【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

8-3 囚われの王子

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 右手首だけでなく、左の手首にも同じデザインの手枷をはめられて、リュセルは小さい悲鳴を上げる。レオンハルトの低い声は小さすぎてリュセルにしか聞こえない。それ故に空恐ろしかった。

「私もお前を愛しているよ。できれば無体な事などしたくないのだが……。今回は、少しおいたが過ぎる」

 ジャラ

 リュセルの体に巻かれていた鎖は、段々と短くなり、手枷と手枷を繋ぎ、ある程度の長さになると止まる。

「分かっているね?」

 耳元でそうささやかれたリュセルは、カイルーズ達の喜びの声を遠くに聞きながら、気が遠くなりかけていたのだった。



「リュセルっ、よく……、よく、無事でえええ~~~!」

 手枷をつけられ、鎖で繋がれた上に両腕を兄に拘束されているという、まさに逃げ場なしのリュセルは、横から泣きながら抱きついてきたカイルーズの抱擁をうつろな目をしたまま受け入れる。

「良かった。本当に良かった」

 そんなカイルーズの後ろでは、彼の側近たるカイエがその目に光る涙を静かに拭っている。

「しかし、あの熱烈告白は、一体なんだったんだ? イチゴミルクの演出か何かか???」

 リュセルの無事に安堵しながらも、ユージンは疑問を口にする。

「そんな細かい事気にするな。見ろ、殿下の嬉しそうな顔を……」

「俺には、何かをたくらんでいる時の顔に見えるぞ」

「うううう、感動的だ」

 感動して泣くアイリーン。そんな彼女の隣で冷静に自分達の主の乏しい表情を読んでいたユージンは、ふと、フェイランが立ち上がるのを見て、慌てて駆け寄った。

「フェイラン殿!」

 駆け寄ってきたユージンに対し、アシェイラ騎士団のトップに君臨する彼は静かに言った。

「あの者……、只者ではない」

「あの者?」

「私を投げ飛ばした女だ」

 投げ飛ばした………………女?

「あの、怪盗イチゴミルクの一味と思われる、テディベアで顔を覆った変な人物の事ですか!?」

 あの時はリュセルの大告白に呆気にとられていた為、そっち方向をよく見ていなかったのだが。
 確かに、アシェイラではレオンハルトの次に強いと言われるフェイランを軽々と投げ飛ばした、あのテディベア仮面は只者ではないだろう。

「相当な手だれと見た」

 真剣な表情で怪盗イチゴミルクとテディベア仮面が去った扉を見つめるフェイランの顔は、強敵を前にした時の戦士の顔になっていた。



「はっくしょおおおおんっ」


 城への抜け道の入口たる井戸の中で、ジュリナは盛大なくしゃみをする。


「くそ~。きっと誰かが、私のあまりの強さ、たくましさを妬んで噂しているに違いない。間違いない」

 そう言って、顔に張り付いたテディベアを正面から後ろに移動させた朱金の髪の美女は、その迫力ある美貌に軽くビビってしまっていた、この場でずっと待機中だったハミルに言った。

「とりあえず、外には私達をしつこく追って来た騎士達がうじゃうじゃしているから、少し待ってから逃げるんだな」

「あの~、あなた様は一体……」

 恐る恐るそう聞いてきたハミルに視線を返し、ジュリナは自信満々な笑みを浮かべる。

「怪盗テディベア仮面だ」

「同業の方だったのですか!? は、初めまして!」

 適当な事を言った自分に慌てて礼儀正しく頭を下げたハミルに頷くと、ジュリナは横でさめざめと泣く怪盗イチゴミルクことミルフィンの頭をどついた。

「男がいつまでも泣いてるんじゃないよ」

「うっうっうっ…………、だってリュセル様が、あたしを庇って捕まってしまったんですもの~~~」

「えっ!? リュセル王子、捕まっちゃったんですか!?」

 ミルフィンの台詞を聞いたハミルは驚きに目を見張る。

「まあ、捕まったって言っても、元の鞘に戻るだけだから、そんなに心配するな」

 元の鞘?

 一体、どういう事???というように、目をパチクリさせる怪盗イチゴミルクとその弟子に、ジュリナは大きなため息をついて答えた。

「お前達を含め、私達皆、あの二人の派手な痴話喧嘩に巻き込まれただけだという事さ」

 今回の騒動で、そうとは知らずに巻き込まれた人々の顔を思い浮かべ、ジュリナは生温い笑みを浮かべたのだった。



 そして


 思いもよらぬ形で城に戻ったリュセルは、心配してくれていたカイルーズを筆頭に、城中の者達に対して申し訳ない気持ちになりながらも、怪盗イチゴミルクにさらわれていた間の事は適当にでっちあげて説明し、その後、レオンハルトによって強制的に、後宮のまた奥に建つ、例の塔に連行されてしまった。

(ここって……)

 長い階段を昇らされながら、リュセルは、そこがこの世界に帰還した折にしばらく過ごした塔である事に気づく。

 カイルーズ達と別れると同時に、無言でリュセルの腕を掴んで歩きだしたレオンハルトは、塔の最上階にある部屋の扉の鍵を開けると、中にリュセルを放り込む

「…………」

 続いて入ってきたレオンハルトが後ろ手に扉を閉めるのを見ると同時に、リュセルはジリジリと後ずさりを始めた。

 ゴクリッ

 生唾を飲み込んで、兄の恐ろしい程に整った白い顔を見つめる。

 ツカツカツカ

 優雅な足取りで歩み寄ってくるレオンハルトに対し、リュセルは慌てて言いつのった。

「待て、待て待て待て待てレオン、話っ、話せば、分かる! きっと分かる! 俺達は分かりあえるはず……だって、人類皆兄弟だものっ!(?)」

 混乱のあまり、おかしな事を捲くし立てた瞬間

 ガシッ

 両肩を掴まれ、その首元に顔を伏せられる。

 …………………………何?

