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第十二章 月華の乙女
10-2 リュカ・セリクスという名の小妖精
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「療養中の彼を見舞った者が言うには、デイズ神官は魂を抜きとられてしまったかのような状態で、まるで恋をしているような状態だった。……らしい」
それを聞いたセフィは、小さくため息をつく。
「恋…………ですか」
セフィの、やれやれ。と言わんばかりの声音を感じ取り、リュセルは好奇心をくすぐられて尋ねてみた。
「昨日聞いた話では、懺悔室には恋愛相談もくるらしいが、そんなに恋愛沙汰があるのか? ここ(神殿)って?」
わくわくわく
楽しそうなリュセルの雰囲気を感じ取ったセフィは、顔を引きつらせる。
「多い……わけでは、ないでしょうが。それなりにあるんじゃないでしょうか? 戒律を守らぬ不届き者もいるらしいですし」
「何だと!? それって、例の姦淫を禁ずる戒だろう? ここ(神殿内)でやってる奴らがいるって事か!?」
「そ、そそそそんな大声で、止めて下さい、剣鍵様!」
リュセルのあからさまな言葉に、セフィは顔を真赤にする。
「それに、全員じゃありません! ほとんどの神官は、品行方正な女神の使徒です!」
リュセルの脳裏に、恋や欲望とは無縁そうな神官長補佐の顔が浮かび上がった。
「そのようだな」
口を閉ざしたリュセルにホッとしたセフィは、話を戻す。
「それで、この後はどうするのですか?」
柔らかな声音での確認の言葉に対し、リュセルは頷いた。
「ファクター神官と昼食の約束をとりつけたから、その時また、話を聞き出すさ」
(す、素早い)
この午前の間だけで、アレン・ファクターと繋ぎをつけ、昼食の約束を取り交わし、資料ではわからぬ部分の調査を進め、容疑者を一人に絞ったリュセルにセフィは感心した。
(さすがは、あの剣主様の弟君なだけありますねぇ)
同じように、信じられない位の速さで、容疑者を二人に絞りこんだレオンハルトの早さを知るからこそ、セフィは思う。
(血の繋がりの成せる業なのか、神子故なのか。どちらにしろ、すごいです)
そこまで考えて、セフィは大事な事を思い出した。
「剣鍵様、先程剣主様より手紙が届いたのですが、やはり少し手間取っているようでして、お帰りは明日になるとの事です」
兄の戻りが遅れるという事実に、一瞬リュセルの顔は強張りかける。
「そうか」
しかし、すぐにいつもの調子に戻り、含み笑いを洩らした。
「という事は、本当に今夜はチャンスだな。是非とも黒猫朗読会に参加したいものだ」
「剣鍵様」
目が見えない分、気配に敏いセフィは、リュセルの不安を感じ取り、心配そうな声で言った。
「そんなに意地を張らず、不安な時は不安だと、正直におっしゃってもよろしいのですよ? 神子の方々は己が半身の傍をそうそう離れる事はないと聞いております。剣主様がおられず不安なのは、決して恥じる事ではありません」
そんな優しい言葉と共に、両手を握られる。
「…………」
少年の内ならともかく、自分のような年の者が子供扱いされているという事実に、普通ならすぐに拒絶反応を起こすところだが、セフィにされるとなんだか気持ちが良かった。
柔らかな掌が、とても温かい。
柔らかな……?
(結構固いな)
セフィの掌は予想に反して無骨なものだった。優美なのだが、決して柔らかくない。それは、剣を握るに慣れた剣士特有のもののような?
(まるでレオンの手のようだ。いや、でも、神官って、剣なんて握らないよな?)
