ほんとのなかのうそほんと?

幸介~アルファポリス版~

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ほんとのなかのうそほんと?

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「さな!さなっ!!」



同棲してる彼、優多が


眠りの中の私を呼んだ。



「んんぅん……?」



「寝ぼけてる場合じゃないって!!」



「なあによぅー…」



「さながエントリーしてた、セヴンの来日コンサートのチケット!!通ってるぞ!」


「えっ!?」


驚いて跳ね起きた瞬間


ベッドの上部にある棚に


思い切り頭を打った。



「うっつぅううー……」


「ひっでぇ落としたけど大丈夫?」


優多は苦笑して


私の頭を撫でてくれた。



それより、それよりだ!



「それより!!ほんと!?」


「え、なにが?」


「何がじゃないよ、セブンの来日コンサート!」



鼻息を荒くして


私が興奮気味に食いつくと


優多はヘラッと笑って告げた。



「ウソ!」


「はぁー!?なにそれ!」


「だって今日はーエイプリルフールだしぃ」


優多の低音ボイスが


語尾を伸ばした女子高生みたいな


喋り方をすると、とてつもなく腹が立つ。



私はがら空きになっている


優多の額をベチンと平手で叩いた。



「いでっ、なにすんの」


「言っていい嘘と悪い嘘がある!」


「えー?今のは大丈夫でしょ」


「ダメに決まってんでしょ!私がどれだけセヴンのコンサートに賭けてるか優多だって知ってるくせに」


「あー、そっか、ごめんね?」


優多はベッドの上に


ちょこんと座り直して


捨てられた子犬みたいな顔をした。



…こんな顔されたら


怒るに怒れない。



優多はこんな時


とてもずるい。


決して狙っているわけじゃなく


こんな風に母性本能を


くすぐるんだから。



「……ん、まあ、もうしないって約束してね」


「やった、さな、やっさしー」



優多は嬉しそうに笑い、


私に手を差し出した。



「ん?」


「そろそろ起きなよ」


「えー、せっかくの休日ぅ…」



「一緒にご飯食べよ」


「仕方ないなあ…、うんー…」


私はベッドを完全に起き上がり


夜に脱ぎ捨ててベッドに入った、


ルームシューズに足を通した。



ところがどうだろう。




つま先に


グニュッッとした


温かいものが触れたのだ。




「ぎっっゃあああああ!」



人間というのは


不思議なもので


得体の知れない物を


感じると叫び声も


あげたくなるらしい。



半泣き状態の私は


ルームシューズを蹴り上げて


優多にしがみつく。



「グニュッッッッてええええ…っ!」


「ん、こんにゃく」


「…ん!?こんにゃく!?」


「うん、わざわざゆでたんだ、こんにゃく」


「……なんで?」


「ドッキリ大成功♪エイプリルフール♪」


「ゆうぅぅぅぅたあぁぁぁぁ!!」


私が地を這うような声をあげると


優多はビクッと肩を竦めて言う。



「あ、あれ?怒ってる?」


「あったりまえでしょ!」


「なんで?問題ない嘘でしょ?」


「問題大あり!ルームシューズこんにゃく臭くなるじゃん!」


「え、こんにゃくって臭いの?」


「臭いよ!!」


「えー…マジか、ごめぇぇん」



自分で仕掛けておきながら


本気で落ち込んでいる。


救いようがない……。


でも、泣き出しそうな


優多の顔を見てると


またも母性本能がくすぐられて


「…まあ、次から気をつければ?」


そんな事、言ってしまう。


そしてきっと優多は笑うんだ。


「さな、やっさしー」って。



「さな、やっさしー♪」


ほおらね





優多との食事


いつもの隣同士の席。



「はい、優多、お醤油」


「さなもお醤油使いなよ」


「やだ、私はソース」


目玉焼きに何をかけるか


なんて、聞かなくてもわかる。



もうかれこれ


四年も、同棲してるのだ。



「はい、ソース」


「うん、ありがとー」



目玉焼きにはウースターソース。


田舎の母が目玉焼きの食べ方は


こう、と教えてくれた。



優多から


受け取ったソースの瓶を傾けて


目玉焼きに、とぷっとかける。



「いただきまーす」


お腹がすいた。


目玉焼きを笑顔で頬張る。



「ん!?」


「どーしたのさぁー」


口の中、しょっぱい…



「……醤油じゃん」


「へへー、エイプリルフール♪」


「もぉー、しょうもないっ」


今度の嘘は可愛いかなと思いきや


