325 / 424
第十四章 竜の末裔
7-1 ドラゴンの過去
しおりを挟む陽の光がささなくなった淀んだ空。邪気の影響で淀みきってしまったその空を、一頭の飛竜が飛んでいた。
白金に輝く、金竜(ゴールドドラゴン)。
白金のドラゴンは目的地に到着すると、一度空を旋回し、ゆっくりと地上に降り立つ。
「長(おさ)!」
降り立ったドラゴンの元にすぐに駆け寄ったのは、二人の少年。同じデザインの竜族の民族衣装を身にまとった少年達は、まるで鏡合わせのように同じ容姿をしていた。
背の中程で切りそろえられた黒髪に象牙色の肌。大きな虹色の瞳。
少年達に遅れながらも、ゴールドドラゴンを出迎えに出た他の大人達が駆け寄って来る。
集まった人々の中に女性の姿はない。年の頃なら二十代~四十代程の男性が主だ。そして、彼らに共通しているものが、まるで七色を封じ込めたかのような虹色の瞳。真実を見通すと言われるドラゴンの瞳である。
ドラゴンは金色の鱗のゴールドドラゴンか黒色の鱗をしたブラックドラゴンに種類が分けられている。色の薄濃に違いはあれど、他の色をしたドラゴンは存在し得ず、鱗は人型をとった時の髪色に準じていた。事実、集まったドラゴン達は皆人型をとっていたが、金髪と黒髪の者が半々位だった。
でも、そこに子供の姿はない。
彼らの住む隠れ里に子供が産まれなくなって、一体どれ程の年月が経ったのだろう。人間と違い、長い寿命を持つ彼らだが、それでも子供が生まれなければ滅ぶ他ない。
すべての元凶は、空と地上を覆う邪気である。
邪気の影響により、人間の国の大半は滅び、体力のない子供や年寄りは死んでいっているという。繊細な心と肉体を持つ彼らの被害は、実はそんな人間達よりも深刻だった。
集まった人々の目前でゴールドドラゴンは姿を変える。巨大な翼竜から可憐な少女の姿へと……。
現れたのは、十二~十三歳程の年齢と思われる少女。華奢な体を包む竜族の民族衣装は、白と撫子の色で統一されており、背を覆う豊かな白金の髪には、服と同じ色のリボンと花が編み込まれていた。その白金の色によく似合う、幾重にも重なった花弁が美しい花は、このドラゴンの里でしか咲かない珍しい花だ。少女の側付きの少年達によって、里にある花園より摘まれているものである。
「アナスタシア様」
「外の様子はどうでしたか?」
一番早く自分の元に駆けつけてきた側付きの少年達の顔を交互に見た後、少女……、ドラゴンの長、アナスタシアは里の外で見た光景を思い出す。
ひどい光景だった。
この隠れ里周辺も邪気に侵されてきてはいるが、人間達の暮らす外の世界は、汚染の進行がより深刻なものになっていた。つい先程、最後の国家が滅ぶのを見たばかりだ。
そう……。事実上、人間達の世界に国はなくなった事になる。もう何も残されていない。人々は次々と死に絶え、滅亡を待つのみ。
そんな人間達の希望の光が、三人の勇者だった。
アシェイラ、ディエラ、サンジェイラ。
三人の若者。彼らは、今はもう存在しない、ドラゴンと契約を結び共存していた、”セイントクロス共和国”の生き残りだった。
アナスタシアは先日、その内の一人に一つの提案をされていた。すべてのドラゴンが激怒し、反対したその内容。
あの提案を受け入れれば、ドラゴンは滅びの道を辿る事になってしまう。しかし、子供の産まれぬようになったこの種に未来が望めないのも事実。アナスタシアがいなくなる事で、それは更に加速する事になるだろう。
「ユラ、ミラ。これを……」
どこから出したのか、アナスタシアが側仕えである双子の兄弟にそれぞれ差し出したのは、石の卵。
「あたくしの最後の卵よ。あなた達なら、もしかしたら孵化させられるかもしれない」
二つあった卵を、一つずつ兄弟は受け取った。
「最後……?」
「アナスタシア様!?」
呆然と聞き返す弟のミラと違い、言葉に隠された彼女の決意を感じ取ったユラは、悲鳴のような声を上げる。
「ごめんなさい、ユラ、ミラ。竜族最後の子供。一族の希望達。ごめんなさい、みんな。あたくしの家族」
唇を噛みしめ、瞳に涙を溜める側付きの少年達を見つめ、集まった里の者達を見回したドラゴンの長である少女は、その決意を口にした。
「あたくしは、勇者ディエラの提案を受け入れます」
自分達の長の決定に、ドラゴン達は皆、一斉に泣き崩れ、無念の涙を流した。
「邪神は封印されたわ。でも、勇者達が言うように、今だ邪気は溢れ、強く世界を侵している。それは邪神を完全に封印の器のなかに納めないと、どうにもならない事なの」
「そんなの、アナスタシア様じゃなくてもいいじゃないですか!」
ユラの血を吐くような叫びに対し、彼女は厳しい表情のまま答えた。
「あたくし以外、出来ない事よ。このままでは、ドラゴンも人間も世界も滅びる。……でも、人間と世界を残せば、いつかあたくし達ドラゴンが再び蘇る時が来るかもしれない。酷な事を言っているとは思うけれど、どうか犠牲になるのだとは思わないで。生き残る為に、今を耐え忍んで欲しいの。あたくしは、1%に満たないような可能性でも、それに賭けたい!」
