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第十四章 竜の末裔
6-3 セイントクロスの泉の真実
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「そうなのですか。レオン、知ってたか?」
隣に座る自分の姿をした兄に声をかけると、兄は銀色の目を細めて緩く首を振った。
「いや、初耳だね。そういえば、セリクス神官長は、この森について詳しく知っているようだが」
「詳しく……というか。そうですね。私は、この森が出来た経緯を知っているのですよ」
レオンハルトの問いに答えると、ライサンは飲んでいた水筒の水を置いた。水筒の中の水は、先程通った道の傍にあった小川の水を掬ったものだ。よく毒を入れられなかったものだと思う。
ライサンは、かの種族の末裔が、この森で静かに暮らしている事を知っていた。ここを自分が通過する事を、彼らがよく承諾したものだ。おそらくアシェイラが頼み込んだのだろうが……。
「本当なら、神殿本部に到着してから教えようと思っていたのですが。いい機会です。この森の成り立ちとセイントクロスの泉の秘密をお教えしますよ」
いきなりのその言葉に、リュセルとレオンハルトは一瞬顔を見合わせ、ライサンの隣りに腰を下ろし、落ち着きなく周囲を見回していたルークは、視線を自分の上司に向けた。
セイントクロスの泉の秘密?
確か、リュセルがこの世界に帰還した際、通ってきた道に通じていた場所だ。美しい泉だったように覚えている。あの場所に何かあると言うのか?
「女神の眠る泉とされるセイントクロスの泉ですが、女神レイデュークの寝床であると同時に、あの泉は、邪神スノーデュークの封印場所でもありました。神を封印する事の出来る場所の生成。それは、元々普通の人間でしかない私達(三勇者)には出来ない事でした」
それでも、眠る女神とその女神の腕の中で同じように眠る邪神を封印する場所が必要だった。
「ここ(セイントクロスの地)は、もともと、前世の私達の故国があった場所です。邪神の攻撃によって一瞬で消滅した国。その国にはドラゴン騎士団が存在し、ドラゴンの騎士(竜騎士)と呼ばれる者達が、今では伝説とされる種族、ドラゴンの一族と契約を結び、共存していたのです」
警戒心の強いドラゴン達は、自分の認めた者としか契約を結ばず、好き嫌いが激しかった。それは、あの虹色の瞳で真実を視るからだ。
「ドラゴンといっても、見た目は私達と同じです。意識を切り替えた時だけ、幻獣の姿になるのですが、特徴として、一族皆、虹色の瞳をしていました。七色をしたその瞳で善悪を見抜くのです」
「では、悪人はドラゴン達のパートナーになる事は出来なかったんだな」
ライサンの言葉を聞いていると、なんだか、遠い昔話を聞いてる感じがしないリュセルだ。
「そうですね。私の知る限り、ドラゴン程高潔で誇り高く、純粋な種族はいません。それ故に、数もそう多くなかったのですが……」
そんな話を聞いている内に、リュセルは今はもう絶滅したドラゴンという種族についてもっと知りたくなってきた。
「俺達と見た目は同じという話だが、どんな姿だったんだ? 女の子はやっぱり可愛かったのだろうか」
見た事のない種族の、それも女性の姿を思い描いている弟の頭をレオンハルトは軽く叩いた。ここにきてそんな台詞を吐くとは、見上げた女好きである。
(考え方があの馬鹿女そっくりだ)
幼なじみの姿を思い出しながら内心ため息をついたレオンハルトは、現在弟が自分の姿である事を思い出し、少々複雑な気持ちになった。なんだか、自分がジュリナに似ているようで気分がよくない。
「あははは、残念ながら、ドラゴンに雌はいません。ああ、一族の長であるドラゴンは雌でしたがね。雌はその一頭のみで、他は全員が雄でした」
雌(女)が一頭(人)しかいない種族!?
逆ハーレム?
