリュセルを放り投げて駆け出した。そして、喧嘩中だという事などすっかり忘れて、ティアラの華奢な体を強く抱きしめる。
「お姉様ぁ、ごめんなさい、お姉様!」
泣きながら謝るティアラに、ジュリナも涙ぐみながらささやいた。
「お前は、悪くなどないよ。すべて私が悪いのだから……すまないティア、私が身勝手だった。だから、私を嫌わないでおくれ」
「世界に終わりが来ようとも、お姉様を嫌いになんてなりませんわ! 愛しています、ジュリナ!」
妹の告白にジュリナは頬を染めると、その薄紅色の唇に口づけを落とした。
そして、一方、リュセルは……
「痛っ~! あの馬鹿力がっ」
ジュリナに投げ飛ばされて、見事に壁にめり込んでいた。
「リュセル」
そして近くで聞こえた声に気づき、額を押さえながら目を上げた。
「レオン」
駆け寄って来ようとする兄の姿を認め、リュセルは心底ほっとした。しかし次の瞬間、リュセルの意識は邪気の存在を捕らえる。
「危ない!」
そう叫ぶと、レオンハルトに飛びついて、そのまま押し倒す。
「ッ!?」
彼の頭があった頭上を黒い液体が通過し、それは周りに拡散して床を溶かした。
「兄さん!」
あまりに慌て過ぎて、普段呼ばない呼び方で自分を呼んだリュセルを抱いて起き上がると、レオンハルトはその場から離れる。
「邪気はどこだ?」
「激しく移動している! 右、右、左、あッ、ま、前!」
リュセルは、ティアラですら答えられなかった問いにスラスラと答えると、今度は自分の方にレオンハルトを引っ張った。
次の瞬間、レオンハルトのいた場所に、黒い液体がまた飛び散る。
「こんなの当たったら、溶け死ぬぞ!」
リュセルはそう叫びながらも、上体を逸らして再び繰り出された液体の攻撃を間一髪で避けた。
「居る所はわかるのに、動きが止められない!」
叫んだ弟の言葉を聞いたレオンハルトは、わずかに目を見張った。居る所がわかる?この場にいる、誰もがわからない邪気の出所が?
その事実を知ったレオンハルトは、小さく笑うと、視線をジュリナに向けた。
「ジュリナ、いちゃついていないで手伝え」
レオンハルトの言葉を受け、ティアラから身を離したジュリナは不機嫌そうに答える。
「無粋な男だねぇ」
そして、そう言いながらも懐から鏡を取り出した。額縁の部分に、繊細な彫刻が彫られた、曇ったまま何も映し出さない鏡。
「ティアラ、おいで」
ジュリナが呼びかけると、ティアラは白くたおやかな右手を鏡にかざした。
次の瞬間、彼女の額に、鏡の額、その上中央に刻まれた紋様と同じ紋様が浮かび上がり、ティアラの体と鏡はまばゆい銀の光に包まれる。それと同時に、曇っていた鏡は本来の輝きを取り戻し、周りの景色を映し出した。
そうして、ティアラの体は鏡に吸い込まれ、意識は目の前の姉の体へ入り込み、完全に同化したのである。
「さあ、浄化の時間ですわ!」
ジュリナの口から放たれた声、その可憐な響きは、ティアラのものだった。
「邪気は……」
ティアラと同化して、感覚が上がっているはずなのに、邪気の場所がわからない。ジュリナは、その感知能力の高さを間近で見て知っていたリュセルにその事を尋ねた。
「どこだ!? リュセル!」
鏡で動きを止めようにも、どこに居るのかがわからなければ、止めようがない。
「どこと言われても、動きが速くてだな」
リュセルの意識は完全に邪気を捕らえているらしく、銀の瞳が忙しなく部屋のあちこちを行き来していた。
そんな弟の眼球の動きを黙って見ていたレオンハルトは、静かな声でいつものように淡々と言った。
「ならば、邪気を鏡の方へと追い込めばいい」
