【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第七章 黄昏往く国

1-1 サンジェイラ王族

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「アシェイラ国の剣主殿と剣鍵殿が、近々、サンジェイラに入国するぞ」

 不意に思いついたようにそう言ったのは、五十歳前後程の中年の男だった。
 薄い衣を羽織っただけという、悩ましい姿の美姫を両腕に抱いたその男は、青白い顔色と痩せた体から、実年齢よりもだいぶ老けて見える。

 所々白髪が目立つ黒髪、欲望のみを映し出す灰褐色の瞳。

 自堕落に昼間から酒に溺れている男が座る椅子は、この国の最高権力者のみ座ることを許された尊い椅子……つまり、玉座であった。

 彼こそは、黄昏往くサンジェイラの元凶、ミゼール・サンジェイラ。スノウ大陸北の大地に存在する国、サンジェイラの国王である。

 そして、そんな王の傍に控えるのは、六人の王子。先程の彼の言葉は、この六人の息子達に向けられた言葉であった。

「急ですね。一体、何故に?」

 生真面目な表情で尋ねたのは、その真面目な声の印象通りの、実直そうな薄茶色の髪の青年。

 第四王子 シオン

「あれじゃないですか? 帰還なさった、え~っと、リュセル王子の顔見せとか」

 おっとりとそう言ったのは、垂れた目が印象的な焦げ茶色の髪の青年。

 第二王子 アサギ

「へ~。あの、噂に聞く”深窓の姫君”か。それは、是非、お会いしてみたいものだ。しかも、麗しのレオンハルト王子にもお会いできるなんて楽しみだな」

 そう言って意味深に笑った黒髪のハンサムな青年。父親によく似た好色さを隠しもしない彼に対し、すぐ隣にいた振袖姿の少年がすぐさま突っ込みを入れた。

「レイン兄様は、綺麗な人なら誰でもいいんでしょ? 五年前にレオンハルト王子に言い寄って、とんでもない目に遭わされたってのに、本当、まったく懲りていないのね」

 第三王子 レイン
 第六王子 スカイ

「ね~え、父上。そんな、他国の高貴な方々のお相手は、僕にしかできないんじゃないかなあ」

 金や銀をあしらった羽織袴という派手な格好の青年が、猫撫で声で父王に擦り寄るのを見た他の王子達はしんっとなった。この青年が、気分屋で気性の荒い父王の一番の気に入りである事を知っているからだ。

 第一王子 ソウル

 サンジェイラの王位継承者である。

 そう、今、この場には、十三人いる王子の中でも王位への継承順位の高い五人の王子がそろっていたのだ。

 そして、もう一人……。

「筋からいって、二方の相手は、我(われ)かローウェンがするのが妥当であろう。女神の子供の相手は、女神の子供がするのが道理」

 今まで黙していた少年がそう告げるのを聞いて、ソウルは憎々しげにその少年を睨みつけた。

 第一王子であり王位継承者、その上、絶大なる権力を持つ父王の寵愛を一身に受けたソウルの権威が唯一効かぬ存在。それが、この古風な話し方をする少年だった。

 第五王子 アルティス

 北方の地で見る事のない褐色の肌と、濡れたような漆黒の髪、闇色の瞳を持つ、エキゾチックな印象の少年である。彼こそがサンジェイラの当代の玉鍵。
 王家に対する責務を持たない彼に、王位継承者の驕りが通じないのも当然であった。

 夜そのものの美貌から、”夜の支配者”と呼ばれるアルティスが身に着けるのは、紫蝶の刺繍が美しい黒の直衣である。妖しく美しいその衣装は、彼にしか着こなす事は出来まい。

「なんだよ、アルティス~。独り占めかよ」

 よせばいいのに、怖い者知らずのレインが、お気に入りの美貌に近づいて、弟の夜の美貌を上から覗き込み、肩先に散った巻き毛を指に巻きつける。

「そんな低俗な事考えていない故、安心めされよ。レイン兄上」

 そうささやき、うっそりと妖しく微笑んだアルティスの美貌を間近で見つめた、綺麗なもの好きのレインは、内心ゾクゾクとしていた。

 変態である。

 低俗と遠まわしに貶されたというのに、何故かものすごく嬉しそうな兄の顔を見たシオンは、気味の悪いものを見るような目をレインに向ける。

「わかった。剣主殿と剣鍵殿の相手は、お前に任せよう。アルティス」

「父上!」

 引退して表舞台から退いたとはいえ、今だ大きな影響力を持つ先代の王、つまりは、ミゼールの父親であり、六人の王子達の祖父でもあるメルティス前王に寵愛され、庇護されているアルティスに関しては、ミゼールも下手な手出しは出来ない上、その意志を尊重せねばならなかった。

