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第十二章 月華の乙女
7-2 変態神官現る
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唖然とするリュセルの目の前でライサンは部屋の窓まで駆け寄り、素早い動きで開け放たれていたそこから飛び降りた。
ヒラリッ
神官服の裾を翻して姿を消したライサンのいきなりの行動に、リュセルは慌てて窓へと駆け寄る。
「お、おいッ!」
つい敬語を忘れ、素に返ってしまう程驚いた。
(ここは二階だぞ!)
「あはははは~、こっちですよ~~~~ルーク!」
窓の外に身を乗り出してライサンの姿を探した瞬間、そんな能天気な声がした。
どうやったのかはわからないが、リュセルが窓に駆け寄っている間にライサンは地面に着地していたらしく、彼はルークを揶揄いながら神官長館から遠ざかって行く。
「セリクス~~~~ッ!」
そんな上司の後を追うように、片手に大きな手提げ袋を持ったルークが神官長館より出て来る。懺悔室の聞き手役という仕事は終わったらしい。
「あの人は一体何なんだ?」
窓枠に片肘をつきながら、リュセルは呆れたように呟いた。
「腹は膨れたが、なんだか疲れたな」
午後も働かなくてはならないという事実が、少し億劫になっていた。目的である、新人神官からの情報収集も出来ていないし。
「散々だ」
あ~~~~ッくそっ! と吐き捨てながら、レオンハルトが傍にいないのをいい事に、リュセルは不作法な仕草で頭をかき毟ったのだった。
*****
(何コレ……)
首裏を掻きながら階段を降りたリュセルが、一階の神官査達の休憩部屋でまず目にしたのは、黒髪長髪の神官査の青年が同僚の神官査の青年にセクハラをしている場面だった。
「昨年は剣鍵様の帰還の日になったから、なかったしぃ~、その前の年まで剣主様のみで行われてきたからさ~~。今年が初めてなわけじゃん。剣主様剣鍵様両方揃っての誕生式典ってのはさ~~」
撫で撫で撫で
「…………ライチェル神官査。何故そこで僕の臀部を触るのか、意味がわかりません」
ツリ目気味の目元に、生意気そうな小さな口元、短い金茶の髪。
彼は自分の神官査室に戻ろうとしたのを止められていたらしい。目尻が怒りのあまりピクピクと震えていた。そんな事おかまいなしに、幼さを容貌に残す神官査の青年の尻部分を撫でつけていた青年は、つまらなそうに言った。
「いいじゃん、減るもんでもないしさ~。シャルってば、二十歳になったんデショ? 大丈夫、僕は十八歳までの可愛い子ちゃんにしか興味ないから」
「ッだったら、さっさとその手…………ん?」
顔を真赤にして怒鳴ろうとしていたシャルと呼ばれた青年は、階段を降りて来ていたリュセルの姿に気づくと、こめかみの怒りマークを一瞬で消し、にっこりと笑いかけた。
「リューイ神官……でしたね? お兄さんと一緒に入殿したと聞きました。家名ではややこしいので、名前で呼ぶようにしますが、よろしいですか?」
「あ、はい」
「僕は、シャル・ウオッカ。こちらの変態馬鹿は、リチャード・ライチェル神官査。よろしくお願いしますね」
神官らしい慈悲深い頬笑みを瞬時に浮かべたシャルの、あまりの変わり身の早さに呆気に取られながら、リュセルは彼らの元に歩み寄る。
「昼食は? もう済ませましたか?」
「はい」
リュセルの返答を聞き、にっこりと笑ったシャルの目が光った。
「午後は予定通りライチェル神官査の指示に従って下さいね。では、私はこれで……」
明らかに面倒な男をリュセルに押し付けようとしているのが丸分かりな仕草で、シャルはそそくさと自分の神官査室に戻って行った。
(……なんなんだ?)
意味が分からずリュセルが顔をしかめていると、取り残された形になったリチャードが、じぃーーーっと自分の顔を見つめているのに気づく。
「何か?」
無遠慮に顔を凝視するリチャードの行為に若干気分を害し、リュセルはそう問いかけた。
「んふふ、ねぇリューイ君。君、何歳(いくつ)なの?」
「十八ですが……」
なんだか今日はよく年齢を聞かれる日だな。と思いながらも、実年齢から1つ足して答える。
「ふうん。ギリギリストライクかな? ふふ、たまにはこれ位育ってる子が相手っていうのもいいね~」
一体何が!?