リュセルは不思議に思いながらも、その手が心地よかったので、しばらくそのままでいたのだった。
*****
「どうしました? なんだか浮かない顔ですね」
麗らかなお昼時。大きなため息を一つついていたアレンは、聞こえた声に顔を上げた。
「ああ、クマキチ神官」
「お待たせしてしまいましたか?」
昼食を共にする約束をしていた年下の同僚は、片手にバスケットを持っていた。
「本日は天気もいいですし、外で食事にしませんか?」
そう言われ、初めて今日がとてもいい天気だという事に気づかされた。
「元気ありませんね、大丈夫ですか?」
資料館と神官長館の間にある庭園の芝の上に座り込み、食堂でもらってきたサンドイッチを食べている間も、アレンは大きなため息を何度も吐き出していた。
「あ、すみません。顔に出てしまっていましたか?」
「資料整理の仕事が大変とか?」
彼の問いに、アレンは苦笑を浮かべながら首を左右に振る。
「そんな、私のしている仕事など、付き人の任に就いているあなたに比べれば、大変などというものではありません」
「何か心配事でも?」
「ええ、まあ。少し友人の事で」
アレンはそう言いながら、サンドイッチを口に入れた。そこで気づいた。今日初めて会った人間なのに、なんだかいろいろと話し過ぎているような気がする。
「そうですか。どんな仕事でも、人間関係が一番大変ですからね」
この甘過ぎる声がいけない。この声を聞いていると、いらない事までペラペラと話したくなってくるのだ。しかし、このような青年が神殿にいる事自体、間違いなのかもしれない。外の世界では、おそらくとてつもなく女性にもてた事であろう。
「こんなにいい天気だと、いくら品行方正な神官といえど、仕事をさぼりたくなりますね」
元気のない自分を心配したのだろう、いたずらっぽい口調で言われ、アレンは笑う。
「ええ、本当に」
年下の青年に心配をかけてはいけない。
「今度は是非、その友人の方も一緒に食事をしましょう。知り合いが増えるのは私も嬉しいので」
昼食の時間が終わり、そう言った彼に、アレンは頷いた。
「いいですね、今度連れてきますよ」
こんな清々しい青年と話をすれば、オスカーの気持ちも晴れるかもしれないと思った。
(たぶんあれは、オスカー・デイズの事で悩んでいるな)
アレンが去った後、芝生に寝転びながら、リュセルはノンちゃんメモにメモった事柄を眺めてそう思った。
「デイズ神官が例の絵を持っているという線が濃厚だなぁ」
傍から見ても様子が変だったという、デイズ神官。友人であるアレンが、それを心配してもおかしくない。
「もう少し、他の神官の話も聞いてみるか」
そう一人ごちた時。
「おやおや、坊や。お昼寝かのう?」
ふさふさフワフワの白い毛に覆われた小妖精が、寝そべる自分の顔を上から覗きこんでいた。
(……………………小人?)
向こうの世界の某童話に登場する、七人の小人のように小さな人だ。
「でも、こんなに良い天気じゃと、昼寝の一つでもしたくなるのは当然じゃろうて」
ふぉふぉふぉふぉと笑うその小さな老人は、ちょこんとリュセルの隣りに腰を下ろす。
(さ、触りたい)
ハアハア
真白なもこもこ鬚を凝視しながら、起き上がったリュセルは、手をワキワキさせて息を荒くしていた。これではまるで変態だ。
「坊やは、今年入った新人かの?」
小人の言葉を聞き、リュセルは昂る気持ちを抑えつつ、頷いた。
「ん、照れておるのか?」
そう言って首を傾げながら、モコモコな長い鬚を撫でつけるシワシワの小さな手。
(ああ~~、触りたい、撫でたい、抱っこしたい!)
この、可愛い小人さんを~~~~ッ!
