【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十三章 聖女の血

3-3 聖銃③

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 こちらに降ってきた大きな破片はローウェンの蹴りが防いだ為、リュセルの体を覆っていたのは砂と小さな破片のみだ。それでも、宝主でもなければ、その身を守る半身が傍にいないリュセルは、散々な状態である。着ていた宮廷衣のあちこちが破れ、手の甲や首元、頬など、衣服に隠れていない部分に切り傷を作ってしまっていた。

 ガクガクブルブル震えながら、リュセルは叫んだ。

「なんじゃ、こりゃ~~~~!聞いてないぞ!」

 その悲鳴に、ローウェンは困ったように答える。

「ご、ごめんなさい、リュセル兄さん。多分、思った以上にリュセル兄さんの力が強過ぎたんだよ。威力をもっと抑えた、リュセル兄さん用のに作り変えるから!」

 宝鍵として通常の能力を持ったアルティスを基準にしたのが、そもそもの間違いだったのだ。

「いや、お前の所為じゃない。謝らなくていい」

「でも、血が出てるよ」

 泣きそうな声でそう言ったローウェンを安心させるようにリュセルは笑う。

「大丈夫、かすり傷だ」

 その時だった。

 ドドドドドッという音と共に駆け寄ってきた、アシェイラ騎士団の騎士達に気づいたら包囲されてしまっていた。

「ご無事ですか、リュセル殿下!?」

 その中から慌てた様子で現れた騎士団総帥、フェイランの姿を見て、リュセルはバツが悪そうに顔を背けてしまう。

 爆音を聞いて駆け付けたのだろう、数十はいると思われる近衛の任についていた騎士達に庇われながら、ローウェンは呟く。

「もしかして、敵襲だと思われてる?」

「あんな爆音と地響きがしたのだ。おそらく、少なくともアシェイラ城内には響いたはず。仕方あるまいて」

 弟の戸惑いの声に、アルティスは若干顔を引きつらせつつも冷静に答える。

「まだ、敵は傍にいるはずだ。第二隊はそのまま殿下方の護衛につき、第一隊は周辺の捜索。第三隊は他の王族の方々の警護に回れ!」

 テキパキと騎士達に総帥自ら指示を下すフェイランは、その背にリュセルを庇ったままだ。

「さすがはアシェイラ騎士団。素早い対応だ」

 フェイランの指示なくとも各騎士団長達は既に動いているらしく、一瞬でアシェイラ城の警備は最高レベルまで引き上げられた。

 それを見ていたアルティスは、ついつい感心してしまう。サンジェイラ城ではこうはいかないだろう。

「リュセル王子!」

 そんな中、騎士達の壁の間をぬって駆け寄ってきたユージンに、フェイランはこの国の第三王子の尊い身柄を引き渡す。

「私は第一隊の報告を待つ。ユージン、お前はリュセル殿下と客人方の身柄を頼む」

「はい、フェイラン様。さあ、行きましょう、リュセル王子。安心して下さい、殿下はアイリーンとアントニオが守っております。ご無事ですよ」

 リュセルを庇いながらユージンが動こうとした時、この場を支配するような低い美声が響いた。


「その必要はないだろう。」


 そんな、冷ややかな声と共に、騎士の壁が左右に開かれる。

 アイリーンとアントニオを背後に従え、その場に叩頭する騎士達の前に出来た道を優雅に進んだレオンハルトは、無感動な視線を半壊状態にある訓練場に向けた。

 自分にも、覚えのある光景だ。

「…………」

 子供の頃、レオンハルトは訓練場を全壊させた事があったのだ。リュセルの手に握られた聖銃を無言のまま一瞥したレオンハルトは、正確に現状を把握した。

「敵襲ではない。すぐに武装を解き、警戒レベルを下げなさい」

 従うべき生涯の主の命令に、フェイランは深く頭を下げる。

「はっ」

 途端にアシェイラ城を覆っていた武装が解除されるのを、またまたアルティスは感心しながら観察していた。

(う~む、見事だ)

「まったく、お前は。騒ぎを起こすなと言った途端にこれかい?」

「すまない」

 何の弁明も出来ません。

 リュセルはレオンハルトの呆れたような視線を感じながら、謝るしかない。

「違うよ、リュセル兄さんは悪くないんだ! 僕が聖銃の設定を間違えたから。威力が大き過ぎちゃったんだ。ごめんなさい、レオンハルト兄さん」

「我もついていながら。すまぬ、レオンハルト殿」

 少年コンビにも謝罪されたレオンハルトは、小さなため息をつくと、目の前の弟の頬の傷に目をやった。

「とにかく、傷の手当てと湯浴みを済ませなさい。説教はそれからだ」

 長~~くなりそうなお小言の予感にリュセルは顔を引きつらせ、ローウェンとアルティスは情けない表情を浮かべ、顔を見合せたのだった。







 短い時間だが、アシェイラ城周辺を襲った地震とアシェイラ城内から響いた爆音は、城の敷地面積が広過ぎる事が幸いしたのか、被害は城内に留まり、王都に住む国民達が気づく事はほぼなかった。

