【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十三章 聖女の血

15-3 破られた守護結界

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 セフィランとイプロスがアシェイラ城の薔薇園にて衝突した時。それより少し前まで時刻は戻る。


 セイントクロス神殿、アシェイラ支部。神殿内でも最も広大な敷地面積を有する巨大な聖堂、神聖大聖堂。そこに、神殿中のほとんどすべての神官達が終結していた。

 時刻が夕刻に差しかかろうという時、その聖堂の中でも最も高みにある神座、階段上に並んで設置された剣鍵の神座に腰かけていたリュセルは、段下の神官達の様子を無言のまま見守っていた。そこでは、前に経験した創世祭の祝福の儀と同じように、神官長たるライサン・セリクスが長々と口上を述べている。

 大したトラブルもなく、実にスムーズに生誕の儀は進行していた。

 そう、何事も起こっていない。

 今、この場では


「……ッ!?」

 リュセルはそれを感知すると同時に身を強張らせ、即座に立ち上がった。

「結界が、……破られた」

 王都全体を覆っていた守護結界が一瞬で消失するのを感じ取ったリュセルは、同じようにそれを感じているであろう兄に目を向けた。

「城で、邪気と邪気が衝突している」

「邪気と邪気だと?」

 レオンハルトは冷静にそう言って、立ち上がった弟を見上げる。

 邪気と浄化の力ではなく、邪気と邪気がぶつかり合っているというリュセルの言葉に、レオンハルトはいぶかむような眼差しを向けた。

「ああ」

 という事は、邪鬼と戦っているのは自分達の同胞ではない。

(どういう事だ?)

 レオンハルトが困惑に眉をひそめた瞬間。

「来た」

 リュセルは低い声でそう言うと同時に、右手中指にしていた銀の指輪に意識を集中させた。空中で指輪から変化したそれを、リュセルは掴み、構える。煌く白銀にアシェイラの紋章と月が刻まれた、聖銃。リュセルはそれを聖堂の天上に向けると、迷う事なく引き金を引いた。

 ダアアアンッ

「「「「!?」」」」

 聖堂内に響き渡り、反響する銃声を聞き、その場に跪いていた神官達は、鋭すぎる大きな音に驚き、さざめき出す。

「姿を見せろ、サイレン!」

 銃声の後に響いたリュセルの怒鳴り声は、普段の彼のものと比べようもない程厳しく、鞭のようにしなった。

「…………」

 レオンハルトは弟が見据えた先、何もない空中に目を向けたまま、近くに立てかけておいた剣を手に取る。


「また懐かしい、物騒な武器を手に入れましたね。リュセル王子」


 聞く者を惑わすような闇の声音。

 それが聞こえると共に、リュセルとレオンハルトが凝視した先に、深淵の闇と邪気を従えた一人の青年が姿を現す。

 背後で編まれた、くすんだ金色の長い髪。爛々と輝く、妖しい瑠璃色の瞳。漆黒の衣装に身を包んだ、闇の美貌の邪鬼。

「迎えに来ましたよ、我らが女神」

 にっこりと無邪気に笑ったサイレンを見据えながら、リュセルは階下にいるライサンに向かって怒鳴った。

「神官達をここから逃がせ、神官長!」

「…………御意に」

 いきなりの邪鬼の襲撃に呆然とする神官達の中、ただ一人、冷静に神子と邪鬼の邂逅を見守っていたライサンは、リュセルの命令に従い、神官達を聖堂の外へと出す為にルークに目を向ける。

「ルーク、皆を先導し、外へ!」

 他の者達と同じように恐怖に顔を強張らせていたルークは、ライサンの呼びかけに反応し、我に返る。

「あ、ああ、わかった」

 そして、パニックになりかけた神官達を神官査達と共にまとめ始める。

「ああ、神の使徒達ですか……」

 下に大勢集まった神官達に目を向けると、サイレンは手元に邪気を集中させる。

「邪魔ですね」

 巨大な邪気の塊がサイレンの手から放出され、右往左往する神官達の波にぶつけられる。

 ダン、ダン、ダンッ

 三連続でそんな銃声が響くと同時に、白銀の光がリュセルの手にした聖銃から三発放たれ、それはサイレンの放った邪気に命中し、相殺する。

 ドカーーーーーーンッ

 爆音と爆風が巻き起こり、聖堂の一部が吹き飛んだ。

「……忌々しい力ですね」

 白銀の銃を構えるリュセルに目を向け、小さく舌打ちをしながら、サイレンは空中からリュセル達のいる檀上に降り立つ。

「無傷でお連れしたかったのですが、仕方ありません」

 サイレンは己の掌を傷つけると、そこから噴き出す濃密な邪気を剣の形に変える。

「腕の一本、足の一本位は仕方ないでしょう。失くしてもさほど影響はないはず……。十八年も待ったのです。わがままを言って、あまり我が主を焦らさないで下さい。リュセル王子」

 そう言って肩をすくめた瞬間、サイレンの周囲を覆っていた邪気が切り裂かれた。

「…………」

 無言のまま、相手の間合いに入り込んだレオンハルトは、抜き放った黒煉の剣を振り下ろす。

 ガキンッ

 鋭い音を立ててぶつかり合う剣と剣。

 サイレンは目の前に迫ったレオンハルトの傾国の美貌を見つめる。

「少し性急過ぎませんか? レオンハルト王子。まだリュセル王子との話が終了していないのですがね」

 そう言いながらも、レオンハルトの首を狙って、剣を持っていないもう片方の手から邪気をぶつける。

 間一髪、サイレンから離れる事でそれを避けると、レオンハルトは表情をまったく変えぬ無表情のまま言った。

「ごたくはいい、来い」

 短く紡がれた挑発の言葉を耳にしたサイレンは、嬉しそうに笑った。

「あなたとは、一度剣を交えてみたいと思っていました。現代の宝主の中でも別格の戦闘力を持つ、あなたとね」

 邪笑。その言葉通りの、禍々しい微笑みだった。
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