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第六章 北の神童
6-2 転移装置の完成
しおりを挟む「おかえり。転移装置の設置、済んだよ」
城に戻ると、すぐさまやってきたローウェンがそう言って、にっこりと笑った。
「ご苦労だったね」
レオンハルトがそう言うと、ローウェンは両手を広げて小首を傾げた。
「全然、苦労なんてしてないよ。もう、すっごく、楽勝! さすが僕、天才!」
「自分で言うな」
リュセルはそうつっこみながら、ローウェンの額を軽く小突く。
「試運転がてら、僕、このままサンジェイラに帰るね」
リュセルに構われながら、ローウェンはそう告げた。
「そうか。お前も玉主として、いつまでも半身の傍を離れている訳にもいかないだろうからね」
「……うん」
レオンハルトの言葉に、ローウェンはぎこちなく頷いた。
(またか)
リュセルは内心、嘆息する。この、素直で人懐っこい少年は、自分の半身の話になると、表情が強張るか邪悪な表情になるかのどちらかだ。
「では、見送ろう」
レオンハルトはそう言って、ローウェンの頭を撫でると、すぐ傍の壁に向かって右手をかざし、かざしたその手をゆっくりと左に平行移動させた。
次の瞬間
「!?」
リュセルは、壁だった所に階段が現れる瞬間を初めて見た。すうっっと、まるで手品のように階段が出現したのだ。
(こうやって、封印の間への道を繋げていたのか)
リュセルは、やっと謎が解けて、少しすっきりした気分だ。
長い階段を降りると、リュセルが一度だけ来た事のある、女神の剣の封印の間にたどり着いた。だが、前回来た時と、部屋の様子は様変わりしている。ディエラ国の封印の間で見た装置とまったく同じものが、このアシェイラの封印の間にも出来ていたからだ。
装置の中心には、(今日は浄化任務の為、剣を持ち出していたので剣を抱えていないが)女神の剣を抱く女神像がある。
「これを、今日一日で作ったのか?」
リュセルは信じられない気持ちで、隣でパネルを操作しているローウェンに聞いた。
「うん。材料の調達とかは、ユンユンやアイアイやトニオに手伝ってもらったケドね」
「……誰だって?」
聞き慣れない名前を聞いたリュセルは、眉をひそめた。
「レオンハルト兄さんの騎士達だよ」
ユンユン=ユージン
アイアイ=アイリーン
トニオ=アントニオ
という事か。
「なる程。って、何変な呼び方してるんだ!?」
「え~、可愛くていいじゃない。……あっそうだ、レオンハルト兄さん、これ」
パネルの調整が済んだのか、ローウェンは近くに置いていた小冊子をレオンハルトに渡した。
「なんだ?」
リュセルも横から、レオンハルトの受け取ったそれを覗き込む。表紙に黒猫ノンちゃんの絵が描かれた小冊子に、リュセルは胸をときめかせていたが、ローウェンはあっさりとした口調で言った。
「マニュアルだよ。まとめておいたから、後で読んでね」
抜かりない……。
リュセルは、大人顔負けの手際の良さに舌を巻いた。
「じゃあ、リュセル兄さん、レオンハルト兄さん。お別れだね」
寂しそうなローウェンの言葉を聞いたリュセルも寂しくなる。なんだかんだで、ローウェンは、少し変わっているが、可愛いいい子だったし、弟のような気持ちで接していた。
「こうして装置を設置してくれたおかげで、距離なんてなくなったんだ。また、いつでも遊びに来るといい」
リュセルはそう言うと、ローウェンの前髪を払って、その白い額に口づけた。
「うん。ありがとう、リュセル兄さん」
「ローウェン……」
悲しそうに笑うローウェンに、レオンハルトは身をかがめると彼に目線を合わせた。
「北の神童と呼ばれ、広い知識を持つ学者でも敵わぬ程の知識を有しているお前だが、自分がまだ、庇護されるべき子供だという事を決して忘れるんじゃないよ」
「……? う、うん」
厳しい顔で当たり前な事を言うレオンハルトの真剣な琥珀の瞳を見返し、ローウェンは戸惑いながらも小さく頷いた。
「それと、もしかしたら、近々サンジェイラに赴く事になるかもしれないから、その時はよろしく頼む」
レオンハルトの言葉に、ローウェンは目線を厳しくすると言った。
「ルルドの葉の事?」
「そうだ」
レオンハルトの短い返事の中に、深刻さを感じ取ったローウェンは頷く。
「わかった。国王陛下に報告しておく」
その固い声音に、リュセルは内心いぶかしんだ。国王陛下とは、つまりは彼の父親の事である。自分の父親の事を、いくら国王だからといって、国王陛下と呼ぶだろうか?
「……リュセル兄さん、レオンハルト兄さん。もし二人がサンジェイラに来る事になって、入国したら…………、たぶん、サンジェイラでの僕は、今の僕とだいぶイメージが違ってると思うんだ」
「どんな風にだ?」
ローウェンの言葉の意味がわからず、問い返したリュセルに、目の前の少年は呟くように言った。
「うまく言えないケド……、でも、そんな僕でも、嫌いにならないでいてくれる?」
不安そうに見上げて来る右の蒼天の瞳の愛らしさ。リュセルは完全にやられた。
「嫌いになんてなるものか! 父上はいつだって、お前の事を想っている!」
またしても親子ネタで、ローウェンをきつく抱きしめたリュセルと一緒に、レオンハルトもローウェンの頭を撫でた。
「父上、母上~~~!」
ノリノリのローウェンに、レオンハルトは小さくため息をつく。この先も、この二人の親子ノリに付き合う事になりそうである。
「またね。リュセル兄さん、レオンハルト兄さん」
それから、アシェイラの剣主剣鍵コンビからようやく離れると、ローウェンは装置の中央に立ち、手を振った。
「ああ」
「またな」
レオンハルト、リュセルの順にそう言うと、次の瞬間、室内を銀の光が埋め尽くしたのだった。
「じゃあね~、バイバ~イ!」
そんな言葉を残して、ローウェンの姿は銀の光が消えると同時に、なくなっていた。
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