【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十四章 竜の末裔

7-3 引き離された四人

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 咄嗟に兄を呼ぶが返事がない。

「返事をしろ!」

「動いてはいけません。はぐれてしまいます」

 一歩動き出そうとしたリュセルを制止し、そう言ったライサンは、周りの様子を伺っていた。この森に入った時から霧は濃かったが、こんなに濃くなったのはこれが初めてである。おそらく、自然に濃霧になったのではないだろう

(これ位の嫌がらせは覚悟していましたがね)

 過去(前世)の自分がした事を考えると、ドラゴンの末裔達が何かしら仕掛けてくるだろうとは思っていた。

 表の道は大勢の邪鬼に見張られ、裏道であるドラゴンの森は、案内役の自分がこの森の支配者に嫌われている。アシェイラの神子達は、セイントクロス神殿本部に辿り着くのが、元々容易ではなかったのだ。

 比較的無事に通過出来そうだったのが、この裏道だった。何故なら、ドラゴンの末裔と因縁があるのは自分だけで、神子達に対して彼らは何も思う事がないからだ。恨みも憎しみも(まぁ、少し興味はあるかもしれないが)神子達に抱いてはいない為、自分さえどうにかなれば本部に到着出来るだろうと考えていた。神子達の為、アシェイラも動いてくれていたであろうし……。

 だが……。
 
「考えが甘かったか」

 ライサンがボソリとそう呟くと同時に霧が薄くなり、周囲の景色が見えるようになる。

「……ッレオン!?」

 リュセルはすぐ後ろにいるはずの兄の姿が消失している事を悟り、慌てて周囲を見回した。

「おそらく、濃霧の間にこの森の地形を変動させられたのでしょう。剣主様もルークも無事でしょうが、別の場所に移動させられているはず。それに、私達がいる場所も、先程歩いていた場所とは別の場所です。私が辿ってきていた目印が消えておりますから……」

 冷静なライサンの言葉を聞きながら、リュセルは動揺のあまり、目の前の白髪の青年の肩を掴んだ。

「誰が、何の為に!?」

 ライサンは激昂するリュセルの腕をゆっくりと外させると、静かに言った。

「大丈夫、必ず二人は見つけられます。本部に着くのは少々遅れる事になるでしょうがね」

 この森は彼らの庭だ。侵入者を阻むため、このような迷路のような造りになっている。地形を変えられてしまった今となっては、ライサンは案内役として役には立たない。

「こうなったら、彼らを見つけて直接交渉するしかないでしょうねぇ。最悪、私を殺すか半殺すかで手を打ってもらいましょうか」

「はあ!?」

 ライサンの物騒過ぎる台詞を聞いたリュセルは目を剥き、すっとんきょうな声を上げた。

「あそこに大きな木が見えるでしょう? この森に入った時からずっと見えていた巨木です。私達の向かう本部のある方向とは離れた場所なのですが、あそこを目指しましょう」

 目的地から離れるというのか?

「何故?」

 リュセルの問いに、ライサンは笑いながら答えた。

「地形を変えられ、私にも本部までの道のりがわからなくなりました。でも、あそこに道を知る者がいるはずなんですよ」

 それって、まさか……。

「そう、ドラゴンです」

 予測した通りの答え。それを聞いたリュセルは、驚愕に目を見張った。



 一方のレオンハルト(見た目リュセル)&ルーク組はというと……。


「どうだい?」

「…………目印がなくなってしまっています。おそらく、何らかの原因で場所を移動してしまったようです。セリクス……、いえ、セリクス神官長より引き継いだ道順に、こんな場所はありませんでした」

 周囲を見回しながらのルークの言葉を聞き、レオンハルトは重いため息をついた。神官長に何かあった時代行を務めるという補佐役の青年の言葉に間違えはないのだろう。

 完全に道を見失い、他の二人とはぐれたのだ。

「迷路のように入り組んだこの森を勝手に歩き回るのは危険だ。何かセリクス神官長から聞いていないのか?」

 レオンハルトのその問いに頷くと、ルークは木々の挟間から見える、かなり遠くにあると思われる巨木を指差した。そうとう離れていると思われるここから見えるのだから、きっとすごく大きな木なのだろう。

