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ユリエの憂鬱
7-1 過去の罪①
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「それは……仕方ないじゃない。カイルーズ王子の仕事を手伝っていたのだから」
そう反論しながらも、自分でもそう思っていた為、ユリエの声はどこか弱弱しいものになった。
「でも、いいじゃん。姉上が婚約すれば?」
…………は?
レインの爆弾発言を耳にし、ユリエは目が点になる。
「だからさ、ツバキじゃなくて、姉上が婚約しちゃえば?」
「なんで?」
嫌そうに顔をしかめたユリエを見上げながら、レインは言った。
「どうせ国同士の契約なんだし、うち(サンジェイラ)の姫だったら、誰でもいいんじゃないか? たまたま年齢が合いそうなのがツバキって事でツバキを推してるけどさ」
「だからって、何で私なのよ! 冗談も程々にしなさい」
自分の首元を掴んで乱暴に揺らすユリエの手を掴むと、どこか真剣な声音で再びレインは言った。
「いや、本気で。あっちは満更でもないようだし、考えてみれば?」
「満更でもないって、どういう事よ」
「たぶん、カイルーズ王子は姉上の事気に入ってると思うぞ。じゃなけりゃ、こんなに頻繁に呼び出したりしないだろう?」
「まっさか~」
レインは珍しく口にした真剣な言葉を瞬殺された。
「まあ、あっちがどう思っているかは、この際置いておいて。姉上はどうなんだよ。あの王子の事、どう思ってるんだ? まだ胸を揉まれた事怒ってるのかよ」
「思い出させないでよ」
顔を引きつらせるユリエにレインは更に言う。
「どうなんだ?」
「どう……って。まあ、将来いい王様になるとは思うわよ。それだけの努力もしているようだし、資質もあるわね」
「そうじゃなくて、男としてどうなんだよ」
男として、って。
瞬間、ユリエが思ったのは、側近代行をやっていた数日の間に知った、さりげないカイルーズの優しさだった。
「男としてなんて、見ていないわ。カイルーズ王子はツバキの……、妹の婚約者よ」
「違う、婚約者候補だ」
「あなた、何でそんなに、私とカイルーズ王子をくっつけたがる訳?」
ユリエのうんざりしたような声に対し、レインは真剣な表情で答えた。
「幸せになって欲しいからさ」
「レイン…………」
ユリエは驚きに目を見開き、弟の顔を見つめたまま、小さく笑った。
「私、今でも十分幸せよ。それに……、私は駄目なの」
「? 何が」
眉をひそめるレインを穏やかな表情で見返しながら、ユリエは静かに答える。
「駄目なのよ……」
この手に、まだあの感触が残っていた。人間の体に刃を突き刺した時の、感触が。
自分は、誰かを好きになる資格などないのだ。
レインとその見張り役のアントニオが去ってからも、ユリエは一人庭園内を移動して、お茶会でも催す為に設置されたらしい白い丸テーブルの上に画材を広げると、椅子に座り、美しく咲き乱れる花々をぼんやりと見つめていた。
なんだか、イラストを描く気力が湧いてこない。
「馬鹿な事言って……」
先程レインが言っていた、ありえない話を思い出して小さく笑う。
「第一あんな最悪な第一印象が覆るはずないじゃない」
おそらく向こうは、ユリエの事を乱暴な他国の姫として認識しているはず。
「あ~っ、でも、ようやく解放されて清々したわ!」
無理矢理気を取り直して大きく伸びをすると、気持ちを切り替える。
その時だった。
「誰が解放してやるって言ったよ」
「なんでいるのよ」
今一番会いたくない人物が花壇の影から姿を現すのを見て、ユリエはつっこみを入れたのだった。
時を少しさかのぼって……。
「ユリエ姉上なら庭園だぜ」
執務の合間、休憩時間中に城の廊下を歩いていると、中庭の方角からやってきたレインがそう言ったのをカイルーズは聞いた。
「そう、ありがとう」
聞いてもいないのによくわかったな。と考えながら、その横を通過しようとすると、複雑そうな顔をしたレインの顔が目の端に映った。
「何?」
数歩進んだ所で歩みを止めて振り返ると、レインは言った。
