【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十二章 月華の乙女

6-2 二人の該当者

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 無言のまま、神業のような速さで、重ねられた書類の仕分けをしていた彼は、ルークの姿を認めると立ち上がり頭を下げる。

 そんな、自分の付き人に目をくれる事なく、ルークはまったくの無表情のまま、もう一人の人物を見つめていた。

「遅かったですね、ルーク。一体どこに寄り道していたのですか?」

 穏やかな声でそう言って、机の上に両肘をつき(しかもルークの席だ)、小首を傾げるのは、先程リチャードがいないと騒いでいた神官長その人。

 頬にかかるウエーブを描くフワフワとした白髪が印象的な、白兎のような青年だ。

「………………」

 一体どうするのだろうと、リュセルが固唾を飲んで見守っていると、ルークは無言のままツカツカとライサンの元へと進んで行った。

「セリクス」

「はい?」

 ルークの呼びかけにライサンは優しく返事を返す。

 次の瞬間

 ガターーーーーンッ

「!?」

「…………」

 いきなり響いた音にリュセルは驚きに目を見開き、ルークの付き人の神官は慣れているのか無言で仕事に戻っていた。

「おやおや」

 机から椅子ごと引き離されて背後の壁に叩きつけられたライサンは、それでも口元に浮かぶ微笑を崩さない。

「乱暴ですねぇ」

 そう言いながら椅子を立とうとする上司に気づいたルークは、右足を素早く振り上げる。

 ダンッ

 ルークの履く靴がライサンの体の横にめり込んだ……と思うくらい、すごい勢いだった。

「お行儀が悪いですよ」

 そこで初めてライサンは穏やかな顔をしかめて、自分を睨みつける部下の青年を注意した。

「ここで会ったが百年目。今日はお前を逃がす訳にはいかないのでな」

「おやおや」

 そうして右足をライサンの顔の間横に固定したまま、その襟首を掴み上げたルークは、目を血走らせ、怒鳴り声を上げた。

「忘れたとは言わせん! 明日の会議は非常に重要なものだ。その為にセリクス大神官様がはるばる本部よりいらっしゃるのだからな」

「はいはい」

 ガクガクと前後に振られながらも、ライサンはにこやかに応じる。

「予定では、明日の昼頃お着きになる。だから、今日中に会議で話し合う内容をある程度打ち合わせしなくてはいけないんだ! わかってるか!?」

「まあまあ、落ち着いてルーク」

「セリクス大神官……リュカ様に、このアシェイラ支部の代表として情けない様はお見せ出来ないだろう!? そうだろう? セリクス!」

 リュカ様?

 聞き慣れぬ名前にリュセルが内心首を傾げていると、ルークは自分の腰紐に手をかけた。

「リュカ様の為に、お前を逃がす訳にはいかん」

 ビシッ

 腰紐を外して自分の目の前で伸ばして見せたルークに対し、ライサンはにこやかに笑っていた。

「おやおや」

 そして、その腰紐で椅子にぐるぐるに巻き付けられても……。

「あはははは、すごい厳重ですねぇ」

 にこにこにこにこ

 何故、笑っていられる!?

 リュセルはつい、気味の悪いものを見るような目をライサンに向けてしまっていた。

 それにしても、件の”リュカ様”とは一体……。

「セイントクロス神殿本部に三人しかいないとされる大神官の一人、セリクス大神官。本名を”リュカ・セリクス”、通称”リュカ老師”。とにかく、ものすごくお偉い方です。私達一介の神官からすれば、まさに雲の上の人ですね」

 ギャーギャーわめいているルークと、それをのらりくらりと受け流しているライサンの二人に代わり、リュセルに説明してくれたのはラテーヌだ。しかも、仕事の手を休めぬまま。

「初めまして、僕は、ラテーヌ・リゾット。神官長補佐付きの付き人です」

「リューイ・クマキチです」

 ついでのようにされた自己紹介を受け、リュセルも自分の名を名乗り、ふと、気づいた。

「え? でも、セリクスって」

 確か、ライサンの家名も。

 リュセルが目を見開きながら、グルグルに椅子に縛りつけられたライサンを見ると、彼は視線をルークからリュセルに移した。

「ええ。セリクス大神官は私の身内、祖父にあたる人物になります」

「そうなの、ですか」

 でも、だからといって、ルークがこんなにも興奮している理由にはならない。

「ああ、ルークのこれは病気です。ただのジジコンですから、お気になさらずに」

「誰がジジコンじゃ~~~~!」

 またまたギャーギャーと、二人の世界(?)に入ってしまった神殿のツートップを顔を引きつらせながら見ていたリュセルに、再びラテーヌの補足が入る。

「セリクス大神官は、ウィンター神官長補佐の養父になるのです。なので、神官長補佐は異様な程大神官様に懐いていて、たまに会う時はいいところを見せたいのです」

「ラテーヌ! どういう意味だ!?」

 淡々と仕事をこなしつつ事実のみを語るラテーヌに、図星をさされたルークが怒鳴る。

「あははははは、そのまんまですねぇ」

 能天気なライサンをギラリと睨みつけると、ルークはリュセルに向きなおった。

「見ての通り、今ものすごく忙しい状態にある。セリクス大神官様のアシェイラ支部訪問は、年に一回の監査だ。それと、来月に行われる剣主様と剣鍵様の誕生式典の打ち合わせも目的の一つ」