「どうやってだ? 俺はそんなに素早くないぞ」
弟の答えに、レオンハルトは腰に下げていた剣を目の前に掲げた。鞘と柄に、ジュリナの掲げ持つ鏡と同じ、繊細な彫刻が彫られた女神の剣。
「大丈夫だ、私が追い込む」
その言葉に、リュセルはすべてを理解した。
「来い、リュセル」
リュセルはそれを合図に、レオンハルトの掲げた剣へと右手をかざし、意識を剣へと集中させる。
「ッ」
そして、熱い何かが全身を覆いつくした。額には剣の柄に描かれた不思議な紋様が浮かび、彼は、自分の意識と肉体が離れるのを感じとる。
白銀の光と共に体は剣へと吸い込まれ、意識は目の前の兄の中へと同化し、リュセルは、再びレオンハルトの視界で世界を見る事となる。
手に持っていた女神の剣は、鞘が拡散し、抜き身の剣身が、銀の光を放って現れたのだった。
「はは、あれが女神の宝の中でも最強な、殺魔の力を持つという、女神の剣か。初めて見た」
「綺麗」
ジュリナとティアラが呆然と見ている中、レオンハルトはリュセルの意識を通して、邪気の出所を視た。探るまでもない、それはすぐにわかる。気づいたと同時に、レオンハルトは内心、弟の感知能力の高さに舌を巻いた。
「下がっておいで、リュセル」
リュセルの宝鍵としての能力に感心しつつ、自分と同化している弟にそうささやいたレオンハルトは、一気に邪気との間合いを詰める。
危険を察した邪気は、咄嗟に液体をぶつけてくるが、それを剣で切り裂き、逃げる邪気を追う。
レオンハルトが四方八方に逃げる邪気をうまく鏡の方へと追い込むと、ジュリナは絶妙のタイミングで持っていた女神の鏡を掲げた。
瞬間、鏡は邪気の姿を映し出す。
映ったのは、例の肖像画に描かれた人物、そのものの姿。
ーぎゃあああああああっー
悲痛な叫び声が聞こえたかと思ったら、鏡を掲げた先に黒いもやのようなものが現れ、それは形を作っていった。
「ウィリア卿」
それは、かつての、この屋敷の主の姿だった。
まだ三十代後半といった姿のその青年は、真面目そうな顔立ちをした、優しい印象の青年だった。
肖像画の絵では……
ウィリア卿
領民を愛し、家族を最も大切にした領主だった。
しかし、邪気が形作ったウィリア卿の姿は、禍々しい気配を発し、その顔は、この世のすべてを憎むような形相をしている。
「肉体が滅びた後、ウィリア卿の魂を取り込み、肖像画の絵を媒介にして邪気を増幅させていたとはね」
ジュリナはウィリア卿とは一度だけ会った事があったのだ。
彼は穏やかで、ただ、優しい人だった。
「なんて惨い事を!」
ジュリナがそう叫ぶと、ウィリア卿の姿をした邪気……いや、これはもう邪鬼と表現して方がいいのかもしれない。
彼は、ニヤリと邪悪な微笑みを浮かべた。
ー消滅させたくば、そうするがいい。ただ、我と共に在る、この男の魂もろとも浄化する事になるぞ-
それに対し、ジュリナと彼女と同化しているティアラは息を呑む。
「卑怯な」
ジュリナが憎憎しげにそう呟くのを、横で見ていたレオンハルトは、表情を変える事なく女神の剣を構えた。
「レオン!?」
驚いたリュセルが、兄の口を借りて叫ぶが、体の本来の主であるレオンハルトは、冷静な声で言った。
「邪気は浄化しなければならない。邪鬼になってしまったのなら尚更だ。邪鬼として力の弱い今の内に、狩らねばならぬ」
「ああ、そうだ」
レオンハルトの言葉を肯定したジュリナは、女神の鏡の力で動きを封じた邪鬼を無表情に見つめた。
「例え、何があろうとも……」
雲行きの怪しくなってきた現状を察した邪鬼は、焦り始める。
ーこの人間の魂を、犠牲にするつもりか!?-