「姉上は手強いぞ」
その言葉を聞くと、カイルーズは一瞬驚きに目を見張り、次の瞬間、にこりと笑った。
「知っているよ」
アシェイラの王位継承者としてツバキと正式に婚約し、この想いを封印しなければならないと自分に言い聞かせていた時だったので、カイルーズはレインの言葉に内心ギクリとしていた。
しかし、封印しなければと思う傍から彼女に会いたくて姿を探すのでは、どうしようもない。
一方、さわやかに微笑む好青年。一見そのように見えるカイルーズをレインは値踏みするように眺めていた。
惹かれてしまったのが国が提示した婚約者候補の姫君ではなく姉姫だったという事実に、その結婚にアシェイラとサンジェイラの両国の縁、未来がかかっている王位継承者の王子は、内心その想いに葛藤している事だろう。
カイルーズがユリエに惹かれているのは、レインの目から見てもあきらかだった。まあ、それを知っているのは、彼らの傍に身を置く者のみであろうが。
でも、こればかりは、どう転ぶかは当人達次第である。
「振られたらなぐさめてやろうか? 俺とどうだい?」
それを知っているからこそ、レインは真剣な表情でカイルーズを見ていた顔を、一瞬でふざけたように緩めると、ゆっくりと彼に近寄って、いつもの調子でささやきかけた。
女神の美貌を有する二人の兄弟には及ばないが、ハンサムで綺麗な顔形をしているカイルーズは、軽くレインのストライクゾーンに入っていたのだ。妹の婚約者(候補)に手を出す程愚かではないので、もちろん、今まで手出しはしなかったが。
「……おとといきやがれ」
いやらしいレインの顔に向かってそう言うと、カイルーズは懐に忍ばせていた新作の粉、その名も花粉症粉を、思いっきり振りかけてやったのだった。
そうしてその後、くしゃみと鼻水に苦しみ出したレインを放置して、美しい花々が咲き乱れる庭園に下りると、周りをきょろきょろと見回しながら、カイルーズはユリエの姿を探した。
彼女の小さな姿は、庭園の中央の休憩場のようになっている開けた場所にあった。備え付けのテーブルに何やら色々と広げて、ぼんやりと花々を見つめている。
カイルーズは足を止めると、花々の間からうっとりとその姿を眺めた。
どうして、こんなに気になるのだろう。
そんな風に思っているカイルーズの耳に、聞き捨てならぬ声が届く。
「あ~っ! でも、ようやく解放されて清々したわ!」
…………この野郎。
こっちは、お前の事が気になって気になって気になって気になって、エンドレスエンドレス……仕方ないっていうのに。
カイルーズは顔を引きつらせながら、花々の間から音を立てずにユリエに近づき、不機嫌そうな声を出した。
「誰が解放してやるって言ったよ」
「なんでいるのよ」
即座に返って来る冷たいつっこみに、カイルーズは更に不機嫌になる。
「ここは僕の城だ。どこにいようと勝手だろう?」
そう言いながらも、ユリエの座っている向かいの椅子に腰を下ろす。
一方のユリエは、レインの話もあり、カイルーズと二人きりでいる事に抵抗を感じていた。
(どうしよう。でも、急に立ち去ったら、さすがに気を悪くするわよね。なんだか可哀想だし)
ユリエの内心の困惑などまったく気づいていないカイルーズは、テーブルの上に広げられた画材道具や出来上がっていたイラストなどを物珍しそうに眺めていた。
「これ、全部君が描いたの?」
「え、ええ。」
「すごい綺麗な絵だね」
素直に感嘆の声を上げたカイルーズに、ユリエは穏やかな微笑みを浮かべる。
「そう? ありがとう」
そして、その後、何故か気まずい沈黙が流れる。
「…………」
「……………………」
変に意識してしまっていたカイルーズは、会話の糸口を探そうとして、先程会った彼女の弟の事を口にした。
「……そういえば、さっきレイン殿に口説かれたんだけれど、あれって、一体何?」
ぶ~~~~っ
瞬間、ユリエは心の中で思い切り吹き出した。
「ご、ごごごごごめんなさい、カイルーズ王子! うちの愚弟の言った事は、すべて無視してくれてかまわないわ! あの子、ある意味病気なのよっ」
阿呆~~~~~~!
