【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第六章 北の神童 

4-1 アシェイラ城厨房立てこもり事件(完結編)①

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 リュセルの言葉に同意するように、レオンハルトもその口元に薄い微笑みを浮かべる。他の者達も似たような反応だった。

 彼らは……、この国の王を、心から敬愛しているのだ。

 その様子を見たローウェンは、驚きに目を見張る。

 名君。

 ジェイドがそう言われる所以は、そこにある。彼は特別、何かに秀でている訳ではない。能力のみでいうなら、レオンハルトの方が断然上である。

 いかに、臣下から信頼されているか。

 いかに、国民から慕われているか。

 それが、賢王として名高い、ジェイド王の真の姿である。

 このアシェイラが豊かなのは、国民の心が豊かだからだ。そして、その国民の心を豊かにしているのは、他でもない国王であるジェイドだった。

 その意志は、父親を見捨てずにその場に残った王位継承者、カイルーズ王子の中にも宿り、それを受け継いで行くのだろう。

「本当にいい国だ。うらやましい」

 ローウェンのその呟きは、小さすぎて誰にも聞こえなかった。



「では、作戦を立てる」

 レオンハルトが気を取り直してそう言うと、カイエがテーブルの上に城の見取り図を広げた。

「ここが、男が立てこもっている厨房だ」

 レオンハルトは問題の場所を指し示すと、カイエに尋ねた。

「どのような立ち位置で、その男は立っているんだい?」

「ええと、ですね。こう……、入り口の方を向いて…………」

 カイエは見取り図の中に、自分が見た男の立ち位置を書き込んだ。

「ちょうどいい位置だな」

 そう呟いたレオンハルトに、その場にいたすべての者の視線が集中した。

「何がだ?」

 代表してリュセルが尋ねると、レオンハルトは小さく頷く。

「ここに、抜け道があるんだよ」

 そう平然と言って、レオンハルトが指し示したのは、暖炉の裏側だ。ちょうど、男の後ろ手になる。

「なんだって!?」

 リュセルの驚愕の声が響く。その声に、皆同感だった。

「ただ、狭くてね。小柄な者しか通れないだろう」

 レオンハルトはそう言うと、アイリーンを流し見る。

「通れるのは、女性位だ」

 アイリーンは、主の言葉に小さく頷く。

「わかりました。私が行きます」

 しかし、次の瞬間

「僕が行くよ」

 ローウェンが、朗らかにそう言って、にっこりと笑った。

「僕なら通れるでしょう?レオンハルト兄さん」

 成長期前の、細い少年の体なら、確かに通れるだろう。

「しかし」

 他国の王子を危険な目に合わせる訳には……。と、カイエが渋い顔をするが、意外にもレオンハルトはあっさりと頷いたのだ。

「わかった、頼もう」

 そんな、あっさりと!?

 皆が皆、唖然としていると、リュセルが言った。

「しかし、レオン。ローウェンみたいな子供を、そんな危険な目に合わせる訳にはいかないだろう!?」

 リュセルの言葉に、皆が大きく頷く。

「子供だが、ローウェンは私と同じ宝主だぞ」

 宝鍵が感応能力に秀でているように、宝主は戦闘能力に秀でている。レオンハルトの憮然とした言葉にローウェンも頷くと、無邪気に笑った。

「剣の才能のないリュセル兄さんよりも、僕のが強いと思うよ」

 そんな、細い腕で?

 リュセルは自分の腕よりもはるかに細い、ローウェンの腕を見て心配になった。

「そうだね。敵さんは人質をとっているし、僕が近づくまで気を逸らしてくれると助かるかな?」

 続いたローウェンの言葉に、リュセルが言った。

「ならば、その役目は、俺がやろう」

「「「リュセル王子!?」」」

 あまりにも無謀な発言に、カイエ、アイリーン、ユージンは度肝を抜かれた。アントニオは、無表情のままだ。

「リュセル」

「止めるな、レオン。こんな、子供のローウェンが、父上の為に命をかけるんだ。ここで待っているだけなんて、俺はごめんだぞ」

 自分を呼ぶレオンハルトに、リュセルはそう言い切った。

「ああ、止めはしない。ただし、私も行こう」

 そして、弟の意志を尊重してそう言ったレオンハルトに対し、ユージンは己が主の成長を見た。ついこの前までのレオンハルトなら、大事な半身を危険にさらす訳にはいかないと、リュセルを気絶させてでも止めたはずだ。

