【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第七章 黄昏往く国

7-1 レインの蛮行

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 剣の腕はからきしダメだが、兄の直属の騎士、ユージン指導の護身術を身につけていたリュセルは、掴まれた腕をひねり返して、レインの手を離させた。

(ふうん、意外とやるね)

 レインは内心そう思いながらも、顔には胡散臭い笑顔を浮かべたまま、とりあえず彼の急所をつっついてみる事にした。

「蔵書室でずいぶん兄上と仲良くなさっていたようですが」

 瞬間、リュセルの目が驚きに見開かれる。

「実は私、あの場にいたんですよ。レオンハルト王子の方は気づいていたみたいですが、私がいようといまいと関係なかったようですね」

 あれを、見られていた?

 実兄の愛撫に溺れ、抱かれ、揺さぶられて悦ぶ姿を?

 リュセルの表情が羞恥に染まるのを堪能しつつ、レインは体格がほぼ同じという事から、このまま無理矢理は難しそうと考え、持っていた切り札を早々にリュセルに見せる事にした。

「これを見てください」

 レインが懐から出したのは透明の袋に入れられた木の葉だ。

「例の麻薬の大元ですよ。手に入れて、かなり日にちが経っていますので、枯れていますけどね」

 麻薬の大元?

 つまり、ルルドの葉、そのものという事である。

「っ!」

 咄嗟に自分に飛び掛り、手の中のルルドの葉を奪おうとしたリュセルを上手く躱し、レインは言った。

「駄目ですよ。これを手に入れる為にどれだけ多くの犠牲を払ったと思っているんです?」

「お前は、それがどんなものか分かっているのか!?」

 リュセルの威嚇するような怒鳴り声に対し、レインは飄々と答えた。

「麻薬だろ? 人間を心身共に壊す代物だ」

 敬語を無くした相手に合わせるように、いつもの口調でレインが言うと、リュセルは更に怒鳴った。

「それだけではない! それは……っ」

「それは?」

 言いよどんだ様子の相手を面白そうに見返して、そう尋ねる。しかし、それ以上、リュセルはルルドの葉に関する情報を洩らさなかった。

 (名前を教えてしまった時点で大失態なのに、これ以上しゃべるものか)

 そんな風に考えながら口を閉ざしたリュセルは、目の前の青年の出方を伺う事にする。そして、レインはというと、にやにやと厭らしい笑みを浮かべ、卑猥な交渉を持ちかけて来たのだ。

「いいぜ、これをくれてやっても……。ただし、交換条件として、俺におとなしく抱かれてくれればだけど」

 夜着の上から腰のあたりを撫でられて、リュセルの背筋に悪寒が走った。

「止めろっ!」

 思い切り拒否したリュセルは、相手を罵る。

「第一、俺は男だぞっ!? 稚児にするような年齢でもないし、体格でもない。この、変態好色王子がっ~~~~! きちんと人を見て、そういう事は言え!」

「きちんと見てるぜ。あれだけ兄貴と深い仲なくせに今更なんだ? それとも、これ、いらないのか? いらないんなら、燃やしちゃおうかな~」

 ヒラヒラと袋を揺らしてテーブルの上の燭代の火にかざそうとした瞬間、ピタリと相手の罵りの声も抵抗も止んだ。

 青い顔をして自分を見つめるリュセルに、レインはにこやかな好青年の仮面をボロボロと外していく。

「大丈夫。全部終わったら、これはあなたのものだ」

 そう言いながら、目の前の体を長椅子の上に押し倒したレインの顔は、まさに獲物を前にして舌なめずりするような肉食獣のようだった。

「蔵書室でのあなたは、本当に魅力的でした。そんなにレオンハルト王子の愛撫は巧みですか?」

 再び似非臭い敬語に戻ったレインが揶揄するように耳元でささやく。

「それとも、この体が敏感なのか……」

 そう言いながら、ペロリと耳元を舐め上げる。途端にビクリと反応する体に、レインは嬉しそうに笑った。

「両方、かな?」


(なんで、こんな目に……)