 そんな事、全く関係ないと言わんばかりに、ソウルは大きく頬を膨らませて不満をあらわにする。すっかり憤慨した様子の愛息子の様子を見たミゼールは、彼の機嫌をとるように、猫撫で声で言った。

「ソウル、お前には好きなものをなんでもやるから、そんなに怒るな」

「本当ですか!?」

 父王の申し出に、ぱあっと顔を輝かせた一番上の兄を、他の王子達はしらけたような目で見ていた。

 甘え上手で、父王に対するごますりもうまいソウルに逆らうと、父王の手ひどい仕打ちを受ける為、黙しているが、考える事は一緒だった。

 こんなのが王位継承者では、国の恥である。……と。

「二人の到着は明後日だ。頼むぞ、アルティス」

「はい」

 ミゼールの言葉にアルティスが鷹揚に頷いたのを合図に、父王べったりのソウルを抜かした五人の王子は、謁見の間を退出した。


「そういえば、ローウェンの奴、アシェイラに行ってきたんだよなぁ。レオンハルト王子の様子と、例の、深窓の姫君の王子についてちょっくら聞いて来るかな。あの、天使のような愛らしい美貌も、しばらく拝んでないし」

 謁見の間を出た後、すぐにニヤリと笑ってそんな事を言ったレインに対し、シオンとスカイは思いきり不快そうな顔をした。

「あいつの事を話すのはやめて下さい、兄上。……汚らわしい」

 シオンの吐き捨てるような台詞を聞いたスカイも深く頷く。

「いっくら、女神の子供の美貌を有するったって、あいつは僕達と違うんだよ。なんせ、母親がただの奉公人……つまり、庶民なんだから!」

 言葉と共に地団太を踏んだ為、スカイの着る赤地の艶やかな振袖の袖が揺れた。

「まあまあ、落ち着けよ。そんなに目くじらたてんな」

 そう言って、レインは、ツインテールに束ねられた弟の髪を撫でる。撫でられたスカイは、子供扱いされて不満そうにしながらも、気持ちが治まったのか、ぷいっと横を向いて不機嫌さをアピールした。

「アルティスは、ローウェンから何か聞いてないのかい?」

 のほほんとそう聞いたアサギに対し、視線を向ける事なくアルティスは答えた。

「必要ない」

「冷たいねぇ。確か、女神の子供の半身同士って、相手の存在至上主義なんじゃなかったっけ?」

 切り捨てるようなアルティスの言葉を聞き、ため息をつきながらアサギは首を傾げる。

「そうそう、ディエラの鏡主と鏡鍵コンビなんて、まさに目の保養になる位の密着ぶりだったもんな~」

「そこの変態さんは黙っていてください」

 レインの言葉にシオンが冷たくそう言い放つと、スカイが唇をとがらせたまま言った。

「しょ~がないよ! アルティス兄様の半身は、あのローウェンだよ!? 汚らわしい、田舎娘の血が混ざった子供だって、お祖父様だって言ってたし。ねぇ、アルティス兄様?」

「……」

 スカイの言葉にアルティスは無言で答える。

「い~じゃないか。あれだけ可愛ければ」

 顔面至上主義なレインの、のん気な言葉を聞いたスカイは、またしてもキャンキャンと食って掛かった。

「どこが可愛いんだよ、あんな奴! ”北の神童”なんて呼ばれて、ちょっと頭がいいからっていい気になってる奴っ」

「……なってるかぁ?」

 首を傾げるレインの答えを聞いたスカイは、カンカンに怒った。

「相手にするな、スカイ。レイン兄上は、綺麗なものが大好きという、父上譲りの好色男なんだ。あいつ、顔だけは、アルティス兄上のように、ありえない位綺麗だからな」

 スカイを宥めるように、シオンは冷静にそう言うが、それを聞いたレインは口元をヒクつかせた。

「お前、兄に対してなんて言い様だ」

「本当の事です」

 火花を散らし始めた二人の間に入って、アサギは「まあまあまあ」と宥めた。

 兄弟が多いと大変である。

「お前も、たまにはローウェンに構ってあげたら? 一応、半身なんだし」

 平和主義のアサギが穏やかにアルティスに言うと、アルティスは冷たく言い返した。

「任務はきちんとこなしている。これ以上、我があやつに望むものは何もない」

 その言葉にアサギは小さくため息をつき、シオンとスカイは当然とでも言うように深く頷いた。そしてそんな中、レインの意識だけは、ローウェンから逸れ、これからやってくる美貌の客人達に向いていた。

(リュセル王子か……。きっと、儚げな美青年なんだろうな。会うのが楽しみだ)

 何故か、えらい勘違いをしていたのだった。

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