【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十四章 竜の末裔

6-2 郷愁

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 アシェイラの神子。そして、アシェイラ支部の神官長と神官長補佐の到着が今だなされぬ理由。それを説明するには、ジュリナとティアラの神殿本部到着より五日遡る事になる。



 護衛の神官達と別れ、アシェイラ側の入口よりドラゴンの森に入る為、リュセル達は、人一人がやっと通れるような道しかない絶壁の上から下に向かって降りようとしている最中だった。

「下は見ないように歩いて下さいね」

 あまりの高さに尻ごみしていたリュセルにそう声をかけ、ライサンはさっさと崖を降り始める。
 そんな上司の後をルークが続き、今現在リュセルの姿をしているレオンハルトが、軽い足取りで、絶壁を囲むようにして出来ている狭い足場を通って行く。

「…………」

 リュセルはゴクリと唾を飲み込み、岩肌に出来た凹凸を掴みながら、ソロソロと、なんとか崖を降りて行った。宝主である兄の体を現在保有している為、体力的には問題なかったが、精神的な問題から長時間かかり、ようやく谷底に辿りついた時には、へとへとになってしまっていた。

「なんなんだ、この崖は。ディエラやサンジェイラ側の入口もこんな感じなのか!?」

 先に着いて、リュセルとレオンハルトを待っていたライサンとルークにそう尋ねると、険しい道を降りて来たにも関わらず息一つ乱していないアシェイラ支部の神官長は、小首を傾げて答えた。

「そうですねぇ。そういえば、ここまで険しいのはアシェイラ側位でしょうか」

 そう言いながら、傍らの自分の補佐役の息が整うのを待つ。

 絶壁を降りて息を乱していないのはライサンとリュセルのみで、ルークもレオンハルトも額に汗し、息が乱れていた。
 普通の人間であるルークは仕方ないにしても、いつも体力的な事に関しては余裕な態度を崩した事のないレオンハルトの姿にリュセルは衝撃を受ける。

 今、レオンハルトは、本来ならリュセルが感じる辛さを味わっているのだ。そう思うと、兄に対して少々申し訳ないような気持ちになった。

 持参していた水筒から水を飲み、皆が落ち付いた頃を見計らうと、ライサンは崖下に存在している洞窟へと進む為、携帯用の光石に灯りを灯す。

「これが入口です。洞窟を抜ければ、ドラゴンの森の中ですよ。暗いので足元に気を付けてついて来て下さい」

 絶壁の次は、洞窟を抜けなくてはならないらしい。

 ライサンの持つ僅かな灯りを頼りに、長い長い洞窟をひたすら歩き続ける。暗いし、足場は悪いしで、リュセルは何度か転びかけた程だ。

 どれ位の刻が経ったのか、ようやく出口が見えてきて洞窟を抜けると…………。

 薄暗い。

 昼間であっても陽の光が届かぬような、霧深い森が目の前に広がっていた。

 うっそうと茂る巨大な木々。

 どこかに未知の生物でも潜んでいるのではないかと思わせる程、妖しげな場所。

「ここが……、ドラゴンの森」

「…………」

 周りを見回しながらそう呟いたリュセルの腕を、レオンハルトは無言のまま掴んだ。

「はぐれないようにして下さい。一度はぐれれば、合流出来る保障はありません。むしろ、合流出来ない可能性の方が高いでしょう。こんな所で野垂れ死にたくなければ、私から離れないようにお願いしますよ」

 神妙な表情でそう告げたライサンを見つめ、リュセルは大きく頷いて返事をし、レオンハルトも表情を変えぬまま頷く。

「わ、わかった」

「承知した」

 神子達の返事ににっこり笑うと、今度はルークに目を向ける。

「あなたもですよ、ルーク」

「…………」

 地面を凝視していたルークは、ライサンの言葉を聞いているのかいないのか、難しい顔をして考え込んでいた。

「ルーク?」

 不思議に思ったライサンが呼びかけると、はっとしたように顔を上げ、返事を返す。

「あ、ああ」

「いかがしました?」

 様子のおかしなルークを怪訝に思い、問いかけると、彼は緩く首を振った。

「いや、なんでもない」

「……そうですか」

 ルークの言葉を聞いて納得したのかどうか分からないが、そのままライサンは先頭に立って歩き始めた。その後をレオンハルト、リュセル、最後にルークが続く。

(一体、なんなんだ)

