幸介による短編恋愛小説集

幸介~アルファポリス版~

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その他恋愛小説

そんな女とは別れてしまえばいいのよ

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「そんな女とは別れてしまえばいいのよ」



私が口に出せない言葉。


募る想いを貴方は知らない。


雪のように降り積る「好き」を


私はポケットに押し込んだ。






「だから何度も言ってるだろ、大学の頃のサークル仲間たちと……うん、うん、……女もいるけど友達だよ、うん……」



彼、糀谷真央太は


私に目配せと


「ごめん」のジェスチャーを送る。




仲間“たち”ねえ?


私は苦笑いを返した。



「うん…わかった、明日のデートは遅れないようにする、うん、じゃあ」


突然かかってきた電話に出てから20分


真央はクタクタになって


私の元へと戻ってきた。



やっと席に掛けようとする真央に


私は言った。




「一応聞くけど、彼女のツカサ?」


「…ほんとに勘弁して欲しいよ」


「嘘つくのもどうかな、私以外どこに仲間がいるの」


「ああでも言わないとヒステリー起こすんだ」


「サークル仲間“たち”ってかえってわざとらしい」


「え、俺まずった?」


「かもね」



あたふたし出す真央に


私は呆れて言うと日本酒を口に含んだ。


甘い香りに酔いしれて、真央を見つめる。




仕事帰りだからスーツ。


上を丁寧に居酒屋の椅子にかけるところが好きだ。


冬だって言うのに、シャツを肘までまくっている。



テーブルに肘をつく度に


腕の筋が浮き上がる…




真央、それは反則だよ。



「なあ、雪舞、俺さぁ」


「ん?」


「最近ツカサから無言の圧力を感じる」


「圧力?」


「だーかーらーさー」


真央は私が頼んだ枝豆をつまみながら


私を見つめて言う。



「そろそろしたいなー、みたいな」


「何を?」



「相変わらず鈍いな、結婚だよ結婚」




結婚……の二文字に


心臓が苦しい。



笑顔が凍りつく。



必死に平静を装った。




「真央は…どう思ってるの?」


言ってしまってから後悔した。



「俺だってさ、もう27だし結婚意識せずに女と付き合う程、若くはないよ」


ほら


こんなの聞きたくなかった。



耳を塞ぎたい衝動に駆られるけれど


そんな事出来るわけもない。



「…だったら結婚するの?」


「うー…ん」


「束縛がきつい?」



真央は苦笑した。



聞けば、


ただいまの時間が少しでも遅れると


猛追求が待っている


残業だったといっても


なかなか信じてくれないらしい。


喧嘩もしょっちゅうで、


無実の罪で頬を張られた事もあるという。


真央はそれで幸せなんだろうか。


「まずは同棲かなとも思うんだけど、今からこれじゃあ…同棲後どうなるかなって恐くてさ」

「……そう」



まただ。また私は


そんな女とは別れちゃえばいいのよ


その言葉を噛み殺す。




「そう、ってさ、冷たくね?」


たまに、こうやって


捨て犬みたいな目をして見つめるの、


やめてほしい。


心がますます引っ張られるじゃない。



「同棲が恐いのに、結婚考えるなんてどうかしてる」


不機嫌に呟いた私の一言を


真央はきょとんとして聞き入れ



「あ、そっか、そうだよな、雪舞、意外と頭いいじゃん」



そして、こどもみたいに微笑んだ。




真央はかっこいい。

 
真央はかわいい。



真央、好き。


……大好き。



真央を見つめていると


つい、口をついて出そうだ。


いくじなし。


告白なんて、出来もしないくせに。




私は自嘲して、


また日本酒を口に運んだ。






「おーい、雪舞、大丈夫かあ?」


「んはは、だいじょぶ、だあいじょーぶぅ」


「大丈夫じゃねえだろこれっ」



くらくらふらふら、気持ちいい。


街のネオンが幾重にも見えた。


すごーく、きれい。


その中に抱えるように私に手を貸す真央の顔。



私の、愛しい真央太。



私は真央の背中をバンバン叩いて


彼の名を何度も何度も呼んだ。



「まーーお、まーお!」


「なんだよ、酔っ払いっ」


「私ねぇ」


「おー」


「あんたと一緒にいられるとねぇ」


「んー?」


「しーあわせなんだあ」



「……な、何言ってんだ、バカ」



「んふふ、真央はかーわいいなあ」



「嬉しくねえー、って、え、もう1時!?」



「ほんとだあ、日まわっちゃったねぇ」



「ツカサ激怒じゃんっ、絶対喧嘩!」



「へへへー」


「へへへじゃねえだろ。責任問題!」


「責任ー?」


「そうだよ、喧嘩して別れたりしたら雪舞のせいだからな」





私に白い目を向ける真央すら、かっこいい。


切れ長の目、見つめられてる。


たまんない。


ふらふら、くらくら


お酒の勢い。


私は、真央の耳元でこう囁いた。






「真央は私と結婚すればいいんだよぉー」


「……んなっ」


「性格も、笑いのツボもぉ、趣味もぉー、ほぉら、ぴったんこ」


「雪舞のアホ、呑みすぎ」



あれ?真央の顔が赤いぞ。


なんで??かわいいなぁ。



私の頭の中には


真央のことしかない。




「ほら、ちゃんと歩け、送ってく」


「んはは、ツカサちゃんもーっと激怒するよー?」


「かもな」


「別れよって言われるかもよー?いいのー?」


「別れたら雪舞と結婚すっからいいよ」



「えー?へへ」



幸せ。本当に幸せ。



このやりとりが戯れでも


この想いが報われなくても


真央がツカサと結婚しちゃっても


真央と居られる今は永遠に私の幸せだ。





翌日、ひどい二日酔い。


逆プロポーズのことはすっかり忘れて


迫り来る吐き気と戦い続けた。



次に真央に逢えるのは


二週間後の金曜日だ。




その日にはどんな物語が



待っているだろう。



それはまた別のお話。


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