「うふふふふふ~、こっちだよ。こっちにおいでよ、僕の部屋」
ガシッ
いきなり両手をとられ、繋がれたと思ったら、おもむろにクルクルと二人回りながら神官査室の内の一つ、ライチェル神官査の部屋に入り込む。
「よいしょっと」
パタン
男二人でクルクル回った(回された)という事実にショックを受けているリュセルをそのままに、リチャードは扉を閉めて椅子を勧めた。
「ど~ぞ、座って」
「は、はぁ」
ヨロヨロしながら席に着いたリュセルの隣りの椅子にリチャードは鼻歌まじりに腰かけた。
(なんなんだ、この奇人変人は!?)
自分の神官査の机があるのに、付き人用の席に着いたリュセルの隣りにわざわざ座ったリチャードは、一体何がしたいのか…………。
仕事はどうした!?
この建物内には、こんなのばかりか!?
そんな風に思っているリュセルの横で、リチャードはため息をついた。
「折角来てもらって悪いんだケドさ~、肝心の新人達の名簿と個人情報のデータの載った資料が今ないんだ~」
今期配属された新人神官達の仕事の割り振りを任されていたリチャードは、そう言って、お手上げとでもいうように両手を上げて万歳をした。
「ない。……とは? 紛失したのですか?」
個人情報を紛失とは一大時である。
「ん? 違う違う、先を越されて貸し出されちゃったんだよん。本来なら、神官査以上の者にしか貸し出されない資料なんだケド……。相手が剣主様じゃあね~~」
剣主?
(レオンの事か?)
予想外の事事実にリュセルが驚きに目を見張る横で、リチャードは椅子をギイギイと揺らしながら話し続けた。
「正確には、セッちゃんが借りてったみたいなんだケド~。剣主様のご要望だからって事でぇ……。それにしても、何に使うんだろね? あんなもんさ~~~~」
それは、月華の乙女を持ち去った神官を見つける為です。……とは言えず、リュセルはリチャードの言葉の中で気になった部分について尋ねてみた。
「セッちゃん?」
「ぅん? ああ、君の直属の上司、アルターコート神官の事だよん。セフィだから、セッちゃんね」
「はあ……、ソウデスカ」
駄目だ。こいつとあまり関わりたくない。ここで逃げだしたって、お兄様は許してくれるさ。きっとそうさ。
「あの、仕事がないのなら、私はこの辺で……」
しかし、そんな風に立ち上がりかけたリュセルの手を捕え、リチャードは言った。
「仕事ならあるよ~。大事なのがさ」
うふふふふふふふ
不気味な笑みを浮かべるリチャードに促されて、リュセルは再び席についたのだった。
「まったく、何度も何度も飽きもせず逃げ出しやがってッ!」
ルークがようやく捕獲成功したライサンを引きずって神官長館に戻る頃には、時刻は夕方になってしまっていた。
「今日も全然話し合いが進まなかっただろうが! どうするんだ!? 何も決まってないってのにッ」
苛々とそう怒鳴り散らしながらライサンの襟首を掴んで引きずってきたルークは、ちょうど終業時刻になり、神官査室からそれぞれ出て来た神官査達に労いの言葉をかける。
「みんなご苦労だったな。報告書はいつものように提出してくれ。明日もよろしく頼む」
「先に食堂に行ってます、ウィンター神官長補佐。夕食位はきちんと食べた方がいいですよ。セリクス神官長と絶対来て下さいね」
最後に出てきた金茶の髪の神官査、シャルがそう釘を刺して、先に出て行った他の神官査や付き人達の後を追う。
「ん? ライチェル神官査はどうした?」
一向に出て来ないリチャードを不思議に思い、ルークは首を傾げた。
「そういえばリューイ君が、午後はリチャードの仕事をお手伝いするって言ってましたっけ」
今思い出したというように、右手人差し指を伸ばしてライサンは頷く。
「リューイ……クマキチ弟か!? 何故それを早く言わん!」
よりによって、少年趣味の変態神官、リチャードの手伝いに回すとは!