(大人になりましたね、殿下)

 ユージンは、心の中で感涙していた。

「レオン」

 一方、リュセルは、自分を信頼してくれた兄に感動していた。そして、そんな、見つめ合う美貌の兄弟に水を差したのは、やはり、天然少年 ローウェンだ。

「ねえ、殺しちゃやっぱりまずいかなぁ」

 虫も殺さないような美少年の口から飛び出た物騒な台詞に、ユージンとアイリーンは首を思いっきり左右に振り回した。

「半殺し位にしておきなさい。足位なら切り落としてもいいから」

 たしなめるようにレオンハルトが言うが、それもかなり物騒だ。

「悪魔か、お前達は!」

 リュセルがそう突っ込むのを見ながら、カイエは思った。

 本当に、リュセル王子(突っ込み役)の存在は、貴重だと……。

(彼が帰還してくれて、本当によかった)

 そう心から思う、カイエであった。

「……で、どうやって、その男の意識を逸らすんだ?」

 リュセルは、若干、突っ込み疲れを見せながら尋ねた。

「そうだね」

 レオンハルトも考え込む。

「父上のように、裸にでもなるか?」

 リュセルはそう言うと、はははは、と乾いた笑いを浮かべた。

 シャレにならん!

 皆がそう思った時

「何もしなくてもいいんじゃないっすか?」

 響いたのは、のん気なユージンの声だ。

「あ~、そうですね」

「なるほど……」

「……」

 カイエ、アイリーン、アントニオの順に納得したように頷く。

 片や、”月の女神の寵児”の名を戴く、美貌の弟王子、片や、”氷の王子”の二つ名を持つ、麗しい兄王子。女神の子供の美貌を有する彼らは、その存在だけで普通の人間を金縛りにするのだ。

「俺達は、やっと慣れてきましたがね、あなた達の顔は、歩く凶器なんですよ」

 ひどい言われようだ。

 ユージンの言葉を聞いたリュセルは、顔を引きつらせながらもとりあえず頷いた。

「……じゃ、じゃあ、こちらは作戦なしという事で」

 二十四年間、向こうの世界で平凡に暮らしていたリュセルは、現在の自分の美貌についてよく理解していた。

「僕は、早速、その抜け道とやらに向かうよ」

 すたすたと、部屋を出て行こうとするローウェンにアイリーンが続く。

「ご案内致します」

「うん」

 二人がいなくなると、レオンハルトも立ち上がった。

「私達も行こう」

「ああ」

 兄の言葉に、リュセルは深く頷いたのだった。





 一方……、厨房内では

「は、は、はあああっくしょおおおん!」

 馬鹿でかいくしゃみをした父王に対し、待機に疲れて厨房にあったテーブルに腰をかけていたカイルーズは、冷めた口調で言った。

「そんな格好でいると、風邪をひくかもね」

「そうしたら、カイル、パパを看病してくれるかい?」

「はっはっはっ、ご冗談を」

 冷たい息子の言葉を聞いたジェイドは、次の瞬間、シュンと項垂れた。そんなふんどし一丁という姿の父王に、カイルーズは内心ため息をつく。

(国王のこんな姿、誰にも見せられないね)

「くそっ、うるせーんだよ! お前らッ」

「いやいや、すまんすまん」

 全然すまなそうじゃない謝り方をジェイドは、穏やかな声で尋ねた。

「君は、何がしたいのだい?」

「なんだと?」

「ああ、まだ名前を聞いてなかったね? 私の名はジェイド。君は?」

「マイク」

 とっさにそう答えてしまう程、さりげない聞き方だった。

「では、マイク。何をしに、ここに来たのかな?」

 優しい声で尋ねるジェイドに、マイクは警戒心を少しだけ緩める。

「セリアが、別れるって、書き置きをしていなくなったから……、だから、刺してやったんだ!」

 セリアとは、最初にマイクが人質にしていた、傷を負った侍女の事のようだ。
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