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第七章 黄昏往く国
1-3 お義姉様の忠告②
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「そうだ。サンジェイラの国王はミゼール王だが、あの国は、今だに前王メルティスの権威が大きい。まあ、立場的には、たんなる隠居じじいなんだが……、メルティス前王は、なんというか、昔気質の徹底した身分主義の持ち主で、正妃が産んだ唯一の王子たるアルティスを寵愛し、庇護しているんだ」
「では、他の王子や王女は側室の子供なのか?」
リュセルの疑問に、ジュリナはあいまいに頷く。
「一人を除いてはね。……ローウェンの母親は、ミゼール王の部屋付きの侍女だったんだ」
(正妃と五人の側室でさえ飽き足らず、侍女にまで手を出したのか)
どうしようもない好色王である。
「私達があの国に行った時も、ミゼール王は真昼間から謁見の間で城中の女達を集めて酒盛りしてたからねぇ。国務には一切関わっていないはずだよ。内から壊れつつある国を、ぎりぎりの段階で支えているのは、一重にメルティス前王の手腕さ。あの馬鹿王、ティアにまで手を出そうとしたんだからな」
「あの時のお姉様、素敵でしたわ」
うっとりとティアラが目を細めるのを見たリュセルは、恐る恐るジュリナに尋ねた。
「一体、何したんだ?」
「たいした事してないよ。家臣や子供達のいる前で、おもいっきり平手打ちを、あのいやらしい顔におみまいしてやっただけだ。五~六発程ね。」
ーいい加減におしっ、この馬鹿王が! オラオラオラオラッ~~~~!ー
バシバシバシバシッ
バッチコーーーーンッ
その時のこんな様子が目に浮かぶようである……。
(よく国際問題にならなかったな)
リュセルのそんな考えを読んで、ジュリナは憤慨したように言った。
「他国の女神の娘に手を出そうとしたんだ。至高の存在であるはずの私達にね。非は完全に向こうにある……。だから、逆に私達がメルティス前王に土下座されて、彼の顔を立てて穏便に済ませてやったんだ」
当時のミゼール王に対する憎憎しい気持ちが甦ってきたのか、ジュリナの深紅の瞳に怒りがにじんでいた。
瞬間、ローウェンの言葉が脳裏に蘇る。
ー僕の国の王様は、アシェイラやディエラみたいに、いい王様じゃないんだ-
ディエラからアシェイラへの帰りの旅の最中に、ローウェンが何気なく洩らした言葉だ。
「本当にどうしようもない王だな」
アシェイラの賢王 ジェイド王と、ディエラの慈王 シルヴィア女王の足元にも及ばぬ愚王である。
「こうなると、次代の王位継承者に期待するしかないんじゃないか?」
リュセルの最もな意見に、ジュリナとティアラは微妙な顔つきになった。
「王位継承者……ねぇ」
「ソウル王子、ですわよね……」
二人目線を合わせて、ため息をつく
「?」
わかっていないリュセルに、ジュリナは王子達の説明もする事にした。
「第一王子ソウル。彼が王位継承者なんだが、これがまた、父親に似て、ど~しようもない奴なんだよ」
「どんな風に?」
「一言で言うなら、馬鹿王子。甘やかされて育った、典型的なお坊ちゃんだ。この世の全部が、自分中心で動いていると勘違いしている」
王位継承者にも見込みがないのか……。リュセルは本気で、サンジェイラ国には未来がないと思った。
「第二王子のアサギのが、まだマシさ。まあ、あの垂れ目は垂れ目で、いつもにこにこ笑っていて、よくわからない所があったがな」
(第一王子は馬鹿王子。第二王子は垂れ目)
リュセルのメモ帳は、次第にびっしりと文字で埋め尽くされてきていた。
「第三王子……、あ~、あれも好色王子なんだよなぁ」
うんざりしたようなジュリナの言葉を聞いたリュセルは、サンジェイラはそんなのばっかりかと、行くのが憂鬱になってきた。
「第三王子レイン。奴には気をつけろ、リュセル」
「何故?」
「女好きの父親と違い、奴の危険な所は男女問わない所だ。なにせ、レオンハルトに言い寄った事があるという、伝説の男だぞ」
空耳か……?