「ライチェル神官査ッ!」
バッターーーーーンッ
ルークはライサンの襟首を掴んだまま、勢いをつけてリチャードの神官査室を開けた。
ヒラリッ
神官服の裾を翻して姿を消したライサンのいきなりの行動に、リュセルは慌てて窓へと駆け寄る。
「お、おいッ!」
つい敬語を忘れ、素に返ってしまう程驚いた。
(ここは二階だぞ!)
「あはははは~、こっちですよ~~~~ルーク!」
窓の外に身を乗り出してライサンの姿を探した瞬間、そんな能天気な声がした。
どうやったのかはわからないが、リュセルが窓に駆け寄っている間にライサンは地面に着地していたらしく、彼はルークを揶揄いながら神官長館から遠ざかって行く。
「セリクス~~~~ッ!」
そんな上司の後を追うように、片手に大きな手提げ袋を持ったルークが神官長館より出て来る。懺悔室の聞き手役という仕事は終わったらしい。
「あの人は一体何なんだ?」
窓枠に片肘をつきながら、リュセルは呆れたように呟いた。
「腹は膨れたが、なんだか疲れたな」
午後も働かなくてはならないという事実が、少し億劫になっていた。目的である、新人神官からの情報収集も出来ていないし。
「散々だ」
あ~~~~ッくそっ! と吐き捨てながら、レオンハルトが傍にいないのをいい事に、リュセルは不作法な仕草で頭をかき毟ったのだった。
*****
(何コレ……)
首裏を掻きながら階段を降りたリュセルが、一階の神官査達の休憩部屋でまず目にしたのは、黒髪長髪の神官査の青年が同僚の神官査の青年にセクハラをしている場面だった。
「昨年は剣鍵様の帰還の日になったから、なかったしぃ~、その前の年まで剣主様のみで行われてきたからさ~~。今年が初めてなわけじゃん。剣主様剣鍵様両方揃っての誕生式典ってのはさ~~」
撫で撫で撫で
「…………ライチェル神官査。何故そこで僕の臀部を触るのか、意味がわかりません」
ツリ目気味の目元に、生意気そうな小さな口元、短い金茶の髪。
彼は自分の神官査室に戻ろうとしたのを止められていたらしい。目尻が怒りのあまりピクピクと震えていた。そんな事おかまいなしに、幼さを容貌に残す神官査の青年の尻部分を撫でつけていた青年は、つまらなそうに言った。
「いいじゃん、減るもんでもないしさ~。シャルってば、二十歳になったんデショ? 大丈夫、僕は十八歳までの可愛い子ちゃんにしか興味ないから」
「ッだったら、さっさとその手…………ん?」
顔を真赤にして怒鳴ろうとしていたシャルと呼ばれた青年は、階段を降りて来ていたリュセルの姿に気づくと、こめかみの怒りマークを一瞬で消し、にっこりと笑いかけた。
「リューイ神官……でしたね? お兄さんと一緒に入殿したと聞きました。家名ではややこしいので、名前で呼ぶようにしますが、よろしいですか?」
「あ、はい」
「僕は、シャル・ウオッカ。こちらの変態馬鹿は、リチャード・ライチェル神官査。よろしくお願いしますね」
神官らしい慈悲深い頬笑みを瞬時に浮かべたシャルの、あまりの変わり身の早さに呆気に取られながら、リュセルは彼らの元に歩み寄る。
「昼食は? もう済ませましたか?」
「はい」
リュセルの返答を聞き、にっこりと笑ったシャルの目が光った。
「午後は予定通りライチェル神官査の指示に従って下さいね。では、私はこれで……」
明らかに面倒な男をリュセルに押し付けようとしているのが丸分かりな仕草で、シャルはそそくさと自分の神官査室に戻って行った。
(……なんなんだ?)
意味が分からずリュセルが顔をしかめていると、取り残された形になったリチャードが、じぃーーーっと自分の顔を見つめているのに気づく。
「何か?」
無遠慮に顔を凝視するリチャードの行為に若干気分を害し、リュセルはそう問いかけた。
「んふふ、ねぇリューイ君。君、何歳(いくつ)なの?」
「十八ですが……」
なんだか今日はよく年齢を聞かれる日だな。と思いながらも、実年齢から1つ足して答える。
「ふうん。ギリギリストライクかな? ふふ、たまにはこれ位育ってる子が相手っていうのもいいね~」
一体何が!?
