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ピアノを弾くのは…?
しおりを挟む葉っぱは燃えるように恋をして
赤く色付く紅葉の季節に
あなたは恋を失ったのです。
心の片割れがなくなったようで
毎日を死んだ魚のような目をして
ただ呼吸を繰り返し生きました。
そこには安らぎはありませんでした。
ある時、何処からか耳に届く音色。
力強いピアノの音でした。
拙い、そして
ヘンテコな旋律でしたが
誰か弾き手が居るんだと
そう思えるだけで
温もりを感じました。
その音色は
あなたの耳から
全身を駆け巡り、
とうとう胸の扉を
叩いたのです。
今まで彼と別れたことを
受け入れたくなくて
新しい毎日なんて
楽しくも何ともなくて
幸せなんて探す気も起きなくて
涙を流すことすら忘れていたのに
ド、シ、ファミソラシド!
音程もテンポもばらばらな
なんともおかしなピアノの音色に
どうしてこんなに感動して
涙が出るのでしょう。
あなたは立ち止まり
目を腫らすくらい泣きじゃくった後
風に流されてくる音の正体を
探りに行きました。
ミソレドドドドドドドシ!
時に力強く駆け足に
ド……ラシ……ドシ
時にゆっくり静かに
鳴り止まぬその音がやがて
1軒の民家から聞こえてくる事を
あなたはつきとめました。
どうしようか迷いましたが
あなたはどうしても
このピアノの弾き手の人に
「ありがとう」と
「感動しました」と
伝えてたかったのです。
まだ迷いのある指先で
チャイムを鳴らしました。
ビーッと
古めかしい音を鳴らせて
チャイムが響くと中から
白髪のちいさなおばあさんが
出てきました。
ピアノの音はまだ鳴っています。
孫でも遊びに来ているのかな
あなたはそっと思い
おばあさんにこう言いました。
「あの…ピアノを弾いている人を呼んでいただきたいです」
「ピアノを弾いてる人なんていないさ」
ピアノは聴こえるのに…
そう思いながら、それではと口にします。
「弾いている人に、ありがとうって伝えてください。私、救われました」
「あいつはね言葉なんか知らないさ」
…優しい顔をしてずいぶん
意地悪なおばあさんだとあなたは思いました。
すると気持ちが伝わったのか
おばあさんはちがうちがうと笑います。
「お嬢ちゃん私はね何も意地悪で言っているんじゃないんだよ、お入り。見せてあげるから」
おばあさんの手があなたの背に当てられます。
あなたは促されるまま
家の奥へ入っていきました。
ピアノの音が大きく聴こえます。
襖一枚隔てた部屋で
誰かが声も立てず一生懸命
音を奏でています。
「そーっとあけてごらん」
おばあさんにそう笑いかけられて
あなたはスーっと襖をあけました。
するとそこに居たのは
人ではないのです。
一匹の黒猫でした。
首輪のない黒猫でした。
黒猫が鍵盤の上で跳ねたり
歩いたりする度に
ピアノが笑うように
音を立てていたのでした。
「あの子はね、ピアノが大のお気に入りなんだ。どんなに締め切っててもいつの間にか家の中に入ってきちまって」
「これじゃあ私の言葉通じませんよね」
あなたはふと笑顔になりました。
一方でおばあさんは少し苦しそうに言いました。
「でもねえ、もうすぐ息子のところに引越しするのよ。だからねぇ、あの子、ピアノ弾けなくなっちゃうの」
「そう……あ、じゃあ!」
あなたの笑顔におばあさんは首を捻りました。
音色が聴こえます。
ヘンテコな旋律です。
あなたの部屋から聴こえます。
部屋を覗くと、黒猫でした。
赤い首輪をした黒猫が
幸せそうにピアノの鍵盤の上を
飛んだり跳ねたりしていました。
その音色はあなたの心を癒し続けます。
それは、安らぎでした。
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