 リュセルはレインに夜着の上から体をまさぐられながら、泣きたい気持ちになった。

「リュセル王子」

 口づけを求められ、ぎょっとなる。

「口はダメだっ!」

 悲痛な叫び声を上げるリュセルを見下ろして、レインは首を傾げた。

「……ああ、そうだったな。あなた達、女神の子供にとって神聖なものだった。半身にしか許さないだったよね。すまなかったよ」

 そうささやき、夜着からのぞく白い首筋に顔を埋める。

 レオンハルトが残した歯型の上から、肌を嘗め上げられたリュセルは、嫌悪に身を震わせた。

(嫌だ)

 しかし、そんな相手の反応などお構いなしに、レインの手は均整のとれた体のラインを辿り、リュセル自身に触れる。

 それは、慣れた兄の手ではない。

 触れ方も、匂いも、声も、違う。

「ッ離せ……」

 迷いがあるのか、弱弱しく抵抗し、涙声でそう呻いたリュセルに、レインは「ふふふ」と小さく笑った。

「可愛らしい方だ」

 そのささやきと共に、無理矢理脚を開かされた。

「や……っ!」

 下衣の中に忍び込み、直接触れてくる兄のものと違う指に、リュセルは身をよじって抵抗する。

「大丈夫、すぐに嫌じゃなくなるさ」

 自身をレインの手に捕えられ、リュセルは顔を仰向かせて、瞳を恐怖に濡らした。

「ひっ……!」


 その瞬間


「テディ、戦闘モードスイッチオンっ!」

 甲高い少年の怒鳴り声が部屋中に響き渡った。


 キュピーン


 大きな起動音と共に、それまで近くでおろおろとしていただけのクマ吉の目が鈍い光を放ったかと思ったら、次の瞬間、リュセルの上にあったレインの体に、クマ吉の回し蹴りがクリティカルヒットしていた。

(ノオオオオオオっ!)

 リュセルは口をOの字に開いたまま、レインがふっとばされるのを呆然と見つめる。

「ク、クク、クマ吉……!?」

 つい、かける声がどもってしまう。

 クマ吉は蹴りを入れた後、レインに向かってシュッシュっと音を立てて、ボクサーのようなパンチを繰り出す真似をした。

「なんだ!? このクマは!」

「なんだはこっちだよ!」

 いい所で邪魔をされたレインの怒鳴り声が響くと同時に、よく見知った少年の声が響いた。

「丁重におもてなしするべき、他国の王子相手に、なんという不埒な所業」

 ポンポンポンポンという効果音を響かせて登場したのは、赤い着物風ドレスを着た金髪の美少年。左の目を白い布で覆って隠している、レインの弟の一人、ローウェンだ。

「例えお天道様が許しても、我ら、その罪許すまじ」

 同じくローウェンの後ろから現れたのは、褐色の肌をしたエキゾチックな妖しい美貌の美少年。こちらもレインの弟、アルティスだ。

「ゴーッ! テディ!」

 ローウェンの指示に、クマ吉は二人の弟の出現に唖然としていたレインの上に馬乗りになると、もこもこの両手の先から鋭い爪を出し、レインの顔に往復ビンタを何発も決めた。

「リュセル兄さん!」

 クマのぬいぐるみに襲われるレインを呆然と眺めているだけのリュセルの元へ、ローウェンは慌てて駆け寄った。

(うっ)

