【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第七章 黄昏往く国

9-1 不穏な提案

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 初めて口内をなぶられる感触にローウェンは体を硬直させた。そんな、慣れないローウェンと違い、アルティスの導きは巧みだった。熱い口づけと、強まっていく抱擁に、ローウェンの体は小刻みに震え、足からも腕からも力が抜けていくようだ。

 背筋がゾクゾクして、なんだか変な気分。

(やっ、怖い)

 ローウェンは力の入らない腕を上げると、兄の胸を強く押した。

「っ?」

 唐突に胸を押され、口づけを一方的に解かれたアルティスは、驚きに目を見張って、目の前で顔を真赤にして涙ぐんでいる弟を見下ろす。

「ロー?」

 不思議そうな兄の声に、ローウェンは右手の甲で、今まで塞がれていた唇を隠しながら言った。

「やだっ!」

 ローウェンの拒絶の言葉に眉を寄せると、アルティスは弟の頬に触れた。

「背中がゾクゾクして、変な気持ちになるからやだ」

 その言葉に、アルティスはローウェンの幼さを実感する。

 王子として最上の教育を受けてきたアルティスは、閨での教育も受けてきたし、何せ、男兄弟が多いのだ。そういう知識は兄達から教わってきた。(特にレインにだが)
 しかし、兄弟からも敬遠され、王子としての教育を一切受けてこなかったローウェンは、性に対してまったくの無知だったのである。

(こやつ、陰の日がきおったら、どうなってしまうのだろうか)

 自分達、女神の子供にとっての、いわゆる、発情期のようなもの。強制的に体を発情させる、やっかいなものだ。

 アルティスは、一年程前に一度終わらせているから、後五年はないだろうが……。

(少しずつ、教えていくしかあるまい)

 大変かもしれないが、それが嬉しくもある。

「やだ。ではないであろう?」

 怒られると思ったのか、ローウェンはビクリと一瞬体を震わせた。

「だって……」

 上目遣いに上気した顔で見つめられて、アルティスの自制心はかなり揺らいだ。

「……お主、わざとか?」

 つい恨めしい声を出して、小首を傾げている弟を睨みつけてしまう。

 
 何故か脱力してしまった様子のアルティスを、一方のローウェンは、ハラハラしながら見守っていた。

(何か、いけない事をしてしまったのかな)

 せっかく和解して、仲良く(?)なってきているのに、また冷たくされたらどうしよう。

 演技とはいえ、冷たい無関心の対応を長年されてきたローウェンは、半身たる兄に対して、臆病になっていた。

 これは、もう、時が解決するしかないだろう。

「ア、アル? あの、なんだかわかんないケド、ごめんね」

 悲しそうに眉を寄せるローウェンにアルティスは首を振った。

「お主が謝る事ではない。よいのだ、これから少しずつ、我が色々と教えてやる故」

 ふふふと、最後に妖しい笑みをこぼしたアルティスを見つめ、ローウェンは小さく頷く。

「う、うん」

 何を教えてくれるんだろう。とのん気に考えていると、部屋の扉が荒々しく開かれた。

「たのも~~~~!」

「道場破りか、お前は」

 弟のボケに、冷たいつっこみを入れる兄。兄弟漫才のようだが、二人共、見目麗し過ぎて、そう表現するのも憚られる。

 着替えを終えて、今後の事を話す為に戻ってきた、リュセルとレオンハルトだった。

「リュセル兄さん、レオンハルト兄さん……、さっきはごめんなさい」

 自分でも忌んでいた左目をさらしてしまい、取り乱した自分の愚行を止める為に、確か、リュセルは素手で短剣の刃を掴んだはずだ。

「リュセル兄さん、怪我は平気?」

 レオンハルトが手当てしたのか、右手の包帯が痛々しいリュセルに、ローウェンはシュンとしながら聞いた。

「大丈夫、かすり傷だ」

 そう言って右手を振るリュセルの右腕を、咄嗟にレオンハルトは掴んだ。

「振るな」

「本当に、ごめんなさい」

 肩を落とすローウェンに、リュセルとレオンハルトは目を見合わせた。

「なら、もうあのような事はしないと、約束してくれ」

 リュセルの真摯な声に、ローウェンは大きく頷く。

「いい子だ」

 そして、次にレオンハルトに頭を撫でられて、ローウェンはやっとにっこりと笑ったのだった。

「大好きだよ。リュセル兄さん、レオンハルト兄さん」

 ズッキューン

 リュセルは、ハートを打ち抜かれた。

 はにかむような笑顔で告げられて、咄嗟にローウェンの華奢な体を抱きしめてしまう。

「父上も、お前の事が大好きだぞ!」

「父上、大好き!」

 今までと違い、その様子を面白くなさそうに見ているアルティスに対し、リュセルは宣言した。

「俺は、お前を、娘婿とはまだ認めていないからな」

 ビシッと、アルティスを指差して叫んだリュセルに対し、レオンハルトは感心したように頷く。

「なる程、そういう設定か。よく、考え付くものだ」

 父親=リュセル
 母親=レオンハルト
 娘=ローウェン
 娘婿=アルティス

 という配役の元、今度は家族ネタを披露したリュセルである。しかし、そんな愉快な設定に、アルティスはのってはこなかった。

(ローの初恋の相手とは、もしやリュセル殿では……?)

 見当違いの疑いの眼差しを向けるのに忙しかったのだ。

「なんか、睨まれてないか?」

「くっつき過ぎなんだ、お前は。少しローウェンから離れなさい」

 無理矢理兄によってローウェンから引き離されて、リュセルは残念そうな顔をした。

(確かに、リュセル殿は、男の目から見ても羨望の気持ちを抱いてしまうような、魅力的な方だが……。我と違い、度量も広いようだし)

「いや、何も考えていないだけさ」と、今ここでジュリナがアルティスの心の声を聞いたら、そうつっこんだだろう。

「離れても、睨まれているようなんだが」

 じっと自分を見つめるアルティスの視線を感じ、リュセルは困ったように小声でレオンハルトにささやく。

 レオンハルトはそれに小さくため息をつくと、アルティスに言った。

「アルティス、今後の事を話し合いたい。とりあえず、座って話したいのだが……」

 その言葉を聞いたアルティスも、同意するように大きく頷いた。

「我もそう思っていた。ロー暗殺が失敗したと知れたら、お祖父様はローが死ぬまで刺客を放ってくるだろう」

 アルティスの言葉にローウェンは悲しそうに目を伏せる。

 実の祖父に命を狙われるという事実は、十三歳の少年が受け入れるには重過ぎたのだ。







「僕が危篤状態に!?」


 とりあえず、四人テーブルについてテディベア軍団が作ってくれた遅めの朝食をとり終えた後、レオンハルトがそんな不穏な提案をしてきたのだ。

「今回の、服毒を原因とした危篤状態という事にして、医者以外、面会謝絶にすれば、しばらくは安心だ」

「まあ、すぐ死ななかったのは、女神の子供だからとか、なんとか、言い訳がきくからな。俺達は……」

 兄の言葉に続くようにしてリュセルが頷くと、アルティスも言った。

「では、医者はこちらで手配しよう。ローはこの城では冷遇されておるからな。王宮典医の治療は受けられぬだろうから、かえって好都合だ。信頼のおける者を知っておる」

「じゃあ、僕はずっと、この部屋に缶詰な訳?」

 今までの話を総合させ、今後の自分を予測したローウェンが不満そうな声を出すと、アルティスは言った。

「仕方なかろう? お主は狙われておるのだから」

 しかし、意外な事に、レオンハルトがそれに異を唱えたのだ。

「いや、ローウェンの戦力は貴重だ。ルルドの木を浄化する為にはね。……ローウェンの身代わりをこの部屋に置く事にしてはどうだろうか?」

「身代わり?」

 リュセルの疑問の声にレオンハルトは頷き、ローウェンに目を向けた。

「”変装眼鏡”。まだ、持っているね?」

「……ん? うん。学塔に行く時に使ってるから……って、レオンハルト兄さん、もしかして!」

 その思いつきを肯定するように深く頷いたレオンハルトを見たローウェンは慌てて立ち上がると、部屋の奥の箪笥の引き出しを漁って、何の変哲もない眼鏡を持ってきた。

「じゃ~ん! 変装眼鏡!」

「……って、何だ?」

 リュセルは胡乱げな視線をローウェンと彼が掲げた縁なしの眼鏡に向ける。

「これは、トラキアの学塔なんていう、世界のいろんな人達がたくさん集う場に通う事になったのが決まった時に、僕が作ったんだけど。……ほら、僕達の顔って目立つじゃない? これをかけると、設定した相手に対して自分が思った通りの姿になれるんだ」

 さすが、転移装置を造った超天才。

「お前、何でも作れるんだな」

 感心したようなリュセルの言葉にローウェンは照れたように笑った。

「それがあれば、身代わりが作れるのはよいが、一体誰を身代わりにするんだ?」

 続いて放たれたアルティスの疑問に対し、レオンハルトは静かな声で答える。

「あてがある」
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