【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第六章 北の神童 

6-3 疑惑のサンジェイラ国

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「行っちゃったな」

 リュセルは転移装置のすごさに驚きながらも、呆然とそう呟いた。

「ああ」

 せっかく来たのだから、ついでとばかりに、持っていた女神の剣を女神像の腕の中に納めていたレオンハルトは言った。

「どうせ、すぐに会う事になる」

「さっきも言っていたが、あの立てこもり犯が常習していたという、ルルドの葉の事か?」

「ああ。少し調べてみたが、ルルドの葉の中毒患者が、この数年でかなり増えている。その影響は、アシェイラとディエラにも及び、そのすべてがサンジェイラからの流出だ」

 レオンハルトの苦々しい声を聞き、リュセルも眉をひそめた。 一体、女神の玉を所有する、玉守りの王国、サンジェイラ国はどうしてしまったというのだろう。

「本来、私達女神の子供は、邪気浄化以外の責任を負わないが、ルルドの葉だけは話が別だ」

 そう言うレオンハルトの顔は、いつもと変わらないが、纏う空気がかなり厳しい。それ程、深刻な事態なのだ。

「何故?」

 リュセルの問いに顔を上げると、レオンハルトは答えた。

「ルルドの葉は、邪気の影響で育った木の葉なのだ」

「なんだと!?」

 予想だにしていなかった答えに、リュセルは驚きに目を見張る。

「北のサンジェイラ国内に生息しているという事しかわからない幻の木だ。誰かが、そのルルドの木から葉を摘み取り、薬にして売りさばいている。……おそらく、サンジェイラ国の要職にある者」

「何故、そう思うんだ?」

「ローウェンは、国は今、火の車だと言っていたが、国庫は火の車でも、城内は贅沢の限りを尽くしているらしい……」

 レオンハルトの言わんとしている事を感じ取り、リュセルは青ざめた。

「レオン。お前、もしかして……」

 弟の視線に、レオンハルトは大きく頷いた。

「私は、サンジェイラ国王、ミゼールを疑っている」

 予想通りの答えに、リュセルは衝撃のあまりしばらく頭が働かなかった。



*****



「マスターはまだ目覚めないの?」

 人が住まなくなって久しい、古ぼけた屋敷に、妙齢の女の声が響き渡った。この屋敷は、彼女の主の力で、世界から遮断された亜空間に存在していた。

「はい。今、マスターは長の眠りにつかれている為、しばらく目覚められませんよ、スイ」

 全身から匂い立つような色香を振りまいているような女が誘うように豊満な胸を背後から押し付けて来ても、その青年の落ち着き払った口調は変わらなかった。

「つれないわね。サイレン……」

 スイと呼ばれた女は、テラテラと光る赤い唇を一嘗めすると、つまらなそうに言った。

「クロードも再起に時間がかかりそうだし。それじゃあ、あたしは、とりあえず、このまま予定通りにサンジェイラを滅ぼすわよ」

 スイは、背中を流れる、自分の焦げ茶色の髪を一筋とって玩びながら、主一筋の同僚の背中をチラリと見た。

「そうでしたね。あなたはそちらを担当しているんでした。どうですか?サンジェイラ国は」

 ようやく、同僚の似非臭い紳士顔が、スイの方に向けられる。

「ようやく快適になって来そうだわ。あなたにもらった邪気の木の苗木も、スクスクと育ってくれているし、それから採れる葉のおかげで、人間達は勝手に自滅していってくれているわよ。サンジェイラ王都は、結界もうまく働かなくなっている程、内から腐って来ているわ」

 スイの報告を聞いたサイレンも嬉しそうに笑った。

「それは、上々ですねぇ。マスターも喜びます。ディエラもアシェイラも、ガードが固いですから……、結界も強固ですし。まずは、比較的御しやすい、サンジェイラから目をつけて正解でした」

「あたしは種をまいただけ。後は勝手に、あの馬鹿な王がそれを育ててくれたし……、ま、楽な仕事だったわ」

 うふふと、色っぽい笑みを浮かべるスイに対し、サイレンも頷く。

「サンジェイラを滅ぼした暁には、忌々しい女神の宝の一つ、我らの力を払う事の出来る玉を粉砕してやりましょう。玉主が幼く、心に闇を抱えている、今がチャンスです」

「玉鍵の力もたいした事ないし、本当、あたしが言うのもなんだけど、たいした事ない国だわ。拍子抜けする程にね」

 両手を広げて肩をすくめるスイを咎めるようにサイレンは言った。

「油断は禁物ですよ、スイ。クロードの件を忘れましたか? あれは、彼の油断が招いた結果です」

「わかってるわよ。あっ、そうそう、たぶん、そろそろ、アシェイラの剣主と剣鍵が、サンジェイラの内情を知って乗り出してくるわよ。邪気の葉が、あっちまで流出し始めたから」

 思い出したようなスイの報告を聞いたサイレンはニヤリと笑った。

「そうですか……。それはいいですね」

 紳士顔から、本性を丸出しにし、凶悪な顔になったサイレンに、スイはあきれたように言った。

「やっぱり、マスターご執心の剣鍵の事を考えてるの?」

「もちろんです。隙あらば、彼を連れ攫ってもらえませんかねぇ……。私はマスターのお傍を離れられませんし。鏡鍵の時のように、様子を伺う事も出来ないんですよ」

 すぐに元の紳士顔に戻って、困ったように首を傾げたサイレンの要望を聞いたスイは、小さく頷いた。

「まぁ、余裕があったらね。そっちはまだ、優先事項じゃないんでしょう?」

「ええ。マスターも眠ったままですし、サンジェイラの滅亡を優先させていただいて結構ですよ。・でも、いずれはこちらで貰い受けますけれどね」

 サイレンはサラリとそう言うと、その優しそうな容貌によく似合う上品な微笑みを浮かべた。

「ん、わかったわ。じゃ、あたしは、サンジェイラに戻るわよ」

 スイはそう言うと、サイレンにヒラヒラと右手を振って、その部屋を後にした。

「ご苦労様です、スイ」

 労いの言葉を同僚に向けて放つと、サイレンは部屋の奥に広がる、巨大な水晶の中に横たわる黒髪の少年の姿を見つめた。

 その幼き頬には、痛々しい涙の跡が残っている。

 ー姉上……ー

 弱々しいそんな思念が、サイレンの脳に直接届いた。
 彼が夢に見るは、愛しい姉神に拒絶された、悲しい思い出か……。本当に望むのは、自分のみを愛してくれる姉、レイデュークの存在のみ。

「ゆっくりお休み下さい、マスター。あなた様が眠っていらっしゃる間に、忌々しい女神の宝を壊して差し上げます」

 あの不吉な程神聖な力を秘めた、三つの宝の内の一つ。

 女神の玉を……!

 神聖なる誓いを捧げるかのように、サイレンはその場に跪き深く頭を垂れた。


「我が主、スノーデューク様」
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