【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

文字の大きさ
75 / 424
第七章 黄昏往く国

1-2 お義姉様の忠告①

しおりを挟む



*****



「……はあ」

 雲ひとつ無い、快晴。うららかな午後。そんな、平和なアシェイラ城の一室に、リュセルの憂鬱なため息が響き渡っていた。

「どうしたんですか? リュセル殿下」

 憂いを帯びた横顔が様になる美貌の主に、彼の側付きである小姓のティルは、心配そうに尋ねる。

「どうしたもこうしたも……。これを見ろ、ティル」

 疲れきったような、うつろな笑みを浮かべたリュセルは、ソファ前のテーブルを指差す。その先にあったのは、手紙の山。ティルは驚きに目を丸くした。

「これ全部、恋文(ラブレター)ですか!?」

「しかも、相手は全部男だ」

 リュセルはそう言うと、ソファに深く沈みこむ。

「何故か、俺に関する変な噂が飛び交っているようだ。くそっ、これもジュリナ殿が俺を深窓の姫君だなんて、吟遊詩人の前で公言するからだ!」

 いつの間にやら、リュセルは、か弱くも麗しい世間知らずの美姫のような王子のイメージがついてしまったようなのだ。

 イメージに合っていなくもないのだが、リュセルの美貌は、決して噂通りの女性的なものではなく、男性的な……、どちらかというと、男性が羨む類の美貌である。体もしなやかに引き締まっているし、身長も180cmある。

「しかも、この手紙の主の中には、完璧に俺を、第三王子ではなく、第一王女だと思っている輩もいるぞ」

 漏れ聞いた話をまとめますと、リュセル王子は

 腰まで流れる銀糸の髪が艶やかに美しく(リュセルの髪は短い)

 つぶらな銀の瞳の(リュセルの目は鋭い)

 抜けるような白い柔肌の(鍛えてもいないのに鍛えられた体をしているので、それなりに筋肉もついている為、柔らかいはずがない)

 それはそれは、麗しい王子(王女?)なのだそうだ。

 一体、誰だ、それは?

 リュセルは頭が痛くなった。

 月の女神の寵児という二つ名のみで呼ばれていた頃は、かなりあいまいに表現されていた為、なんともなかったが、これはひどすぎる。

 すべて、ジュリナの所為である。

「深窓の姫君だなんて表現すれば、アシェイラの事をよく知らない、他国の、それも、王家に縁のない国民達などは、王女と勘違いするのは目に見えてるじゃないか」

 しかも、自分達女神の子供は、滅多に国民の前に姿をさらさないのである。これでは、”リュセル王子”は誤解を受けたまま、世間にその特徴が広がっていく事になってしまう。

「アシェイラとディエラ、遠く離れていながら、ジュリナ殿の多大な影響力に、俺は……ストレスで頭が禿げそうだ」

「ふふふふ」とうつろに笑うリュセルのおかしな様子を見守っていたティルは、次の瞬間、叫び声を上げた。

「嫌です! リュセル王子の、美しい銀髪がすべて抜け落ちるなんてっ」

「何も全部だなんて言ってないだろう?」

 リュセルはティルの勘違いに疲れたように突っ込んだ。

「ストレスを溜めないようにしましょうね。ねっ!? リュセル殿下」

「できればね」

 リュセルの頭髪を守ろうと懸命なティルに、リュセルは気のない返事を返す。ティルはその様子にハラハラしながらも、ふとある事に気づいた。

「レオンハルト殿下は、この事をご存知なんですか?」

「言えるか。こんなくだらん事……。第一、レオンは、今、サンジェイラの事で忙しいんだ。馬鹿馬鹿しい手紙と噂の事で、気を揉ませたくない」

 眉間の皺をもみながらそう言ったリュセルに、ティルは「そうですか」と納得した。おそらく、レオンハルトがこの手紙の事を知っていたら、弟の手元に来る前に灰にしていただろうと予測がつくからだ。

「明日、サンジェイラ国に行かれるんですよね。またリュセル殿下が城からいなくなるのは寂しいですけれど、立派に留守を守りますね」

 健気なティルの言葉を聞いたリュセルは、忌々しい手紙から意識を逸らして、可愛い小姓の少年に微笑みかけた。

「ああ、頼んだよティル」

 ティルは、甘いその微笑に昇天しかけてしまった。

 ちょうど……、その瞬間だった。


「っ!」


 白昼夢のように、リュセルの瞳に、まばゆい銀の光が一気に映りこんだ。

 銀の光
 女神像
 朱金の髪

 残像のように銀の瞳に映し出された映像に、リュセルはため息をついた。

「噂の元凶が、向こうから来たか」

「え?」

 美貌の主の言っている意味がわからずに首を傾げたティルは、その言葉の意味をすぐ理解する事になる。


 バッターン

 けたたましい音を立てて、部屋の扉が開いたかと思ったら、勇ましい美女と可憐な美少女がそこに立っていたのだ。

「!?」

 二人と初対面のティルは、彼女達の持つ圧倒的な美に一瞬圧倒されかけたが、自分の主の顔で免疫が最近ついて来ていた為、我に帰るのは早かった。

「よお、リュセル。いい子にしていたかい?」

「…………」

 第一声がそれですか?

