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第八章 暁を呼ぶ者
5-2 第三王女ユリエ
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ローウェンが異母姉である彼女と初めて出会ったのは、母が死んでしばらくしてからだった。一人ぼっちだったローウェンに、彼女は勉強を教えてくれた。それ故に、自分にとってユリエは、姉というよりも、師という感覚の方が近いのかもしれない。
真綿が水を吸い込むようにユリエの持つ知識を吸収していったローウェンにトラキアの学塔への入学を勧めたのも彼女だ。弟の持つ知識力が自分を超えたのを知ったからであろう。
そうして、学塔に入学したローウェンは、ユリエから勉強を教わる事はなくなったが、彼女の能力の高さはよくわかっていた。
そして、それを巧妙に隠している事も。男尊女卑の強いサンジェイラ王家で生き残るにはこうするしかないのだと、賢い彼女はわかっていたのかもしれない。
カタカタカタカタ
素晴らしく早い動きで操作パネルを操作しているその少女は、ぶつぶつと独り言を言いながら、目の前に映された学塔内の見取り図に目を向ける。
「無事到着したようね。お迎えお疲れ様、シュリ」
室内に入室してきた弟達と女性の気配を悟ったのか、背を向けたままそう言った三つ編みの少女、ユリエの言葉を受け、ローウェン達をここまで案内してきた謎の女性は軽く頭を下げた。
「ちょっと待ってて、三人とも。今、警備システムを復旧させるから」
何でもないようにあっさりとそう言ったユリエは、無言でパネルを操作すると、小さくため息をついた。
「警備状況、確認。これでいいわ」
そして椅子から立ち上がると、クルリと後ろを振り返る。
「ようこそ、穏健派のアジトへ」
眼鏡を中指で軽く上げながらそう言った姉に最初に声をかけたのはレインだった。
「ようこそ、眼鏡クイッ……じゃねーだろ! どんだけ心配したと思ってるんだ!」
きょとんと目を見開いたユリエの元に駆け寄り、レインはその体に怪我等がないか素早く目線だけで確認する。
「ごめんなさいね、レイン。こんな事になるなんて思ってもいなかったのよ。思ったよりも強硬派の動きが早くて」
真剣な表情のレインにユリエは申し訳なさそうに答えると、後ろの弟達にも謝った。
「アルティスとローウェンも、ごめんなさい」
「ユリエ姉上……」
「……」
ローウェンは不安そうに眉根を寄せ、アルティスは無言で首を振る。
「街の状況説明からしなくてはならないわね」
ふうっと息をつきながら立ち上がったユリエにローウェンは言った。
「やっぱりユリエ姉上が警備システムを操っていたんだね?」
今、自分達がいる部屋は、まさに学塔の頭脳(ブレーン)ともいうべき場所。普通の人間が立ち入る事を許されない、警備システムを初めとした、あらゆるシステムの中枢だ。
「悪いとは思ったのだけど、あの遊郭が強硬派にばれて、早々にアジトを移動しなければならなかったのよ。ただでさえ、あっちは数が多い上に血気盛んで、今にも城に攻め入りそうな勢いだっていうのに。ここなら、ローウェンが考案した警備システムだから、安全だと思って」
確かに、荒廃が進み、王都の結界が弱まっているサンジェイラ国で最も安全な場所は、この、トラキアの学塔なのかもしれない。
「来て、メンバーを紹介するわ」
ユリエがそう言って部屋を出るのに付き従うように、シュリと呼ばれた女性が後に続いた。
ローウェン達三人は顔を見合わせ、黙ってそのまま姉の後を追う。
そうしてしばらく歩いて、ある扉の前でユリエは止まった。
「え……?学食?」
塔内に数箇所ある食堂の内の一つだった。もちろん、現在はやっていない。
「部屋が広くて使いやすかったのよ」
そう言いながら扉を開けたユリエが中に入ると、声が響いた。
「ユリエ様、報告が来ております」
「ユリエ姫、そちらの方々は?」
「ユリエ様、これはどうしましょうか?」
