9 / 12
ピアノを弾くのは…?
しおりを挟む葉っぱは燃えるように恋をして
赤く色付く紅葉の季節に
あなたは恋を失ったのです。
心の片割れがなくなったようで
毎日を死んだ魚のような目をして
ただ呼吸を繰り返し生きました。
そこには安らぎはありませんでした。
ある時、何処からか耳に届く音色。
力強いピアノの音でした。
拙い、そして
ヘンテコな旋律でしたが
誰か弾き手が居るんだと
そう思えるだけで
温もりを感じました。
その音色は
あなたの耳から
全身を駆け巡り、
とうとう胸の扉を
叩いたのです。
今まで彼と別れたことを
受け入れたくなくて
新しい毎日なんて
楽しくも何ともなくて
幸せなんて探す気も起きなくて
涙を流すことすら忘れていたのに
ド、シ、ファミソラシド!
音程もテンポもばらばらな
なんともおかしなピアノの音色に
どうしてこんなに感動して
涙が出るのでしょう。
あなたは立ち止まり
目を腫らすくらい泣きじゃくった後
風に流されてくる音の正体を
探りに行きました。
ミソレドドドドドドドシ!
時に力強く駆け足に
ド……ラシ……ドシ
時にゆっくり静かに
鳴り止まぬその音がやがて
1軒の民家から聞こえてくる事を
あなたはつきとめました。
どうしようか迷いましたが
あなたはどうしても
このピアノの弾き手の人に
「ありがとう」と
「感動しました」と
伝えてたかったのです。
まだ迷いのある指先で
チャイムを鳴らしました。
ビーッと
古めかしい音を鳴らせて
チャイムが響くと中から
白髪のちいさなおばあさんが
出てきました。
ピアノの音はまだ鳴っています。
孫でも遊びに来ているのかな
あなたはそっと思い
おばあさんにこう言いました。
「あの…ピアノを弾いている人を呼んでいただきたいです」
「ピアノを弾いてる人なんていないさ」
ピアノは聴こえるのに…
そう思いながら、それではと口にします。
「弾いている人に、ありがとうって伝えてください。私、救われました」
「あいつはね言葉なんか知らないさ」
…優しい顔をしてずいぶん
意地悪なおばあさんだとあなたは思いました。
すると気持ちが伝わったのか
おばあさんはちがうちがうと笑います。
「お嬢ちゃん私はね何も意地悪で言っているんじゃないんだよ、お入り。見せてあげるから」
おばあさんの手があなたの背に当てられます。
あなたは促されるまま
家の奥へ入っていきました。
ピアノの音が大きく聴こえます。
襖一枚隔てた部屋で
誰かが声も立てず一生懸命
音を奏でています。
「そーっとあけてごらん」
おばあさんにそう笑いかけられて
あなたはスーっと襖をあけました。
するとそこに居たのは
人ではないのです。
一匹の黒猫でした。
首輪のない黒猫でした。
黒猫が鍵盤の上で跳ねたり
歩いたりする度に
ピアノが笑うように
音を立てていたのでした。
「あの子はね、ピアノが大のお気に入りなんだ。どんなに締め切っててもいつの間にか家の中に入ってきちまって」
「これじゃあ私の言葉通じませんよね」
あなたはふと笑顔になりました。
一方でおばあさんは少し苦しそうに言いました。
「でもねえ、もうすぐ息子のところに引越しするのよ。だからねぇ、あの子、ピアノ弾けなくなっちゃうの」
「そう……あ、じゃあ!」
あなたの笑顔におばあさんは首を捻りました。
音色が聴こえます。
ヘンテコな旋律です。
あなたの部屋から聴こえます。
部屋を覗くと、黒猫でした。
赤い首輪をした黒猫が
幸せそうにピアノの鍵盤の上を
飛んだり跳ねたりしていました。
その音色はあなたの心を癒し続けます。
それは、安らぎでした。
0
あなたにおすすめの小説
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~
☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた!
麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった!
「…面白い。明日もこれを作れ」
それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる