【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十一章 神への叛逆

7-2 レオンハルトの焦燥

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*****



「ここが、ルーンメッセ」

 ナイト侯爵領の中心地。遠くに葡萄畑が広がる、のどかな街だ。街を見回したレオンハルトの呟きに呼応するように、白い魔導馬の後ろに同乗していたティアラも頷く。

 ほとんど不眠不休、休みなしで魔導馬を走らせてきた四人は、リュセルとジュリナがルーンメッセに到着した刻より一日遅れて辿り着いていた。

「宿をとってきますので、どうかそちらでお休み下さい」

 黒い魔導馬に従者のハミルと乗っていたミルフィンは、馬から降りて2人の王族に伝える。

「わかった」

 早くリュセルを救いたいという焦りや逸りという気持ちを抑制し、レオンハルトは小さく頷く。宝主として体力のある自分と違い、宝鍵であるという事以前に、深窓の花、姫君であるティアラの体力は限界だろう。

「わたくしは大丈夫ですわ、レオンハルト様! 早く……、早く、お姉様を」

 レオンハルトの介添えで馬を降りたティアラは、必死の表情で言い募るが、その途端、グラリと足元がふらつく。

「あああ~、言わんこっちゃない。このような状態では、ジュリナ様を助ける前にティアラ様が倒れてしまいますわ。私達が情報を集めて参りますので、少しでいいのでどうかお休み下さい」

 ミルフィンのその言葉に、レオンハルトも同意する。

「あなたにもしもの事があったら、ジュリナに顔向け出来ません。ティアラ姫」

「レオンハルト様、ミルフィン。……わかりました」

 長い朱金色のまつげを伏せてそう言ったティアラの返答を聞き、ミルフィンはほっと息を吐く。

「では、とりあえず休める場所を探しましょう。ハミル……、あれ? ハミル!?」

 後ろにいると思っていた、従者兼弟子の青年が忽然と姿を消していたのに気づき、ミルフィンは驚いた。

「ミルフィン様~~~~~っ!」

 次の瞬間、能天気な声が響き渡る。
 いつの間に街の中に移動していたのか、手を振って戻って来たハミルのにこにこ顔に、ミルフィンは目つぶしをおみまいしてやった。

「ぎゃ~~~~~っ!」

 目を押さえて苦しむハミルに向かい、ミルフィンは怒りのオーラを漂わせながら言う。

「少しは空気読め。この、にこにこにこちゃんが」

「うっうっうっ、そんな高度な事、私には出来ませんよ~~~」

「全然高度じゃないでしょうが! あんたの頭の中身はこんにゃくですか!?」

 ハミルのおとぼけにつっこみを入れるミルフィンを目を丸くして見ていたティアラは、不意に小さく笑った。

「ふふっ」

 それは、半身である姉、ジュリナがさらわれたとわかった時以来、初めて浮かべた笑みだった。

「ティアラ姫様」

 いつも穏やかに微笑み、春の日差しのような優しい雰囲気を醸し出していた彼女は、この数日というもの、常に顔を強張らせていたのだ。

 それが、本当に少しだが、笑ってくれたという事実に、ミルフィンは安堵する。

「ひどいです~、ミルフィン様。せっかく先に街に入って、宿をとってきたのに」

「え!? そうだったの!!???」

「だって、仕事で泊まりがけになった時、いっつも宿を決めるのが遅いって喚くから、最近気を使ってたんですよ~。気づいてましたぁ?」

 ハミルの恨めしそうな視線に内心たじろぎながらも、ミルフィンはレオンハルトとティアラに言った。

「じゃ、じゃあ行きましょう。ご案内しますわ。……うちの役立つ従者が」



 そして、その後、宿に到着した途端、ティアラは倒れ込むようにすぐに眠りについてしまった。無理もない。この旅の間、少しも眠れていないようだったのだから。

「今の時間なら、酒場でしたらやっているはずですわ。ハミルと情報収集に行ってきますので、レオンハルト殿下は、ここでティアラ姫様とお待ち下さい。その麗し過ぎるお顔では目立ってしまいますもの」

 ミルフィンはそんな言葉を残して、ハミルと共に夜の街に出て行った。

 眠るティアラと宿屋に残されたレオンハルトは、休む事も出来ずに、部屋に備え付けられた簡素な椅子に腰かけて、じっとリュセルが身につけていたブレスレットを見つめる。

 創世祭の折、自分が贈ったこれを、弟は常にその身から離さず身につけていた。それを内心、嬉しく感じていたものだ。

「リュセル」

 無事ならよいが。もし……、もし、弟の身に何かあったら。

(すべてを根絶やしに……)

 ヒューマンなどという、組織の欠片も残らぬ程焼き尽くしてやる。この、ルーンメッセの街がどうなろうとも構わない。自分からリュセルを奪った者の、それは当然の報いである。

「一人残らず消滅させてやろう」

 そう考えながら、瞳の色を金色に変えていたレオンハルトは、自分の心を落ち着かせる為に目を閉じた。

(嫌な予感がする)

 弟の身に、何かが起きているような……。根拠は何もない。魂の片翼たる、半身の勘のようなものだ。

 しかし

(早く行かねば。この腕に抱かねばならない)

 そんな気がしてならなかった。
 
 何故なら、ずっと呼ばれているのだ。絶叫にも似たそれは、この街に近づくにつれひどくなった。自分の名を呼びながら泣いている。これ以上、この声がひどくなったら、自分は耐えられないだろう。今でさえ、ギリギリのところで我慢しているのである。

 すべてをなぎ払ってでも、何を犠牲にしようとも、必ず、取り戻す。

 ジュリナもローウェンもいない今、暴走した自分を抑えられる人間はいない。だから、ミルフィンとハミルを連れてきたのだ。顔が特徴的過ぎて身動きの難しい自分に代わり、街や組織の事を探らせるというのが大きな理由だったが、もう一つの理由は、もしもの時にティアラを頼む事にあった。

(もし、再び悲鳴が届いたら……。もう、抑制は出来ぬ)

 レオンハルトはそう考えながら、固く右手を握りしめたのだった。

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