ユリエは、心の中でレインを罵る。
(あの馬鹿、妹の婚約者にまで手を出すつもりじゃないでしょうね! それだけは……、それだけは、死んでも許さないわ!)
ユリエの目の奥にメラメラと怒りの炎が燃え盛った。
「ははは、仲がいいんだね」
その様子をどう勘違いしたのか、さわやかに笑ってそう言ってきたカイルーズに目を向け、ユリエは不服そうに言った。
「ちょっと、どこをどう見たら、そんな風に見える訳?」
変態弟に手を焼いているユリエは、そう反論する。しかし、そんなユリエに、カイルーズは寂しそうに言ったのだ。
「羨ましいよ」
「…………あなた、リュセル王子やレオンハルト王子と仲悪いの?」
他人がつっこみ過ぎかとも思ったが、あまりにも寂しそうだったので、ユリエはついそう聞いてしまった。
「う~ん。リュセルの事は好きだし、仲は悪くないと思うよ、可愛いしね」
兄の顔でそう告げるカイルーズを見つめ、知らず知らずの内にユリエの顔に微笑が浮かぶ。しかし、原因がリュセルでないとすると……。
「レオンハルト王子とは?」
「兄上。兄上は……、嫌いだよ。そう、大嫌いさ」
そう答えるカイルーズの顔は、言葉とは裏腹に優しい表情を浮かべていた。
(嘘ばかり)
ユリエはそう思いながらも問いかけた。
「どの辺が嫌いなの?」
「全部」
「は?」
つい、あんぐりと口を開けてしまう。
「聞いてよ、ちょっとー!」
呆気にとられているユリエの前で、カイルーズはダンッとテーブルを両手で叩くとしゃべりだした。
そう反論しながらも、自分でもそう思っていた為、ユリエの声はどこか弱弱しいものになった。
「でも、いいじゃん。姉上が婚約すれば?」
…………は?
レインの爆弾発言を耳にし、ユリエは目が点になる。
「だからさ、ツバキじゃなくて、姉上が婚約しちゃえば?」
「なんで?」
嫌そうに顔をしかめたユリエを見上げながら、レインは言った。
「どうせ国同士の契約なんだし、うち(サンジェイラ)の姫だったら、誰でもいいんじゃないか? たまたま年齢が合いそうなのがツバキって事でツバキを推してるけどさ」
「だからって、何で私なのよ! 冗談も程々にしなさい」
自分の首元を掴んで乱暴に揺らすユリエの手を掴むと、どこか真剣な声音で再びレインは言った。
「いや、本気で。あっちは満更でもないようだし、考えてみれば?」
「満更でもないって、どういう事よ」
「たぶん、カイルーズ王子は姉上の事気に入ってると思うぞ。じゃなけりゃ、こんなに頻繁に呼び出したりしないだろう?」
「まっさか~」
レインは珍しく口にした真剣な言葉を瞬殺された。
「まあ、あっちがどう思っているかは、この際置いておいて。姉上はどうなんだよ。あの王子の事、どう思ってるんだ? まだ胸を揉まれた事怒ってるのかよ」
「思い出させないでよ」
顔を引きつらせるユリエにレインは更に言う。
「どうなんだ?」
「どう……って。まあ、将来いい王様になるとは思うわよ。それだけの努力もしているようだし、資質もあるわね」
「そうじゃなくて、男としてどうなんだよ」
男として、って。
瞬間、ユリエが思ったのは、側近代行をやっていた数日の間に知った、さりげないカイルーズの優しさだった。
「男としてなんて、見ていないわ。カイルーズ王子はツバキの……、妹の婚約者よ」
「違う、婚約者候補だ」
「あなた、何でそんなに、私とカイルーズ王子をくっつけたがる訳?」
ユリエのうんざりしたような声に対し、レインは真剣な表情で答えた。
「幸せになって欲しいからさ」
「レイン…………」
ユリエは驚きに目を見開き、弟の顔を見つめたまま、小さく笑った。
「私、今でも十分幸せよ。それに……、私は駄目なの」
「? 何が」
眉をひそめるレインを穏やかな表情で見返しながら、ユリエは静かに答える。
「駄目なのよ……」
この手に、まだあの感触が残っていた。人間の体に刃を突き刺した時の、感触が。
自分は、誰かを好きになる資格などないのだ。
レインとその見張り役のアントニオが去ってからも、ユリエは一人庭園内を移動して、お茶会でも催す為に設置されたらしい白い丸テーブルの上に画材を広げると、椅子に座り、美しく咲き乱れる花々をぼんやりと見つめていた。
なんだか、イラストを描く気力が湧いてこない。
「馬鹿な事言って……」
先程レインが言っていた、ありえない話を思い出して小さく笑う。
「第一あんな最悪な第一印象が覆るはずないじゃない」
おそらく向こうは、ユリエの事を乱暴な他国の姫として認識しているはず。
「あ~っ、でも、ようやく解放されて清々したわ!」
無理矢理気を取り直して大きく伸びをすると、気持ちを切り替える。
その時だった。
「誰が解放してやるって言ったよ」
「なんでいるのよ」
今一番会いたくない人物が花壇の影から姿を現すのを見て、ユリエはつっこみを入れたのだった。
時を少しさかのぼって……。
「ユリエ姉上なら庭園だぜ」
執務の合間、休憩時間中に城の廊下を歩いていると、中庭の方角からやってきたレインがそう言ったのをカイルーズは聞いた。
「そう、ありがとう」
聞いてもいないのによくわかったな。と考えながら、その横を通過しようとすると、複雑そうな顔をしたレインの顔が目の端に映った。
「何?」
数歩進んだ所で歩みを止めて振り返ると、レインは言った。
「姉上は手強いぞ」
その言葉を聞くと、カイルーズは一瞬驚きに目を見張り、次の瞬間、にこりと笑った。
「知っているよ」
アシェイラの王位継承者としてツバキと正式に婚約し、この想いを封印しなければならないと自分に言い聞かせていた時だったので、カイルーズはレインの言葉に内心ギクリとしていた。
しかし、封印しなければと思う傍から彼女に会いたくて姿を探すのでは、どうしようもない。
一方、さわやかに微笑む好青年。一見そのように見えるカイルーズをレインは値踏みするように眺めていた。
惹かれてしまったのが国が提示した婚約者候補の姫君ではなく姉姫だったという事実に、その結婚にアシェイラとサンジェイラの両国の縁、未来がかかっている王位継承者の王子は、内心その想いに葛藤している事だろう。
カイルーズがユリエに惹かれているのは、レインの目から見てもあきらかだった。まあ、それを知っているのは、彼らの傍に身を置く者のみであろうが。
でも、こればかりは、どう転ぶかは当人達次第である。
「振られたらなぐさめてやろうか? 俺とどうだい?」
それを知っているからこそ、レインは真剣な表情でカイルーズを見ていた顔を、一瞬でふざけたように緩めると、ゆっくりと彼に近寄って、いつもの調子でささやきかけた。
女神の美貌を有する二人の兄弟には及ばないが、ハンサムで綺麗な顔形をしているカイルーズは、軽くレインのストライクゾーンに入っていたのだ。妹の婚約者(候補)に手を出す程愚かではないので、もちろん、今まで手出しはしなかったが。
「……おとといきやがれ」
いやらしいレインの顔に向かってそう言うと、カイルーズは懐に忍ばせていた新作の粉、その名も花粉症粉を、思いっきり振りかけてやったのだった。
そうしてその後、くしゃみと鼻水に苦しみ出したレインを放置して、美しい花々が咲き乱れる庭園に下りると、周りをきょろきょろと見回しながら、カイルーズはユリエの姿を探した。