その瞳は揺るぎなく前を見据え、彼女の意思が覆らない事を表していた。
「わからない……。僕にはわかりませんッ! アナスタシア様!」
むせび泣くユラと違い、ミラはじっと、自分達一族の長である少女の虹色の瞳を、ただ真っ直ぐに見つめていた。
それから三日後。
アナスタシアは永遠に帰らぬ者となった。
彼女から受け取った卵の一つが孵化したのは、それから何百年もたってからの事だ。
側付きの少年の一人であったユラが立派な青年……、成体のドラゴンに成長した時、一族の者は、彼と双子の弟であるミラしか既に残ってはいなかった。二人を残して死に絶えてしまったのである。
滅びの道を辿る自分達一族をユラは認められず、そして、この元凶となった者を憎んだ。そんなユラの、恨みと哀しみの血と、彼が密やかに所持していたある者の血を受けて、卵は孵化したのだ。
産まれた赤子の鱗の色を見たミラは、絶句した。その時初めて、彼は、兄が自身以外の血を混ぜた事を知った。
通常は番(つがい)のドラゴンとしか血を混ぜない。番(つがい)がいなくても子を残したい時は、自身の血のみを使う。双子の片割れ同士では血を残せない為、同胞がすべて死した今となっては、自分の血でしか子は望めないはずだった。実際、ミラは自分の血のみを使用したが、孵化せず、石のまま今もそれを保持していた。
そう、自分のみの子であるなら、鱗は黒いはず……。
「ユラ! なんという……、なんという、事をッ! 子供は大地の宝だ! 皆で育まなければならない大切なものだぞ! なのに、何故…………」
「名は、ジルとべルと名付けた。二文字の名はドラゴンの種族の証だからな。それを受け継いでもらう」
打ちひしがれる弟に淡々とそう語ったユラは、虹色の瞳を宿した己が息子達を冷めた目で見つめていた。
「それだけじゃない! あの男の血筋に細工をしたな!? アナスタシア様が僕達の為に残してくれた力をあんな事に使うなんて……。あれは、少しでも僕らの命を永らえさせる為にって、彼女が残してくれた大切なものだったのに!」
「確かに、僕らはドラゴンの通常の寿命、その半分も遂げる事も出来ずに死ぬだろう。まだ子供だった僕らを不憫に思った長が残した”竜の涙”をお前に何の相談もなしにあんな事に使ったのは謝る。…………でも、僕は後悔はしていない。あの男を永遠に許さない。それを、これから悠久の時を生きるであろうこの子達にも伝えていくつもりだ」
「僕の竜の涙は、この子達に使ったんだね!? こんな赤子の時に使ったら、この子達は永遠に近い時を二人きりで過ごす事になるんだぞ! お前は、それを酷な事だとは思わないのか!?」
ミラの怒声を聞いたユラは、壊れたような笑みを浮かべた。
「そう。だから、こうしたんだ」
「……ッ!!」
このまま共にいると、互いに壊れてしまう。
産まれる前から共にいた。とても大事な存在だった。
でも、互いの為、そんな大事な兄の元をミラは離れる決意をし、そして、人間達の中で一生を終える事にしたのだった。
ドラゴンである事を隠し、人間達の中で生き、その中で死んだミラは、それでも兄の事を最後まで忘れなかった。
息を引き取る最後の最後まで、恨みと憎しみを捨てるよう、心の中で呼びかけ続けていた。そして、自分にとって甥にあたる最後のドラゴン達を案じていたのだ。
ジルとべル。
兄がそう名付けた子供達は、今も孤独な檻の中、救いを求めているのだろうか……。
「リュセル!!」
耳元でする呼び声に、深い眠りの中にいた意識が一気に浮上する。目を覚ますと、焦りの表情を浮かべる自分の顔が自分を見下ろしていた。
「……レオン?」
0
あなたにおすすめの小説
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。
天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】
さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。
英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。
この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。
「さあ気に入ったsubを娶れ」
「パートナーはいいぞ」
とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。
待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。
平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる