【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

7-2 おかえり

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「ミルク・イチゴです。こちらこそ、よろしくお願いします」

 瞬間、隣でリュセルが大きく吹き出す。

「な、なんだ!? 大丈夫か!?」

 心配そうにそう尋ねるジェイスンに頷くと、リュセルは隣の騎士に男装(?)したミルフィンの顔を見た。

(なんっだ、その偽名はああああ~~~っ!?)

 バレバレじゃん!

 ガシガシと、後ろ手でつっこみを入れてくるリュセルを不思議そうに見返すミルフィンは、「ああ」と頷いた。

 わかった。という風にウィンクした彼は、今度はリュセルの紹介をする。

「彼は照れ屋なので僕から紹介します。彼の名は、リュ……、痛えええええええ~~~っ!」

 紹介しようとした瞬間、思いきり足を踏みつけられて、ミルフィンは叫び声を上げた。

「……リュ?」

「ーイ………………。え~と、リューイ・クマキチです。よろしくお願いします」

「クマキチ?」

 変な家名だな。と思いながらも、ジェイスンは小さく頷いた。

(今年の新入騎士達は変わり者が多いな)

「とりあえず、指定された場所を見回るぞ。今はおとなしくしているようだが、怪盗イチゴミルクが城内に侵入したのは本当だからな。どこに潜んでいるのかわからん。気をひきしめてかかろう」

 目の前に新旧怪盗イチゴミルクがいるのに気付きもしないで、熱くそう言ったジェイスンの男臭さにうんざりしながらも、ミルフィンは大きく頷いた。

「「はい」」

 後輩(だと信じ込んでいる)二人の騎士の返事に気を良くすると、ジェイスンは二人を伴って、城内の警備に戻るべく歩き出したのだった。

(も~、やだわぁ。汗臭いのが移っちゃうじゃない~)

 ミルフィンは、内心半泣きになりながら、隣のオタク騎士、リュセルに身を寄せる。汗臭さとは無縁の愛しの王子様からは、例の香水の香りは薄れているが、いい匂いがした。

 おそらく、彼自身の体臭であろうそれは、とても神聖な香りだった。


 そうして、その後、リュセル達が見回ったのは、中庭を隔てた後宮の入口が遠くよく見える場所だった。

「この向こうは王族達が住まう後宮だからな。俺達が踏み入る事は出来ない」

 リュセルにとってはなじみ深い、後宮の方を目線で示してそう言ったジェイスンに向かい、ミルフィンは小さく頷く。

「でも、その後宮にイチゴミルクが侵入していたらどうするのですか? っあ、もう昨夜侵入されてしまったんですよね」

「何気に痛いところをつくな、お前は。この先の警備は後宮専属の親衛隊の領域だから、彼らが守っているんだ。研修で習わなかったか?」

「え……?え~と、聞いたような気もしますケド……。よく、覚えてないな~」

 あははは~と、笑ってごまかす後輩を疑う事もなく、ジェイスンは笑った。

「そうだよな~。研修はつまらなくていかん」

 その時、嫌み声が響き渡った。

「おやおや。そこにいらっしゃるのは、おいぼれ団長の所の、田舎騎士達じゃないですか?」

「……ちっ、アンダーソンの所の奴らだ。相手にするな、行くぞ」

 リュセル達と同じように三人パーティを組んでいるその騎士達は、にやにやとした笑みを浮かべながら、近づいてくる。

(騎士でもいろんなのがいるんだな)

 リュセルが知る騎士はレオンハルト直属の三騎士のみなので、ジェイスンや、この嫌味な騎士達のような下っ端の騎士を見たのは初めてだ。

 実力、人格を買われ、どんどん出世していった者達と違い、階級の下の方の騎士の中にはくだらない者もいるという事だろう。

「なんだ? こいつ、冴えない奴だなあ。こんなのが騎士になるようじゃ、アシェイラも終わりだな」

 それが、自分が仕えるべきこの国の第三王子だとはまったく気付かないその嫌味騎士Aは、そう言いながら、リュセルの肩をどついた。

「リュセ……、リューイ!」

 名前を呼ぼうとして、相手にピン底眼鏡の下から睨まれたミルフィンは、仕方なく、眦をつり上げて愛しの王子様をどついた無礼な騎士を睨みつける。

「なんだ~? お前、女みたいな面して。本当に男か?」

 あ~ん?と、まるでゴロツキのようにミルフィンを嫌み騎士Bが威嚇した時、リュセルもよく見知った声が響いた。

「お前達。一体、何をしているんだ!?」

「「ユージン様!」」

 金髪の優男顔の騎士が、厳しい顔をして大股で近づいてくるのを見たジェイスンと嫌味騎士達三人は、上官に対する礼をとった。

 それに合わせて、ミルフィンとリュセルも慌ててそれを真似る。

「今がどんな時だか、わかっているのか!?」

 次に響いたのは、厳しい響きのある女の声だ。

(ユージンとアイリーン……。まずい所で会ったな)

 内心リュセルはそう思ったが、ユージンもアイリーンも、諍いを起こしているようにしか見えなかった騎士達を諫めているだけで、リュセルに気づいた様子はまったくない。

 オタク系騎士の変装は、完璧過ぎる程完璧だったと言わざるを得なかった。(マジか)