 着ていた夜着を無理矢理に乱されるだけ乱されたリュセルの状態は、あきらかに強姦されかけた娘さんの状態である。

「どうして、こんな奴を部屋に入れたのさああああっ! リュセル兄さんの馬鹿あああ!」

 そう叫ぶと、ローウェンは、リュセルの胸にすがってオイオイと泣き始めた。

「痛っ痛っ、痛ててててて、おいっローウェン! このクマ、なんとかしろっ!」

 クマ吉の鋭いビンタに顔を傷だらけにしながら、レインが喚く。

「なる程……。これをネタにリュセル王子に言い寄ったのだな」

 そんなレインの手から、透明な袋に入ったルルドの葉を奪うと、アルティスはうっそりと妖しく微笑んだ。

「低俗過ぎる考えに、あきれて怒る気にもならんわ」

 そう吐き捨てると、アルティスはそれを懐に入れた。

「おいっ」

 苦労して手に入れた、麻薬の大元となる葉をあっさりとアルティスに奪われたレインは、慌てて抗議の声を上げる。

「何か文句でもおありか? 兄上殿?」

 冷たい声でそう問いかけるアルティスに、レインは唇をぎゅっと噛み締めた。

「飛び込んできたのが、我らだったという事に感謝するのだな。レオンハルト王子だったら、兄上は今、この世にはおるまい。……っ!?」

 淡々とそう言っていたアルティスの漆黒の瞳が言葉の最後に大きく見開かれる。

「あ……」

 茫然自失状態だったリュセルも、やっと、この部屋目指して、ものすごい速さでやってくる気配に気づき、小さく声を上げた。

「まずい……、血の雨が降る。このままでは、兄上、そなたは殺されるぞ!」

 アルティスはそう呻くと、今だ気配に気づかずにリュセルにしがみついているローウェンを振り返った。

「ローっ!」

 自分を呼ぶ兄の声に咄嗟に反応したローウェンは、次の瞬間、扉を開け、風のような速さのまま、持っていた剣をレインに振り下ろそうとした金の瞳の青年の前に躍り出た。

 華奢な手に漆黒の大鎌を出現させると、レインの首の皮ギリギリでそれを阻止する。

「……」

 長い胡桃色の髪を乱して現れたレオンハルトの殺気のこもった視線を受けて、ローウェンはさすがにたじろいだ。しかし、今、この場にいる者の中で、宝主として無敵の戦闘力を持つレオンハルトの暴走を止められるのは、同じ宝主であるローウェンだけなのだ。

「邪魔する気か? ローウェン」

 絶対零度の低い美声に、ローウェンは恐怖にすくみ上がりそうになる。

(こ……、こ、こ、こ、怖いよおおおお!)

 恐怖で、もう、泣きそうだ。

 無表情であるという事実が、これまた恐ろしい。

 剣を引かせる気がまったくないレオンハルトは、完全にレインをこの世から抹消するつもりでいたのである。

「よせっ、レオン!」

 ローウェンを助ける為、リュセルが長椅子から立ち上がってレオンハルトに呼びかけるが、それはかなりの逆効果になった。

 金色をした気高い瞳が驚きに見開かれるのを、リュセルは見た。

「?」

 何故、そんなに驚く必要があるのかと怪訝に思うリュセルとは対照的に、ローウェンとアルティスの顔色が瞬時に変わる。

 乱されたままのリュセルの格好は、頭に血の上ったレオンハルトの怒りに油を注ぐのに効果的だったからだ。

 怒りも憂いもない、凪のような、落ち着いたレオンハルトの表情が逆に恐ろしい。こんな状態なら、まだ怒りに顔を歪めていてくれる方が、何千倍もマシだ。

(こ……、殺される)

 彼は、いざとなったら、自分ごとレインを斬り殺すつもりだと悟ったローウェンは、三番目の兄を庇った体勢のまま冷や汗を流しまくっていた。

 だが、次の瞬間、それを見守っていたアルティスが、ローウェンの横に移動すると、その場に膝をついたのである。

「アルティス」

 ローウェンの目が驚愕に見開かれる。

 あの、誇り高い兄が、土下座をしていた。

「申し訳ない、レオンハルト殿。愚兄の罪は許されるものではないとわかっておる……。それでも、こやつは、我が兄、見捨てる事は出来ぬ。我に出来るのは、そなたの慈悲にすがる事のみだ。許してくれとは言わない。ただ、見逃して欲しい」