人間の感情に訴えるようなそんな言葉にも、二人の宝主は、無言のまま、ただ見つめ返す。その、感情の一切無くなった琥珀と深紅の瞳に、邪鬼はたじろいだ。
そして、この二人に意識を集中していた為に、邪鬼は見逃したのだ。
彼らの内(なか)で、二人の宝鍵が力を合わせて、離れた場所に在る人形にとりついた少女の残留思念を探っていた事を。
リュセルの感知能力の高さ、荒さをサポートする形で、ティアラは、そっと意識を、リュセルと一緒に人形の中に潜らせ、そして、父親を心配するあまり、旅立てないでいる少女の魂を、その人形から連れ出す事に成功する。
「成功だ」
「成功ですわ」
二人の宝鍵が互いの半身の口を借りてそう呟くと、女神の宝を持っていない方の手を前に差し出した。
「ウィリア卿、思い出してくれ。あなたの愛を……」
リュセルの言葉と共に、邪鬼のすぐ近くに薄ぼんやりとした光が現れ、それはゆっくりと形を成していった。
現れたのは、くるくるとした巻き毛の、つぶらな瞳をした幼い少女。
ーお父様ー
少女の呼びかけに、邪鬼の表情が一変した。
ーリーナ-
慈愛に満ちた、優しい父親の顔に戻ったウィリア卿の懐に飛び込み、少女は強く抱きつく。
ー一緒に逝きましょう、お父様。ずっとずっと、一緒よ-
そう怒鳴って、自分の襟首を締め上げるジュリナに、リュセルも怒鳴り返す。
「ははん、わからないね! 絵は絵だろうが!」
ジュリナが「こいつ、犯してやろうかっ!?」と、リュセルを睨みつけた時、可憐な声が響いた。
「お姉様!」
それに、我に返るとエントランスを見回す
「ティアラーーーーッ」
扉の入り口付近に愛しい妹の姿を認め、ジュリナはリュセルを放り投げて駆け出した。そして、喧嘩中だという事などすっかり忘れて、ティアラの華奢な体を強く抱きしめる。
「お姉様ぁ、ごめんなさい、お姉様!」
泣きながら謝るティアラに、ジュリナも涙ぐみながらささやいた。
「お前は、悪くなどないよ。すべて私が悪いのだから……すまないティア、私が身勝手だった。だから、私を嫌わないでおくれ」
「世界に終わりが来ようとも、お姉様を嫌いになんてなりませんわ! 愛しています、ジュリナ!」
妹の告白にジュリナは頬を染めると、その薄紅色の唇に口づけを落とした。
そして、一方、リュセルは……
「痛っ~! あの馬鹿力がっ」
ジュリナに投げ飛ばされて、見事に壁にめり込んでいた。
「リュセル」
そして近くで聞こえた声に気づき、額を押さえながら目を上げた。
「レオン」
駆け寄って来ようとする兄の姿を認め、リュセルは心底ほっとした。しかし次の瞬間、リュセルの意識は邪気の存在を捕らえる。
「危ない!」
そう叫ぶと、レオンハルトに飛びついて、そのまま押し倒す。
「ッ!?」
彼の頭があった頭上を黒い液体が通過し、それは周りに拡散して床を溶かした。
「兄さん!」
あまりに慌て過ぎて、普段呼ばない呼び方で自分を呼んだリュセルを抱いて起き上がると、レオンハルトはその場から離れる。
「邪気はどこだ?」
「激しく移動している! 右、右、左、あッ、ま、前!」
リュセルは、ティアラですら答えられなかった問いにスラスラと答えると、今度は自分の方にレオンハルトを引っ張った。
次の瞬間、レオンハルトのいた場所に、黒い液体がまた飛び散る。
「こんなの当たったら、溶け死ぬぞ!」
リュセルはそう叫びながらも、上体を逸らして再び繰り出された液体の攻撃を間一髪で避けた。
「居る所はわかるのに、動きが止められない!」
叫んだ弟の言葉を聞いたレオンハルトは、わずかに目を見張った。居る所がわかる?この場にいる、誰もがわからない邪気の出所が?
