【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十三章 聖女の血

3-2 聖銃②

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 アシェイラ城には、本城たる王宮の他に、離城として、いくつかの建物が存在していた。後宮の更に奥に在る、開かずの塔や騎士達の寄宿舎がそうである。

 それらの一つが、王族専属の訓練場。本城より離れた場所に位置するので、少々の事では、ここでの物音は城には伝わらない。

「じゃ、いっくよ~~!」

 フリフリのレースのついた赤い着物風ドレスの裾を翻し、ローウェンは両手で持った聖銃を構える。あの後、リュセルの腰が立つようになると、三人は王族専属の訓練場に移動していた。

「よ、頑張れ、ローウェン。格好いいぞ!」

 先程まで、実兄のもたらした口づけの影響で腰を抜かしていたリュセルはそう言って、大岩を前にポーズをつけるローウェンをはやし立てる。
 アルティスはそれを呆れたように横目で見ながらも、石畳に囲まれ、かなり強固な造りになっている訓練場を見回した。

「ずいぶん広い上、頑丈な造りになっておるのだな」

 王族が武術を教わるだけにしては、頑丈過ぎる上、大き過ぎる。

「ああ、ここがこんななのは、ほとんどレオンの所為だ。五歳位の頃、ここで鍛練していたレオンが前の訓練場を全壊させてしまったらしい。本人曰く、”子供だったからね。まだ、力の加減が出来ていなかったのだよ”との事だ」

「ぜ、全壊?」

 前訓練場を?

 子供の宝主が力のコントロールが出来ず、物を壊してしまうという話はよくある話だ。実際、今でこそようやく、その、有り余る力を制御しているローウェンだが、ほんの数年前まで、よく椅子やらテーブルやら箪笥やら、調度品や家具を壊していた。
 しかし、建物一つを破壊したという話は初めて聞く話である。それ程、レオンハルトの宝主としての力は強いのだろう。

(さすが、世界最強の男。決して逆らってはならぬ相手だ)

 アルティスは内心そう思いながら、何度も頷く。

「それで、レオンの奴が全壊させた後に、もっと丈夫で大きな訓練場が、親馬鹿な父上の命令の元、造られたって話だ。カイルーズが、”あんな広くて頑丈な訓練場、普通の人間には不要だよ”って言っていた位だからな。見た目では分からない頑丈な仕掛けが施されているらしいぞ」

 リュセルがそう説明を終えると同時に、ローウェンの構える聖銃から浄化の光にも似た白銀の閃光が放たれる。

 ドンッ

 という音と共に、閃光弾の当たった岩は真っ二つに割れた。

「イエイ!」

 聖銃を持ってない方の手でピースをして振り返ったローウェンに、リュセルはピースをし返す。

「すごい威力だな」

 一撃でローウェンの背丈以上もある大岩が真っ二つになったのを見て、リュセルは驚きの声を上げる。

「これで、普通の人には効き目がないのか?」

 岩が二つに割られる程威力があるのに、邪気にしか効かないというのが今一信じられない。

「うん、女神の子供である僕らにも効かないよ」

 そう言うと、ローウェンは構えていた聖銃をリュセルに向けた。

「!?」

 ダンッ

 そんな大きな音が傍で響いたと思ったら、リュセルの体は白銀の浄化の光に包まれていた。

 ローウェンの放った聖銃の弾、聖弾が命中したのだ。

「ほらね?」

「ほらね。じゃない! 撃つなら撃つと、前もって言え!」

 いきなり的にされたリュセルは、悪びれないローウェンにそう怒鳴り、つっこむ。……が、確かに、聖弾の当たったリュセルに傷一つない。

「すごいな。本当にこれは、浄化の力が弾になっているのか」

 リュセルがそう呟く横で、ローウェンから聖銃を受け取ったアルティスが、優雅な仕草でそれを片手で構えた。

「そしてそれは、感知能力と同化に優れた宝鍵の方が、威力を引き出す事が容易い」

 ダンッ

 ドーーーーーーンッ

 先程のローウェンの時よりも大きな爆音を響かせて、アルティスの放った聖弾は二つに割られた大岩に命中する。粉塵が舞い上がり、先程よりも眩く広範囲に広がった白銀の浄化の力に照らされた岩は、粉砕されていた。