彼女の小さな姿は、庭園の中央の休憩場のようになっている開けた場所にあった。備え付けのテーブルに何やら色々と広げて、ぼんやりと花々を見つめている。
カイルーズは足を止めると、花々の間からうっとりとその姿を眺めた。
どうして、こんなに気になるのだろう。
そんな風に思っているカイルーズの耳に、聞き捨てならぬ声が届く。
「あ~っ! でも、ようやく解放されて清々したわ!」
…………この野郎。
こっちは、お前の事が気になって気になって気になって気になって、エンドレスエンドレス……仕方ないっていうのに。
カイルーズは顔を引きつらせながら、花々の間から音を立てずにユリエに近づき、不機嫌そうな声を出した。
「誰が解放してやるって言ったよ」
「なんでいるのよ」
即座に返って来る冷たいつっこみに、カイルーズは更に不機嫌になる。
「ここは僕の城だ。どこにいようと勝手だろう?」
そう言いながらも、ユリエの座っている向かいの椅子に腰を下ろす。
一方のユリエは、レインの話もあり、カイルーズと二人きりでいる事に抵抗を感じていた。
(どうしよう。でも、急に立ち去ったら、さすがに気を悪くするわよね。なんだか可哀想だし)
ユリエの内心の困惑などまったく気づいていないカイルーズは、テーブルの上に広げられた画材道具や出来上がっていたイラストなどを物珍しそうに眺めていた。
「これ、全部君が描いたの?」
「え、ええ。」
「すごい綺麗な絵だね」
素直に感嘆の声を上げたカイルーズに、ユリエは穏やかな微笑みを浮かべる。
「そう? ありがとう」
そして、その後、何故か気まずい沈黙が流れる。
「…………」
「……………………」
変に意識してしまっていたカイルーズは、会話の糸口を探そうとして、先程会った彼女の弟の事を口にした。
「……そういえば、さっきレイン殿に口説かれたんだけれど、あれって、一体何?」
ぶ~~~~っ
瞬間、ユリエは心の中で思い切り吹き出した。
「ご、ごごごごごめんなさい、カイルーズ王子! うちの愚弟の言った事は、すべて無視してくれてかまわないわ! あの子、ある意味病気なのよっ」
阿呆~~~~~~!
ユリエは、心の中でレインを罵る。
(あの馬鹿、妹の婚約者にまで手を出すつもりじゃないでしょうね! それだけは……、それだけは、死んでも許さないわ!)
ユリエの目の奥にメラメラと怒りの炎が燃え盛った。
「ははは、仲がいいんだね」
その様子をどう勘違いしたのか、さわやかに笑ってそう言ってきたカイルーズに目を向け、ユリエは不服そうに言った。
「ちょっと、どこをどう見たら、そんな風に見える訳?」
変態弟に手を焼いているユリエは、そう反論する。しかし、そんなユリエに、カイルーズは寂しそうに言ったのだ。
「羨ましいよ」
「…………あなた、リュセル王子やレオンハルト王子と仲悪いの?」
他人がつっこみ過ぎかとも思ったが、あまりにも寂しそうだったので、ユリエはついそう聞いてしまった。
「う~ん。リュセルの事は好きだし、仲は悪くないと思うよ、可愛いしね」
兄の顔でそう告げるカイルーズを見つめ、知らず知らずの内にユリエの顔に微笑が浮かぶ。しかし、原因がリュセルでないとすると……。
「レオンハルト王子とは?」
「兄上。兄上は……、嫌いだよ。そう、大嫌いさ」
そう答えるカイルーズの顔は、言葉とは裏腹に優しい表情を浮かべていた。
(嘘ばかり)
ユリエはそう思いながらも問いかけた。
「どの辺が嫌いなの?」
「全部」
「は?」
つい、あんぐりと口を開けてしまう。
「聞いてよ、ちょっとー!」
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