【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十三章 聖女の血

5-3 隠された真実②

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「女神の子供は普通の子供と違い、母親達は約一年半の間身ごもる事になる。長い間神子を宿した影響により、その血は我々に近しく、そして、まるで違うものに変化する」

「俺達に近くて違うものだと?」

 兄の淡々とした説明に対し、リュセルは不可解そうに返事を返す。

「私達の血は神族に最も近い、聖血と呼んでもいいようなものだ。邪鬼にとって、最も甘美なるもの。力の源となりうる極上の糧。しかし、それだけだ。神子の血は穢れを知らず、そして、何があろうとも穢れもしない。覚醒の鍵にはなり得ないのだよ」

「……つまり、どういう事だ?」

 レオンハルトの説明は、難し過ぎてよくわからない。

「つまり、私達、女神の子供の血は栄養たっぷりのシチューみたいなもので、聖女の血は、目覚ましに飲む気つけ薬みたいなものだ。その血に蓄えられた聖血と、人間としての穢れた血、両方の効力によって深淵の眠りについていた邪鬼の眠りを覚ます事が出来ると言われている」

 ジュリナの食べ物に例えての説明に、リュセルは納得がいったように頷いた。

「つまり、俺達の先輩達が過去に封印した邪鬼達を目覚めさせる事が出来るかもしれない……という事か?」

 自分達の先達者達。過去に邪気の浄化を担ってきた女神の子供達が、浄化しきれずに封印するに止めた邪鬼がいたという話は、レオンハルトから聞いて知っていた。

 それも、確か複数いたはずだ。人通りのない山奥や谷底に封印され、それらもいずれは浄化せねばならないと説明を受けている。

「それも考えられるが」

 珍しく歯切れの悪い物言いをした兄は、真っすぐにリュセルを見つめ、告げた。

「私は邪神の復活を懸念している」

 瞬間、リュセルは無表情を保つ事が出来ず、動揺したように兄から目を逸らす。

「特に、一人より二人の神子を産んだ聖女の方が血が強い。ルリカや己のようにね。邪神の復活にはもってこいだろう?」

 続いたルカイナの言葉を聞き、リュセルは言葉を返せずにそのまま黙り込む。ルリカ亡き今となっては、最も強い聖女の血を保持しているのは、この世にルカイナただ一人なのだろう。

「八年前、今まで迷信に過ぎないと思われていた聖女の血の効力と、それを狙っていると吐いた邪鬼がいてね。そいつは拷問して吐かせた後、浄化してやったんだが……。内容が内容なだけに、嘘だったとしても捨て置けなくてねねぇ。いくら王都内が結界に守られているとはいえ、お母様は王位継承者だったからさ。王都を出ない訳にはいかない公務もあったのさ」

「でも、私もジュリナも、シルヴィア陛下も、王位継承者としてのルカイナの義務よりも、ルカイナ自身の命の方が大事だったんだ」

 ジュリナの言葉を引き継ぐようにキキョウが語る。そう……、それ故に、国民を騙してまで彼女を隠した。

「その甲斐あってか、最近までは平和だったんだ。アシェイラ王都の北西にある小さな村で、農業に励んでいたんだからね。いや~~~~~、有意義な日々だった。己が育てた胡瓜を食べさせたかったよ、ジュリナ」

「胡瓜……。いいねぇ、酒のつまみに」

 似たもの母娘が、またしても話を脱線させる。

「もーーッ、ルーもジュリナも話を逸らしてばかりじゃないか! 申し訳ありません、レオンハルト王子、リュセル王子。こんな大事な話の最中に」

 まるでティアラのような仲裁の言葉を口にするキキョウに、リュセルはティアラの性格は彼に類似している事を悟る。

「八年ぶりの親子の再会なのです。仕方ありませんよ」

「なんて、優しい言葉。ありがとうございます、ありがとうございます!」

 リュセルは何度も頭を下げるキキョウを引きつり笑顔のまま見返しながら、ティアラ姫よりもオーバーリアクションだな。と思っていた。

「あの時、同じ立場に在るルリカにも、一緒に逃げないかと声をかけたんだが、あっさり断られたよ。家族の傍を離れるつもりはないと、そう、言っていた」

「母上が……」

 ルカイナの言葉に、今まで感情のまったく表れなかったレオンハルトの瞳がわずかに揺れた。母親の記憶を辿っているのか、そのまま黙り込んでしまった兄を見つめながら、リュセルは記憶にまったくないルリカの事に関する疑問を口にした。