あちこちから響く声に苦笑すると、ユリエはそれに律儀に答えを返す。
広い食堂内にいる、決して多くはないが、少なくもない人数の国民達は、老若男女様々だった。
彼らは、自分の家族を、恋人を、親友を、親しい人を、サンジェイラ王の悪政と、今、驚異的な広がりを見せている麻薬の影響で失った者達である。
それでも、彼らは、因となった王家を恨む事なく、逆に強硬派に狙われた王家と城を守ろうと働いてくれているのだ。
「恨まなかったのですか?」
優しそうな中年の女性が淹れてくれたお茶を飲みながら、ローウェンは俯き、彼らについそう尋ねてしまった。
王族を恨んでもしょうがないような現実に彼らはさらされたのだ。
「もちろん恨みましたよ」
その問いに答えたのは、恋人を失ったという青年。
「私もすごく恨んだわ。どうして、娘が死ななければならないのかって」
続けてそう言ったのは、先程お茶を淹れてくれた中年の女性。
「でも、ここで王家の人達を滅ぼしてしまっても、この国は沈むだけだって事に気づいたんだよ。わしらはここで産まれ、ここで育った……国を失いたくはない」
老齢の男性のその言葉には母国への愛情がにじみ出ていた。
「それに、王族の中にも、ユリエ様のような方がいらっしゃる。……俺達は、そこに希望を見たんだ」
瞳に希望の光を残した少年も頷いて言った。
彼らに圧倒された様子の弟達にユリエは告げる。
「必ず、強硬派の動きを抑えて……そして、この国を変えてみせるわ。必ず守ってみせる」
その、決意を秘めた力強く優しい瞳。ローウェンとアルティスは何故か既視感を覚えた。
昔……、こんな目をした優しい子供に出会った事がある。
「どうしたんだ? お前ら」
弟たちと違い、何も感じなかったらしいレインが動きを止め、ユリエを凝視するローウェンとアルティスに怪訝そうに声をかけてくる。
「ううん、何でもないよ。ね、アル」
「ああ」
小さく首を振る半身に答えるように頷いたアルティスを見て、ユリエは言った。
「いろいろと吹っ切れたようね、アルティス。今までよりもいい顔しているわ」
そして、隣に座るローウェンに目を移し、安心したように微笑んだ。
「ああ。これからは己に正直に生きるつもりだ」
真摯的な表情でそう言ったアルティスにユリエは小さく頷いた。
そんな風に、穏やかな表情で弟達を見守っていたユリエは、不意に表情を引き締めて、厳しい声で告げる。
「街の状況だけど、あまり良くないわ。強硬派の連中は、明日にでも城に攻め入ろうという魂胆らしいの。それで、今、それを阻止する為にいろいろ計画を練っているんだけど…………。あなた達の方はどうなの?状況を教えて。私の方の計画も教えるわ。どうせレインは簡単にしか教えていないんでしょうから」
ユリエの言葉にレインは気まずそうに目線を逸らし、二人の弟の冷たい視線にさらされた。
そうして、ユリエは、自分とアサギ、レインが立てたメルティス前王の王座復帰の計画を話し、アルティスは、短くわかりやすく、自分達女神の子供側の今までの経緯を説明した。
「…………お祖父様が」
前王メルティスが麻薬の元であるという話は最重要事項の為、他の穏健派の面々に聞かれないように別室での説明になった。
意外と冷静にアルティスの説明を聞いていたユリエを見て、ローウェンは言った。
「驚かないんだね」
その言葉を聞くと、ユリエは顔を上げて、困ったような、怒っているような顔をする。
「驚いているわよ。……ただ、まったく予測していない事ではなかったわ。お祖父様自身が麻薬の元だったっていうのまでは、確かに予測不可能だったけれど。私は、お祖父様が麻薬の元をどこかから仕入れているんじゃないかっていう事も、一応視野に入れてはいたの。彼を王座に戻すのが私達の計画だったから、それを考えると先に進めないので、視野に入れているだけだったけれどね」
ローウェンはため息をついた。
「そこまで考えてたの?」
「前にも言った事があるけれど、私達のような立場にある者は、人より遥か先を見られるようにならないといけないわ、ローウェン」
「はい」