「道を見失ったら、あの木を目指すようにと昨夜言われました。上手くいけば、フェンリル・アシェイラが迎えに来てくれる可能性の高い場所だと……」

 つまり、他の場所での迎えは期待できないという事か。神獣である月狼(フェンリル)でさえ足を踏み入れるのを躊躇するような特殊な場所。

(いくら表の道が大勢の邪鬼に見張られているとはいえ、よくこの道を選んだものだ。まあ、選択肢はここか、危険を承知で表の道を行くかだっただろうがな)

 レオンハルトはそう考えながらも、唯一二人と再会出来る可能性がある巨木の場所に向かう為、ルークを伴って歩き出した。
 弟の事は心配だったが、彼は今ライサンと共にいるはずだし、体は宝主たる自分のものだ。少しの事では傷つく事もないはず……。ただ、このような事態を引き起こしたであろう相手の目的が気になった。

 この森は、邪鬼の侵入を阻む場所。セイントクロスの泉を中心にして広がる森は、神気が強過ぎて邪鬼の干渉を阻むのだ。つまり、相手は邪鬼ではないという事になる。邪鬼でないのなら、地形を変えるという大技をやってのけたのは一体誰なのか?

 ライサンは何かを隠していて、それを語りたがらない。この森に入ってからも入る前も色々な話を聞いてきたが、彼の話す内容は意味深で、不可解な事が多い。物事の核心を話さないからだ。
 だが、小出しにされたこの森にまつわる話をまとめた結果、ある事が推測された。

「おそらく、あの木の元にいるのは、ドラゴンだろう」

 歩きながらそう言ったレオンハルトの言葉を耳にし、彼の背を追って歩いていたルークは、顔を上げてまぬけな声を出した。

「は?」

「この森には、ドラゴンの末裔が暮らしているのだろうね。地形を変動し、私達をはぐれさせたのも彼らだ」

 ドラゴンとは、はるか昔に存在した神話の存在。今はもういない、幻の生き物。

 そう思っていた者が存在する? ルークの脳はパンク寸前に混乱していた。普通なら、相手が質の悪い冗談を言っているのだと考えるのだが、それを口にした相手が相手だ。決して嘘偽りではないのだろう。

 という事は、本当にドラゴンが存在しているのか? それは、つまり……。

「セリクス神官長もリュセルもあの木を目指すだろう。しかし、ドラゴンの末裔が協力してくれるだろうか?」

 人間に恨みを抱き、古の勇者、ディエラを憎む種族の血の末。

「……セリクスが!」

「…………」

 ルークの悲鳴のような声にレオンハルトは頷いた。

「下手すると殺されかねない」

 能力が使えず、気配も探せない今、引き離されたリュセルの身も心配なレオンハルトは、一刻も早く二人と合流しなくてはならなかった。






「俺は金の王子とディエラの生まれ変わりを足止めするよ。ジルはあいつの後を追って動向を見張って」

 双子の弟のその言葉に対し、ジルはぼんやりとした目を上げた。

「銀の王子を連れ去るのを見届ければいいのか? 一緒にいる神官はどうする?」

 兄の問いにベルは爪を噛んで答える。

「放っておけば、勝手にのたれ死ぬんじゃない?」

「そうだな。でも、アシェイラがうるさいだろうな」

「じゃあ、すべて終わったら地形を元に戻せばいい。そうすれば道はわかるだろうし、神殿本部に行けるよ、きっと」

 そう言い合いながらも、彼らの頭にあるのは、先程の光景。

 蒼髪の青年が手にしていた、石の卵。

 間違いない。

「本物だった。何故、あいつがあれを持っているんだ」

 三千年前、行方不明になったとアシェイラから聞かされていたというのに……。

「わからんが、あれは返してもらわなければならない。我ら一族の最後の望みだ」

 そう言うと、ジルは乗っていた木の枝から飛び降り、べルの言葉に従う為に動き出した。

「でも、ジル。僕らの血では、あの卵は孵化しなかったじゃないか。やっぱりミラの血統の者じゃないと駄目なんだよ…………」

 既にドラゴンの血統は自分達しか残されていない今、あの卵を手に入れたとて、何も変わらないかもしれない。

 それでも、少しでも希望に縋りたいのだ。

「この孤独から、いつになったら解放されるんだろう」

 ベルはそう呟くと、自嘲するように笑ったのだった。
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