「もしかして、母上は、邪鬼に関する事が起因して亡くなったのか?」

 先程までの話を聞く限り、母の死についても疑いが向いてしまう。ルリカの死因に疑いの目を向けたリュセルに対し、レオンハルトはあっさりと首を横に振る。

「母上の死因は、その時流行していた流行り病だ。邪気の影響は一切受けていない。これは間違いないよ」

 実際に母の死を看取った剣主の言葉だ。それは真実なのであろう。

 死因が病でも、若くして逝ったルリカの無念、周囲の者の哀しみは大きかったのだ。これが邪気の影響による死であったなら、それ程酷い事はない。リュセルは会った事もない母親だが、多く残された彼女の肖像画から、大きな思慕と懐かしさを感じていた。あの優しい微笑みを浮かべた女性が不遇の死を迎えていなかったという事実に、安堵の念を覚える。

「母上は、私と父上、カイルーズが看取っている。亡くなった事は悲しい事だが、家族に看取られての死だ。きっと寂しくはなかったはずだよ」

 レオンハルトの淡々とした声音の中に、過去に半身のいない自分をずっと支えてきてくれていた母の突然の死を乗り越えた意志の力を感じ、リュセルは知らず知らずの内に微笑を浮かべて頷いていた。

「そうか」

 母親の事を話しながら和んでいるリュセルとレオンハルトを、笑みを浮かべながら見つめていたルカイナは言った。

「ルリカもジェイドも己の幼なじみだ。奴らの若かりし頃の事をよ~~~~っく知っているから、聞きたくなったら己に聞くといいよ。」

「幼なじみというと、レオンとジュリナ殿の関係のような感じだったのですか?」

 リュセルは驚きに目を見張る。

「あっはっははッ、そうかもしれないな。己達は二人ではなく、四人だったがね」

「四人?」

 興味津々なリュセルに向かって、ルカイナは大きく頷く。

「そう、四人。己とキキョウとジェイドとルリカ。己達は子供の頃からの親友。最初は己とジェイド。ルリカとキキョウが友人同士だったのだがな。舞踏会で知り合って、意気投合したのさ」

 という事は、この二人は父王と同年代という事なのか? 一見、三十代前半にしか見えぬ二人なだけに、リュセルは驚きを隠せない。

「それで、ルリカとジェイドが結婚して、己もキキョウと、国同士の都合上、結婚したんだ」

「……なんだか、君、私と結婚したくなかったような口振りじゃないか? 確かに私達は政略結婚だけど、ルリカ達だって、それは同じじゃないか。私達は王族だった訳だし」

 ルカイナの説明を聞いていたキキョウは、ジトーーーーっと恨みがましいような視線を妻に送った。しかし、リュセルが気になったのは、そこではない。

「王族……、だった?」

 リュセルの疑問に、今度はジュリナが寂しそうに答えた。

「先程も説明した通り、お母様とお父様は死んだ事になっているんだ。もっと正確に言うと、ルカイナ・ディエラとキキョウ・ディエラは、史実上、死んでいる。それは、もう変えられない事実なのさ。今、私達の前にいる二人は、ルカイナ・エリオットとキキョウ・エリオット。ディエラの、死んだ元王位継承者の姫君と同じ名を持つ、ただのディエラ国民だ」

 ルカイナが産まれた当時、世継ぎの姫君の誕生に湧いたディエラ国では、産まれた女の子に”ルカイナ”の名をつける者が多かった。キキョウの名も、花の名前をつける事が多いサンジェイラ国では、そう珍しい名前ではない。姓を変えても、名を変えなかったのは、二人の名前がごくありふれたものだったからである。

「そうか」

 なんだか、両親が両親でなくなってしまうようで、ジュリナ達からすると寂しい事だったろうが、それが二人の安全に繋がると信じたから、そうしたのであろう。

「さてと、もっと色々と話をしたいけれど、さすがに長旅の影響で疲れた。大変な事態に陥っているアルティス殿下方には悪いが、休ませてもらおうか」

 ルカイナの言葉を受けたレオンハルトは、部屋の端に控えていたティルを呼び寄せ、客室を二部屋用意するよう指示を出す。

「どの道、アルティス達が戻らん事には、向こう(サンジェイラ)の事も分からん。休める内に休んでおいた方がいいだろう」

「同感だね」

 去り際に交わされたレオンハルトとジュリナのその言い合いは、これから休む事もままならぬ事態が起こる事を予測しているかのようであった。
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