 剣主と剣鍵の誕生式典。それを聞くと同時に、リュセルは心臓がドッキンと高鳴るのを感じる。

 顔をわずかに強張らせたリュセルを、穏やかな表情のまま、瞳に真剣なものを宿らせ、ライサンはじっと見つめていた。

「お前にやって欲しい事は、それらの書類の仕分けや他の建物への使いだ。仕事はラテーヌや他の神官査の連中に教えてもらってくれ。何、そんなに難しいものじゃない」

 忙しないルークは口早にそう言うと、ライサンの腕を掴んで、彼と共に部屋を出て行った。

「では、失礼しますね」

 ルークに引っ張られながらも、二人に退室の挨拶をしていくライサンにリュセルは反射的に頷いていた。

(なんだか、ものすごい所にきてしまったような気がするな)

「クマキチ神官」

 愕然としていたリュセルの耳に届いたのは、淡々とした響きの声。

「早速ですが、午前の間はこの書類の仕分けをお願いします。午後になったら、ライチェル神官査の所に行って仕事をもらって下さい」

 つまりは、午前中はここで監査の書類まとめの手伝いをし、午後になったら神官査の人の仕事を手伝う。……という事か。

「はい、わかりました」

 そう返事を返すと、ラテーヌの指示通りに書類の仕分けをする事にしたのだった。







「どうぞ、こちらです」

 リュセルがラテーヌ神官の元で書類仕分けの仕事に携わっている間、朝食を食べ終えたセフィ&レオンハルトのコンビは、事務館にある部屋の一室で、件の元神父の青年を探していた。
 そこは、四方を本や資料に囲まれた、一台の机と数脚の椅子でほぼいっぱいというような小部屋。セフィの繋ぎ役の仕事場となる場所である。机の上に広げられているのは、自画入りの神官の個人情報の記録だ。

 通常の名簿と違い、容易に手にいれられられるものではなく、特別な許可がないと閲覧は不可能となっている。……が

「剣主様のご要望という形でお借りしてきました」

 嘘ではない。

 持って行く場所が、城にあるレオンハルトの執務室ではなく、自分の仕事場であるという違いがあるだけだ。それでも、なんとなく。

(嘘をついてしまったようで、気が咎めますねぇ)

 無言のまま、新人神官達の資料を読み進めるレオンハルトの横で、セフィは小さくため息をついていた。

(お許し下さい、創世の女神よ!)

 セフィが懺悔の為に手を祈りの形に組んでいると……。

 パラパラパラパラパラパラッ

 その間にも、レオンハルトが素早すぎる動きで、広げた資料をめくっていた。

 パラパラパラパラ…………パタン。

「?」

 本を閉じる音を聞き、セフィは首を傾げた。

「今回入殿した、ディエラ出身の元神父の経歴を持つ、黒髪黒瞳の二十歳前後位の年齢の神官。該当するのは二人のようだ」

「は?」

 セフィのそんな驚きの声を勘違いしたのか、レオンハルトは続けて言った。

「ディエラ出身の黒髪の若者というだけではなかなか絞れなかったが、元神父という経歴で絞りこめたよ」

「そ、そうですか」

 セフィはそう返しながらも、口端を引きつらせる。

(読むの早過ぎ)

 少しの間、レオンハルトのありえない読書スピードに愕然としていたセフィだったが、相手の言葉内容を理解すると同時に頷いた。

「今回の入殿者は、神父から転職した方が多かったのですね。二人もいたとは……。毎回一人もいないというのが常でしたので」

 それも、両方がディエラ出身者。その上黒髪・黒瞳。

「オスカー・デイズ 二十二歳とアレン・ファクター 二十三歳」

「年も同じ位ですね。一体どちらが月華の乙女を持ち去ったのでしょうか」

 セフィが眉を寄せると、レオンハルトは言った。

「ここで考えていても答えは出まい。とにかく、この二人についてもっと詳しく調べを進めてみるしかないね」

「そうですね」

 なんだか仲間を疑っているようで胸が痛むが、仕方あるまい。仕え、守護すべき、女神の息子の命令なのだから。セフィはそう思いながら、自分を納得させる事にする。

「では、二人の現在と今後のスケジュールを確認致しましょう」

「ああ」

 とにかく本人達に会い、探りを入れてみなくては。

(なんだか、結構すぐ見つかりそうですね)

 こんなにも早く、たった二人に該当者を絞れて、セフィはほっと胸をなで下ろす。

(この調子なら、剣鍵様が新人達から情報を集める必要もないかもしれません)

 良かったですね、剣鍵様。と、月華の乙女が紛失したと聞いた時のリュセルの混乱を知っているだけにセフィはそう思う。

 そうして、晴れやかな気持ちでそれからしばらく調べを進めていた二人だったが、セフィはぼんやりとリュセルの事を考えていた。

(そろそろお昼時でしょうが、剣鍵様は大丈夫でしょうか)
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