「あの、レオンにか?」
「ああ。あの、レオンハルトにだ」
リュセルの確認の言葉に大きく頷いたジュリナは、大げさに両手を広げる。
「ある意味、勇者だよ。その後のレオンハルトの報復は、口にするのもはばかれるような、惨い仕打ちだったらしい」
その言葉が終了すると、三人共、一瞬沈黙する。そんな、三人が三人共激怒りのレオンハルトの様子を思い浮かべ、なんとなく気まずい雰囲気になっている中、ジュリナが気を取り直して更に話を続けた。
「まあ、レインの事は気をつけるんだな。それで、後は、第四王子と第六王子だが、第四王子のシオンは真面目な堅物で、第六王子のスカイは可愛い子だよ。ちょっと高飛車だけどね。第七王子は、お前も知っているローウェンだし……。第八王子以降の王子は、まだ幼いから、気にする事もないだろう。後は、王女達だけど、サンジェイラの姫君達は、皆、慎み深い大人しい姫君ばかりだから、特にすごいのはいないよ」
「なる程。注意が必要なのは、上の五人の王子達という事か」
メモした情報を読みながら、リュセルは、「濃いなあ~」と、自分達アシェイラ王族の事を棚に上げてげんなりとした。
「それと、すぐにわかるだろうから言っておくが、サンジェイラ城でのローウェンの立場は非常に悪いもので、かなり冷遇されているからな」
「……玉主なのにか?」
「玉主でもだ。私も、キレそうになるのを、何度も我慢したんだ。ルルドの葉の根絶という目的遂行の為に事を起こすんじゃないよ。いいかい?お前達が今回あの国に行くのは、ルルドの葉の調査なんだからね。国の内情に口を挟む権利は、私達には一切ない」
リュセルは、真摯なその言葉に深く頷いた。
「肝に銘じておこう」
それにしても、話を聞く限りなんて国だ。ローウェンが自国の話題になると、口が重かった理由がこれでわかった。
「……私から言えるのは、これ位かね。気をつけて行ってくるんだよ。レオンハルトがついているんだから、心配はないと思うが」
ジュリナがそう言った、ちょうどその時、部屋の扉がおもむろに開いて、レオンハルトがいつもの仏頂面のまま入室して来た。
「何しにきた、ジュリナ」
会うなり、冷たくそう言い放ったレオンハルトに対し、ジュリナは余裕の笑みを浮かべる。
「な~に、サンジェイラ国に行くと聞いたんでね。お前達が行く前に様子を見に来たのさ」
凛々しいジュリナの美貌を、何かを探るように見つめていたレオンハルトだったが、「まあいい」とひとりごちると、ジュリナの隣に座るティアラの手を取って、その甲に口づけた。
「ようこそ、アシェイラ城へ。ティアラ姫」
「お久しぶりです、レオンハルト様」
王子として姫君への挨拶を済ませると、レオンハルトはリュセルの隣に腰を下ろした。
「あ、お戻りになられたんですね。レオンハルト殿下」
三人分の紅茶を持ってきたティルは、一旦、それを二人の客人とリュセルの前に置くと、慌ててレオンハルトの分を取りにUターンして行った。
「サンジェイラ王家の内情については、大体リュセルに説明しておいたぞ」
ティルの持ってきてくれた紅茶を、一口飲みながらジュリナは告げる。
「……」
レオンハルトは無言のまま、感情を映さない琥珀の瞳を、隣でマフィンを食べるリュセルに向けた。
「かなり、問題ありな方々ばかりのようだな」
弟の言葉を聞いたレオンハルトは、ティルから紅茶を受けとると、小さく頷いた。
「あそこは兄弟が多いからね。その分、いざこざも多い。極力係わり合いにならないようにしていくつもりだ」
兄の声の中に、わずかに苦々しさを感じ取ったリュセルは、何も考えずに言った。
