Looking for Myself

幸介~アルファポリス版~

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リク編

私の値段~第二話 家族

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「お前、俺ん家来い、泊めてやる」


海は、まっすぐな眼差しで


そう言ったんだ。



【Looking for Myself~私の値段 家族】




「離せよ、離せって!」


私は人の目を気にすること無く


海のその手から逃れようともがき


大声で叫ぶ。


「やだね、離したら逃げるじゃん」


「放っておいてよ!私がどうなろうが関係ないだろ」


「何度も助けてもらっといて、自分大事に出来ないわけ?あんなオヤジと何考えてんの…」


呆れたようなため息。



ズキンと胸が痛む。


真っ直ぐな眼差しが


私を串刺した。



「……ごめ、ん」


やっとの事で口にした私の言葉に


はっとしたのかもしれない。


海は深呼吸を1度して



「怖がらせてごめん、なあ聴かせてよ」



そう、呟く。


私が頷くのを待ってから


海はこう言った。


「なんで、あんな事すんの?」


身体が、震えた。


理由が見つからない。


頭の中がごちゃごちゃして


完全に、迷子だ。



目じりに涙が浮かぶと


安心させるように


海は私の髪を梳く。


髪の毛を通して


温もりが伝わると


涙はこぼれ落ちた。




海の優しさが


すとん、と心の中に落ちてきた。






「家……帰りたく、ないんだ……っ」


「親とうまくいってねえの?」


「……私が、悪いんだ、お兄ちゃんみたいにうまく、出来ないからっ、私がっ私の努力が…っ」



声を出さないように


泣きじゃくった。



どんなにいじめられても


どんなに家で無碍に扱われても


人前で泣いた事なんか


なかったのに。




「ちょっと、落ち着け」


海はそう囁いて


腕で首ごと私を


引き寄せる。



そのまま、海は


私の耳元で尋ねた。



「お前、寒いの平気?」


「…何?」


「風の音とか、我慢できる方?」


「…どっちも、平気だけど」


「じゃーお前、俺ん家来い。泊めてやる」


「は?」



驚きのあまり


涙が一気に引っ込んで


私は海の顔を見上げた。










「ただいまー…」


海の後ろに


ぴったりとくっついて入ったのは


1軒の木造平屋の古い家だった。



昔ながらの家。


海が慣れた様子で


家の中に足を踏み入れると


ギギッと音がして


家の中が揺れた。


「そこの床、ささくれてるから気をつけて」


「…うん」


頷いて靴を脱いでいると


「兄ちゃんおかえり!」


「おかえり」


「おかえりーー!」


三つの元気な声が


ほぼ同時に聴こえた。



中でも1番小さな女の子は


海に飛びついた後で


私に気が付き


目をぱちくりさせた。



居間の前にいた、


エプロン姿の女の子は


興奮気味に海に告げる。



「ひび兄!彼女!?」


「クラスメート」


「えー、ちがうの?」


「とりあえず一晩泊めるから」


「やっぱり彼女!?」


「しつこいぞ、優音」


エプロン姿の女の子と


海が話している間


私は小学二年生ほどの


男の子に服を引っ張られた。



「え?」


「姉ちゃん料理出来る?」


「いや、ごめん、出来ない」


「マジかよー。兄ちゃんと結婚するってことは、僕たちも養わなきゃなんないんだから料理くらい勉強して」


「結……っ」



海に視線で助けを求めると


頭を抱えた海は


大きなため息と共に笑う。



「こいつら三人、俺の妹と弟」


「四人兄弟ってこと!?多っ」


「1番上が優音。二番目が歩斗、で、三番目のチビが」


そう言いながら


「音々」


小さな女の子を抱き上げる。



小さな家。


立て付けも悪い。


ところどころ割れたガラス障子は


ガムテープで補修されている。


電気を見ると


蛍光灯のひとつは外されていた。



そして何より驚いたのは


今の隅に置かれた、


小さな座卓の上の遺影。



その中で屈託なく笑うのは


優しそうな女性だった。



私の視線が


そちらに釘付けになった事に


気がついたんだろう。


海は言った。



「俺の母さん」


「お母…さん」


「こいつ産んだ時に…ね」



海に抱かれた音々ちゃんは


何を言われているのか分からずに


ただただ海の温もりに笑っている。



私は海の顔を見上げた。


海はいつも通りやっぱり笑顔だ。



だけど


寂しそうな目をしてる。



私は、いつの間にか


海の服の裾を掴んでいた。



ねえ、海

元気、出して。



まさかそんな事も言えなくて


ぎゅっと、その手に力を込めた。




「部屋、案内するよ由紀」



由紀。


優しい、海の声が


由紀


確かに私をそう呼んだ。



「う、うん」


鼓動がうるさい。


周りの音なんて


聞こえないくらい


私は海にときめいていた。
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