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あかねside
番外編~あかね目線~デート
しおりを挟む俺、永倉あかねは
正真正銘、男だ。
ただ、どういったわけか
体と心がちぐはぐに生まれてきた。
俗に言うトランスセクシュアル。
FTMである。
今日は日曜日。
少し遠出をして
東京までいこうと
約束している。
早めに起きて朝食をとったら
サラシ布で胸をつぶす。
高校に入った年のお祝いに
じいちゃんから買ってもらった、
筋トレ用のポールに
サラシの片方を巻き付けて
ぎゅーっと力任せに締めあげていく。
元々あるものを
潰す痛みというものは
並大抵じゃないけれど
年齢制限の為に手術や薬が飲めない今
俺に出来る一番手軽な…
男の体になる方法だ。
その為なら
こんな痛み屁でもない。
真っ平らな胸が出来上がったら
ようやく、洋服選び。
ラフな格好に
装飾品で色を付けてみる。
黒Tに、Gパン
チェーンで
スティングレイの財布を固定する。
ちょっと格好つけて
シルバーのゴツゴツしたリングと
羽根の形のチャームのついた、
チョーカーを下げてみた。
鏡に姿を映してみる。
概ね合格点。
髭でもあったら満点なんだけどなあ。
「ま、しゃあないよなあ」
持って生まれた体が資本だ。
今、無理なものは無理。
俺は、割り切って
待ち合わせ場所へと急いだ。
今日は10回目のデート。
付き合い始めて3ヶ月が過ぎた。
待ち合わせ場所に着くと
俺のアンテナが反応する。
この間ヘアカタログを見ていて
ウェブのかかった髪型が
結奈に似合いそうだねと話した。
早起きしてヘアアイロンでも
当てて来てくれたんだろう。
ストレートな結奈の髪の毛は
軽やかなウェーブがかかっている。
黒いドルマンスリーブに
ジーンズ生地のホットパンツ。
白のスニーカー。
やっべ、すっげえ可愛い。
結奈に見とれていると
俺に気がついて駆け出してきた。
運動嫌いな彼女が
俺を見つけて胸を揺らしながら
走ってきてくれる…
その幸せったらない。
「あーくん、今日もかっこいい♪」
デートの時だけの限定呼び名。
普段あかねと呼んでいる結奈が
俺をあーくんと呼んでくれると
不思議と、自信が湧いてくる。
「結奈こそ、髪、可愛い」
えへへ、と笑った結奈は
俺の腕に縋り
ぴったりと寄り添って
歩をすすめた。
するとすぐに
至るところから
奇異なる視線を感じる。
どんなに結奈が
かっこいいと言ってくれたって
俺は所詮、女でしかない。
女同士がベタベタする事を
特殊な目で見る人たちもいる。
どんなに背伸びしたって低身長。
結奈もヒールの高い靴を
選びたい事もあるだろうに
いつもスニーカーなのは
俺がいつも身長を
気にしているからだ。
どんなに潰したって
サラシが緩めば胸だって
ふっくらとしてくる。
だけど、結奈と付き合い始めてから
俺はだいぶそういう事を
気にかけなくなった。
トランスセクシュアルを
よく思わない人達に
苦しみを覚えるんじゃなくて
まあいいか、
そう軽く考えることで
許せるようになったんだ。
俺は結奈の手を強く握り締め
「結奈、いこっか」
「うん!」
駅の改札を通り、電車に乗り込んだ。
電車はガラガラ。
俺たちが乗った三両目の車両には
ひとっこひとり居なかった。
それをいい事に結奈は俺に
ちょっかいを出してくる。
繋いでいた手。
指先が腿の上をなぞる。
背中が快感に震えた。
こんなところで
発情するわけにはいかない。
「こら」
「えーだめぇ?」
「だめ」
「えー、なんでぇ」
「公衆の面前だから」
「誰もいないよ?」
「誰か来るような場所ではだめってこと」
「……2人の時だってあーくん嫌がるじゃん…」
太腿にあった結奈の手が力なく、
電車のソファに落ちる。
横目に結奈を見ると、
今にも泣き出しそうだ。
こんな時、どうしたらいいんだろう。
試行錯誤を繰り返す。
俺は結奈の頭をぽんぽんと撫でた。
「あーくん…」
「ん?」
「私、平気だよ、色々してもいいよ?だからずっと好きでいて?」
俺が結奈に容易に手を出さないのは
俺自身が
女の体だってことも大きいけれど
結奈のこの考え方が一番の理由だ。
結奈は
体目当ての男とばかり
付き合ってきた。
「やらせてくれない女とは付き合わない」
とか
「太ったらソッコーで別れるからな」
とか
そんな勝手な男とばかり
一緒にいたからなんだろう
結奈は異常なほど
太ることを嫌うし
自分から身体を
開こうと躍起になる。
そうしないと
愛されないと思い込んでるんだ。
「そんなことしなくても俺はずっと結奈の側にいるよ」
「うそ、だってあーくん、男の子でしょ。男の子はそういうものなんだよ」
「あー…俺は違うんだけどなぁ」
困り果てて、頭をかく。
こんな時、都合よく