「おおおおおおっ!」

 粉々になった、今まで岩だった石ころ郡を見て、リュセルは感動の声を上げる。

「ふむ。まあまあ、調子はよいな」

 アルティスがそう言って聖銃を下ろすと、ローウェンは笑いながら言った。

「絶好調の時は、岩が完全に粉になっちゃったもんね~!」

 二人して楽しそうに笑うが、この銃の威力を見たばかりのリュセルは正直笑えない。

「リュセル兄さんも宝鍵だし、アルよりも感知能力高いんだから、この岩位粉砕じゃない? よいしょっと!」

 そう言いながらローウェンが用意した岩は、先程彼らが撃った岩の倍の大きさだ。

 細見の少年が、自分の体の四倍はありそうな大岩を両手で持ち上げて持って来るという図。リュセルは呆気に取られてそれを見ているしかない。

「いくらなんでも、これは無理だろう!?」

 ローウェンとアルティスが二人がかりで粉々にした岩が、ローウェンの背丈の倍の大きさなら、これはそれの更に倍。

 いくら感知能力に優れていると言っても、無理です。

 リュセルが軽く引いていると、その手に聖銃を握らせたアルティスが穏やかな口調で言った。

「まあ、物は試しぞ」

 年下の玉鍵の少年に励まされ、年上の威厳(そんなものあったか?)を取り戻す為、リュセルは決意の目を立ち塞がる大岩に向ける。

「撃ち方分かる?」

 ローウェンの言葉に、リュセルは小さく頷いた。

「たぶんな。使用法を読んだし、向こうの世界で西部映画を見た事もある」

「(せいぶえいがって何だろ??)ふ~ん。じゃ、頑張って、リュセル兄さん!」

 ローウェンの応援に対し、リュセルは煌く微笑みを向けた。

「任せとけ」

 流れるような動きで銃を構える仕草は、男であるローウェンの目から見ても痺れるほどに格好いい。

「きゃーーーー! リュセル兄さん、格好いい!」

 見た目は……。

 そう思いながらも、ローウェンは黄色い悲鳴を上げる。

「リュセル殿、もっと顎を引いて背筋を伸ばした方がよいぞ」

「そ、そうか、分かった」

 真面目なアルティスの指導の声に従って、リュセルは動く。

(ん? ……う~ん、こんな感じでいいのか?)

 昔見た、映画の決闘シーンを思い出しながら、リュセルは引きがねを引いた。


 キーーーーーーンッ


 瞬間、いきなり耳鳴りがしたと思ったら、ものすごい突風が周囲を駆ける。


 ダーーーーンッッッ


 そんな音と同時に聖銃から眩い白銀の光が溢れ、リュセルは目を開けていられずに咄嗟に閉じてしまった。


 ドカアアアアアアアアーーーーーーンッッッ


「ひいいいいいいいいいいいッ!!???」

「ほええええええぇぇぇ~~~~ッ!!!????」

「ッ!!!!????」

 ものすごい爆音と爆風に、リュセル達は咄嗟に我が身を庇う事しか出来ない。それと同時に、白銀の光に覆われた訓練場の半分が一気に吹き飛んだのだった。







「!?」

 ドカアアアアアアアアーーーーーンッッッという、ものすごい音と共に揺れた室内にて、どうにか体のバランスを保ったレオンハルトは、目の前で倒れかけた青年の体に咄嗟に手を伸ばし、支えた。

「な、な、なななな、なんだ!? じ、地震か!!??」

 いきなり響いた地響きに、赤髪の神官長補佐は、レオンハルトの腕に縋りつきながら周りを見回す。

 そうして、爆音と共にどうにか地震が止むと、レオンハルトは支えていた相手に声をかける。

「ウインター神官長補佐、怪我は?」

「は!? は、いえ、すまない、申し訳ありません。ない……、ではなく、ありません」

 支えてもらっていた為、驚く程近くに存在したレオンハルトの美貌に驚き、ルークは慌てるあまり素に戻りかけてしまう。その驚異的な神子の美貌に畏れつつも、ルークはなんとかレオンハルトから距離をとり、深く頭を下げる。

「失礼致しました、剣主様」

 それに軽く頷きながら、レオンハルトは窓際に移動した。城の敷地内に在る建物のはるか向こう、様々な障害物に邪魔されて分からないが。

「あの方角にあるのは、訓練場か?」

 自身も、剣や武術の鍛練の為に利用している王族専用の訓練施設。レオンハルトはそう呟くと同時に、目を細めた。あんな遠くにある場所の音が今いる自分の執務室まで届くとは、余程の事が起こったと見える。

「ウインター神官長補佐。原因を探ってくる為、少し待機していてくれ」

 レオンハルトの言葉を聞き、先程の地震で机の上から落ちた資料や布地を拾っていたルークは、恭しく頭を下げる。

「承知致しました」

 その赤い髪を一瞥した後、レオンハルトは執務室を後にした。







「げっほげっほ、ゴホゴホッ、け、煙たいよ~~~~っ!」

 訓練場半壊からしばらくしても白銀の浄化の光は去らず、舞い上がった砂の影響を受けて、涙を流しながらローウェンはそう言った。咄嗟に半身であるアルティスを庇った為、もろに粉塵と飛び散った石を被った事になるローウェンだが、宝主たる所以か奇跡的に無傷だった。

「大丈夫、アル?」

 目をシバシバさせながら大切な兄の無事を尋ねるローウェンの言葉を受け、アルティスは目をこする弟の腕を優しく止める。

「お主が庇ってくれたおかげで無事だ。ああ、これこれ、目をこするでない」

「だって、砂が目に入っちゃって」

 袂から出した蝶の刺繍が美しいハンカチで弟の目元を拭いながら、眼帯に覆われていない方の目に唇を寄せる。ローウェンの目に入ったゴミを、その舌先で取ってやっているアルティスの隣りに何とか立っていたリュセルは、大岩と訓練場の周りを囲む石畳の破片にまみれながら、内股気味になっていた。

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