 大股で近づいて来る、迫力ある朱金の髪の男装の美女に向って、リュセルは皮肉に笑った。

「これはこれは、変な噂が広まる元凶となったジュリナさんじゃ、あ~りませんか」

 はんっと、鼻で笑って可愛くない態度をとる妹の婚約者に対し、ジュリナは眉をしかめた。

「……? 何、怒ってるんだい?」

「…………」

 そうか、わからないか。

 リュセルは頭に血を上らせたままソファから立ち上がると、ジュリナを見下ろした。

「あなたは何気なく言った事かもしれないが、こっちはいい迷惑してるんだ! 毎日毎日、男から気色の悪い手紙を寄こされて……って、おい、聞いているのか?」

 リュセルの怒鳴り声などどこ吹く風で、ジロジロとこちらを見ているジュリナに拍子抜けしてしまう。

「お前……痩せたか?」

 そして、厄介な事に言葉のキャッチボールが、完全に出来ていない。リュセルが脱力した次の瞬間、ジュリナはとんでもない行動にでた。
 リュセルの脇の下に手を入れると、父親が幼子にするようにヒョイッと、自分よりも背も高く体格もいい青年の体を抱き上げたのだ。

「っ!?」

 咄嗟にジュリナの肩に手をついて体を支えるが、一瞬、リュセルは何が起こったかわからない程、衝撃を受けた。

 いわゆる、高い高いをされた状態のリュセルは、次の瞬間、我に帰ると頬を赤く染め上げた。

「なっ、なっ、なっ……!」

「う~ん、やっぱりちょっと軽いか? ちゃんと食べてるのかい?」

 リュセルを床の上に戻すと、ジュリナは心配そうに尋ねてくる。

 これでは、怒りたくても怒れない。

(ティルには悪いが、俺はいつか、絶対ストレスで禿げる)

 リュセルがそう思いながらもため息をついた時、彼の癒しの元たる少女が優しく言った。

「お久しぶりです、リュセル様」

 暖かい微笑み。それを見た瞬間、室内が春になった。花の精のように可憐な美少女。自分の婚約者でもあるティアラ姫だ。

「お久しぶりです、ティアラ姫。またこうしてお会いできて光栄です」

 そう言って微笑むと、その白い手の甲に口づける。

「……で? レオンハルトはどうしたんだい?」

 一方、腐れ縁の幼なじみの姿がないのに気づいて、ジュリナはあたりを見回す。そんな彼女の問いに対し、リュセルは答えた。

「サンジェイラの事を調べている。というか、ほとんどルルドの葉の事をだが」

 その言葉を聞いたジュリナとティアラの顔が目に見えて強張った。

「明日だったね。あの国に行くのは……」

「ああ」

 リュセルは頷くと、二人をソファに座らせるように導いて、ティルにお茶の用意を頼んだ。

 主の指示に従順に頷いたティルが遠ざかって行くのを見届けると、ジュリナは言った。

「ルルドの葉の被害は、ディエラでも何件か報告されている。レオンハルトは5年の間あの国に行っていないようだが、私達は、つい数ヶ月前に共同任務でサンジェイラに赴いてるんだ。だから、何か力になれないかと思って、転移装置を発動させてやってきたのさ」

 真剣な表情でそう言ったジュリナに呼応するようにティアラも頷く。

「後、リュセル様にサンジェイラ王家の内情も、お伝えできればと思いましたの」

「サンジェイラ王家の内情?」

 リュセルがティアラの言葉に尋ね返すと、今度はジュリナが言った。

「あの国は、アシェイラやディエラと違って、相当複雑だぞ」

「サンジェイラ王家が大所帯だという事は、この前ローウェンから聞いたが」

 リュセルがそう答えて眉をひそめると、ジュリナは小さく頷いた。

「王子が十三人、王女が七人、正妃一人と側室五人。合わせて二十人いる王家の子供の中で、正妃たるレティシア妃の産んだ子供はただ一人。第五王子、アルティスのみだ」

「玉鍵だな」

 とりあえず、覚えきれないのでメモしておこうと、懐から黒猫ノンちゃんのメモ帳を出すと、リュセルはそれにサンジェイラ情報を書き込みだした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。

天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】 さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。 英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。 この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。 「さあ気に入ったsubを娶れ」 「パートナーはいいぞ」 とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。 待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。 平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

処理中です...