「レイン王子に言い寄られたという経験からか?」
「……ジュリナ」
余計な事をと言わんばかりに、見た者が凍結してしまいそうな冷たい眼差しを向けてきたレオンハルトをジュリナは余裕の表情で見つめ返し、豪快に笑い飛ばす。
「あはははは、いいじゃないか。どうせいつかばれる事さ。……それで、何かわかったのか?」
話題を変えたジュリナに、レオンハルトは厳しい声で答えた。
「流出しているルルドの葉の出所はサンジェイラ城だ。それは間違いない」
「では、他の王子や王女は側室の子供なのか?」
リュセルの疑問に、ジュリナはあいまいに頷く。
「一人を除いてはね。……ローウェンの母親は、ミゼール王の部屋付きの侍女だったんだ」
(正妃と五人の側室でさえ飽き足らず、侍女にまで手を出したのか)
どうしようもない好色王である。
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「一体、何したんだ?」
「たいした事してないよ。家臣や子供達のいる前で、おもいっきり平手打ちを、あのいやらしい顔におみまいしてやっただけだ。五~六発程ね。」
ーいい加減におしっ、この馬鹿王が! オラオラオラオラッ~~~~!ー
バシバシバシバシッ
バッチコーーーーンッ
その時のこんな様子が目に浮かぶようである……。
(よく国際問題にならなかったな)
リュセルのそんな考えを読んで、ジュリナは憤慨したように言った。
「他国の女神の娘に手を出そうとしたんだ。至高の存在であるはずの私達にね。非は完全に向こうにある……。だから、逆に私達がメルティス前王に土下座されて、彼の顔を立てて穏便に済ませてやったんだ」
当時のミゼール王に対する憎憎しい気持ちが甦ってきたのか、ジュリナの深紅の瞳に怒りがにじんでいた。
瞬間、ローウェンの言葉が脳裏に蘇る。
ー僕の国の王様は、アシェイラやディエラみたいに、いい王様じゃないんだ-
ディエラからアシェイラへの帰りの旅の最中に、ローウェンが何気なく洩らした言葉だ。
「本当にどうしようもない王だな」
アシェイラの賢王 ジェイド王と、ディエラの慈王 シルヴィア女王の足元にも及ばぬ愚王である。
「こうなると、次代の王位継承者に期待するしかないんじゃないか?」
リュセルの最もな意見に、ジュリナとティアラは微妙な顔つきになった。
「王位継承者……ねぇ」
「ソウル王子、ですわよね……」
二人目線を合わせて、ため息をつく
「?」
わかっていないリュセルに、ジュリナは王子達の説明もする事にした。
「第一王子ソウル。彼が王位継承者なんだが、これがまた、父親に似て、ど~しようもない奴なんだよ」
「どんな風に?」
「一言で言うなら、馬鹿王子。甘やかされて育った、典型的なお坊ちゃんだ。この世の全部が、自分中心で動いていると勘違いしている」
王位継承者にも見込みがないのか……。リュセルは本気で、サンジェイラ国には未来がないと思った。
「第二王子のアサギのが、まだマシさ。まあ、あの垂れ目は垂れ目で、いつもにこにこ笑っていて、よくわからない所があったがな」
(第一王子は馬鹿王子。第二王子は垂れ目)
リュセルのメモ帳は、次第にびっしりと文字で埋め尽くされてきていた。
「第三王子……、あ~、あれも好色王子なんだよなぁ」
うんざりしたようなジュリナの言葉を聞いたリュセルは、サンジェイラはそんなのばっかりかと、行くのが憂鬱になってきた。
「第三王子レイン。奴には気をつけろ、リュセル」
「何故?」
「女好きの父親と違い、奴の危険な所は男女問わない所だ。なにせ、レオンハルトに言い寄った事があるという、伝説の男だぞ」
空耳か……?