 そう言って謝る兄に習い、ローウェンも土下座をする。

「絶対に、こんな事がないように、レイン兄上を教育するから。お願いレオンハルト兄さん、見逃して……、見逃して下さい!」

 額を地面にこすりつけるようにしてレインの助命を願う弟達の姿を見て、さすがのレインも気まずそうに顔を背けている。

 リュセルは動きを止めたレオンハルトの前に回ると、感情のない冷え切った金の瞳を見た。

「悪いのは俺だ。本来なら警告を受けていたのだから、レイン王子に対して、頑固とした態度を取るべきだった。反省している」

「……馬鹿者が」

 レオンハルトはそう言うと、そのまま踵を返して寝室へと閉じこもってしまった。

「リュセル兄さん」

 レオンハルトを怒らせてしまったと、不安そうな顔をするローウェンに微笑みかけると、リュセルは言った。

「大丈夫だ。……それより、そこの変態王子を連れて行ってくれると助かる」

 その言葉と共に、リュセルは仰向けに横たわるレインの腹部を思いきり蹴り飛ばした。

 ゴスッ

 鈍い音を立てて急所に入った蹴りに、レインは悶絶しながらウィンクした。

「まだまだ、余裕のようだな。いいだろう……」

 ゴスゴスゴスッ

 立て続けに、力の加減なく蹴り飛ばされ、レインは呻き声を上げて失神した。

 あえてリュセルを止めなかったローウェンとアルティスは、気絶した兄の体を両側から支えて立ち上がり、退室する事にした。

「ごめんね、リュセル兄さん」

 レインの狼藉を謝るローウェンの頭をくしゃくしゃに撫でるとリュセルは言った。

「いや、助かった。これは、俺の甘さが招いた事態だ」

 やっと、気づいたか!? と、アルティスとローウェンは、同時にそう思う。

 「レオンハルト兄さんが落ち着いた頃、また来るね」

 ローウェンの気遣うような言葉を最後に、そのまま部屋を出て行った兄弟を見送ると、リュセルは一つ深呼吸をして、寝室の扉を開けた。

 寝台に腰掛けたレオンハルトが鈍く光る目を向けてくる。

 弟を一人で寝かせておくべきではなかった。そう自分を責めている様子のレオンハルトに、リュセルは言った。

「お前が落ち込む事はないさ。俺の危機管理がなっていないのがいけなかったんだ。まさか、お前以外の男に襲われるとは思ってもいなかったから油断した……」

 女性にしかもてた経験のないリュセルは、そう苦笑すると、レオンハルトの端麗なる顔を上から覗き込んだ。

「すまない」

 兄の体を抱きしめると、すぐに腰に腕を回され、寝台の上に引き上げられた。

「では……、本当に何もされていないか、調べさせてもらおうか?」

 そう低音でささやくレオンハルトに、リュセルは顔を引きつらせる。しかし、おそらくレオンハルトは退かないだろう。それこそ、自分の体、すべてを暴き、調べ尽くすまで……。全部、自業自得だ。

「ああ」

 そう返事を返すと、唇を寄せてきた兄に答え、ゆっくりと目を閉じる。そうして、そのまま兄の首に腕を回し、始まった愛撫に身を任せる。これから強烈な快楽に支配される事になるであろうリュセルは、それを待ちわびている自分に気づいた。

 レインではあんなに気持ち悪かったのに、レオンハルト相手だと、すぐさま体が反応してしまう。

 どうしてだろうか……。

 やはり、兄が自分の半身だからか?

「さあ、どこに触れられたか言ってご覧」

 淫蕩なその要望を受けて、リュセルは素直に口を開く。


 再びの愛の時の始まりだった。

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