女だからわかんないなーと
笑ってやれるメンタルが欲しい。
落ち込んだ結奈は
東京に着いても、
なんだか調子があがらない。
電車からずっと
手のひらも離れっぱなしだ。
ずっと仲良くやってきたのに
なんだか気まずい。
必死に我慢して
結奈を大事にしたいのに
これじゃあ何にも意味が無い。
俺は結奈の手をとると
乱暴に引っ張った。
「ホテル、行くぞ」
「え…、う、うん」
幸い、家から離れてる
ここは東京だ。
知った顔もいない。
繁華街の路地裏
勢いづけて俺は結奈と
小さなホテルに入った。
煌々と光る、電光板。
部屋の自動販売機みたいだ。
どうしていいのかわからずに
備え付けの電話機に手を伸ばすと
受話器をとる前に結奈が
「ここがいいな」とボタンを押した。
彼女という存在もはじめてなら
キスだってまだ初心者
こういう場所も初体験。
スマートに操作する結奈を見ると
過去の男にひどく嫉妬した。
ピカピカと
部屋を知らせるライトが点灯する。
結奈は吸い込まれるように
部屋の中へと入り、俺も後を追った。
「ね、お風呂一緒にはいろ」
「え!?俺は…いいよ」
「やだっ、あーくんと一緒がいい」
結奈はそう言うと
俺の手を勢いよく引っ張って
脱衣所へと歩んだ。
恥ずかしげもなく
脱ぎ捨てられていく結奈の服。
顕になる結奈の肌が
俺の視界をチカチカさせた。
「…トイレ行ってから風呂行くから結奈はこれ風呂に入れて入ってて」
「うん!」
サラシをとる姿なんて
見せたくなかった俺は
そう言い残すと結奈に
備え付けの入浴剤を渡して
トイレに入った。
身体を見られたくない、
その為の苦肉の策だ。
トイレに入ると息をひそめて
結奈の気配を察し
風呂の湯が勢いよく
漏れる音を聞いてから
俺はもう一度脱衣所へと戻る。
「結奈ぁ」
「んー?」
「そっち向いててくれる?」
「えーなんでぇ?」
「恥ずかしいから」
そう言うと
結奈はずいぶん不満そうな
「わかった」を響かせた。
結奈が向こうを
向いていることを確認したあと
俺は女々しくタオルを胸から下まで掛けて
結奈の待つ、風呂に入った。
同じ湯に触れると考えただけで
頭が爆発しそうだ。
そんな俺の事などお構い無しで
結奈は嬉しそうに笑いながら
背中を俺の腕の中に預けた。
触れる肌に
心臓は苦しいほど高鳴る。
「あーくんとはじめてのお風呂だぁ」
俺から取り返したタオルに
空気を含ませぶくぶくと遊びながら
結奈はそんな可愛い事をぽつんと囁く。
「そうだね」
何食わぬ顔で俺はそう返したけれど
本当は愛しさが沸騰していた。
「ね、あーくん抱き締めて?」
「……ん」
俺は風呂の縁にかけていた腕を下ろし
にごり湯の中にいる結奈を
ぎゅっと抱き締める。
体温ごとひとつになったようで
深く感じ合う。
柔らかい肌に
心が埋もれていくようで
とても幸せな時間だ。
体の芯から結奈を感じた。
本当は今すぐ
結奈をどうにかしてしまいたい。
結奈もそれを望んでいるんだろう。
でも、ここで欲望のまま
結奈と身体を合わせたら
結奈は一生
身体を重ね合わさなきゃ
愛されないと思ってしまう。
「結奈…」
「んぅー?」
「ん」
結奈の唇にキスをくれてやる。
啄むように繰り返す。
唇を小さく吸う度に
心臓が跳ね上がった。
結奈は
時折、熱い息を吐き出した。
何度も結奈に口付けたあと
俺はとてつもない衝動を抑え、
結奈にこう切り出した。
「やっぱり今日は、やめようよ」
「え、なんで?私、何か失敗した!?」
ほら、すぐに自分のせいだ。
嫌われたくない一心で
結奈は全て自分のせいにする。
俺は、笑って首を振った。
「結奈のせいじゃないよ」
「だったらどうして…?」
「俺は…結奈と今を楽しみたい」
「んん??」
「結奈をもっと大事にしたい」
「うん…」
不安を感じたのか浮かない顔の結奈に
俺は結奈を抱き直して言葉を嗣いだ。
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「…たとえば?」
「んー、とりあえず今日は渋谷探索」
結奈は俺の返答に
噴き出して笑った。
ひとしきり、笑ったあとで
「仕方ないなぁ、いいよ」と言う。
その表情はいつもの結奈だ。
よかった…、俺は胸を撫で下ろした。
「あ、でも待って」
そう叫んだ結奈は
俺の耳元にこう囁く。
「ね、渋谷探索…もっとちゅーしてからでもいい?」
ドキン、また心臓跳ねる。
あー、何もしないとか
早まったかなあ。
この可愛いお姫様に
いたずらしてやれ
なんて、いじわるな俺が
心の影から顔をのぞかせた。
強いジレンマの中で
「ほんっと可愛い」
結奈をぎゅっと抱き締めて
俺は彼女が満足するまで
キスを繰り返したのだった。
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