「まったく、今回の事で、どれだけ殿下が心を痛めていると思っているんだ」

 そう言いながらため息をついたアイリーンの、その台詞を聞いたリュセルの胸は痛んだ。

(心を痛めているのか)

 半身たる兄の事を思うと、ひどく罪悪感に苛まれる……が、もう後戻りは出来ない。

「どうしたんだ? 何かわかったのか!?」

 グラグラと揺れていたリュセルの気持ちは、いきなり聞こえた声に再びビクリとなった。

「カイルーズ王子!」

 ユージンの呼び声を聞いて驚愕に目を見開いた騎士達は、慌てて、王族に対する最上級の礼をとる為にその場に跪き、深く頭を下げる。

「何してる! お前達も頭を下げろ!」

 ジェイスンの言葉に我にかえると、リュセルとミルフィンも同じように頭を下げた。

「いえ、たいした事はありません。騎士達が諍いを起こしていましたので止めに入っただけです」

「今は、そんな事をしている時ではないだろう?」

「ごもっともです」

 頭上で交わされる会話にジェイスン達は縮こまるしかない。

「お前達。その団章は、ジェイクとルバールの所の者だな。こちらから、この事について報告しておくぞ」

 アイリーンの冷たい言葉を聞いたジェイスン達は、冷汗をかきながら短く返事を返した。

「「「はっ」」」

「ところで、イチゴミルクは見つかったのか?」

 続いたカイルーズの言葉。ユージンが首を振ったのがなんとなくわかった。

「いえ、今のところは。城内に潜伏しているのは間違いないようなのですが」

「城内は広いですからねぇ。隠れる場所なんて山のようにあるでしょうね」

 柔らかな声色の声が聞こえ、カイルーズの後ろにカイエがいるのがわかる。

(な……なんか、嫌な予感がするぞ)

 いや、自分が警戒しているのは、今回のターゲットなのだが、今来られても何の準備もしていないだけにかなりやばい。

 そして

 リュセルの予感は、見事に的中した。

「兄上」

 カツンカツンという僅かな音を響かせて、回廊の奥からやってきたと思われる人物。その靴音だけで、相手が誰だか分かってしまった。

「どうした?」

 抑揚のない、低い声が響き渡る。

 リュセルとはまた別のタイプの、耳に心地いい声だ。

(いやいや、しかし、俺の変装は完璧だ。この通り、ユージン達やカイルーズでさえ気づかない訳だし。い、いくらレオンでも気づくはず…………)

 そして、僅かに顔を上げて、見てしまった。

 喧嘩別れしたきりの半身の、麗しさ美しさはばっちり健在だ。

 その顔の中、まっすぐに自分を見つめて黙り込んだレオンハルトの琥珀の瞳が、段々と金の色を帯びようとしているのを……。

 そして、声には出さずに、ゆっくりと、麗しのお兄様は言葉を紡いだ。

 ーおかえりー

 確かに、そう紡がれた。

(ひいいいいいい、ばれたああああ!)

 心の中でそう叫ぶと、リュセルは兄が行動に出る前に先手を打つ事にした。


「ファイトオオオオ~~~~、いっぱあああつ!」


 リュセルは咄嗟に立ち上がると、隣で冷汗をダラダラに流していたジェイスンの巨漢を、火事場の馬鹿力でカイルーズに向かって投げつける。

「っ!?」

 いきなりの事に避けきれず、背後にいたカイエもろともジェイスンの下敷きになったカイルーズのおかげで道は塞がれた。

「逃げるぞ!」

「え!?」

 きょとんとしているミルフィンの腕を掴むと、リュセルは踵を返して、猛ダッシュでその場から逃げ去った。

「今度は、鬼ごっこかい?」

 レオンハルトは小さく呟くと、逃げ出した弟を追って、ジェイスンにつぶされたもう一人の弟を軽々と飛び越える。

「殿下!?」

「もしかして、あれが怪盗イチゴミルクなんじゃ……。行くぞ、ユージンっ! アントニオ殿、後を頼みます」

 無口な為、リュセルに存在を気付かれなかったアントニオにカイルーズ達の救出を頼むと、己の主の後を追って、アイリーンはユージンと共に走り出す。

 そうして、遥か先を走るレオンハルトの後姿の先にある、二つの後姿を見据え走りながらも、ユージンは疑問を口にした。

「俺の目がおかしくなければ、あれって二人だよな」

「安心しろっ、私の目にも二人に見える!」

「怪盗イチゴミルクって、二人なのか?」

 不思議そうなユージンの視線の先で、二人の怪盗イチゴミルク(?)は、回廊の突き当たりで左右二手に分かれた。

「…………殿下、迷う事なく右に曲がったケド。ど~する?」

「私は左の奴を追う。お前は殿下の後を追え!」

「了解」

 そう言い合うと、ユージンとアイリーンも二手に分かれたのだった。




 ぜえぜえぜえ

(やばい、やばい、やばい!)

 宝主の体力をもってすればすぐに捕まえられるだろうに、様子を見ているのか弄んでいるのかは知らないが、レオンハルトはただ自分を追ってくるだけだ。

(俺の体力がなくなるのを待っているのか?)

 ありうる…………。
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