ハアハアハアハア
リュセルはかすかに頬を赤く染めつつ、小人に向かって手を伸ばす。
「ん? どうしたのじゃ、坊や」
様子のおかしな(変態化した)リュセルに気づいたのか、その小人は不思議そうにそう尋ねてきた。
「不躾ですみませんが、抱っこしていいですか?」
超ストレートにそう言ったリュセルの顔を見上げながら、初めてその声を聞いた小人は、別の事で驚きに目を見張った。
「坊や、まさか……」
そこまで言いかけて、口を閉ざす。
「?」
やはり、初対面で抱っこはまずかったかと(当たり前だ)リュセルが思っていると、小人はにこりと笑って答えた。
「良いよ。こんな年寄りでよいのならのう」
ちょうど、その時。
「いましたか?」
「いや、いない。入口をきちんと通過しているのだから、この神殿内のどこかにはいるはずなのだけど」
少々太り気味の神官が汗を拭いながら、同僚の神官査の青年、シャルに目を向ける。
シャルは眉根を寄せると、唇を噛んだ。
「神官長補佐があのような状態だったから、みんな、そちらに意識が向いてましたからね。誰もリュカ老師のお出迎えにまで気が回らなかったのは誤算でした。どうしましょう、ルパート」
「でもさ、子供じゃないんだし、何度も来てるんだから、神官長館まで位、一人で来れるんじゃないの?」
シャルの不安を和らげようと、ルパートと呼ばれた神官査の青年はそう言った。
「だといいのですが」
「一旦、神官長館に戻ろう。同じように探しに出かけたリチャードの奴が連れて戻ってるかもしれないし」
「ライチェル神官査が? ありえないですね」
不真面目で少々おかしな所のあるリチャードの事を知るが故に、ルパートもシャルのその言葉は否定出来なかった。
そして、その後、ルパートの提案通り神官長館へと戻る為の道を歩いていたシャルは、神官長館の近くにある小さな庭園内を覗くリチャードを見つけた。
「やっぱりさぼってる。ライチェル神官査!」
シャルが怒声を上げると、リチャードはしーっと右手人差し指を唇の前に当てて、静かにするように指示してくる。
「?」
「なんだろね?」
シャルとルパートは不思議そうに顔を見合せて、リチャードのいる場所へと近づいて行った。
「どうしたの? リチャード」
「見て見て、あれ。すっげ~~笑えるし!」
ルパートの呼びかけに答えたリチャードの指差す方に目を向けた二人は唖然とする。
青空に浮かぶ、無数のしゃぼん玉。
それを作っているのは、一人の青年神官と、その膝の上に抱かれた彼らの探していた御人。
「坊や、見てご覧。ワシの作った玉の方が大きいじゃろう?」
ストローから鬚……ではなく、口を離してはしゃぐ小妖精属性老神官を見下ろし、青年神官も言い返す。
「いやいや、俺が作ったやつのが大きいぞ」
「ふぉふぉふぉふぉ、坊やも頑固じゃのう」
そんな会話が漏れ聞こえてくる。
「なんか、平和な光景だねぇ」
リチャードは口を開けっぱなしにしている二人の同僚を横目に、そう言って面白そうに笑った。
それを聞いたセフィは、小さくため息をつく。
「恋…………ですか」
セフィの、やれやれ。と言わんばかりの声音を感じ取り、リュセルは好奇心をくすぐられて尋ねてみた。
「昨日聞いた話では、懺悔室には恋愛相談もくるらしいが、そんなに恋愛沙汰があるのか? ここ(神殿)って?」
わくわくわく
楽しそうなリュセルの雰囲気を感じ取ったセフィは、顔を引きつらせる。
「多い……わけでは、ないでしょうが。それなりにあるんじゃないでしょうか? 戒律を守らぬ不届き者もいるらしいですし」
「何だと!? それって、例の姦淫を禁ずる戒だろう? ここ(神殿内)でやってる奴らがいるって事か!?」
「そ、そそそそんな大声で、止めて下さい、剣鍵様!」
リュセルのあからさまな言葉に、セフィは顔を真赤にする。
「それに、全員じゃありません! ほとんどの神官は、品行方正な女神の使徒です!」
リュセルの脳裏に、恋や欲望とは無縁そうな神官長補佐の顔が浮かび上がった。
「そのようだな」
口を閉ざしたリュセルにホッとしたセフィは、話を戻す。
「それで、この後はどうするのですか?」
柔らかな声音での確認の言葉に対し、リュセルは頷いた。
「ファクター神官と昼食の約束をとりつけたから、その時また、話を聞き出すさ」
(す、素早い)
この午前の間だけで、アレン・ファクターと繋ぎをつけ、昼食の約束を取り交わし、資料ではわからぬ部分の調査を進め、容疑者を一人に絞ったリュセルにセフィは感心した。
(さすがは、あの剣主様の弟君なだけありますねぇ)
同じように、信じられない位の速さで、容疑者を二人に絞りこんだレオンハルトの早さを知るからこそ、セフィは思う。
(血の繋がりの成せる業なのか、神子故なのか。どちらにしろ、すごいです)
そこまで考えて、セフィは大事な事を思い出した。
「剣鍵様、先程剣主様より手紙が届いたのですが、やはり少し手間取っているようでして、お帰りは明日になるとの事です」
兄の戻りが遅れるという事実に、一瞬リュセルの顔は強張りかける。
「そうか」
しかし、すぐにいつもの調子に戻り、含み笑いを洩らした。
「という事は、本当に今夜はチャンスだな。是非とも黒猫朗読会に参加したいものだ」
「剣鍵様」
目が見えない分、気配に敏いセフィは、リュセルの不安を感じ取り、心配そうな声で言った。
「そんなに意地を張らず、不安な時は不安だと、正直におっしゃってもよろしいのですよ? 神子の方々は己が半身の傍をそうそう離れる事はないと聞いております。剣主様がおられず不安なのは、決して恥じる事ではありません」
そんな優しい言葉と共に、両手を握られる。
「…………」
少年の内ならともかく、自分のような年の者が子供扱いされているという事実に、普通ならすぐに拒絶反応を起こすところだが、セフィにされるとなんだか気持ちが良かった。
柔らかな掌が、とても温かい。
柔らかな……?