「あの、レオンにか?」
「ああ。あの、レオンハルトにだ」
リュセルの確認の言葉に大きく頷いたジュリナは、大げさに両手を広げる。
「ある意味、勇者だよ。その後のレオンハルトの報復は、口にするのもはばかれるような、惨い仕打ちだったらしい」
その言葉が終了すると、三人共、一瞬沈黙する。そんな、三人が三人共激怒りのレオンハルトの様子を思い浮かべ、なんとなく気まずい雰囲気になっている中、ジュリナが気を取り直して更に話を続けた。
「まあ、レインの事は気をつけるんだな。それで、後は、第四王子と第六王子だが、第四王子のシオンは真面目な堅物で、第六王子のスカイは可愛い子だよ。ちょっと高飛車だけどね。第七王子は、お前も知っているローウェンだし……。第八王子以降の王子は、まだ幼いから、気にする事もないだろう。後は、王女達だけど、サンジェイラの姫君達は、皆、慎み深い大人しい姫君ばかりだから、特にすごいのはいないよ」
「なる程。注意が必要なのは、上の五人の王子達という事か」
メモした情報を読みながら、リュセルは、「濃いなあ~」と、自分達アシェイラ王族の事を棚に上げてげんなりとした。
「それと、すぐにわかるだろうから言っておくが、サンジェイラ城でのローウェンの立場は非常に悪いもので、かなり冷遇されているからな」
「……玉主なのにか?」
「玉主でもだ。私も、キレそうになるのを、何度も我慢したんだ。ルルドの葉の根絶という目的遂行の為に事を起こすんじゃないよ。いいかい?お前達が今回あの国に行くのは、ルルドの葉の調査なんだからね。国の内情に口を挟む権利は、私達には一切ない」
リュセルは、真摯なその言葉に深く頷いた。
「肝に銘じておこう」
それにしても、話を聞く限りなんて国だ。ローウェンが自国の話題になると、口が重かった理由がこれでわかった。
「……私から言えるのは、これ位かね。気をつけて行ってくるんだよ。レオンハルトがついているんだから、心配はないと思うが」
ジュリナがそう言った、ちょうどその時、部屋の扉がおもむろに開いて、レオンハルトがいつもの仏頂面のまま入室して来た。
「何しにきた、ジュリナ」
会うなり、冷たくそう言い放ったレオンハルトに対し、ジュリナは余裕の笑みを浮かべる。
「な~に、サンジェイラ国に行くと聞いたんでね。お前達が行く前に様子を見に来たのさ」
凛々しいジュリナの美貌を、何かを探るように見つめていたレオンハルトだったが、「まあいい」とひとりごちると、ジュリナの隣に座るティアラの手を取って、その甲に口づけた。
「ようこそ、アシェイラ城へ。ティアラ姫」
「お久しぶりです、レオンハルト様」
王子として姫君への挨拶を済ませると、レオンハルトはリュセルの隣に腰を下ろした。
「あ、お戻りになられたんですね。レオンハルト殿下」
三人分の紅茶を持ってきたティルは、一旦、それを二人の客人とリュセルの前に置くと、慌ててレオンハルトの分を取りにUターンして行った。
「サンジェイラ王家の内情については、大体リュセルに説明しておいたぞ」
ティルの持ってきてくれた紅茶を、一口飲みながらジュリナは告げる。
「……」
レオンハルトは無言のまま、感情を映さない琥珀の瞳を、隣でマフィンを食べるリュセルに向けた。
「かなり、問題ありな方々ばかりのようだな」
弟の言葉を聞いたレオンハルトは、ティルから紅茶を受けとると、小さく頷いた。
「あそこは兄弟が多いからね。その分、いざこざも多い。極力係わり合いにならないようにしていくつもりだ」
兄の声の中に、わずかに苦々しさを感じ取ったリュセルは、何も考えずに言った。
「レイン王子に言い寄られたという経験からか?」
「……ジュリナ」
余計な事をと言わんばかりに、見た者が凍結してしまいそうな冷たい眼差しを向けてきたレオンハルトをジュリナは余裕の表情で見つめ返し、豪快に笑い飛ばす。
「あはははは、いいじゃないか。どうせいつかばれる事さ。……それで、何かわかったのか?」
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