その事実を知ったレオンハルトは、小さく笑うと、視線をジュリナに向けた。
「ジュリナ、いちゃついていないで手伝え」
レオンハルトの言葉を受け、ティアラから身を離したジュリナは不機嫌そうに答える。
「無粋な男だねぇ」
そして、そう言いながらも懐から鏡を取り出した。額縁の部分に、繊細な彫刻が彫られた、曇ったまま何も映し出さない鏡。
「ティアラ、おいで」
ジュリナが呼びかけると、ティアラは白くたおやかな右手を鏡にかざした。
次の瞬間、彼女の額に、鏡の額、その上中央に刻まれた紋様と同じ紋様が浮かび上がり、ティアラの体と鏡はまばゆい銀の光に包まれる。それと同時に、曇っていた鏡は本来の輝きを取り戻し、周りの景色を映し出した。
そうして、ティアラの体は鏡に吸い込まれ、意識は目の前の姉の体へ入り込み、完全に同化したのである。
「さあ、浄化の時間ですわ!」
ジュリナの口から放たれた声、その可憐な響きは、ティアラのものだった。
「邪気は……」
ティアラと同化して、感覚が上がっているはずなのに、邪気の場所がわからない。ジュリナは、その感知能力の高さを間近で見て知っていたリュセルにその事を尋ねた。
「どこだ!? リュセル!」
鏡で動きを止めようにも、どこに居るのかがわからなければ、止めようがない。
「どこと言われても、動きが速くてだな」
リュセルの意識は完全に邪気を捕らえているらしく、銀の瞳が忙しなく部屋のあちこちを行き来していた。
そんな弟の眼球の動きを黙って見ていたレオンハルトは、静かな声でいつものように淡々と言った。
「ならば、邪気を鏡の方へと追い込めばいい」
「どうやってだ? 俺はそんなに素早くないぞ」
弟の答えに、レオンハルトは腰に下げていた剣を目の前に掲げた。鞘と柄に、ジュリナの掲げ持つ鏡と同じ、繊細な彫刻が彫られた女神の剣。
「大丈夫だ、私が追い込む」
その言葉に、リュセルはすべてを理解した。
「来い、リュセル」
リュセルはそれを合図に、レオンハルトの掲げた剣へと右手をかざし、意識を剣へと集中させる。
「ッ」
そして、熱い何かが全身を覆いつくした。額には剣の柄に描かれた不思議な紋様が浮かび、彼は、自分の意識と肉体が離れるのを感じとる。
白銀の光と共に体は剣へと吸い込まれ、意識は目の前の兄の中へと同化し、リュセルは、再びレオンハルトの視界で世界を見る事となる。
手に持っていた女神の剣は、鞘が拡散し、抜き身の剣身が、銀の光を放って現れたのだった。
「はは、あれが女神の宝の中でも最強な、殺魔の力を持つという、女神の剣か。初めて見た」
「綺麗」
ジュリナとティアラが呆然と見ている中、レオンハルトはリュセルの意識を通して、邪気の出所を視た。探るまでもない、それはすぐにわかる。気づいたと同時に、レオンハルトは内心、弟の感知能力の高さに舌を巻いた。
「下がっておいで、リュセル」
リュセルの宝鍵としての能力に感心しつつ、自分と同化している弟にそうささやいたレオンハルトは、一気に邪気との間合いを詰める。
危険を察した邪気は、咄嗟に液体をぶつけてくるが、それを剣で切り裂き、逃げる邪気を追う。
レオンハルトが四方八方に逃げる邪気をうまく鏡の方へと追い込むと、ジュリナは絶妙のタイミングで持っていた女神の鏡を掲げた。
瞬間、鏡は邪気の姿を映し出す。