「それは……、ずいぶんむさくるしい一族だな。男しかいないんじゃ、子供はどうやって作るんだ? その女性の長が頑張って産みまくるのか?」
軽いカルチャーショックを受けながらリュセルが聞くと、ライサンは何でもない事のように答えた。
「ドラゴンは卵から産まれます。ドラゴンの長が作り出す石の卵です。長は、それを卵を孵化させる事が出来るであろうドラゴンに託し、託されたドラゴンは、その卵に己の血を注ぐといいます。その時、別の者の血を交ぜるか、自分の中に自分以外の者の体液の名残でもあれば、その卵から産まれるのは、自分とそのもう一人に似た子供という訳です。大体は、番となったドラゴンが、そのようにして子供を増やしていったという話ですよ。自分一人の血より、自身が強く想う相手の血と混ぜた方が卵の孵化する確率は高かったそうですね」
まあ、全部アシェイラの受け売りです。と笑いながら、ライサンは話の筋を元に戻した。
「ドラゴンについては、おいおい説明するとして、セイントクロスの泉についてですよね……。女神と邪神の封印の地をここに定めた後、私達は封印の依り代となる者を見出しました。つまり、その身を捧げ、セイントクロスの泉と化す者」
「あの泉は、女神の力でもなければ自然に出来たものでもない。つまり、誰かが犠牲になって創り出したものなのだね」
レオンハルトの言葉に頷くと、ライサンは遠い過去の罪を告白した。
「セイントクロスの泉は、極一部の者しか知らない事実ですが、別名、”竜の瞳”とも呼ばれています」
「それは、……まさか」
リュセルの背に、寒気のようなものが走る。
「ドラゴンの長の瞳には、真実を見出し、異世界との道を繋ぎ、あらゆる力を封印する神々の遺産ともいうべきものが備わっていたのです」
その先は言葉にされずともわかった。
古の勇者達は、女神の愛した世界と人々を守る為、ドラゴンの長の身を犠牲にしたのだ。それつまり、ドラゴンの一族の破滅と滅亡を意味している。
「方法は他になかったのか?」
「リュセル」
責めるような口調で尋ねてしまったリュセルの声をレオンハルトが遮ると、ライサンは首を緩く振った。
「ありませんでした。これを考え、ドラゴンの長に願い出たのは私(ディエラ)です。サンジェイラと……特にアシェイラは、最後までこの方法に難色を示していましたが、最終的には同意せざるを得ませんでした」
卵を作り出す長がいなければ、ドラゴンの子供は産まれない。つまり、こうしてドラゴンは滅んだのだ。
「長亡き後、生き残った数少ないドラゴン達は、長の瞳で生成されたセイントクロスの泉の周りに森を作り、最後の一頭が死に絶えるまでこの森でひっそりと暮らしたのです。そして、その最後の一頭は、私(ディエラ)を怨み続け、呪いをかけてから死にました」
呪い? 一体、どんな!?
リュセルはぎょっと目を見開き、レオンハルトは静かに言葉の続きを待つ。
「ドラゴンは必ず双子で孵化します。それと同じ事がディエラ王家で起こるようにしたのですよ。何代も何代も双子や三つ子が続き、ディエラ国は当初、世継ぎ争いと内乱が多く起こる国でした。私(ディエラ)が存命だった時はまだ良かったのですが、死した後、それは多く起き、世継ぎを完全長子とし、双子だった時は二人を共に王とするように定めるまで続きました。この時、後見人制度も廃止になりましたね」
リュセルが不思議に思っていたディエラ国の王権制度。その理由が今、明らかになった。
ディエラ国の王家には、現代もまだ双子が多く産まれるという。現王位継承者に至っては三つ子である。それが、ドラゴンの呪いが原因だったなんて
「私はこの罪から逃れる事は出来ません。逃れるつもりもありません。この先もずっとそうでしょう」
前世の罪を背負って生きる。
「でも、それで……、本当に、本当にいいのか? そんな、だって今のあなたには…………」
リュセルはつい、そう呟いてしまう。
弟の言いたい事は、レオンハルトにもわかっていた。
”今(現世)のあなたには関係ない”
その罪を、生涯背負うという。
「覚悟をして生まれ変わった訳ですからね。まあ、子供の頃は、それが嫌で嫌で、よく癇癪をおこしていましたが……」
仕方のない事です。そう言って乾いた喉を潤す為に一口水を飲むライサンを、リュセルもレオンハルトも複雑な気持ちで見つめていた。
自分達の母神の為に罪を犯し、その罪から逃れる事も出来ず、生まれ変わっても尚、贖罪の意識から解放される事のない人がいる……。
そうして二人共、聞かされた話が衝撃的過ぎた為、ルークの顔色がひどく悪くなっている事を見逃した。
話に加わらず、ただ、ライサンの告白を聞いているだけだったが、そうとうショックだったのだろう。顔色が土気色になっていた。
「そろそろ休みましょう。明日も早いですよ」
ライサンのその言葉を合図に、四人はその日、眠れぬ夜を過ごす事になったのだった。
隣に座る自分の姿をした兄に声をかけると、兄は銀色の目を細めて緩く首を振った。
「いや、初耳だね。そういえば、セリクス神官長は、この森について詳しく知っているようだが」
「詳しく……というか。そうですね。私は、この森が出来た経緯を知っているのですよ」
レオンハルトの問いに答えると、ライサンは飲んでいた水筒の水を置いた。水筒の中の水は、先程通った道の傍にあった小川の水を掬ったものだ。よく毒を入れられなかったものだと思う。
ライサンは、かの種族の末裔が、この森で静かに暮らしている事を知っていた。ここを自分が通過する事を、彼らがよく承諾したものだ。おそらくアシェイラが頼み込んだのだろうが……。
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いきなりのその言葉に、リュセルとレオンハルトは一瞬顔を見合わせ、ライサンの隣りに腰を下ろし、落ち着きなく周囲を見回していたルークは、視線を自分の上司に向けた。
セイントクロスの泉の秘密?