素直に頷いたローウェンと諭すようなユリエのやりとりには、やはり、昔の師弟の関係の名残のようなものがあった。
「それで、どーするんだ? 俺達の最初の計画は、もう無理だろ?祖父様は、信じられないが、死人らしいし……」
レインはそう言うと、頭をポリポリと掻いて、お手上げだというように両手を広げた。
「そうね……。色々考え直さないと。その為にも、強硬派の動きを一刻も早く封じて、城に戻らないといけないわね」
ふうっと、ユリエが疲れたようなため息をついた時だった。
「ユリエ様、差し出がましいようですが、最近ずっと働きづめでお疲れなのでは? 少しお休みになった方が……」
唯一、穏健派メンバーの中でこの話し合いに参加していた(というよりもユリエの傍に影のように控えていた)シュリが、気遣わしげにユリエの華奢な肩に触れる。
「大丈夫。ありがとう、シュリ」
「さっきから気になっていたんだが、そちらの者を、ずいぶんユリエ姉上は信頼しているのだな」
ユリエの言葉を聞いた後、アルティスが漆黒の瞳を真っ直ぐにシュリに向けて言った。
「あはは。シュリとは、死体の安置所になっていた教会で、逆上した人達に八つ裂きにされそうになったのを助けてもらった時以来の付き合いだから」
あまりにも物騒な台詞に、アルティスもローウェンも驚きに目を見張るしかない。
この姉は、こんな小さな体で、なんて危ない橋を渡ってきたのだろうか……。
「今となっては、とても信頼している仲間の一人よ」
「ユリエ様」
ユリエの言葉を聞いたシュリは、嬉しそうに微笑んだ。
その時
ドーーーーーーーンッッッ
何かが破裂するような、凄まじい音と共に建物が揺れた。
「ッ!」
「うわっ!?」
「きゃあっ!」
「な、何事だ!?」
近くにあったテーブルや椅子にしがみついて、衝撃をやり過ごした彼らが唖然としていると、部屋の扉が荒々しく開かれた。
「大変ですっ! 強硬派の奴らに麻薬でおかしくなった中毒者の集団が襲い掛かって来たらしく、今、歓楽街の中で両者が衝突してます!」
「なんですって!?」
メンバーの一人の報告を聞き、即座に立ち上がったユリエは、文字通り部屋を飛び出したのだった。
「アル」
ローウェンの視線を受けて、アルティスも視線のみで頷く。
真綿が水を吸い込むようにユリエの持つ知識を吸収していったローウェンにトラキアの学塔への入学を勧めたのも彼女だ。弟の持つ知識力が自分を超えたのを知ったからであろう。
そうして、学塔に入学したローウェンは、ユリエから勉強を教わる事はなくなったが、彼女の能力の高さはよくわかっていた。
そして、それを巧妙に隠している事も。男尊女卑の強いサンジェイラ王家で生き残るにはこうするしかないのだと、賢い彼女はわかっていたのかもしれない。
カタカタカタカタ
素晴らしく早い動きで操作パネルを操作しているその少女は、ぶつぶつと独り言を言いながら、目の前に映された学塔内の見取り図に目を向ける。
「無事到着したようね。お迎えお疲れ様、シュリ」
室内に入室してきた弟達と女性の気配を悟ったのか、背を向けたままそう言った三つ編みの少女、ユリエの言葉を受け、ローウェン達をここまで案内してきた謎の女性は軽く頭を下げた。
「ちょっと待ってて、三人とも。今、警備システムを復旧させるから」
何でもないようにあっさりとそう言ったユリエは、無言でパネルを操作すると、小さくため息をついた。
「警備状況、確認。これでいいわ」
そして椅子から立ち上がると、クルリと後ろを振り返る。
「ようこそ、穏健派のアジトへ」
眼鏡を中指で軽く上げながらそう言った姉に最初に声をかけたのはレインだった。
「ようこそ、眼鏡クイッ……じゃねーだろ! どんだけ心配したと思ってるんだ!」
きょとんと目を見開いたユリエの元に駆け寄り、レインはその体に怪我等がないか素早く目線だけで確認する。
「ごめんなさいね、レイン。こんな事になるなんて思ってもいなかったのよ。思ったよりも強硬派の動きが早くて」
真剣な表情のレインにユリエは申し訳なさそうに答えると、後ろの弟達にも謝った。
「アルティスとローウェンも、ごめんなさい」
「ユリエ姉上……」
「……」
ローウェンは不安そうに眉根を寄せ、アルティスは無言で首を振る。
「街の状況説明からしなくてはならないわね」
ふうっと息をつきながら立ち上がったユリエにローウェンは言った。
「やっぱりユリエ姉上が警備システムを操っていたんだね?」
今、自分達がいる部屋は、まさに学塔の頭脳(ブレーン)ともいうべき場所。普通の人間が立ち入る事を許されない、警備システムを初めとした、あらゆるシステムの中枢だ。
「悪いとは思ったのだけど、あの遊郭が強硬派にばれて、早々にアジトを移動しなければならなかったのよ。ただでさえ、あっちは数が多い上に血気盛んで、今にも城に攻め入りそうな勢いだっていうのに。ここなら、ローウェンが考案した警備システムだから、安全だと思って」
確かに、荒廃が進み、王都の結界が弱まっているサンジェイラ国で最も安全な場所は、この、トラキアの学塔なのかもしれない。
「来て、メンバーを紹介するわ」
ユリエがそう言って部屋を出るのに付き従うように、シュリと呼ばれた女性が後に続いた。
ローウェン達三人は顔を見合わせ、黙ってそのまま姉の後を追う。
そうしてしばらく歩いて、ある扉の前でユリエは止まった。
「え……?学食?」
塔内に数箇所ある食堂の内の一つだった。もちろん、現在はやっていない。
「部屋が広くて使いやすかったのよ」
そう言いながら扉を開けたユリエが中に入ると、声が響いた。
「ユリエ様、報告が来ております」
「ユリエ姫、そちらの方々は?」
「ユリエ様、これはどうしましょうか?」
あちこちから響く声に苦笑すると、ユリエはそれに律儀に答えを返す。
広い食堂内にいる、決して多くはないが、少なくもない人数の国民達は、老若男女様々だった。
彼らは、自分の家族を、恋人を、親友を、親しい人を、サンジェイラ王の悪政と、今、驚異的な広がりを見せている麻薬の影響で失った者達である。
それでも、彼らは、因となった王家を恨む事なく、逆に強硬派に狙われた王家と城を守ろうと働いてくれているのだ。
「恨まなかったのですか?」
優しそうな中年の女性が淹れてくれたお茶を飲みながら、ローウェンは俯き、彼らについそう尋ねてしまった。
王族を恨んでもしょうがないような現実に彼らはさらされたのだ。
「もちろん恨みましたよ」
その問いに答えたのは、恋人を失ったという青年。
「私もすごく恨んだわ。どうして、娘が死ななければならないのかって」
続けてそう言ったのは、先程お茶を淹れてくれた中年の女性。
「でも、ここで王家の人達を滅ぼしてしまっても、この国は沈むだけだって事に気づいたんだよ。わしらはここで産まれ、ここで育った……国を失いたくはない」
老齢の男性のその言葉には母国への愛情がにじみ出ていた。
「それに、王族の中にも、ユリエ様のような方がいらっしゃる。……俺達は、そこに希望を見たんだ」
瞳に希望の光を残した少年も頷いて言った。
彼らに圧倒された様子の弟達にユリエは告げる。
「必ず、強硬派の動きを抑えて……そして、この国を変えてみせるわ。必ず守ってみせる」
その、決意を秘めた力強く優しい瞳。ローウェンとアルティスは何故か既視感を覚えた。
昔……、こんな目をした優しい子供に出会った事がある。
「どうしたんだ? お前ら」
弟たちと違い、何も感じなかったらしいレインが動きを止め、ユリエを凝視するローウェンとアルティスに怪訝そうに声をかけてくる。
「ううん、何でもないよ。ね、アル」
「ああ」
小さく首を振る半身に答えるように頷いたアルティスを見て、ユリエは言った。
「いろいろと吹っ切れたようね、アルティス。今までよりもいい顔しているわ」
そして、隣に座るローウェンに目を移し、安心したように微笑んだ。
「ああ。これからは己に正直に生きるつもりだ」
真摯的な表情でそう言ったアルティスにユリエは小さく頷いた。
そんな風に、穏やかな表情で弟達を見守っていたユリエは、不意に表情を引き締めて、厳しい声で告げる。