映ったのは、例の肖像画に描かれた人物、そのものの姿。
ーぎゃあああああああっー
悲痛な叫び声が聞こえたかと思ったら、鏡を掲げた先に黒いもやのようなものが現れ、それは形を作っていった。
「ウィリア卿」
それは、かつての、この屋敷の主の姿だった。
まだ三十代後半といった姿のその青年は、真面目そうな顔立ちをした、優しい印象の青年だった。
肖像画の絵では……
ウィリア卿
領民を愛し、家族を最も大切にした領主だった。
しかし、邪気が形作ったウィリア卿の姿は、禍々しい気配を発し、その顔は、この世のすべてを憎むような形相をしている。
「肉体が滅びた後、ウィリア卿の魂を取り込み、肖像画の絵を媒介にして邪気を増幅させていたとはね」
ジュリナはウィリア卿とは一度だけ会った事があったのだ。
彼は穏やかで、ただ、優しい人だった。
「なんて惨い事を!」
ジュリナがそう叫ぶと、ウィリア卿の姿をした邪気……いや、これはもう邪鬼と表現して方がいいのかもしれない。
彼は、ニヤリと邪悪な微笑みを浮かべた。
ー消滅させたくば、そうするがいい。ただ、我と共に在る、この男の魂もろとも浄化する事になるぞ-
それに対し、ジュリナと彼女と同化しているティアラは息を呑む。
「卑怯な」
ジュリナが憎憎しげにそう呟くのを、横で見ていたレオンハルトは、表情を変える事なく女神の剣を構えた。
「レオン!?」
驚いたリュセルが、兄の口を借りて叫ぶが、体の本来の主であるレオンハルトは、冷静な声で言った。
「邪気は浄化しなければならない。邪鬼になってしまったのなら尚更だ。邪鬼として力の弱い今の内に、狩らねばならぬ」
「ああ、そうだ」
レオンハルトの言葉を肯定したジュリナは、女神の鏡の力で動きを封じた邪鬼を無表情に見つめた。
「例え、何があろうとも……」
雲行きの怪しくなってきた現状を察した邪鬼は、焦り始める。
ーこの人間の魂を、犠牲にするつもりか!?-
人間の感情に訴えるようなそんな言葉にも、二人の宝主は、無言のまま、ただ見つめ返す。その、感情の一切無くなった琥珀と深紅の瞳に、邪鬼はたじろいだ。
そして、この二人に意識を集中していた為に、邪鬼は見逃したのだ。
彼らの内(なか)で、二人の宝鍵が力を合わせて、離れた場所に在る人形にとりついた少女の残留思念を探っていた事を。
リュセルの感知能力の高さ、荒さをサポートする形で、ティアラは、そっと意識を、リュセルと一緒に人形の中に潜らせ、そして、父親を心配するあまり、旅立てないでいる少女の魂を、その人形から連れ出す事に成功する。
「成功だ」
「成功ですわ」
二人の宝鍵が互いの半身の口を借りてそう呟くと、女神の宝を持っていない方の手を前に差し出した。
「ウィリア卿、思い出してくれ。あなたの愛を……」
リュセルの言葉と共に、邪鬼のすぐ近くに薄ぼんやりとした光が現れ、それはゆっくりと形を成していった。
現れたのは、くるくるとした巻き毛の、つぶらな瞳をした幼い少女。
ーお父様ー
少女の呼びかけに、邪鬼の表情が一変した。
ーリーナ-
慈愛に満ちた、優しい父親の顔に戻ったウィリア卿の懐に飛び込み、少女は強く抱きつく。
ー一緒に逝きましょう、お父様。ずっとずっと、一緒よ-
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