 王都を包んだ、僅かな揺れ。

 それに気づいたレアな人間である彼女は、両手にアシェイラ王都名物、黒猫アイス(ノンちゃんの形のアイス)を持ったまま、城のある方角に目を向けた。

 背を流れる、くせのないぬばたまの黒髪。サンジェイラ美人の代名詞のような黒髪は、顔の両脇に細いみつ編みが編まれ、縹色の紐で留められていた。その紐に絡みつくように飾られた、桔梗の花を模った髪飾りが目を惹くのは、その髪飾りの造りが見事過ぎる所為だろう。芸術の都、ディエラ王都でもない限り、このような見事な細工の髪飾りを目にする事は、まずありえない。
 スレンダーなその身に纏うのは、髪留めに使う紐と同じ、縹色の旅装束。女性らしい可憐なデザインのそれにも、桔梗の花が描かれていた。

 吸い込まれそうに暗い、黒曜石のような切れ長な瞳をアシェイラ城から傍らにいる青年に移すと、ハスキーな声音でその名を呼んだ。

「ルー」

 呼ばれた青年は、彼女の手から黒猫アイスを受け取ると、それに豪快にかぶりつく。

「相変わらず騒がしいな、アシェイラ王都は」

 短い赤茶の髪にどこか愛嬌のあるはしばみ色の瞳。闊達そうな、よく日に焼けた小麦色の肌。

 目立たぬ鳶色の旅装束を着た彼は、買ってきたアイスを食べないで不安そうな顔をしている傍らの女性に目を向けた。

「そんな責めるような目をするな、キキョウ。アイス溶けるよ?」

 キキョウと呼ばれた女性は、苦々しげに青年から目を逸らす。

「責めてはいない。ただ、私は君が心配なんだ。どうして、ディエラに帰ろうとしないんだい?」

 その表情の中に、帰国への深い焦がれを見た青年は憂うような瞳になる。

「己(おれ)もディエラに戻りたいよ。子供達に会いたい。でも、周囲がきな臭くなったら、アシェイラ城を訪ねる。これは、国を出る前、ジュリナとレオンハルト王子と約束した事だろう。」

 青年の言葉に、キキョウははっと顔を上げる。

「すまない。私なんかより、産まれ故郷に戻る事も出来ない君の方が辛いのに」

 悲しそうな顔をする彼女は、まるでたおやかな桔梗の花のように美しい。

「己は大丈夫。…………それにしてもお前は、旅に出てからというもの、日を追う事に女らしくなるね」

 揶揄うような青年の言葉。それを聞いたキキョウは、ムッとしたように答える。

「君は、ますます男にしか見えないよ」

「そうかな?」

 小首を傾げる青年を見て、キキョウは剣呑な目つきのまま恨めしげに呟く。

「私はこのまま娘達に会うのは、どうかと思う。混乱するだろう?」

「下の子達はディエラ城にいるんだ。大丈夫、まだ会えない」

「違う、問題はジュリナとティアラだよ!? レオンハルト王子達の誕生式典のお祝いで来国するんだろう? ジュリナは……、まぁ、君に似たあの気性だから、面白がって喜ぶかもしれないけれど、何も知らないティアラが可哀そうだ」

 それを聞いた青年は、面倒臭そうに小指で耳をほじりながら頷く。

「あの子の気性は、お前にそっくりだからな」

 そう言いながら青年は、溶けかけたキキョウの分のアイスにかぶりつく。

「ルー!」

 行儀の悪い彼を注意しかけたキキョウは、その瞬間、感じた視線に身を震わせた。

「…………」

 傍らの女性が無言のまま瞳を険しくするのを横目で見ながら、青年は不敵に呟く。

「大丈夫、アシェイラ王都の結界は強固だ。内には入れまい。ここに来られた今、下手に手出しは出来ないさ。それでも、早めに城内に入るにこした事はないけどね」

「それなら、早く行こう」

 のん気にアイスを食べ続ける青年の手を取ったキキョウは、そのまま早歩きに歩き続ける。

「しかし、どうやってレオンハルト王子に繋ぎをとるか。相手は一国の王子である上、剣主だからなぁ。今回、急過ぎて、前もって知らせる事も出来てないし。己達の正体をばらす事も出来ないしな」

「確か、最後にとったジュリナとの繋ぎの手紙に、アシェイラ城内に侵入出来る秘密の通路の事が書かれていたはず。そこから入ろう」

 その言葉に青年は驚きに目を見張る。

「お前がそんな大胆な事を言い出すなんて、びっくりだ」

「大切な君の身が危ういんだ。早くレオンハルト王子に会いたいんだよ」

 キキョウのその言葉に、それまで飄々としていた青年の頬が真っ赤に染まる。

「そうか」

 照れたように赤くなった謎の青年は、キキョウと呼ばれる女性に強引に引っ張られながら、アシェイラ城への道を急ぐのだった。
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