 予想外の兄の行動にリュセルは呆気にとられた。

「臭いな」

「はっ!?」

「来い」

 そのまま引っ張られて、部屋の奥にある浴室に連れて行かれ、着ていた軍服に手をかけられた。

 臭い?

(確かに、昨夜は湯浴みをしていないが……、そんなに臭いか?)

 衣服を脱がせられながらも、リュセルはつい、自分の手の甲の辺の匂いを嗅いでしまう。

 一緒にいたミルフィンは何も言っていなかったが、男臭い騎士団に入り込んだからだろうか?それとも、天井裏の匂いか????

「他の男の匂いがするのだよ」

 弟の疑問を読んだように告げられたレオンハルトの言葉。それを聞いたリュセルは顔を引きつらせるしかなかった。







(この状況は、かなり予想外だったな)

 無理矢理軍服を脱がせられた(見知らぬ騎士のもの)リュセルは、浴室内に用意されていた一人用の浴槽に沈められていた。

 さすがに、高い塔の為、レオンハルトの自室に備え付けられた、まるでプチ温泉のような大きな浴槽ではなかったが……。それでも、作りは古いが、内装は豪華だ。

 弟をその泡風呂の中に沈めると、宮廷衣装の上着を脱ぎ、シャツ一枚になっていたレオンハルトは、浴槽の縁にリュセルの頭を乗せてお湯をかけ、備え付けられた洗髪剤を手にとり、それを両手でもみ込み、リュセルの髪を優しく洗いだした。

 次第に泡立っていく自分の頭を意識しながらも、まるで頭をマッサージするかのようなレオンハルトの繊細な指の動きと絶妙な力加減の気持ちよさにうっとりとしてしまう。

 それはまさに神業、神の指、ゴッドハンド!

 何をやっても完璧にこなすレオンハルトは、人の頭を洗わせても完璧だった。

 そうして、しばらくの間、黙々と弟の頭を洗っていたレオンハルトは、うっとり気味のリュセルと違い、更に不機嫌さを増していた。
 たった一日。それだけの間、自分から離れていただけで、リュセルは見知らぬ男の匂いをまとわりつかせていたのだ。

 ……当たり前である。

 リュセルはまず、ハミルの着ていた怪盗イチゴミルクの衣装を着て、その後ハミルの私服を借り、そして見知らぬ騎士の軍服を無断拝借して今まで着ていたのだから。

 ハミルはそんなに体臭はない方だったが、最後に無断拝借した軍服の主は少し汗臭かった為、移ったわずかな匂いをレオンハルトは嫌悪していたのだ。

 知らぬは本人ばかりだ。

(眠くなってきたな)

 兄のゴッドハンドに頭を洗われるあまりの心地よさにリュセルは眠くなってくる。のん気なものである。
 
 そんな風にリュセルがうとうとしている間にも、一通り洗髪が終了し、髪に潤いを与える為の潤液を髪に塗り込められ、乾いた布で丁寧に濡れた髪を拭かれた。

 そうして髪が半乾き位になった頃、不意にレオンハルトの手が浴槽の中に滑り込んできた。

「!?」

 半分寝ていたリュセルは、背後から回った兄の手に脇腹をこすられて一気に覚醒する。

「な、何をっ!」

 慌ててそう言ったリュセルにレオンハルトは首を傾げながら熱のない口調で言った。

「髪を洗い終わったから今度は体を洗うのだよ。いいから腕をあげなさい」

 レオンハルトの命令に反射的に腕を上げたリュセルは、自分の手首にはめられた手枷を目に入れてしまった。

(これは、いつ外してもらえるのだろうか)

 細工は見事だし、超一級に高価なものだが、これではまるで罪人のようである。

 弟の内心の不満を感じ取ったのか、レオンハルトはリュセルの左右の肩から、手の指先、爪の間に至るまで、交互に丁寧に磨きながら言った。

「お前がいい子にしていれば、いつか外してあげよう」

(いつかって、いつだ?)

 腕、足(こちらも足先まで洗われた)、背中、胸、腹を順に、別段特に何も感じさせない動きで洗われたリュセルは、ホッとすると同時に何故か物足りなさを感じてしまう。太腿の際どい部分と尻の挟間に手が伸びてきた時はビクリとしたが、その時も特に何もされる事はなかった。

 別に、仕置きが欲しい訳ではないが……。

(どうしたんだ? 何かの罠か?)

 泡を流され、体を拭かれながらも、リュセルはそう疑っていた。

「来なさい」
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