 きっちりはっきり、白黒つけたい真面目な性格のルークは、この森に入った時から感じている違和感に眉をひそめた。

 ここは、初めて来る場所だ。

 こんな、気味の悪い薄暗い森、自分の今までの人生で来た事はない。仕事でなければ来たいとも思わない。だが、この森の空気から、ルークは感じた事もないような懐かしさのようなものを感じていた。


 人はそれを、郷愁と呼ぶ。







「悪臭がする」


 霧深い妖の森。

 森の中心にあるお気に入りの木の上で、虹色の瞳をした華やかな容貌の青年がそう呟いた。産まれた時からこの場所にいるが、彼は今まで、こんなに不愉快な思いを味わった事はなかった。

 そんな、嫌悪感を隠しきれぬ兄と違い、弟は嘘の笑顔を顔に貼りつかせる。

「駄目だよ、ジル。アシェイラと約束したでしょ? 邪神と神子の戦いがどうなろうと知ったこっちゃないけど、だからこそ、それに干渉してもいけない」

 同じ木の枝上に腰を下ろしている弟。もう一人の青年の容姿は、兄である者の容姿と瓜二つだった。

「父さんも、もう二度と人間に関わってはいけないと言っていたしね。この時代の神子達に興味はあるけど……」

 そう言いながら、件の悪臭の近くに存在する、一対の綺麗な魂に意識を向ける。実は、現在意識を向けている彼らの他にも侵入者が在る事を彼らは黙認していた。

「一番順調に進んでるのが、この南西の神子達みたいだ。次に進みが早いのが北の神子。……南東の神子達は、何故かは知らんが、進みが遅い」

 眠そうに欠伸をしながらそう言ったジルは、木の幹にもたれかかった。

「じゃあ、もう少しの辛抱だね。森の外、入口付近は邪鬼が集まってきてるみたいだし、さっさと出て行ってくれると助かるな」

 そう言いながら、べルは兄のいる枝に移動し、その隣に座ると、うつらうつらとしている様子の彼の膝上に頭を落とす。

「重いぞ」

「いいじゃん」

 不満そうに目を開けたジルにクスクス笑いながらそう返すと、べルはふと真面目な顔で言った。

「ねぇ、ジル。よくはわかんないんだけど、なんかザワザワしない?」

「ああ、なんだか落ち着かない。こんな気持ちは初めてだ」

「神官や神子の他に、何か入り込んだのかもしれないね」

 ジルの頬を撫でながらそう呟いたベルは、不意に起き上がると、厳しい目を下界に向ける。

「この地に邪鬼が入り込む事は出来ないだろう。ここは神気が強すぎる」

「う~ん。そうなんだよね~~。ま、とりあえず、彼らが内側にいる間は、用心を怠らないって事にしない? 考えるのも面倒だし。あんまり気になるようなら、彼らを見に行けばいい事だよ。俺達の目には、真実しか映らないのだから」

 善悪を見抜く力。

 その力の源は、一族に受け継がれてきた、虹色をした瞳の能力だった。

 人間のみならず、神子だろうと邪鬼だろうと、自分達に嘘はつけない。

 この力故、遠い昔、自分達の祖先は、純粋な心を持った人間を見抜き、彼らと契約を交わし、力を貸してきた。

 アシェイラもその一人だ。

 それは、ジルもベルも知らぬ、黄金の時代だった。

 自分達は、お互いの存在しか知らない。同胞と呼ぶべき仲間は、自分達を残して死に絶えた。互いの存在が在るからこそ、今まで生きて来られた。それでも……。

 それでも、孤独だった



*****



 三日間……。

 それこそ、三日の間、ひたすら歩き続けた。

 この旅は順調に進んでいるのか? もしかして、道に迷ってるのではないか? 行けども行けども、目に映るのは同じ光景ばかり。夜営の最中、それをライサンに尋ねてみると……。

「え? すこぶる順調ですよ。このまま行くと、本部に一番乗りでしょうねぇ」

 本気(マジ)で!?

 リュセルは配られた簡易食(固いクッキーのような食べ物だ)を口にしながら、あっけらかんとしたライサンの答えに驚きのあまり目を見張った。

「しかし、行けども行けども、同じ風景しか見えて来ないんだが」

 琥珀の瞳に不安な色を浮かべるレオンハルトの姿をしたリュセルに向かい、ライサンは安心させるように優しい笑みを浮かべる。

「大丈夫。剣鍵様達には分からない小さな目印が一定の場所に在るんですよ。私達はそれを目印にこの森を進んでいます」
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