私はあることに気がついて


優多に声をかけた。



「ねえ、待って?」


「ん?」



「この瓶に入ってたウースターソースどこやった?」


「え、流しに捨てた」


「はぁぁぁぁ!?」


「え、駄目!?」


「食べ物無駄にしちゃ駄目に決まってんでしょ!」


「あ…っ、そか……ごめん」



すっかり意気消沈。



今日の優多、なんだかおかしい。



同棲前を含めたら


エイプリルフールなんて


過去五回も私たちの前を


通り過ぎてる。



3年前に1度だけ



タコ星人と人間の


戦いがはじまった!


と、言い張っていた事はあったけど


何度も嘘を捻り出して


実行するようなことする人じゃない。



私がしげしげと


優多を見つめていると


優多はスマホを見ながら


食事をはじめた。



「ねえ、ながらごはんするのやめて?」


「えー、もうちょっと」


「だめ!今、やめる!」


「鬼嫁ぇー」


「鬼でもなければ嫁でもないっ!」



あはは、っと声をあげて


優多は私に笑顔を向けた。


よかった、


落ち込みモード


解除されたみたい。



こんな漫才夫婦みたいな、


掛け合いも


実は、気に入っていたりする。




「え、あ!?うそだろ!!」


結局、ながらのスマホを


やめられない優多が突然


画面を見ながら大声を出した。




「え!?何?」


「すっげ!」


「ん!?なになに?」


「猿がちゅーしてる!ほら見てみ」



優多が画面を私に傾ける。


私は優多に身を寄せて


優多の手に握られた、


画面を覗く。



…その瞬間は


あっという間だった。



優多が私を覗き込んだかと思うと


私の唇に吸い付いたのだ。



ちゅっ、という音だけが


何度も部屋中に響く。



やけに生々しくて


恥ずかしい。



思わず身を引き


悪態をついた。



「目玉焼きand醤油の味のちゅーとか嫌だけど」


「えー?」


「画面…猿のちゅーなんか、どこにもないし」


「うん、エイプリルフール」


「ちゅーまでエイプリルフールにするの?」


優多は私の頭を優しく撫で上げて


急に真剣な眼差しを私に注ぎ



唐突な言葉を繋いだ。





「さな、結婚しよ?」



それはずっと待ち望んだ言葉。


ふいに涙が浮かぶけれど


今日はエイプリルフール。




また、優多の


くだらない嘘かもしれない。



涙、必死に我慢した。





「ねえ」


「うん?」


「それもエイプリルフール?」


「これは本当」


「……信じられない」


「信じて?」


眉を下げて笑う優多。



「だって、今日の優多、嘘ばっかり」


「それはほら、プロポーズの為に、本当の中の嘘の本当にしようっ、てさぁー?」



「なにそれ」


「大好きの中に、色んな嘘があって、その中のプロポーズ的な?」


「わかりにくいよ」



その回りくどいところが


実に優多らしくて私は


笑みをこぼした。



「んー、じゃあ」


「んー?」



優多はゴソゴソと


ポケットを探ると


「これなら、どう?」


そう言いながら


私の左手をとって


薬指に、指輪をはめた。



ピンクゴールドのハートに


小さなダイヤモンド。



「本気……で?」



「うん、俺のお嫁さん、さなしかいないよ」



優多は、照れくさそうに


声を漏らして笑う。


この4年間ずっと


低い笑い声が私の安らぎだった。





「私も……優多しかいない」




やっと私も、素直になれた。



涙が零れると


優多は優しいキスで


私の機嫌をとる……



普段から


いたずらばかりで


こどもみたいな彼氏だけど


そんな優多が大好きだ。





 

……それにしても


どうしてプロポーズが


エイプリルフールなのかな?



友達に報告したってどうせ


「それほんとに!?エイプリルフールのプロポーズありえなくない?調子に乗って嘘ついて引くに引けなくなってない!?」



なーんて、絶対言われるじゃん。




「でも、ま、いっか」


「ん?何が?」



優多は私の背中を


優しく包み込みながら


私のつぶやいた言葉を拾う。




私はリングの、はまった左手を


窓から漏れる陽射しに


かざしてみた。



「嘘で指輪はプレゼントしないもんね」


キラキラと、本物が光っていた。



「んー?」


「んーん、こっちの話」


ぎゅっと私を抱き締める、


優多の腕を私は優しく抱き返した。



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