確か、リュセルがこの世界に帰還した際、通ってきた道に通じていた場所だ。美しい泉だったように覚えている。あの場所に何かあると言うのか?
「女神の眠る泉とされるセイントクロスの泉ですが、女神レイデュークの寝床であると同時に、あの泉は、邪神スノーデュークの封印場所でもありました。神を封印する事の出来る場所の生成。それは、元々普通の人間でしかない私達(三勇者)には出来ない事でした」
それでも、眠る女神とその女神の腕の中で同じように眠る邪神を封印する場所が必要だった。
「ここ(セイントクロスの地)は、もともと、前世の私達の故国があった場所です。邪神の攻撃によって一瞬で消滅した国。その国にはドラゴン騎士団が存在し、ドラゴンの騎士(竜騎士)と呼ばれる者達が、今では伝説とされる種族、ドラゴンの一族と契約を結び、共存していたのです」
警戒心の強いドラゴン達は、自分の認めた者としか契約を結ばず、好き嫌いが激しかった。それは、あの虹色の瞳で真実を視るからだ。
「ドラゴンといっても、見た目は私達と同じです。意識を切り替えた時だけ、幻獣の姿になるのですが、特徴として、一族皆、虹色の瞳をしていました。七色をしたその瞳で善悪を見抜くのです」
「では、悪人はドラゴン達のパートナーになる事は出来なかったんだな」
ライサンの言葉を聞いていると、なんだか、遠い昔話を聞いてる感じがしないリュセルだ。
「そうですね。私の知る限り、ドラゴン程高潔で誇り高く、純粋な種族はいません。それ故に、数もそう多くなかったのですが……」
そんな話を聞いている内に、リュセルは今はもう絶滅したドラゴンという種族についてもっと知りたくなってきた。
「俺達と見た目は同じという話だが、どんな姿だったんだ? 女の子はやっぱり可愛かったのだろうか」
見た事のない種族の、それも女性の姿を思い描いている弟の頭をレオンハルトは軽く叩いた。ここにきてそんな台詞を吐くとは、見上げた女好きである。
(考え方があの馬鹿女そっくりだ)
幼なじみの姿を思い出しながら内心ため息をついたレオンハルトは、現在弟が自分の姿である事を思い出し、少々複雑な気持ちになった。なんだか、自分がジュリナに似ているようで気分がよくない。
「あははは、残念ながら、ドラゴンに雌はいません。ああ、一族の長であるドラゴンは雌でしたがね。雌はその一頭のみで、他は全員が雄でした」
雌(女)が一頭(人)しかいない種族!?
逆ハーレム?