「うふふふふふ~、こっちだよ。こっちにおいでよ、僕の部屋」
ガシッ
いきなり両手をとられ、繋がれたと思ったら、おもむろにクルクルと二人回りながら神官査室の内の一つ、ライチェル神官査の部屋に入り込む。
「よいしょっと」
パタン
男二人でクルクル回った(回された)という事実にショックを受けているリュセルをそのままに、リチャードは扉を閉めて椅子を勧めた。
「ど~ぞ、座って」
「は、はぁ」
ヨロヨロしながら席に着いたリュセルの隣りの椅子にリチャードは鼻歌まじりに腰かけた。
(なんなんだ、この奇人変人は!?)
自分の神官査の机があるのに、付き人用の席に着いたリュセルの隣りにわざわざ座ったリチャードは、一体何がしたいのか…………。
仕事はどうした!?
この建物内には、こんなのばかりか!?
そんな風に思っているリュセルの横で、リチャードはため息をついた。
「折角来てもらって悪いんだケドさ~、肝心の新人達の名簿と個人情報のデータの載った資料が今ないんだ~」
今期配属された新人神官達の仕事の割り振りを任されていたリチャードは、そう言って、お手上げとでもいうように両手を上げて万歳をした。
「ない。……とは? 紛失したのですか?」
個人情報を紛失とは一大時である。
「ん? 違う違う、先を越されて貸し出されちゃったんだよん。本来なら、神官査以上の者にしか貸し出されない資料なんだケド……。相手が剣主様じゃあね~~」
剣主?
(レオンの事か?)
予想外の事事実にリュセルが驚きに目を見張る横で、リチャードは椅子をギイギイと揺らしながら話し続けた。
「正確には、セッちゃんが借りてったみたいなんだケド~。剣主様のご要望だからって事でぇ……。それにしても、何に使うんだろね? あんなもんさ~~~~」
それは、月華の乙女を持ち去った神官を見つける為です。……とは言えず、リュセルはリチャードの言葉の中で気になった部分について尋ねてみた。
「セッちゃん?」
「ぅん? ああ、君の直属の上司、アルターコート神官の事だよん。セフィだから、セッちゃんね」
「はあ……、ソウデスカ」
駄目だ。こいつとあまり関わりたくない。ここで逃げだしたって、お兄様は許してくれるさ。きっとそうさ。
「あの、仕事がないのなら、私はこの辺で……」
しかし、そんな風に立ち上がりかけたリュセルの手を捕え、リチャードは言った。
「仕事ならあるよ~。大事なのがさ」
うふふふふふふふ
不気味な笑みを浮かべるリチャードに促されて、リュセルは再び席についたのだった。
「まったく、何度も何度も飽きもせず逃げ出しやがってッ!」
ルークがようやく捕獲成功したライサンを引きずって神官長館に戻る頃には、時刻は夕方になってしまっていた。
「今日も全然話し合いが進まなかっただろうが! どうするんだ!? 何も決まってないってのにッ」
苛々とそう怒鳴り散らしながらライサンの襟首を掴んで引きずってきたルークは、ちょうど終業時刻になり、神官査室からそれぞれ出て来た神官査達に労いの言葉をかける。
「みんなご苦労だったな。報告書はいつものように提出してくれ。明日もよろしく頼む」
「先に食堂に行ってます、ウィンター神官長補佐。夕食位はきちんと食べた方がいいですよ。セリクス神官長と絶対来て下さいね」
最後に出てきた金茶の髪の神官査、シャルがそう釘を刺して、先に出て行った他の神官査や付き人達の後を追う。
「ん? ライチェル神官査はどうした?」
一向に出て来ないリチャードを不思議に思い、ルークは首を傾げた。
「そういえばリューイ君が、午後はリチャードの仕事をお手伝いするって言ってましたっけ」
今思い出したというように、右手人差し指を伸ばしてライサンは頷く。
「リューイ……クマキチ弟か!? 何故それを早く言わん!」
よりによって、少年趣味の変態神官、リチャードの手伝いに回すとは!
「ライチェル神官査ッ!」
バッターーーーーンッ
ルークはライサンの襟首を掴んだまま、勢いをつけてリチャードの神官査室を開けた。
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