「街の状況だけど、あまり良くないわ。強硬派の連中は、明日にでも城に攻め入ろうという魂胆らしいの。それで、今、それを阻止する為にいろいろ計画を練っているんだけど…………。あなた達の方はどうなの?状況を教えて。私の方の計画も教えるわ。どうせレインは簡単にしか教えていないんでしょうから」
ユリエの言葉にレインは気まずそうに目線を逸らし、二人の弟の冷たい視線にさらされた。
そうして、ユリエは、自分とアサギ、レインが立てたメルティス前王の王座復帰の計画を話し、アルティスは、短くわかりやすく、自分達女神の子供側の今までの経緯を説明した。
「…………お祖父様が」
前王メルティスが麻薬の元であるという話は最重要事項の為、他の穏健派の面々に聞かれないように別室での説明になった。
意外と冷静にアルティスの説明を聞いていたユリエを見て、ローウェンは言った。
「驚かないんだね」
その言葉を聞くと、ユリエは顔を上げて、困ったような、怒っているような顔をする。
「驚いているわよ。……ただ、まったく予測していない事ではなかったわ。お祖父様自身が麻薬の元だったっていうのまでは、確かに予測不可能だったけれど。私は、お祖父様が麻薬の元をどこかから仕入れているんじゃないかっていう事も、一応視野に入れてはいたの。彼を王座に戻すのが私達の計画だったから、それを考えると先に進めないので、視野に入れているだけだったけれどね」
ローウェンはため息をついた。
「そこまで考えてたの?」
「前にも言った事があるけれど、私達のような立場にある者は、人より遥か先を見られるようにならないといけないわ、ローウェン」
「はい」
素直に頷いたローウェンと諭すようなユリエのやりとりには、やはり、昔の師弟の関係の名残のようなものがあった。
「それで、どーするんだ? 俺達の最初の計画は、もう無理だろ?祖父様は、信じられないが、死人らしいし……」
レインはそう言うと、頭をポリポリと掻いて、お手上げだというように両手を広げた。
「そうね……。色々考え直さないと。その為にも、強硬派の動きを一刻も早く封じて、城に戻らないといけないわね」
ふうっと、ユリエが疲れたようなため息をついた時だった。
「ユリエ様、差し出がましいようですが、最近ずっと働きづめでお疲れなのでは? 少しお休みになった方が……」
唯一、穏健派メンバーの中でこの話し合いに参加していた(というよりもユリエの傍に影のように控えていた)シュリが、気遣わしげにユリエの華奢な肩に触れる。
「大丈夫。ありがとう、シュリ」
「さっきから気になっていたんだが、そちらの者を、ずいぶんユリエ姉上は信頼しているのだな」
ユリエの言葉を聞いた後、アルティスが漆黒の瞳を真っ直ぐにシュリに向けて言った。
「あはは。シュリとは、死体の安置所になっていた教会で、逆上した人達に八つ裂きにされそうになったのを助けてもらった時以来の付き合いだから」
あまりにも物騒な台詞に、アルティスもローウェンも驚きに目を見張るしかない。
この姉は、こんな小さな体で、なんて危ない橋を渡ってきたのだろうか……。
「今となっては、とても信頼している仲間の一人よ」
「ユリエ様」
ユリエの言葉を聞いたシュリは、嬉しそうに微笑んだ。
その時
ドーーーーーーーンッッッ
何かが破裂するような、凄まじい音と共に建物が揺れた。
「ッ!」
「うわっ!?」
「きゃあっ!」
「な、何事だ!?」
近くにあったテーブルや椅子にしがみついて、衝撃をやり過ごした彼らが唖然としていると、部屋の扉が荒々しく開かれた。
「大変ですっ! 強硬派の奴らに麻薬でおかしくなった中毒者の集団が襲い掛かって来たらしく、今、歓楽街の中で両者が衝突してます!」
「なんですって!?」
メンバーの一人の報告を聞き、即座に立ち上がったユリエは、文字通り部屋を飛び出したのだった。
「アル」
ローウェンの視線を受けて、アルティスも視線のみで頷く。
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