「それは……、ずいぶんむさくるしい一族だな。男しかいないんじゃ、子供はどうやって作るんだ? その女性の長が頑張って産みまくるのか?」
軽いカルチャーショックを受けながらリュセルが聞くと、ライサンは何でもない事のように答えた。
「ドラゴンは卵から産まれます。ドラゴンの長が作り出す石の卵です。長は、それを卵を孵化させる事が出来るであろうドラゴンに託し、託されたドラゴンは、その卵に己の血を注ぐといいます。その時、別の者の血を交ぜるか、自分の中に自分以外の者の体液の名残でもあれば、その卵から産まれるのは、自分とそのもう一人に似た子供という訳です。大体は、番となったドラゴンが、そのようにして子供を増やしていったという話ですよ。自分一人の血より、自身が強く想う相手の血と混ぜた方が卵の孵化する確率は高かったそうですね」
まあ、全部アシェイラの受け売りです。と笑いながら、ライサンは話の筋を元に戻した。
「ドラゴンについては、おいおい説明するとして、セイントクロスの泉についてですよね……。女神と邪神の封印の地をここに定めた後、私達は封印の依り代となる者を見出しました。つまり、その身を捧げ、セイントクロスの泉と化す者」
「あの泉は、女神の力でもなければ自然に出来たものでもない。つまり、誰かが犠牲になって創り出したものなのだね」
レオンハルトの言葉に頷くと、ライサンは遠い過去の罪を告白した。
「セイントクロスの泉は、極一部の者しか知らない事実ですが、別名、”竜の瞳”とも呼ばれています」
「それは、……まさか」
リュセルの背に、寒気のようなものが走る。
「ドラゴンの長の瞳には、真実を見出し、異世界との道を繋ぎ、あらゆる力を封印する神々の遺産ともいうべきものが備わっていたのです」
その先は言葉にされずともわかった。
古の勇者達は、女神の愛した世界と人々を守る為、ドラゴンの長の身を犠牲にしたのだ。それつまり、ドラゴンの一族の破滅と滅亡を意味している。
「方法は他になかったのか?」
「リュセル」
責めるような口調で尋ねてしまったリュセルの声をレオンハルトが遮ると、ライサンは首を緩く振った。
「ありませんでした。これを考え、ドラゴンの長に願い出たのは私(ディエラ)です。サンジェイラと……特にアシェイラは、最後までこの方法に難色を示していましたが、最終的には同意せざるを得ませんでした」
卵を作り出す長がいなければ、ドラゴンの子供は産まれない。つまり、こうしてドラゴンは滅んだのだ。
「長亡き後、生き残った数少ないドラゴン達は、長の瞳で生成されたセイントクロスの泉の周りに森を作り、最後の一頭が死に絶えるまでこの森でひっそりと暮らしたのです。そして、その最後の一頭は、私(ディエラ)を怨み続け、呪いをかけてから死にました」
呪い? 一体、どんな!?
リュセルはぎょっと目を見開き、レオンハルトは静かに言葉の続きを待つ。
「ドラゴンは必ず双子で孵化します。それと同じ事がディエラ王家で起こるようにしたのですよ。何代も何代も双子や三つ子が続き、ディエラ国は当初、世継ぎ争いと内乱が多く起こる国でした。私(ディエラ)が存命だった時はまだ良かったのですが、死した後、それは多く起き、世継ぎを完全長子とし、双子だった時は二人を共に王とするように定めるまで続きました。この時、後見人制度も廃止になりましたね」
リュセルが不思議に思っていたディエラ国の王権制度。その理由が今、明らかになった。
ディエラ国の王家には、現代もまだ双子が多く産まれるという。現王位継承者に至っては三つ子である。それが、ドラゴンの呪いが原因だったなんて
「私はこの罪から逃れる事は出来ません。逃れるつもりもありません。この先もずっとそうでしょう」
前世の罪を背負って生きる。
「でも、それで……、本当に、本当にいいのか? そんな、だって今のあなたには…………」
リュセルはつい、そう呟いてしまう。
弟の言いたい事は、レオンハルトにもわかっていた。
”今(現世)のあなたには関係ない”
その罪を、生涯背負うという。
「覚悟をして生まれ変わった訳ですからね。まあ、子供の頃は、それが嫌で嫌で、よく癇癪をおこしていましたが……」
仕方のない事です。そう言って乾いた喉を潤す為に一口水を飲むライサンを、リュセルもレオンハルトも複雑な気持ちで見つめていた。
自分達の母神の為に罪を犯し、その罪から逃れる事も出来ず、生まれ変わっても尚、贖罪の意識から解放される事のない人がいる……。
そうして二人共、聞かされた話が衝撃的過ぎた為、ルークの顔色がひどく悪くなっている事を見逃した。
話に加わらず、ただ、ライサンの告白を聞いているだけだったが、そうとうショックだったのだろう。顔色が土気色になっていた。
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