(結構固いな)
セフィの掌は予想に反して無骨なものだった。優美なのだが、決して柔らかくない。それは、剣を握るに慣れた剣士特有のもののような?
(まるでレオンの手のようだ。いや、でも、神官って、剣なんて握らないよな?)
リュセルは不思議に思いながらも、その手が心地よかったので、しばらくそのままでいたのだった。
*****
「どうしました? なんだか浮かない顔ですね」
麗らかなお昼時。大きなため息を一つついていたアレンは、聞こえた声に顔を上げた。
「ああ、クマキチ神官」
「お待たせしてしまいましたか?」
昼食を共にする約束をしていた年下の同僚は、片手にバスケットを持っていた。
「本日は天気もいいですし、外で食事にしませんか?」
そう言われ、初めて今日がとてもいい天気だという事に気づかされた。
「元気ありませんね、大丈夫ですか?」
資料館と神官長館の間にある庭園の芝の上に座り込み、食堂でもらってきたサンドイッチを食べている間も、アレンは大きなため息を何度も吐き出していた。
「あ、すみません。顔に出てしまっていましたか?」
「資料整理の仕事が大変とか?」
彼の問いに、アレンは苦笑を浮かべながら首を左右に振る。
「そんな、私のしている仕事など、付き人の任に就いているあなたに比べれば、大変などというものではありません」
「何か心配事でも?」
「ええ、まあ。少し友人の事で」
アレンはそう言いながら、サンドイッチを口に入れた。そこで気づいた。今日初めて会った人間なのに、なんだかいろいろと話し過ぎているような気がする。
「そうですか。どんな仕事でも、人間関係が一番大変ですからね」
この甘過ぎる声がいけない。この声を聞いていると、いらない事までペラペラと話したくなってくるのだ。しかし、このような青年が神殿にいる事自体、間違いなのかもしれない。外の世界では、おそらくとてつもなく女性にもてた事であろう。
「こんなにいい天気だと、いくら品行方正な神官といえど、仕事をさぼりたくなりますね」
元気のない自分を心配したのだろう、いたずらっぽい口調で言われ、アレンは笑う。
「ええ、本当に」
年下の青年に心配をかけてはいけない。
「今度は是非、その友人の方も一緒に食事をしましょう。知り合いが増えるのは私も嬉しいので」
昼食の時間が終わり、そう言った彼に、アレンは頷いた。
「いいですね、今度連れてきますよ」
こんな清々しい青年と話をすれば、オスカーの気持ちも晴れるかもしれないと思った。
(たぶんあれは、オスカー・デイズの事で悩んでいるな)
アレンが去った後、芝生に寝転びながら、リュセルはノンちゃんメモにメモった事柄を眺めてそう思った。
「デイズ神官が例の絵を持っているという線が濃厚だなぁ」
傍から見ても様子が変だったという、デイズ神官。友人であるアレンが、それを心配してもおかしくない。
「もう少し、他の神官の話も聞いてみるか」
そう一人ごちた時。
「おやおや、坊や。お昼寝かのう?」
ふさふさフワフワの白い毛に覆われた小妖精が、寝そべる自分の顔を上から覗きこんでいた。
(……………………小人?)
