【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十一章 神への叛逆

8-2 酒神ジュリナ

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「ワトスンさん、助けて下さいよ~!」

 その日、遅い昼食を使用人用の厨房でとっていたワトスンは、この数日、耳にタコが出来る程に聞き慣れてしまった仲間の情けない悲鳴に、大きなため息をついた。

「今度はなんだ。またストレス発散のサンドバックにでもされたか?」

「違います! あの方、こんな日の明るい時分から酒盛りを始めたんですよ~~」

 半泣きになりながら訴える、ヒューマンの中でも下っ端で、現在ジュリナ付きの雑用係に任命されている青年に対し、ワトスンは鼻を鳴らして答える。

「勝手にやらせてろ。ついでに潰してしまえ」

「無理ですうううぅ! 既に屋敷中のありとあらゆる酒類を飲み干してしまってるんです! 調理用の酒さえ、もう残ってません。スッカラカンです~~~~」

 その台詞にワトスンは度肝を抜かれ、大きく目を見開く。

「なんだと!? お、お前、嘘つくな! 確か、地下の貯蔵庫に大量にあったぞ。俺はこの目で確かに見た!」

「そうです。約一年分の葡萄酒(ワイン)を筆頭に、サンジェイラ産の酒類など、数百種類のお酒が保管されていました。でも、それも過去の話です……」

「ば、化け物か。あの王女殿下は」

 ワトスンが呆然としながら呟くと同時に、またしても情けない声が響く。

「その上、今度は」

「まだあるのか!?」

「はい~っ、今度は酒のつまみに女を集めろって騒いでるんです~~~~! それと、酒も足りないってぇぇぇぇ」

 テーブルに突っ伏して泣く青年の肩を叩くと、ワトスンは食事の手を止めて立ち上がる。

(あの女!)

 自分の立場がわかっているのか!?

 怒りのままに厨房を飛び出し、屋敷の廊下をドスドスと地響きを立たせながら大股で歩くと、例の姫君を閉じ込めた部屋の前で立ち止まり、見張りの番をしているメンバーの一人に目くばせして扉を開けさせる。

 そうして、室内に入った途端。

「くっさっ!」

 室内中にアルコールの匂いが充満し、ひどい事になっていた。

 床に散らばった大量の酒瓶を避けながら、部屋の中央のソファにて葡萄酒(ワイン)を瓶のままラッパ飲みしているジュリナへと近づく。

「正気か……?」

 ついそう呟いてしまう程、それはありえない光景だった。

「はんっ、飲まなきゃやってられないよ! オイ、追加の酒はまだかい!?」

「屋敷中の酒、すべて飲み干しても、まだ飲む気か!?」

 ワトスンの言葉を聞き、あんなに大量の酒を煽っても酔いの一欠片も見受けられない、しっかりとした深紅の瞳を光らせてジュリナは言う。

「はははん、これっぽっちの酒でこの私を満足させられると思っているのかい?」

「お前、自分の立場がわかってるのか!? 人質のくせしてやりたい放題しやがって!」

 激昂し、ジュリナの上着の胸倉を掴んでワトスンは威嚇する。そんな馬鹿な男相手に彼女は不敵に笑った。

「いいのかい? そんな事して。私は女神の娘であると同時に、この国の第一王女だよ。お前達の目論見通り、女神の子供である事を放棄したら、次期女王はこの私さ!」

 最もなその言葉に、ワトスンは衝撃を受ける。
 確かにその通りである。この非常識な姫君が王位継承の資格を持たないのは、彼女が女神の娘であるからだ。自分達の目的が達成すれば、彼女はディエラ国の次代の女王に決定するはず。

「ふふん、わかったなら、跪いて足をお舐め。ついでに酒も用意しな」

 ショックのあまり固まったワトスンは、その要望に力なく頷くしかない。女神を否定しても、国を統治する王族を否定する事は出来なかったからだ。



「あー、もう駄目だ。こんな事をナイト侯爵に報告するのも気が引けるが、頼みこむしかない。とてもじゃないが、あの姫君の望みのままに酒を買ってきていたら俺が破産する」

 ジュリナとの一悶着の後、自分で買ってきた大量の葡萄酒(ワイン)を、とりあえず献上してきたワトスンは、あの葡萄酒(ワイン)でどれ位の時間が稼げるのだろうかと遠い目をしながら考えていた。

「はあーーーー。…………ん? あれは……」

 長いため息をつきながら、クラウンがいるであろう、もう一人の人質のいる客室へと向かう為、廊下を歩いていたワトスンは、件の部屋の前に佇む小さな後ろ姿に気づき、声をかけた。

「マーリン、どうしたんだ?」

「…………」

「マーリン?」

 様子のおかしな紺色の髪の子供の顔を覗きこむ為、腰をかがめると、マーリンは水色の瞳に怒りの炎を滾らせて、目の前の木の扉を睨みつけていた。

「ドうしてナイトサマは、あの女神の息子につきっきりなのダ!?」

「どうしてって、熱出してるから看病しているだけだろ?」

 まったく子供の嫉妬心ってのは本当に面倒臭いな。と内心思いながら、ワトスンはそう答える。

「だったラ、別の奴ラにそんな事やらせればイイ! どうしてナイトサマが……」

「あの王子の色気にコロリとヤられたんじゃないか? はははは~、俺はあんまり近づきたくないね。道を踏み外しそうで」

「なんテおぞましい!」

 吐き捨てるようにそう怒鳴ったマーリンの相手が面倒になったワトスンは、その小さな手を無理矢理とって扉をノックする。

「ワトスン、一体何スルか!?」

「ここで喚いていても仕方ないだろうが。とにかくこの中にいるんだから、愛しのナイト様に会え。阿呆」

 ドンドンッ

 荒々しく扉をノックすると、中から落ち付いた声音で返事が返ってきた。

「どうぞ」

 了承を得ると同時に、マーリンの華奢な腕を掴んだまま、ワトスンは扉を開けて室内に入室する。

「邪魔するぞ」

「どうしました、ワトスン? おや、マーリンも」

 寝台脇のテーブルに書類を広げていたクラウンは、やってきた二人の姿を目に入れると首を傾げた。

「どうしたもこうしたもないぞ! 至急、街中の酒屋から酒を集めてくれ」

「あー、ジュリナ姫ですね。酒神ぶりは健在ですか……。捕らわれても尚、たくましい方ですねぇ。わかりました、至急手配しましょう」

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