向こうの世界の某童話に登場する、七人の小人のように小さな人だ。
「でも、こんなに良い天気じゃと、昼寝の一つでもしたくなるのは当然じゃろうて」
ふぉふぉふぉふぉと笑うその小さな老人は、ちょこんとリュセルの隣りに腰を下ろす。
(さ、触りたい)
ハアハア
真白なもこもこ鬚を凝視しながら、起き上がったリュセルは、手をワキワキさせて息を荒くしていた。これではまるで変態だ。
「坊やは、今年入った新人かの?」
小人の言葉を聞き、リュセルは昂る気持ちを抑えつつ、頷いた。
「ん、照れておるのか?」
そう言って首を傾げながら、モコモコな長い鬚を撫でつけるシワシワの小さな手。
(ああ~~、触りたい、撫でたい、抱っこしたい!)
この、可愛い小人さんを~~~~ッ!
ハアハアハアハア
リュセルはかすかに頬を赤く染めつつ、小人に向かって手を伸ばす。
「ん? どうしたのじゃ、坊や」
様子のおかしな(変態化した)リュセルに気づいたのか、その小人は不思議そうにそう尋ねてきた。
「不躾ですみませんが、抱っこしていいですか?」
超ストレートにそう言ったリュセルの顔を見上げながら、初めてその声を聞いた小人は、別の事で驚きに目を見張った。
「坊や、まさか……」
そこまで言いかけて、口を閉ざす。
「?」
やはり、初対面で抱っこはまずかったかと(当たり前だ)リュセルが思っていると、小人はにこりと笑って答えた。
「良いよ。こんな年寄りでよいのならのう」
ちょうど、その時。
「いましたか?」
「いや、いない。入口をきちんと通過しているのだから、この神殿内のどこかにはいるはずなのだけど」
少々太り気味の神官が汗を拭いながら、同僚の神官査の青年、シャルに目を向ける。
シャルは眉根を寄せると、唇を噛んだ。
「神官長補佐があのような状態だったから、みんな、そちらに意識が向いてましたからね。誰もリュカ老師のお出迎えにまで気が回らなかったのは誤算でした。どうしましょう、ルパート」
「でもさ、子供じゃないんだし、何度も来てるんだから、神官長館まで位、一人で来れるんじゃないの?」
シャルの不安を和らげようと、ルパートと呼ばれた神官査の青年はそう言った。
「だといいのですが」
「一旦、神官長館に戻ろう。同じように探しに出かけたリチャードの奴が連れて戻ってるかもしれないし」
「ライチェル神官査が? ありえないですね」
不真面目で少々おかしな所のあるリチャードの事を知るが故に、ルパートもシャルのその言葉は否定出来なかった。
そして、その後、ルパートの提案通り神官長館へと戻る為の道を歩いていたシャルは、神官長館の近くにある小さな庭園内を覗くリチャードを見つけた。
「やっぱりさぼってる。ライチェル神官査!」
シャルが怒声を上げると、リチャードはしーっと右手人差し指を唇の前に当てて、静かにするように指示してくる。
「?」
「なんだろね?」
シャルとルパートは不思議そうに顔を見合せて、リチャードのいる場所へと近づいて行った。
「どうしたの? リチャード」
「見て見て、あれ。すっげ~~笑えるし!」
ルパートの呼びかけに答えたリチャードの指差す方に目を向けた二人は唖然とする。
青空に浮かぶ、無数のしゃぼん玉。
それを作っているのは、一人の青年神官と、その膝の上に抱かれた彼らの探していた御人。
「坊や、見てご覧。ワシの作った玉の方が大きいじゃろう?」
ストローから鬚……ではなく、口を離してはしゃぐ小妖精属性老神官を見下ろし、青年神官も言い返す。
「いやいや、俺が作ったやつのが大きいぞ」
「ふぉふぉふぉふぉ、坊やも頑固じゃのう」
そんな会話が漏れ聞こえてくる。
「なんか、平和な光景だねぇ」
リチャードは口を開けっぱなしにしている二人の同僚を横目に、そう言って面白そうに笑った。
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